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227 建国の認可が降りました

 ネリエ。

 獣人国を守護する精霊の名は、未来でエスカがその呼び名を口にしていた。

 どうやら、私が過去の時代で名付けをしたようだった。

 ネリエの名は確定しているが、私はうちの子達にも授けていない漢字をあてはめることにした。

 寧里恵。

 獣人種の安住の地を恵む精霊となるようにと、考え抜いて名付けをした。

 途端、精霊契約を果たした訳ではないけど、私との誓約魔法が交わされ、ネリエは私と友好関係にあり庇護下に加わる旨の通知が世界に認証された。

 ついでに、私の魔力の一部がネリエに対価として先渡しされたようで、精霊の格があがった。

 といっても、中位精霊の位階からは昇格はしないまでも、中位精霊の序列があがった感じになるのかな。

 レオンより年少な外見が、ほぼレオンと同年代ぐらいに成長した。

 依り代となる若木との親和性も強固なモノになり、若木の方も目覚ましく枝が伸びたのにはびっくりした。

 これで、獣人国を守護する精霊の問題には片がついた。

 後は、獣人種の代表となる獣人王さんと面通しし、同盟を結ぶとしながら裏切るあの人対策に専念しようか。

 林を出て、獣人種の皆さんが寝起きする場に戻ろう。

 ああ、名目にした聖域(サンクチュアリ)の点検は、念のためにしておいた。

 魔力補充もたっぷり施したから、外部から大規模戦略級攻撃破壊魔法を連続して受けない限り、数年は獣人種に悪意を持つ人種から身を護る場所となるだろう。

 たとえ、持ちこたえられなくても、聖域が完全消滅する前に、庇護者のエルネスト枢機卿猊下が駆け付けてくるのは確定だけどね。

 現時点でも、エルネスト枢機卿猊下配下の聖騎士さんが常駐して、他国が派遣している間諜やら情報員やらといった人物を発見しだい、警告に従わない場合は拘束する旨を宣言している。

 相手側も聖騎士さんから情報を聞き出そうとして、逆に拘束され尋問の際にひそかに聖騎士さんに口が滑る精神魔法を行使したお馬鹿さんがいたらしい。

 エルネスト枢機卿猊下が獣人種を守護するに値する人材に適した聖騎士さんを常駐させてるんだから、無駄な徒労に終わった結果しかない。

 聖騎士に叙勲される資格には、他者からの精神魔法や魅了魔法を自信で対抗できる体質や鍛練で資質を得ないと、まず聖騎士には選ばれない。

 神聖国の枢機卿猊下は世界の調停役でもあり、あらゆる人種の安寧と平穏を第一に優先させる、まさに神の代理人たると尊ばれる。

 そんな、世界に喧嘩売るお馬鹿さんな輩から、尊い枢機卿猊下を護る人材が他者の精神魔法に負けてどうするっての。

 まあ、その枢機卿猊下が神の仮の姿なんだけど。

 過去の時代では人種の枢機卿猊下もいる訳だけど、欲に魅了されちゃった枢機卿が現れ、特権を利用して他者の思惑通りに働きかけてしまっているので、人外さん達神々が枢機卿猊下の地位を担うことになったのが未来の時代に繋がるのだろうね。

 どうも、神々の中では人の世は人の子等で動かしていけばよいとか、いつまでも神々が干渉していたら人の子等は成長しないと主張する派があり、神々の仮の姿=枢機卿の役目を降りた神がいた。

 よって、枢機卿の役目も人の子等が担わせればいいとの神々の主張が多数あり、過去の現在の時代では人種の枢機卿がいる。

 話しだけだと、まああり得る内容だよなとは思った。

 いわゆる、スラム等に住まざるを得ない弱者の救済に、教会や国が炊き出し等の支援をしたとする。

 その支援が定期的に行われるのが認識されると、弱者は何ら努力もしないで糧や衣服が手に入る。

 最終的に、弱者は支援をあてにして働くこともしないで怠け、生活しようとする悪循環が生まれる。

 教会や国だって無尽蔵に資金がある訳でもない。

 スラム以外に住む国民の税が、怠ける弱者の支援に消費される事情を知った税を納める国民の感情は計り知れない。

 もしかしたら、スラムの住人の仲間入りして、支援を求めるだけになれば、納められる税が減少していくだけ。

 行き着く先は、果たして国家破綻になるかは為政者次第だ。

 だから、支援のあり方は難しいんだなぁ。

 エルネスト枢機卿猊下も、獣人国が建国後期間を定めて支援を縮小していくとは通達してあるそうだ。

 隣国のあの人なら盛大に揉めに揉め、無茶な論理の打開案とか突き付けそうだ。

 はあ。

 溜め息しかでないや。


「マスター? 何か問題でも起きたのか?」

「さて、近場のあちらは現在は静かな様子ですけどね」

「マスターの聖域や枢機卿猊下の守護結界に触れる、悪意あるモノはいなさそうですわ」

「「「マスター?」」」

「いと気高き大精霊様のあるじ様?」


 重い溜め息吐き出したら、レオンを始めとするうちの子達と精霊ネリエにも心配されてしまった。

 何気にフィディルは、溜め息の原因を特定している。

 ファティマは私が展開した聖域と人外さんの守護結界を精査しているし。

 お子様ズは精霊ネリエと同時に、何を心配しているか教えての視線を見上げながらしてくるし。


「うん。ちょっと、今後の状況をあの人がどう動くか、思案しただけ」

「ああ、風のマスターか。確かに、風の乗っ取りを認識できてない無知な状態だからなぁ」

「あの人、どの位階の精霊をも使役できると勘違いしている秘宝を入手してから、変になったよね」

「そうだよね。ユリス達にもマスター契約しろって迷惑なこと言ってきたしね」

「……ほんっとうに、大嫌い。……セレナ達のマスターは、マスターだけだもの」


 思案しだけなのだが、レオンは無知と、エスカは変と、ユリスは迷惑と、セレナは大嫌いと辛辣な発言しかしなかった。

 フィディルとファティマは沈黙しているけど、お子様ズの言葉に同意の頷きしていたりする。

 実際に会ったことがない精霊ネリエは、むっとした表情で拳を握りしめた。


「大精霊様方に無礼千万な行いをする方ならば、同盟を求めながら獣人種さん達を貶める策を平然となさるのですね。はい、わたしも気持ちを改めて役目に臨みます。どの様な策を用いても、絶対に対処してみせます」


 精霊ネリエちゃんがうちの子達から教えられたあの人情報は大変偏ったモノではあるが、概ね間違ってはないから私も修正しないでいたけれど。

 短い時間で、しっかり敵判定されちゃったな。

 まあ、他人の手柄は自分の手柄、自分のミスは他人のミスがデフォなあの人なんで修正しようがないのが正しいのである。

 でも、やる気に満ちた精霊ネリエにの未来の最期を知るだけに、無茶はしないで欲しいと願う気持ちがあってだね。

 こう内心では役目を押し付けておいて、無茶するなという矛盾した心情にダメージが入ってます。

 私の内心の感情をいち早く把握したファティマが、フィディルを見つめ未来の事象について問い詰め、精霊ネリエの未来を知ったやり取りがフィディルから逐一報告される。

 一瞬だけ痛ましい眼差しを精霊ネリエに向けたファティマは、お子様ズが視線に気付くと普段の微笑に戻した。

 はい、その未来の事象は大人組だけの共有で封印するんですね。

 はいな、私も沈黙を選択します。


「あー、お姉ちゃん。見つけたぁ」

「星のお姉ちゃん。すーききょうさんと、ボルボのお爺ちゃんが探してたよ」


 間のよいことに、聖域に端に戻ってきたらお昼寝組の獣人のお子様達より年上の獣人の少年少女に見つかった。

 ん?

 今何か、私の名称に星がついてなかった?

 いつの間に、星なんたらの名称がついてましたか?

 焦る葛藤をよそに、少年少女達は聖域の中央部に私を早く早くて急かしてくる。

 純粋な悪意も敵意もない好意満載な少年少女達の行動に、うちの子達は邪魔しないように配慮している。

 少年少女達は笑顔なので、不測の事態が起きた感じではないな。

 話したいけどサプライズがしたいのか、急かす理由は話さないまま枢機卿猊下やボルボ老さん達が待機していた場に歩いてゆくまで少年少女達はにこやな笑顔をたたえている。

 何が起きたのやら。


「ミーア君、点検作業の最中連れてこられて申し訳ないのだが。獣人の少年少女達を使いに向かわせたのわたしであるので、彼等に罪はない。苦情はわたしに言ってくれまいか」

「いえ。うちの子達も危険はないと教えてくれたのと、点検作業はおわりましたのと、私も報告すべき事柄がありますので気にしないでください」


 少年少女達に連れてこられた場所は、聖域の中心部からやや離れた地で、待機していたエルネスト枢機卿猊下とセレクター枢機卿猊下にボルボ老さん達、獣人種を奴隷と偽り保護していた奴隷商の方々が待っていてくれた。


「先刻、法王の認可が降り、この地に獣人国が建国されると国に通達がいった。また、同時に隣国にも建国される国があるともだ。ただし、隣国の建国の条件に法王は獣人国への侵略行為や、差別的行為が成され判明したあかつきには、神聖国からは破門となるとは釘を刺した」


 やって来た私にエルネスト枢機卿猊下は、獣人国建国の認可と女王国建国の認可は降りた説明をしてくれた。

 やはり、あの人の内面性は危惧され、法王は釘を刺して忠告はしてくれたんだ。

 でも、自分本意で承認要求の塊なあの人は、不平不満を訴え、自国の建国を優先してくれと暗に精霊による武力行使を示唆する抗議をやらかしたそう。

 阿保すぎる。

 対応したエルネスト枢機卿猊下と神聖国に、宣戦布告と取られる発言は悪手だ。

 暴走して世界に戦争を招く羽目になったら、直ちに宗敵認定されて潰されるだけだろうに。

 その場の感情で物申すあの人に、更正の余地ないんじゃなかろうか。


「隣国の代表者には、法王直々に説法と宗敵に対する対応を理解できるまで、言い聞かせた。また、素直に聞く性格ではないと見抜き、法王とわたしの手の者を腹心の部下になるよう指示して接触させた。もう、手の者からは暗躍しそうな行動が報告されているがね」


 阿保だ。

 阿保すぎるよ。

 戦争体験のないぬるま湯な平和の日本人を享受してきたあの人に、宗敵となる畏れが理解できてないのが露呈している。

 あーあ。

 法王聖下や枢機卿猊下の温情を無に期す仕出かしを、指摘する人材がいないか、耳を貸さないかでやりたい放題やってんだろう。

 女王国が未来まで維持できていた奇跡に、エルネスト枢機卿猊下の苦労が偲ばれる。

 あの人もなぁ。

 ある一面では称賛に値する案件をなす傍ら、やらかしの方が圧倒的に多数なので、性格矯正を強制して上げて欲しいもんである。

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