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192 宰相の株が駄々下がりでした

「アメリア=ラムレス。今回の策にて、貴殿は失態を幾つか犯している。ラナート=ユークレス、貴殿もだ」


 エルネスト枢機卿猊下は、そう両者を断罪する。

 ユークレス卿がやらかした失態について、本人の談によると。

 親しい友人が、フレリア=ナイアスの信望者だったのを見抜けなかった。

 フレリア=ナイアスはユークレス卿の長男を婿入りさせ、ユークレス家を味方に引き入れる気でいたらしい。

 だが、その狙われた長男のアーガストさんは、騎士団の不祥事を払拭させる為に英雄として持ち上げられ、いつしか父親とも対立しては、かつて騎士団を粛清した義侠心を忘れ貴族血統至上主義を騙り、自身の破滅を願うようになった。

 これは、私が最初にアーガストさんと邂逅した時期で、女王陛下の守護者エルシフォーネに無体を働いて、騎士団総長の任を解かれた件にて、謹慎中にユークレス卿が叱責した時に、アーガストさんの破滅願望が明るみになったそうである。

 ユークレス卿と宰相閣下は、ここまでアーガストさんを追い詰めていた責任を理解して、フレリア=ナイアスに婿入りを打診されていたのも都合よく利用して、左遷させてうちの農園に匿わせたと、私に謝罪された。

 まあ、何かしら事情があって、うちに左遷されたのだろうとは思っていたら、こうした事情だった訳か。

 しかし、フレリア=ナイアスのアーガストさんに対する執着は凄まじく、数ある騎士団に信望者や協力者を送り込み、アーガストさんを捜索していた。

 前にも述べたけど、フレリア=ナイアスとアーガストさんとの間には、かなり年齢差がある。

 私はフレリア=ナイアスを直に見かけてないけど、ユークレス卿が言うには美女とは言えない容姿であるも、何故か人を引き付ける要因があるみたいで、信望者の数も侮れないほどいるとか。

 中には侯爵クラスのパトロンがいて、宰相閣下でさえ安易に王城を出禁命令できないんだってさ。

 て、いうか。

 嫌な事思い付いたのだが。

 禁忌の薬である紫薔薇の虜。

 出所は、フレリア=ナイアスだったりして。

 やだ、それ。

 かなり、厄介どころではないかもしれないぞ。


「貴殿達に罪を認識させる前に、幾つか質問する。偽りなく答えよ」

「はい。分かっております」

「自分も、お答え致します」

「ヘンドリックス伯爵家が、こちらの領地に任命した際。領主の屋敷としての仮住まいに、前領主の別邸であるこの屋敷を紹介したのは、どちらであるか?」


 この質問に、宰相閣下とユークレス卿は寝耳に水だった様子で、互いが紹介したのか顔を見合せていた。

 どうやら、両者ともに紹介してなかったぽいな。


「私は、前領主の別邸とは聞いてません。身内の豪商が手配した屋敷と認識しています」

「自分は、前領主からヘンドリックス伯爵が領主に任命される間に領地を任せていた代官が手配したと聞いています」

「お尋ねされるという事は、こちらの別邸に問題があったのでしょうか」

「ああ、前領主はフレリア=ナイアスの支援者であった某侯爵の実子であり、愛娘を人質にされ、犯罪を強要されていたらしいな。この別邸は、その協力関係にあった犯罪ギルドの隠れ家が地下にあった。となれば、察せられるであろう?」

「まさか、その犯罪ギルドの次なる協力関係者として、ヘンドリックス伯爵家に?」

「ラナート=ユークレス。貴殿はヘンドリックス伯爵家の本家としては、不手際が多々ありすぎる。これより、ヘンドリックス伯爵家は、わたしが個人的に庇護下におく」


 だから、事前調査とかしておくべきだったんだよ。

 先々代から続く女王の不始末対策するのも大事な仕事だろうけども。

 支援者だったアーゲード侯爵を徹底的に洗いざらい調査しないとならなかったんだよ。

 だって、既にアーゲード侯爵派閥は犯罪ギルドと癒着していたのが判明してたってのに。

 アーゲード侯爵だけ捕縛しておいて、加担していた犯罪ギルド摘発不十分だった訳でしょ?

 挙げ句、フレリア=ナイアス関係を先に処理しようとして、ヘンドリックス伯爵家が聖母教会と手を組んだ犯罪ギルドにつけこまれたのは、両者の力不足が露呈した結果だしね。

 また、騎士団絡みでも、フレリア=ナイアスの信望者の暴走というか策が実行されて、特務騎士団もいいように使われちゃったんだよねぇ。

 言い方悪いけど。

 甘過ぎない?

 策の練り方も中途半端だと思うよ。

 だから、迷惑被ったヘンドリックス伯爵家を、エルネスト枢機卿猊下が庇護すると宣言されちゃうんだよ。


「ついで、アメリア=ラムレス。貴殿の宰相の地位も些か相応しくなくなったな。されど、後ろ楯の弱い女王シャロン=ラムレスの後見から、貴殿を外したらどうなるかぐらい、わたしでも予想がつく。二年猶予をやろう。貴殿が教育する次期宰相候補を、一人前に仕立て上げよ。ああ、バウルハウト侯爵令嬢ならびに、バーシー伯爵は除外せよ。わたしは、認めぬからな」

「拝命、承りました。次期宰相には、補佐官のゴドウィンか、ラナートの長女、女王候補者の一人であったアルノー伯爵夫人をと推薦したく存じます」

「……ふむ。わたしは、アルノー伯爵夫人が適任であると思う」

「それでは、アルノー伯爵夫人を次期宰相と貴族院に通達致します」


 話題のアルノー伯爵夫人だが。

 人外さんのチャットから、若くして旦那様を亡くし、女手一人でアルノー伯爵家を切り盛りしながら嫡男を養育し、立派な跡取りに成長した

 息子に伯爵家当主を引き継ぎ間近のできる女傑さんとの情報が。

 ゴドウィンさんは、本来がエルネスト枢機卿猊下の配下であり聖職者の二足のわらじもあって、宰相の仕事までもとなると神聖国の肩入れすぎとなり、敬遠だわな。

 ユークレス卿の長女?

 あれ、ユークレス家は男児しかいないんじゃなかったのでは?

 ああ、奥方の血筋の遠縁の女児を引き取った養女さんで、ユークレス卿の息子の許嫁候補なのか。

 で、その養女さんは、義理の大おば様宰相閣下に看過されて女性文官として王城で仕官されているのと、女王陛下とも相性よく、ゆくゆくは女王専属補佐官の道を約束されているそうだ。

 やけに、女王国内の人事に詳しいエルネスト枢機卿猊下である。

 きっと、情報元は配下のゴドウィンさんだろう。


「それから、もう幾つか問題が起きている。この場に、ヘンドリックス伯爵本人が不在であるのは把握しているだろう」

「はい。ジェレミー殿が、猊下付きの元聖騎士とは知っておりましたが。息子殿にも、我々が情報を与えなかったせいで、何かしらの問題が起きているのでしょうか」

「これは、推測だが。フレリア=ナイアスは、聖母教会と犯罪ギルドに加担しているのだろう。禁忌の薬品をヘンドリックス伯爵家令嬢の病に効果がある薬として、中毒性ある麻薬をヘンドリックス伯爵家一家と使用人に与えた。禁忌の薬品の名は紫薔薇の虜だ。これが意味する理由を、貴殿等は把握すらしてなかったな」

「紫薔薇の虜? まさか、もしやヘンドリックス伯爵家にまた、あの病が?」

「そうだ。幼きシルビア嬢が罹患した」


 宰相閣下の顔色が真っ青になった。

 親友であった先代ヘンドリックス伯爵夫人が逝去した理由の病。

 治療薬も禁忌指定の薬品から、罹患したら生還率の低い病から、魔力還元免疫異常体質は一種の呪いとも言われている。

 宰相閣下的には、正統なアリスの契約者であるべきなシルビアちゃんだ。

 先代ヘンドリックス伯爵夫人のように、静観してはいられない。

 果たして、宰相閣下はエルネスト枢機卿猊下に直訴した。


「猊下、お願いいたします。どうか、どうか。治療薬の作成のご慈悲を賜りください。シルビア嬢は、私にとっても孫娘に等しい存在です。かつて、当代女王即位の際、私は猊下に誓約致しました。シャロン=ラムレスを我が娘とし、女王の御代を支えると。しかし、シルビア嬢もまた、私が……」

「甘えるな、履き違えるな、アメリア=ラムレス!」


 宰相閣下。

 土下座せんばかりに、エルネスト枢機卿猊下に詰めよったけどね。

 ちょっと、直訴の内容は悪手だ。

 シルビアちゃんが、親友の先代ヘンドリックス伯爵夫人の孫娘で、アリス云々もあるが。

 中毒症に陥っているヘンドリックス伯爵一家や使用人を忘れたらいかんだろうに。

 宰相閣下やユークレス卿が、調査不足を怠り、フレリア=ナイアスの影響力を低く見積りすぎたから、ヘンドリックス伯爵家の被害が大きくなったんだが。

 おまけに、餌役振るならさぁ。

 監視人配置して、動向を把握してなきゃならなかったはず。

 お二人、詰めが甘過ぎだ。

 怒られるのも当然である。


「アメリア=ラムレス。如何に、先代ヘンドリックス伯爵夫人と友誼が厚かろと、わたしとの誓約を果たす義務を放棄するならば、今すぐ、直ちに宰相を辞任せよ。そして、女王国に争乱の種を蒔いた愚者として、名を残せ」


 エルネスト枢機卿猊下の怒りの原因は、ヘンドリックス伯爵家を巻き込んだ不手際もだけど。

 血筋は過去に女王を拝した貴族の末裔ながら、平民として生きてきた当代女王陛下の後見人を宰相閣下が辞したら、そりぁ平民出身というだけで心象悪い貴族血統主義派の貴族は黙ってないわな。

 下手したら、名門貴族のシェライラを旗頭にして退位を迫る貴族もいるでしょう。

 まあ、バウルハウト侯爵さんは良識的な方みたいだから、そうそうそんな輩に同調はしないと思うよ。

 となると、第二、第三の候補者を立て、女王国内が内乱状態に発展するのもあり得るわけで。

 エルネスト枢機卿猊下は、内乱を引き起こす原因となる宰相閣下を破門し、最悪処分しちゃいそうだ。

 そうしない為に、時間をかけて次代に継承させろと提案してんのに、宰相閣下自身が暴走してどうするよ。

 あーあ。

 沈黙しているアリスを見ろ。

 泣きそうに表情を歪めて、握りしめた拳が震えている。

 気付いたお子様ズが、慰めに纏わり付きにいった。

 契約者変更したからといって、アリスが宰相閣下を嫌っている訳がないんだよ。

 むしろ、気に入っているから、契約者変更に応じたんだよ。

 あー、もう。

 腹立つなぁ。

 私の中で更に、宰相閣下の株が駄々下がりしていく。

 誰が、安易に辞職させるかっての。

 フレリア=ナイアスの件も、ヘンドリックス伯爵家の件も、全てが片付くまで馬車馬の如く働かせてやる。

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