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022 家を建てました

 さて、私が頂いた土地に不要なモノは排除した。

 次は、拠点となるマイハウスを建てよう。


「レオン、ユリス。家を建てるのに、適した場所はある? 出来れば、水脈に近いと良し」

「んー。あの辺かな」

「マスター。こっち。ここに、水脈あるよ」


 ぱたぱたと、ユリスが走っていく。

 エスカとセレナが手を繋いで付いていく。

 兄妹を伴い歩いていくと、 数段高い大地に井戸らしき穴が空いていた。


「前に水があるからと言われて掘ったけど、水がでてこなくて放棄されたんだ」

「お水はね、もっと深くにあるんだよ」

「岩盤層が邪魔してるな」


 手掘りで進めて固い岩盤に行きあたり、これ以上掘り進めなくなったのか。

 穴ぐらを覗き込むと、三メートル程の深さで岩盤が見えた。

 岩盤層か。

 土地を耕すには邪魔してるな。

 かといって、魔法でごり押しするのもなぁ。


「マスター。岩盤層はこの高めな大地にだけだから、畑側にはないよ」


 悩んでいたらレオンが教えてくれた。

 小高い大地は北側の五分の一の面積。

 家と倉庫を建てるには充分な敷地だ。

 水脈もある持ってこいな場所ときたら、建てない訳がない。

 人間には水は不可欠。

 ましてや、私は日本人。

 毎日、お風呂には入りたい。

 水の魔石や精霊石がふんだんにアイテムボックスにあれど、使用すれば消費されていくばかり。

 入手の伝がまだないから、ユリスに頼るのも気が引ける。

 いや、ユリスは私の役にたつなら、喜ぶだろうけどね。


「マスター、穴を掘るか?」

「お願いするね。私は、家を建てるから」

「うん。そっちも、手伝う?」


 レオンは大地の大精霊なのだが、私に付きあっているうちに、大工のスキルが芽生えた希有な精霊である。

 建材があれば、一晩で家を建てるのはお手の物。

 かなり、凝った装飾を施したお屋敷を建ててしまう。


「レオンには、エメリーちゃんでも使える井戸を作って欲しい。家は、ユーリ先輩の遺産があるからね」

「分かった。非力な子供の力でも使える井戸にする」

「建材は必要かな」

「アイテム所持してるから、いい」


 レオンが虚空から、材木と石材を取り出していく。

 うちの子達には、アイテムボックスの魔法を修得させている。

 属性にあったアイテムや反属性に対抗するアイテム、お気にいりになった小物類は各自で所持させておくべきだと判断したから。

 まあ、エスカのアイテムボックスには発芽したら怪しい植物の種等が眠っているがな。

 ユリスとセレナはクランメンバーが製作したぬいぐるみやら服やらを大事に持っているのに、女の子らしからぬ民芸品も持っていたりする。

 マイハウスに、熊の剥製を飾られたのには驚いたものである。

 本人はお小遣いで買った、と満足していたけど。

 狩ったの間違いではないかと、疑った。

 あれ、どうなったことやら。


「姉ちゃん?」

「うん。何かな」

「家って、すぐに建つモノなのか」

「ああ、そっか。ロイド君は建築玉を知らないのか。じゃ、初披露だね」


 不思議顔なロイド君とエメリーちゃんに、アイテムボックスから取り出した水晶珠を見せる。

 水晶珠の中にはミニチュアな家が入っていて、魔力を注いで合言葉を言えば、あら不思議。


「【ハウスオープン】」


 目の前に二階建ての家が出現する。

 白い漆喰の壁に蒼い屋根。

 木造か煉瓦作りが主要な街中では、漆喰の壁は見たことない。

 領主館でさえ、煉瓦作りだったのを思い出す。

 あれ、間違えたかも。

 おかしいな、普通のログハウスを出したつもりだったのだけどさ。


「お家、どこから出てきたのかな」

「魔法か、凄いな。でも、見たことのない家だ。何で、出来てるんだろ」

「知ってるにゃ。漆喰にゃ。東の島国では、当たり前の建物にゃ」

「でも、屋根が違うにゃ。島国では、屋根瓦っていうのにゃ」

「それに、平屋造りが主流にゃ」


 日本に近い国が、あるんだ。

 なら、お米や醤油や味噌がありそう。

 是非に、手に入れなければなるまい。

 それにしても、ララとリリの知識の造詣は深い。

 兄妹が農民とは思えない教育されているのは、ケットシーのおかげかな。


「ララとリリは、島国に行ったことあるのか」

「はいにゃ。ケィティのお父さんは、外交官だったにゃ」

「お供でついていったにゃ」

「えっと、お祖母ちゃんのお父さん?」

「はいにゃ」

「子爵だったにゃ。でも、左遷されたにゃ」

「うちらが、目をつけられたにゃ」

「「ごめんなさいにゃ」」


 項垂れるケットシー。

 希少種族を狙った好事家に、悪事を押し付けられて逃げてきたのが正解かな。

 でも、ロイド君とエメリーちゃんは恨む気配はなく、ケットシーを撫でて肩を寄せあっている。

 臆病なケットシーも、そんな一家だからか離れずに側にいたのだろう。

 詳しいことは、兄妹の父親に聞けばいっか。


「マスター」

「ん。あれは、放置で」

「了解致しました」


 フィディルが警告したのは、黒鋼の柵から無断で入って来ようとする輩がいたから。

 生憎と、結界に阻まれているが。

 煩く騒いでいて、農工具を振り上げ、結界を破ろうとしていた。

 視界に入れるのも阿呆らしい。

 数の暴力で押し入り、難癖つけて財を掠めとろうとしていた。

 ランカの土地は、王領区。

 開拓に失敗して、人は去った筈の土地。

 行き場のない数世帯が細々と農業を営むのを許された。

 以降は入植者を受け入れてはいない。

 だというのに、やけに身綺麗な農民がいるんですけど。

 移動していった家も農家にしたら立派な煉瓦作りの家だったし。

 兄妹と違い、恰幅の良さはなんだろうね。

 代官と冒険者ギルドと組んで、お金儲けをしていたのは丸分りだ。

 そんな輩と、馴れ合いをする気はなし。

 荒れ地に不釣り合いな家だけど、この際お構い無し。


「ロイド君、エメリーちゃん。私、お腹が空いたんだ。一緒にご飯を食べよう」

「うっ。兄ちゃん、エメもお腹が空いた」

「家に帰れば、芋がある」

「こらこら、私に雇われるなら、衣食住は私持ちだからね」

「いしょくじゅー、ってなあに」


 帰ろうとする兄妹を引き留める。

 多分だけど、芋は茹でたり蒸かしたりするのではなく、生で食べていそうなんだよ。

 それは、許さん。

 私が、肥えさせるのだ。


「衣は着る服のこと。食は食べる物のこと。住は住む家のこと。全部、雇い主が面倒をみます」

「なんで? 姉ちゃんは施しではなく、憐れんでというのも違う気がする」

「それは、ロイド君が見知らぬ私とシェライラを助けようとしてくれたからだよ。私はね、つい最近この国に来たの。だけど、善意の行動をしてくれたのは、ロイド君だけだったんだよ」


 ライザスの門番に始り、シスター然り、冒険者ギルドでの一件然り。

 大精霊の守護者持ちに阿ねる貴族や、初代錬金女王の愛弟子の恩恵にすがる宰相さん達以外で、まともに私個人を見てくれたのはロイド君兄妹しかいない。

 まあ、彼等は知らないだけなのだけど。

 守護者が六柱いても、態度が変わらずに接してくれたのは感動した。

 身近に守護者がいて、希少種族のケットシーと寝起きを共にしていた。

 助け合うを実践して生き延びてきた兄妹を、逆に助けてあげたいと思った。

 それだけ、嬉しかったんだよね。


「ほんとは、下心あったんだ。貴族の姉ちゃんを助ければ、父ちゃんを助けてくれるかなって。それに、代官に奪われてばかりだったから」

「意趣返し、反撃してやろうと思った?」

「うん」


 素直に吐露するロイド君は、嘘がつけない性格のようだ。

 こんな真っ直ぐな子が、過酷な生活でよくぐれたりしなかったな。

 やはり、両親や祖父母の教育がしっかりとしていたんだな。


「そっか。でも、もう重たい荷物は背負わなくていいからね。今日からは、私と守護者も身内だからね。お父さんが戻ってくるまで、私が保護者代わりになるから」

「父ちゃん、帰ってきてくれるの?」

「大丈夫です。お父さんは少し怪我をされていますが、療養すれば怪我は治ります」


 エメリーちゃんの不安な声に反応したのはフィディルだ。

 目線を合わせて、穏やかに告げる。

 今でも、認識をはずしていないのだろう。

 救助されるまで、守護しているのか。

 心強い味方だね。

 でも、怪我をと言ったのは、私が出向かないと治せない怪我を負っているのを意味する。

 安心していられないじゃんか。

 シェライラ任せにしたのは、愚策だったかな。

 しかし、兄妹を見捨ててはいけないし。

 素早い、救助を願うしかない。


「さぁ、家に入ろう。お腹が空いたなぁ」

「お腹が空いた。空いた」

「お風呂に入って、さっぱりと」

「……お昼寝したら、あら元気」

「うわっ」

「わわっ」


 お子様ズが、歌いながら兄妹を引っ張っていく。

 外見は三頭身のお子様だけど、中身が中身だけあり力は強い。

 あっという間に、玄関を開けて家の中へご案内。


「ほわわ」

「家の中も変わってる」


 うん。

 そだね。

 おかしいな。

 普通の家だと思ったのだけど。

 何故に、家の中は何処かで見た領主館の如く、広々とした空間になっているのだ。

 玄関ホールにシャンデリアなぞ、いらんわ。

 そして、


「「お帰りなさいませ、ご主人様」」


 私を見るなり、お辞儀をする家妖精のブラウニー。

 クラッシックなメイド服を着た女性体と、燕尾服擬きな執事服を着た男性体の二人。

 見覚え有りすぎで、言葉が出てこない。


「「ただいま。アンジー、クリス」」

「……ただいま」

「お帰りなさいませ、エスカ様、ユリス様、セレナ様」

「フィル様、ティア様。レオン様は何処でしょうか」

「レオンは、表で井戸造りをしています」

「邸内は水の精霊石で賄いが充分でございますが、農業用でしょうか」

「そうです」

「畏まりました」


 うちの子達は平然と対応しやがっています。

 アンジーとクリスはクランハウスにいたブラウニーで、私は訳が分かりません。

 精霊以外にも、ブラウニーまでゲームの中から引っ張ってきたのか?

 人外さん、ヘルプ。


「ミーア様、我々ブラウニーはユーリ様に召喚されました」

「あっ、そうなんだ。けどさ、ユーリ先輩は召喚出来なかったよね」

「はい。正確には、ダレン様が召喚してです」


 はあ?

 ダレンまでいたの?

 そう言えば、ダレンの絵画が残されていたと教えられていたじゃないか。

 見に行くの忘れていた。

 把握していそうなフィディルを見る。

 しらっと、目をそらすな。


「そのご様子では、ユーリ様とダレン様が御夫婦になられたのも、お知りではないですね」


 ははは。

 知らんがな。

 先輩の手紙には、そんな事情は書かれていなかった。

 いや、私が知ろうとしていなかったからか。

 常識に疎いから、教師役が切に必要だと痛感した。


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