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193 アリスの弱音でした

 ああ、もう。

 苛ついて仕方がない。

 宰相閣下はさ、宰相という職務と責務の重要性について、今一認識が甘過ぎたんだよ。

 女王国の女王は政務より錬金術師の優劣に重きを置き、政務は宰相に一任されている。

 ただ、最終的な決定権や責任は女王が果たす。

 当代女王陛下も、政務は宰相閣下や各大臣達の手腕に任せつつ、大事な内容の政務は精査して承認し、評価の良し悪しを女王は甘んじて受け止める。

 悪政が続き、国民から女王の評価が最悪になれば、先々代、先代女王のように容赦なく退位が待っている。

 のだけど、責任取るのが女王だけだなんて、私的には許しがたい案件なんだけどなぁ。

 だって、政務を一任されてるのが宰相なんだよ。

 そりゃあ、最終的な認可をくだすのが女王であっても、常日頃政務を担っているのは宰相や大臣達。

 責任逃れと罵倒されてもおかしくないんじゃないか?

 この辺りの一連の政務の流れも、初代からの悪習なのだろうか。

 だかしかし、私は今はっきりと宰相閣下に物申したい。


「エルネスト枢機卿猊下。暫し、私に発言の許可をお願いいたします」


 宰相閣下は、エルネスト枢機卿猊下にシルビアちゃんの病を知らされ、治療薬である禁止薬品の調薬許可を懇願し続けている。

 その必死な姿に、宰相閣下達がシルビアちゃんの病を把握してなかった不手際は、嘘ではないと分かった。

 が、まず先に、宰相閣下達がしないとならないのは、ヘンドリックス伯爵家を囮にした謝罪だろうが。

 ユークレス卿は謝罪めいた発言したが、宰相閣下はしてない。

 ひたすら、何故ヘンドリックス伯爵家を囮にした説明だけで、謝罪してない。

 弁明も、エルネスト枢機卿猊下向けにしか見えないしね。


「うむ。許そう」

「ありがとうございます、猊下」


 エルネスト枢機卿猊下の許可を貰い、私は待機していた背後から進み出て、宰相閣下達の眼前に仁王立ちした。

 シェライラの処の侍女衣装で、場違い感丸出しであるが目を瞑って貰おう。


「アメリア=ラムレス宰相閣下。守護者契約変更をされた事情はあれど、火の大精霊アリスの契約者であり、当代女王陛下の後見人であり、女王国の宰相という地位に座す方です。先に猊下も進言されましたが、些かそれらの事実から目を背けていませんか?」

「……確かにね。あんたの言う通りさ。まあ、弁解が一つあるのは、アリスが大精霊だと認識してなかった事だね」

「宰相閣下がおっしゃる、くそじじいさんは把握されていたのに?」

「あの頃の私は、くそじじいの言葉に耳を傾けてなかったのさ。それから、今程アリスとの仲も良好じゃなかった。私は、アリスをタリアから託されたっていうのにねぇ。単なる、宰相の地位を狙える優秀な守護者としか扱いしなかった。だから、アリスも教えてはくれなかったんだろうね」


 私の質問に、自虐を交えて韜晦する宰相閣下。

 アリスもスカートの生地を握り、俯いてしまった。

 当時の経緯を知らない私が、どうこうお説教する役を担う気はないが。

 宰相閣下はくそじじいと先々代女王への対抗心からアリスと守護者契約変更したけど、いわば自身の地位獲得の良い駒でしかなかった訳か。

 更に苛ついてきた。


「推測になりますけど、宰相閣下がヘンドリックス伯爵家を囮又は餌役にされたのも、先代ヘンドリックス伯爵様なら亡き奥様の仇討ち替わりの策を受け入れてくれるだろうと考えていませんでしたか?」


 この意地悪な質問に宰相閣下は、躊躇いつつも頷いた。


「ああ、そうだね。ジェレミー殿なら分かってくださる。苦言はあれど、最終的には許してくださると、甘えてたんだね。私は」

「それから、もし許して貰えなくても、ご自身の命で購うつもりでいたのでは?」

「そうだね。そうする、つもりでいたよ」

「大叔母上? それは、いくら何でも無責任過ぎます!」


 やはりか。

 宰相閣下は、フレリア=ナイアスと先々代女王を道連れ、相討ち覚悟で策を実行した。

 それは、残される後ろ楯を無くした当代女王陛下への裏切り行為でしかないのに。

 ユークレス卿が叫ぶも、覚悟を決めている宰相閣下には響いていない。

 アリスの握り締める拳の力が強まる。

 無責任。

 本当に無責任で、無知過ぎる。


「ふざけるんじゃない! アメリア=ラムレス!

 あんたは、あんたがくそじじいと罵る老害と等しい存在に成り果てたんだよ!」


 ふざけるな。

 ふざけるな。

 二年の猶予なんか、不要だ。

 この阿保で無知な老女に、鉄槌をくだしてやる。

 フレリア=ナイアスと先々代女王は、あんた達に復讐をするべく企てた。

 けれども、あんたもくそじじいとやらに復讐する為に、アリスを利用した。

 アリスは、ちゃんとあんたを契約者として認めたから、契約し、宰相の地位をもたらす駒扱いされても見放さなかった。

 それを、あんたはアリスの優しさに甘えて、アリスが教えてくれなかっただとか抜かすな。


「精霊がどうして、守護者契約に応じてくれるのかを、あんた達は忘れさっていたんだね。精霊の優劣で地位や名声を得て、守護者を自身の矜持や見栄を満たす道具扱いできるほど、あんたは偉いのかよ」

「そういう、あんたは違うと言えるのかい? 大精霊と複数契約し、力を借りて、自身を強者だと知らしめているじゃないか」

「私は……」

「「マスターは、違うよ!」」

「……マスターは、セレナ達を利用してない!」

「俺達のマスターは俺達を家族だと認識しているし、利用してないし、されてない! 俺達は確かに対価を貰い、力を貸しているように見えるだろけどさ」

「「利用じゃないよ」」

「……協力だよ。マスターがやりたい事を、セレナ達は一緒にやるんだよ」


 楽しい事は一緒に。

 悲しい事も一緒に。

 同じ気持ちを分かち合うんだよ。

 良い行いも、悪い行いも。

 等しく分かち合うんだよ。


 始まりは、虐げられている弱者で抵抗できない非力な女性を救うため。

 パーティー仲間から、生産職を押し付けられ、採取しかできないスキル構成を選択されたプレイヤーがいた。

 仲間達からは作成したアイテムを搾取され続け、より上級アイテムの生産職が仲間入りした途端、パーティーから除名され、放り出された薬師のプレイヤーを、生産職でクランを創設しようと立ち上げた私が加入していたクランリーダーが勧誘する。

 初期クランメンバーが徐々に名をあげていき、生産職プレイヤーが増えていくなか、その薬師プレイヤーが初の精霊契約者となり、うちのクランの名が一気に有名になった。

 元々、初の精霊契約者たる薬師プレイヤーは、パーティー仲間から暴言やら嫌がらせされていて、プレイヤーに対して生産アイテムを販売せず、NPC(住人)相手とクランメンバーだけ販売していた。

 そうした住人に対する好感度が、精霊に興味を持たれ、好かれる要因になったのだ。

 しかし、承認要求の塊であり、自己優越、称賛されたがりなユーリ先輩の、隠れた画策によって、薬師プレイヤーは一時期粘着されゲームにインしなくなった。

 その間に色々あって、私達が大精霊と契約したり、守護者システムを提案したりして、精霊は良き隣人で身近な存在になったのだ。

 まあ、プレイヤーにも多種多様な考え方もあるのは時事 → 事実だ。

 精霊を消耗品扱いして使い潰すプレイヤーも少なく数はいた。

 リアルマネートレードして、より上級の精霊を入手しようとしたプレイヤーもいたのを、前にも説明したよね。

 だけど、ユーリ先輩を除く大精霊と契約した私達は、精霊を自身と対等な存在として、友誼を結んだ。

 表向きは主従な関係だけども、私はうちの子達を第二の家族だと思えた。

 レオンは、私が大地の精霊魔法を行使する際に、命令しないで協力をお願いするのを、最初は不思議がっていた。

 対価を貰うのだから、あれこれするのは当たり前なのでは?

 何故、マスターは俺が精霊魔法を行使する以上の対価の魔力をくれるのだと聞いてきた。


「えっ? 何故って、大精霊だからとか地位が高くっても、大魔法行使したらその分弱体化するんでしょ? レオンが弱体化したら、悲しくなるし、嫌だからね。だいたい、精霊の魔力回復が、プレイヤーの自然回復と同等じゃないのが不公平ぽくない?」


 プレイヤーの精霊魔法が通常の魔法より強力な分、連発できない仕様で、精霊の魔力回復がプレイヤーより難儀な扱いだったせいもあり、私は精霊が主となる精霊魔法ではなく、プレイヤーが主となる精霊魔法ばかり行使していた。

 それが、プレイヤーの魔力を対価に行使する精霊魔法である。

 反対に、プレイヤーが精霊を使い潰す精霊魔法は、精霊の魔力を消費して行使する魔法で、威力は桁外れ。

 ただし、消費した魔力回復はプレイヤーの自然回復と同時間比較したら、微々たるモノ。

 まだ、精霊石の取得も画一されてなかったから、流通する精霊石の取り合いが勃発していた。

 ゆえに、私は精霊が主となる精霊魔法は嫌った。

 例外は、フィディルの扉を繋ぐ転移魔法だけ。

 それでも、頻繁には行使しないで秘匿していた。

 今は、フィディル曰く、ゲームの楔が外され人外さん達神々の恩恵もあって、守護者の精霊魔法消費魔力は軽減され、自然回復も見直されて、逆に魔法行使する魔力が微々たるモノになったから、余りまくる魔力があるので消費させて欲しいて訴えられてるがな。

 だかしかし、私と契約しているうちの子達限定だそうだ。

 人外さんや。

 これも、過保護な部類かいな、と頭痛がしたけどな。

 話が逸れた。


「私は、うちの子達が嫌がる魔法は行使したことないよ。させる気持ちもない。あんた達は、精霊魔法が二種類あるって事知っている?」


 精霊が主となるか、マスターが主となるか。

 どちらの精霊魔法のメリットとデメリットを、説明した。


「幸いにも宰相閣下は、精霊魔法の熟練度が低いから。あまり、精霊魔法行使したことないとふんだけど。宰相閣下の場合は、アリスが主となる精霊魔法行使で、アリスの弱体化を招き、早々とアリスは休眠状態になっていただろうね。そうなったら、アリス不在の宰相閣下は、宰相のままでいられた?」

「……今の、私はいないだろうね。ああ、そうだね。私は、アリスの献身に気付かずに、アリスがいなくなったら、アリスを恨んだだろう。役立たずとね」

「私はさぁ。どうしても、精霊寄りの見方をする。だって、精霊は私達の便利アイテムでは決してない。利用、搾取する存在でもない。ましてや、見栄や名声欲を満たす道具でもない。人のエゴを押し付けていい訳がない。意思ある隣人でしょ? 良き友で、唯一無二の理解者なんだよ? その精霊と契約しといて、勝手に自死とかしたら、一番嘆き、悲しむのは誰か分かるはずでしょうが」

「アメリア……。わたしは、知っていたけど、言えなかった。何人も、契約者と別れてきたけど。誰にも言えなかった。だから、契約者と距離を置いた。アメリアともね……。だけど、言わせて。もう、置いて逝かないで」

「!? ああ、そうか。そうだね。一番大切な事を、忘れてたんだね。アリス。あんた達精霊も悲しむ感情があるのを、なんで分からないでいたんだろうね」


 絞り出すようなか細いアリスの弱音。

 漸く、言わせれたよ。

 うちの子達は自己主張を我慢しないで言えるようになったけれども、それは初めて契約した私の存在が消えていなくなってはないから。

 でも、他の子達は初めてのマスターとの再会は絶望的だし、何かしらの理由でユーリ先輩と関わりがあり、女王国にとどまり幾人か契約者を得ては、別離を繰り返している。

 この世界で精霊は単なるAIではなく、意思があり感情がある生命体に変化した。

 アリスが先代ヘンドリックス伯爵夫人から、宰相閣下と契約変更した理由の一つは、夫人に置いて逝かれるのを見たくなかったからだろう。

 かといって、安易に宰相閣下と契約した訳でもなく、夫人に懇願されたからでもなく、アリスは宰相閣下の人柄を好いていたんだよ。

 ああ、もう。

 何で、わからないかなぁ。

 精霊にだって、契約するか選択の意思決定権あるんだってば。

 でなければ、大精霊のアリスが聖母教会が関与したとしても、契約無視できるっての。

 もしや、この情報も意図的に秘匿されているのか。

 だとしたら、やったのはあの人か。

 許すまじ。

 しかし、宰相閣下へのお説教は続くからね。

 今少しの時間は、アリスに預けてあげるけど。

 本命は、まだだからね。

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