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194 矛を収めるしかなかったでした

 はっきり、正直に言うと、宰相閣下とアリスの契約を破棄してやりたい気持ちはある。

 しかし、アリスは契約破棄を望んでいないし、宰相閣下に置いて逝かれるのを拒絶している。

 私とうちの子達と違い、契約者と充分な相互理解をしないまま距離を開け、契約者に気付かれない献身的な支えをし、対等な相棒ではない隷属的な存在としか見えない守護者の在り方が、宰相閣下とアリスとの間にある溝なんだろう。

 やはり、守護者制度が根本的に間違っているんだよなぁ。

 聖母教会も大金支払えば、格が釣り合わない相手と守護者契約させているしね。

 まさか、属性相性も無視して契約させたりは……、やらかしてそうだわ。

 まあ、いいや。

 聖母教会に関しては、エルネスト枢機卿猊下巻き込んで、後日必ず潰してやればいいか。

 今は、アリスと宰相閣下の案件についてだけ、正しておこう。


「アリス。最終確認だけど、アメリア=ラムレスとの契約破棄は考えてないんだね?」

「は、い。わたしは、アメリアに置いて逝かれるのは嫌ですが、人族の天命に介入する禁則事項に触れないです。アメリアが天寿を全うするまで、アメリアの守護者でいたいと意思表示します」

「アリスにそう言われるほど、私はアリスの献身を享受されておきながら、感謝の言葉一つしなかった愚か者だ。それに、私は宰相職を辞したら、アリスをヘンドリックス家に返す気でいた。ジェレミー殿に娘が産まれていたら、もっと早く私から契約破棄していたかもしれなかったよ。それでも、アリスは私を選んでくれていたか、だなんて愚問だね」


 アリスはもう決めている。

 宰相閣下が、アリスをいずれはヘンドリックス家に返還する道を選択して、実行していても拒絶していただろう。

 契約者が契約破棄しても、守護者側が同意しなかったら、守護者契約は破棄されない。

 ダレンとグレイスがまさに、その状態にある。

 ダレンは契約破棄を突きつけているが、グレイスが同意してないのと、精霊王も見ないフリしているから、守護者契約はまだ成立したまま。

 ただし、ダレンがグレイスからも感知できない隠れ方しているせいで、グレイスはダレンの居場所が分からないでいる。

 守護者契約というか細い繋がりは維持されていて、生存はしているとだけグレイスには分かる状態だ。

 以前、守護者は契約者の傍らに転移できると説明したと思うけど、ダレンはその特権も使用不可にしているから、グレイスはダレン捜索に手を焼いていた。

 呪術的な魔力を感知して素早く駆けつけても、既にダレンはいないか、弟子みたいな輩がダレン謹製の呪術道具を使っていたりと、徒労に終わる結果ばかりだったそうだ。

 で、疲労が蓄積したから、回復しようとダレンが残した緊急避難場所の簡易聖域に引きこもろうとしてユーリ先輩の罠にはまり、あの腕輪の宝石の中に押し込まれ眠らされていたんだと。

 一眠りした後、簡単に抜け出せたらしいが、私宛ての遺言が読めたので、私を待っていたというのがグレイス談である。

 待機している間、暇をもて甘していたので、私宛ての遺産を点検していたら、やはり悪質な嫌がらせを含んだアイテムがあったとも教えてくれた。

 まあね。

 あの人の事だから、やるとは確信できた。

 例えると、サーナリア国に招聘された時に使用したゴーレム馬。

 ある一定時間が過ぎたら、暴走する仕組みだったらしい。

 だがしかし、そこは悪戯好きなダレン&グレイスコンビ。

 命を脅かす悪戯は厳禁していたのもあり、仕込まれていた悪質な仕組みをグレイスは解除して時間を過ごしていた。

 やや熱中し過ぎて、私がこちらの世界に転生したのを見過ごしたようだった。

 うちの子達、特にフィディルとファティマが顕現したのが感知できて、漸く気付いたそうだ。

 で、抜け出せるが、サプライズしたくてそのまま待機。

 宝石の中からちょっと裏技使い、私の元に手渡されるようジルコニアに連絡した。

 が、あっさり私に看破されて、サプライズならず。

 いや、ごめん。

 そんな経緯あったとは、露にも思ってなかったや。

 単に、グレイスの悪戯だとばかり思ってた。

 ああ、話が違う方向に逸れた。

 何が言いたいかと言うと。

 守護者契約は精霊側にも是非が問われて、簡単には成立しないし、破棄できないんだわ。

 唯一の例外は、精霊王の命令と大精霊の特権。

 聖母教会が何らかの手段で、精霊側に意図しない契約を受理させる守護者契約なら、大精霊はその精霊が破棄したいと願い出れば、特権で眷属の守護者契約を破棄させられる。

 大精霊の中でも、フィディルとファティマとグレイスの三柱は眷属以外の精霊を解放できる。

 ゆえに、アリスが願えば、フィディルにファティマに特権行使させて、宰相閣下との守護者契約破棄させることも可能なんだけど。

 アリスは拒絶した。

 また、私がフィディルとファティマに強制させたとしても、アリスは再度宰相閣下と守護者契約を交わすだろう。

 それだけ、アリスは宰相閣下を好いているってな訳だ。

 いかんせん、肝心要な宰相閣下がアリスの好意を受け止めてなかったせいで、ややこしくなったんだが。

 アリスが嫌だと泣くから、今回は私が引くしかないな。

 本音は、宰相閣下にアリスは不釣り合いだと思っている。

 くそじじいに激しく対抗したせいだとも理解できるけどさぁ。

 守護者契約しといて、精霊を蔑ろにした件は許されるべきではないよ。


「エルネスト枢機卿猊下」

「何かな、ミシェル君?」

「二年で宰相辞職は撤回させましょう」

「ふむ。そうだな、アメリア=ラムレスへの罰は、辞職による引退生活より、正常な思考を有する限り、女王国の政務に携わらせた方が罰になるか」

「はい。馬車馬の如く働かせましょう。安易な隠居なんかさせたら、宰相の思う壺です。くそじじい呼ばわりした老害よろしく、御自身も老害扱いされるまで働かせましょう」

「だ、そうだ。アメリア=ラムレス。その生涯を女王国への全身全霊でもって、若き女王を支え

 、女王国の国民が憂いなく天寿を全うするべく、内政に努めよ」


 宰相閣下の年齢的に認知症を患わない限りは引退はさせない方針で、当代女王陛下の御代が安定してないのもあり、魑魅魍魎跋扈する政務を引き受けさせよう。

 フレリア=ナイアス然り、先々代女王然り、まだ平民出身な当代女王陛下を忌避する貴族血統主義な輩達の排除が完全じゃないので、ある程度排除してから引退して貰おうか。

 何なら、私も手を貸すしさ。


「大叔母上に対するミシェル嬢ならびに、エルネスト枢機卿猊下の恩情に感謝申し上げます。不肖、ラナート=ユーグレスの名に誓い、我が身も女王陛下に粉骨砕身生涯お支えし、盾となり矛となり、女王陛下に忠誠を誓います」

「ラナート、それは私の台詞だよ。我が名と家名、我が守護者の恥となり得ぬ誓いを宣言致します。我が身が朽ち果てるまで、女王陛下と恩情を進言してくださる猊下の秘蔵っ子殿に、女王陛下の次に敬意と誠実を誓います」


 あれ?

 何故に、宰相閣下の誓いに私が含まれるんだ。

 楽な自害に逃避しないで、罰対象に一枚岩ではない女王国の内政に精神的にも肉体的にも疲労が募る労働しろと無茶振りしたんだが?

 解せない。


『あー、マスター。アリスはマスターを喪わない、宰相はアリスが大精霊だと明かして、他の非協力的な政務官を罷免できるんじゃないかな』

『ん? 何で?』

『アリスは火の大精霊。政務官の実家やらお抱えの商会なり工房なり家庭なり、火の恩恵がなくなったら、どうなると思う?』


 レオンの指摘で理解した。

 傘下の商会なり工房が鍛冶や食事に関連したとしたら、火が扱いできなくなると工房の炉や厨房が単なる置き物と成り果てるのか。

 それは、絶対に困るな。

 火を使わない食事は多々あれど、肉類魚介類は生食したら食中毒まっしぐら。

 かといって、野菜類ばかりだと栄養偏るわな。

 パン類も焼けないし、侘しい食事事情は私も我慢ならないや。

 うん。

 私も我慢ならないや。

 それは回避一択で。

 次に、鍛冶関連なら、国防視点で消耗品の武器防具が納品できなくなると、更に困るわな。

 国防大臣のユークレス卿としたら、国防低下で他国からの侵略行為は是が非でも避けたい。

 火の上位属性の炎の大精霊ジュリエットがいたら問題解消するが、生憎とジュリエットは休眠していて協力はできないからなぁ。

 そうなったら、火の大精霊のアリスが取りなして、恩を売る作戦が生きる。

 今後は、宰相閣下と仲が良好なアリスという図ができて、関係改善が王城内で行き渡り、宰相閣下の支持率もあがるかな。

 序でに、エルネスト枢機卿猊下の後ろ楯もあると流せば、そうそう敵対視する一派も静かになる一石二鳥。

 よし、アリス関連と内政関連は決着まで導いた。

 次は、ヘンドリックス伯爵への謝罪だ。


「アメリア=ラムレス。先に、ジェレミーの孫娘の問題を解決する前に、しなくてはならない事があるだろう。わたしが説明する前に気付かなければ、禁止薬品の調薬認可はせぬ」


 あー。

 枢機卿猊下に先越された。

 かつての部下の家族を囮役に抜擢した宰相閣下達をゆるしてなかったよ。

 が、言われた宰相閣下達は疑問が顔に出ている。

 おい、先代ヘンドリックス伯爵さんに甘えていたと言ったじゃんか。

 忘れたら、いかんよ。


「はあ、何たる考えなしか。貴殿等の策で、ジェレミーの息子は、先のこの領地で我が物顔でのさばっていた犯罪者ギルドと手を組んだ聖母教会によって、犯罪の片棒を担がされ、叙爵されたばかりな新興貴族の私財を狙う不名誉極まりない汚名を被らされたのだ。それも、囮役の範囲内か?」

「そ、それは、違います。が、ご説明されたのが明るみになると、貴族院は処罰しないとならなくなります。申し訳ない、ジェレミー殿。その一件について、説明願えないだろうか」


 先代ヘンドリックス伯爵さんが、請われてユークレス卿にヘンドリックス伯爵家に起きた事件を事細かく説明する。

 と、真っ青になる宰相閣下とユークレス卿。

 漸く謝罪の姿勢に行き着いたよ。

 フレリア=ナイアスを釣るだけでなく、先代領主がのさばらせていた犯罪者ギルドと形振り構わず仕出かした聖母教会の悪事も明るみになり、ヘンドリックス伯爵家に悪名の烙印と爵位剥奪待ったなしを余儀なくさせた結末に、どう収拾つけるかが課題だね。

 ただまあ、両名の悲痛な面持ちの謝罪に、先代ヘンドリックス伯爵さんも軟化の態度になれたのは幸いだね。

 あとは、黒幕達との対決か。

 何だか、またスローライフが遠ざかった気がしてならなくなったよ。

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[良い点] 負債のサルベージ祭りが面白すぎて爆速で読み進めてしまいしまた。負債の内容とかが長文でお出しされるのが面白すぎる。絶対早口になってる。 [一言] 人外さんが対応してても負債まみれだし、逆主人…
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