023 ご飯を作りました?
とても、衝撃てきなことを聞いた。
ユーリ先輩とダレンが夫婦。
召喚がメインジョブなダレンはあのグレイスのマスターでもあり、魔法オタクでもある。
クランメンバーの中では最年少で、中学生だと話していたのに。
何が、起きていたのやら。
「姉ちゃん?」
「どうしたの?」
「あー。ロイド君とエメリーちゃんは、初代錬金女王夫婦のことを知っていたりするかな」
「初代様? ユーリ様とダレン様の名前と、国を興して、守護者制度と冒険者ギルドを作ったくらいは知ってる」
おう。
そうなんだ。
冒険者ギルドも先輩が関わっていたのか。
なら、ギルド内部の仕組みは錬金術で作製されているとみた。
討伐記録は精霊が見聞きした事柄を、ギルド証に反映させているのだろう。
となると、大地と風の精霊だね。
時空の精霊は人嫌いの子達が多いから、二属性の精霊が頑張っているのか。
それにしては、ギルド内部に精霊の存在感が薄かった気がしたけどなぁ。
ぐうっ。
反芻していたら、可愛らしい音が鳴った。
「あう、鳴っちゃった」
「まぁまぁ。お腹が空いておられましたのですね」
「気がつかずに申し訳ありません」
「ただいま、準備致します」
エメリーちゃんの顔が真っ赤になってしまった。
恥をかかせて、済まないや。
アンジーとクリスが食堂に誘う。
だが、少しだけ待っておくれ。
「ご飯の前に、ロイド君とエメリーちゃんをお風呂に入れてあげて。ご飯は、私が作るから」
恐らく、ユーリ先輩が作製したマイホームのことだから、お風呂は男女別に設置されているはず。
それも、銭湯並みに広く、お湯が常時満たされて、循環されている。
「お風呂? お湯に浸かる奴か」
「エメ、お風呂が何か知らない」
兄妹は不思議な顔付きをしていた。
まあ、そうだろう。
一般の農家にお風呂等はなく、水浴びかお湯を沸かして拭くぐらいが常識だろう。
兄妹が居た家の規模からいって、竈があるかも疑わしい。
あっても、薪をどうやって手にいれていたのか、疑問が残る。
「お風呂は温かいお湯が沸いて、その中に身体を入れるにゃ」
「とっても、気持ちがいいにゃ」
「お風呂なんて、貴族か金持ちしか入れないんだ。俺達なら農民だし、水浴びで構わないぞ」
ロイド君はお風呂が何たるかを、知っている模様である。
ケットシーか、貴族令嬢だったお祖母さんからの受売りだろうけど。
ロイド君はエメリーちゃんの手を引いて、玄関から出ていこうとする。
これに、反対したのがブラウニー達。
「なりません。ミーア様のお客様をもてなさないなぞ、ブラウニーの名折れ」
「そうでございます。身分があろうがなかろうが、我等には関係がございません」
「ユーリ様がお隠れになり幾年月、待ち侘びたミーア様のご帰還」
「ミーア様が招かれたお客様は、最大限もてなさねば」
「「ブラウニーの面目躍如。味わって頂きます」」
「うわっ?」
「お、お兄ちゃん?」
「「待ってにゃあ」」
ブラウニーに担がれていく兄妹を、ケットシーが追いかけていく。
うん。
頑張れ。
お世話をしたいブラウニーには、抵抗するな。
黙って、享受しておくれ。
私が世話をやかれるのを嫌うので、待ち続けた分も耐えてくださいな。
「ユリス、エスカ。ちょっと、ロイド君とエメリーちゃんのお口に飴でも含ませておいて欲しいな」
お腹が鳴っていたし。
あの分だと、オイルマッサージまでしかねないからさ。
飴で、小腹を満たして欲しい。
アイテムボックスから、満腹度を小回復する飴を取り出す。
「でも、食べすぎは駄目だからね」
「「はぁい」」
「セレナは、監督役ね。水分補給も忘れないで」
「……はぁい」
レオンがいない場合は、セレナに担って貰う。
釘を刺して置かないと、エスカは際限なく食べさせてしまうし、ユリスは楽しさに便乗するし。
おっとりなセレナだけど、お願いするときちんと姉兄を制してくれる。
ファティマは清楚なお姉さんに見えて、かなりな毒舌の持ち主。
ほぼ初対面に近いロイド君とエメリーちゃんが、私に害を為さないか観察しているだけで、積極的に関わろうとしない。
フィディルはまだ分別がつくも、私の保護下に入った兄妹を真に受け入れてはいない。
私が子供に弱いのを熟知しているので、関心は持つも一歩引いている。
兄妹の父親を気にしているそぶりを見せたものも、私が最後まで安否を気遣っているからに他ならない。
大人組は表に出さないが、他人は興味なしがスタンスである。
私の行動を諌める役割を持つからね。
仕方がなし。
「お食事はどうなさいますか?」
「食糧庫の内容によるかな」
お子様ズが、風呂場に突撃していくのを見やり、ファティマは問うてきた。
然り気無く、生活魔法の清潔を掛けてくれた。
生活魔法の教本で、手習いしないといけないのを思い出す。
精霊魔法は淀みなく行使できたので、難なく覚えられるとは思う。
練習有るのみだけど。
先ずは、ご飯を作ろう。
玄関ホールには、両手側と二階へ上がる階段脇に扉があった。
右手側にブラウニーは兄妹を連れて行ったので、水回りは右手側に纏まっていると推測した。
案の定、扉を開けた先には廊下を挟み厨房と食糧庫、食堂がある。
突き当りの先には、男湯女湯と漢字で書かれた暖簾が出ていた。
此方の世界の人間には漢字が分かるのだろうか。
謎だ。
引き戸になっているお風呂場の戸は閉められていて、音が響いてはこない。
防音の魔法陣でもあるのだろう。
まあいいや、食糧庫チェックだ。
満足に食事をしていない兄妹に、いきなり栄養価が高くても重い食事はだせない。
お米があるといいのだが。
「マスター。お米はこの国では栽培されてはいませんが、輸入はされています。ユーリ様が、流行らせましたけど」
「ん?」
「ユーリ様は、お料理が苦手な方でした。お米を竈で炊くのに失敗され、錬金術で炊飯器なる物を造るも、満足のいく結果にはなりませんでした」
「……わお」
「ダレン様も挑戦しましたが、結果は同じく。お粥とリゾットの中間食ぐらいの、炊き上がりでした。又は、焦げ付いた白米と言えないものが出来上がりました」
ファティマとフィディルの表情は冴えない。
さては、お相伴に与ろうとして、口に合わなかったな。
先輩は、料理との相性が悪かったからなぁ。
ダレンも熟練度あげてはなかったような。
でもさ、ララとリリが言ってた、島国が日本のような和の国ではないかと思った。
料理人を招聘して、教えを請うたら良かったんじゃない?
「島国の住人は、他国には渡航したがりませんでした」
指摘すると、島国の事情が話された。
それによると、他国から親善大使は受けいれるが、食事事情で他国に馴染めないそうな。
やはり、島国の調味料が手に入り難いのがネックとなっていた。
「調味料って、味噌や醤油のこと?」
「大豆から造られる調味料ですから、そうです」
「やった。日本人には無くてはならない調味料の入手が、困難では無さそうで良かった」
「輸入品ですので、お値段は高いですよ」
「量も限られていますので、買い占めは出来ませんから」
喜んだ途端に、現実に戻らせてくれる。
恨みでもあるんかい。
こちとら、外見は日本人ではなくなったが、精神はバリバリの日本人じゃい。
マイソウルフードへの拘りは捨てないぞ。
あっ。
白米みっけ。
きちんと、精米してある。
卵を発見した。
鑑定するとコカトリスの無精卵と表示が出る。
はて、鶏と変わらないだろうか。
食糧庫の保存器には、時間経過による劣化を防ぐ魔法陣が刻まれていた。
新鮮、産みたてとある。
正直、建築玉にマイハウスが封印されて、どれぐらいの年月が経っているのか分からない。
が、信じていいのか、今一つ確信が涌かない。
私達だけなら挑戦するも、兄妹に試食させてお腹を壊したらいかんな。
逡巡していると、クリスが食糧庫にやって来た。
お風呂、もう出たの?
「ミーア様がお悩み中とのこと、ロイド様のお手伝いはララ様にお願いして参りました」
「そう。なら、聞くけど。食糧庫の中味は何時から保管してあるのだろうか」
「それでしたら、迷いなくお答え致します。建築玉に封印されている期間は、時間が流れているようで流れてはいないのです。五十年が数日ほどの体感時間でした。食糧庫は特に、時間経年劣化を省いた造りになっております。保存器から出さなければ、時間が停止していると思ってくださればいいかと」
なら、卵を入れても良いかな。
「味噌や醤油は保管してある?」
「勿論でございます。ミーア様をお迎えするのに、各種調味料は取り揃えております」
食糧庫の更に奥。
その小部屋には、味噌蔵、醤油蔵が個別にてあった。
そして、麹菌が分かたれて入らない様に徹底して管理されていた。
ビバ、魔法。
ブラウニーが保有する衛生管理魔法、万歳。
これで、材料があれば自作できてしまう。
「よし、卵雑炊を作ろう」
「でしたら、土鍋が必要ですね」
「あるの? 土鍋が」
「はい。魔法具の炊飯器作製に失敗なさり、行き着いた先が島国の料理人が提供して下さった土鍋です」
「あれ? 島国の住人は他国には、渡航しないのではなかったかな」
「島国の料理人の中にも、好奇心旺盛な方がおみえでした。ダレン様と意気投合なさり、白米炊くなら土鍋と相成りました」
んで、土鍋は普及して白米が食べられるようになったと。
輸入品なので、一般の庶民には値の張るのが問題らしいが。
クリスの説明を聞きながら、白米を洗っていく。
本当は、水に晒して水分を含ませたかったが、
省略する。
調味料で適宜な下味つけて、水を入れ、魔法具のコンロの火を付ける。
初めは、弱火でコトコト煮込む。
昆布があれば出汁が取れたのに、乾燥ワカメはあれど無かった。
鰹節も無い。
残念である。
「茸類は何があるの?」
「椎茸、舞茸、松茸、エリンギがございます」
椎茸にしよう。
それにしても、松茸あるんだ。
日本の食材があることに感動する。
クリスに椎茸の下拵えを任せて、ララリリ用にお魚でも焼いておこう。
猫には魚と思いがちだけど、基本は肉食動物に代わりがなく、肉類も食べる。
肉類は、夕飯にしよう。
お昼が煮込み系だから違うのにして、後はデザートでも作るかな。
あまり、凝ったのだと遠慮して食べなさそうか。
「マスター。楽しそうですね」
献立に悩む私を見て、フィディルが笑う。
ファティマも同意しているのか、頷いた。
「楽しいよ。王宮の生活は味気なかったからね。何事も自分でやらないと、気がすまないし」
「我々、ブラウニーにはお世話しがいのないお言葉です」
「ははは」
ブラウニーには悪いと思うものの、こればかりは性分なので許して貰いたい。
その分、お子様ズをお世話してくださいな。
今なら、ロイド君とエメリーちゃんがいる。
あの兄妹も、お世話をやかれるのは慣れないだろうけどね。
ぼろ小屋に逃げださない程度に、してあげなよ。
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