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女王⁉ 聖女⁉ いえ、ただの農業オタクな細工師です。  作者: 堀井 未咲
第一章 新しい未来へ

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020 退治しました(前)

 早速、土地を見に来ました。

 何故か、シェライラとジルコニアも着いて来たのは、ご愛嬌。

 領主の仕事はどうした。

 さぼりか。

 聞いてみたら、土地勘のない私を放り出すのは忍びないそうだ。

 それと、ランカの土地の代官によい噂がない。

 絶対に、喧嘩をする。

 そうなった場合の保険らしい。

 なんだ、そりゃ。


「ミーア様に教えられて、先代の領主の仕事内容を精査致しました。すると、街の兵士や秘書官の不正が山程、出て参りました」


 シェライラは、渋い表情で語る。

 一晩精査しただけで、不正の証拠が出てくるわで、あまり睡眠が取れていないそうな。

 なら、ついて来ないで寝ればいいのに。

 シェライラは、この際にランカの代官を罷免する気でいた。

 シェライラには、ライザスの近隣の王領の調査、不正があった場合の罷免権限があると言う。

 女王候補にはそうした権限が与えられ、為政者の適性を示せるか試されている。

 私の相談役には、彼女らの賞罰を見定める資格が含まれていた。

 宰相閣下曰く、女王を担わないなら、せめて助言だけでもしてもらいたい。

 明け透けに言われて、頷いてしまった。

 まあね。

 ユーリ先輩を直に知り、愛弟子なんて称号を持つ私が、他国に任官されでもしたら、目も当てられない心境なのだろう。

 それぐらいなら、自国でフラフラしていて貰いたい。

 お誂え向きに、ユーリ先輩より土地が譲られている。

 多少は重石になってくれるはず。

 旅に出てもフィディルがいるから、簡単に帰ってこれるしね。

 宰相閣下とジルコニアの思惑に乗るのも、何だけとさ。

 暫くは、おとなしくしている気になっていた。

 二年後に同郷のクラスメートが召喚されて、下手に有名になり探されるのは勘弁して欲しいからね。

 あちらは、あちらで勝手に生きていっておくれ。

 私は、地味に農業に精を出す。

 それで、やって来たランカの土地。

 うん。

 開拓失敗に終わっただけに、閑散としていた。

 見える範囲では、寒々と荒れ地が広がっている。


「話に聞いていましたが、凄まじく荒廃していますわ」

「おかしいですね。ランカには、まだ住人がいた筈です」


 シェライラ付きの護衛が確認していたが、代官の屋敷は無人だった。

 記録上は二桁の世帯が細々と、農地を耕していることになっていた。

 だけど、随分と手入れしていない畑と空き家が目立つ。


「マスター。あっちに、人の気配がする」


 私の周りには、顕現している守護者がいる。

 レオンが指差す方向に歩いてみた。


「お水の気配薄いよ」

「植物さんも、いない」

「大地も、乾いている」

「……モーモーいない」

「森の中には、生命体が数多くいますね」

「開拓失敗しただけでは、済まない荒廃です」


 六柱の感想に、同意をしたい。

 森は青々と生い茂り、生き物の鳴く声や騒ぐ音がする。

 対して、荒れ地には生命力を感じさせる気配が薄い。

 ちらほら耕した跡は見受けられるも、植物が栽培されている様子がない。

 十分程歩いて、漸く手入れされた畑に出くわした。

 けれども、規模は小さい。

 家庭菜園並の規模である。

 おかしくないか。

 皆、言葉少なげに首を傾げる。


「マスター。人は家の中だけど、子供だけみたいだ」

「そうですね。成人した大人はいません」


 人の気配に聡いレオンとファティマが、家を指す。

 あれが、家?

 空き家かと思うほどに、荒れた建物が近くにある。

 今にも崩れ落ちそうな家には、大きな穴が空いていたり、窓が無かったりしている。

 板切れで補強してあるけど、人が住み着く家ではない。


「事情を聞いて見ましょうか?」


 シェライラ付きの護衛が動く。

 その時だ。

 レオンよりも年下の男の子が、鍬を構えて出てきた。


「何度言われても、出ていかないからな。ここは、おれ達の土地だ。絶対に渡さない!」


 震える身体を抑えて、男の子は背に妹を庇っていた。

 二人とも、かなり痩せている。

 満足に食べれていない証拠だ。

 何が起きているのか、理解した。


「安心して。私は、ミーア。この近くの土地を貰ったご近所さんです。これから、よろしくね」

「近所? あんた、代官に騙されたのか。訴えた方がいいぞ。代官はあんたに土地を売った後で、何倍も税金を要求する気だ。払えなくなったら、皆奴隷にされて売られる。逃げた方がいい」

「なら、君達は逃げないの?」

「……逃げても、行く処がない。ライザスの街に逃げた一家が、役所や教会に訴えたら酷い目に遭わされて死んだ」


 男の子の告白に、シェライラは顔を青褪める。

 唇を噛んで耐えていた。


「それに、見張られている。すぐに、代官がやってくる。早く、逃げろ」


 男の子は金持ちなシェライラを気にして、忠告してくれる。

 レオンが頷き、視線を横に流す。

 地平の先に騎馬の姿が見えはじめてきた。

 ランカの入口にシェライラが乗ってきた馬車が停めてあるが、紋章で逃げられてしまうかな。

 強欲な代官なら、見過ごすかも。


「代官の屋敷は無人でしたが、代官は何処にいるのか知ってますか?」

「姉ちゃん。貴族様か? なら、危ないぞ。代官にはライザスの領主がついてる。普段は、ライザスの街にいて、はぐれの冒険者がここを見張ってる。冒険者ギルドも助けてくれない。早く、逃げた方がいい」


 頻りに、逃げた方がいいと訴える男の子。

 だけど、姿を報告されている以上は、逃げたら男の子に報復がいくと思われる。

 シェライラに表情が無くなっていく。

 怒っているな。

 自分に対しても、前任者に対しても。

 見過ごしてきたツケを支払わされている。


「ジルコニア。逃がさないで」

「承知しています。代官らしき馬車が近付いています」

「! 姉ちゃん達、なら家に入って。兄ちゃん達は、おれと代官を追い払って!」

「大丈夫よ。わたくしは貴族ですから、貴方達子供を守る義務がありますの。絶対に、代官は逃しません」

「うん。私も、加勢するからね。君達は、安心して守られて」

「姉ちゃん?」


 やると決めたら、徹底的に排除してあげよう。

 大人がいない兄妹が、助けを諦めてしまった分を上乗せしてやる。

 怖がらせないように注意して頭を撫でる。

 パサつく髪は、碌に水浴びも出来ていない、不衛生な環境に置かれていたのが分かる。

 ふふん。

 来やがれ、代官。

 ふつふつと沸き上がる怒りに、守護者も呼応する。

 エスカが腕捲くりし、ユリスとセレナは兄妹を守る位置に移動。

 レオンとフィディルが私達の前に、ファティマが然り気無く物理結界を張る。

 ジルコニアはシェライラの隣で睥睨している。

 護衛さん達も、守りの構えに入る。


「お兄ちゃん?」

「何だろう、代官怖くなくなったな」

「うん。お姉ちゃん達の方が、怒ってるね」

「貴族様でも、いい貴族様かな」


 兄妹が小声で話しているが、丸聞こえである。

 ははは。

 恐慌状態にならないように、平静の効果がある精神魔法をファティマがかけていた。

 兄妹を隠す意図はない。

 どうせなら、派手に断罪してやるからだ。

 そうこうしていると、シェライラの馬車よりきらびやかな装飾の馬車が騎馬に挟まれてやって来た。

 兄妹が、身を竦める。


「貴様等、このランカに何用だ。ここは、ガイナス様の領地だ。無断で立入り禁止だ。罰金を払い、出ていけ」


 騎乗したまま馬鹿が騒ぐ。

 槍を向けて威嚇してくるが、その槍が半ばで切断される。

 ジルコニアの先制である。


「貴様! 魔法か!」

「おかしな話ですわね。ランカが何時から、王領ではなくなりましたの? 誰か、分かる様に説明してくださらないかしら」

「なっ⁉」

「ガイナス卿とやらは、名誉士爵でいたと覚えていますが。何時から、このランカに赴任致しましたの?」


 シェライラの気勢に、騎馬の男達が困惑している。

 平素なら、先の威嚇で押し黙り、排除してきたのだろう。

 しかし、今回は貴族令嬢のシェライラがいた。

 爵位や人事にも明るい、ライザスの領主がいるとは思うまい。

 威勢を無くした男達が、顔を見合わせる。

 明らかに、シェライラの方が格上。

 自分達の威光が通じない人物に、動揺していた。


「何をしている! 早く、金を奪い追い出せっ!」


 追い剥ぎ要員が馬車から、怒声をあげて出てきた。

 馬車も派手なら、着ている服も派手だった。

 センスがない色使いの着こなしに、目が痛くなる。


「ガイナス様。どうやら、貴族令嬢の様子です。追い払えません」

「貴族令嬢だと? こんな荒れ地に何の用があるか。さっさと、追い出せ」

「ですが、馬が動きません。それに、相手には魔法師がいます」


 可哀相だけど馬はフィディルが拘束し、馬車はレオンが大地を操り固定していた。

 逃げだすことは、出来ない。

 まあ、屋外にて風を操るジルコニアからは、逃げれないけどね。


「魔法師? こんな荒れ地に何の用があ……。! バウルハウト、侯爵令嬢?」

「あら、わたくしをご存知なのですわね。ならば、わたくし個人の役職もご存知ですわよね」

「は、はいぃ~」

「ガイナス様?」

「貴殿の護衛がおかしなことを申しましたのよ。ランカが貴殿の領土で、無断で立入りした者に罰金を払えと言いますの。教えてくださらない? 何時から、任命されましたの? わたくし、隣の領主として、不勉強でしたわ。挨拶を怠っておりました。申し訳ありませんわね」


 にっこり、シェライラが迫力ある笑顔で首を傾げる。

 ガイナス何某は、蒼白になっていく。

 威勢の良さがなくなり、視線をさ迷わせていた。

 そりゃ、そうだ。

 シェライラの質問に答えようがない。

 ライザスの領主の前で、王領を己の勝手で罰則を作り徴収していた。

 ましてや、領主と言い触れていたなんて、言えないわな。

 反論したくても、シェライラは護衛がおかしな発言をしたと明言している。

 責任逃れはできまい。


「あ、あの、バウルハウト侯爵令嬢。これは、違うのです。護衛が言い間違えたのです。自分は、悪くはないのです」

「ガイナス様? どうしたのですか。こんな小娘にへりくだって、我々にはライザスの領主がついています」

「そうです。何時もの手で、金を巻き上げましょう」

「だ、黙れ。口を開くな」


 典型的な悪役さんだ。

 シェライラ側の護衛が、怒気を顕にしていく。

 ライザスの前任領主と、癒着していたのが判明した。

 如何に杜撰な統治をしていたのか、腹立たしさが募る。


「ヨハン、ギース。捕縛しなさい」

「「はっ」」


 怒髪天なシェライラの堪忍袋がキレた。

 護衛に命じる。

 ガイナス何某が逃げようと背を向けるも、馬車の扉は開かない。


「な、何をする」

「俺達は、ライザス領主の……」

「生憎と、貴方達に見覚えはありませんわ」

「はあ?」


 護衛の質が悪いのか、ガイナス何某側の護衛が呆気なく捕縛されていく。

 抵抗らしい抵抗しないのは、己の敗因を知らないからだろう。


「改めまして、皆様。お初にお目にかかります。女王陛下より、三月前にライザス領主に任命されました、シェライラ=エイラ=バウルハウトと申します」


 最後通牒を見事な淑女の礼をして、シェライラが述べた。

 崩れ落ちるガイナス何某と、阿呆面を晒す馬鹿な男達。

 まん丸お目目な兄妹が、可愛い口を開ける。

 こうして、シェライラの反撃が始まった。


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