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191 想定外のオンパレードでした

 何て言うか。

 要するに、宰相閣下とユークレス卿は、ヘンドリックス伯爵家の協力を要請するべきだったんだよ。

 変に抱え込み過ぎて、空回りした結果が、現在のヘンドリックス伯爵家が悲惨な事態になってしまった原因な訳だ。


「アメリア=ラムレス。何故、ヘンドリックス伯爵家に相談しなかった訳を説明せよ」

「はい。先にも述べましたが、私の守護者はジェレミー殿の亡くなった夫人から契約変更したアリスです。アリスが大精霊だとは、私は知らないままでした。高位精霊だと認識してました。ですが、私にアリスと契約変更させた、あのくそじじいは知っていたのでしょう。ラムレス家の分家でもあるヘンドリックス伯爵家を、ラムレス家の系譜から外し、単なる縁戚に格下げし、ラムレス家の領地からも放逐しました。そうして、ヘンドリックス伯爵家を困窮させ、血脈を途絶えさせて、アリスをラムレス家専属の守護者にしようとしてたのです」


 ん?

 宰相閣下の説明だと、アリスは先代ヘンドリックス伯爵夫人の家系を代々守護者として見守っていたのか?

 それだと、代々の女王が風と火の大精霊を守護者としていた話と繋がらないけどなぁ。

 ああ、もしや火の大精霊の名前も間違えて伝承されていたパターンが、あり得そうだわな。


「バー……」

「彼女はミシェル君だ。わたしの専属侍女であり、優秀な治療師である」


 宰相閣下が私を呼ぼうとして、エルネスト枢機卿猊下に訂正される。

 そのエルネスト枢機卿猊下の横顔と視線が私に向き、僅か斜め正面に戻った視線は端に移動させられた置物に向けられたのだろう。

 暗に、私の正体をばらすなと宰相閣下達に威圧が飛んでいる。


「……そちらの侍女が口にした通りだよ。大精霊の名前は、秘匿される。書物や口伝ですら、後世に残されてはいないよ。その辺りの事情は、本人の守護者にでも聞いた方が正確な答えがあるだろう」


 ありゃ。

 疑問が口に出ていたか。

 せっかく宰相閣下が教えてくれたので、後にでもうちの子達に聞いてみよう。

 話の腰を折って済まぬ。

 では、ヘンドリックス伯爵家絡みの続きをどうぞ。


「続きを」

「はい、猊下。本来は、大精霊の名前は秘匿される。ですが、ラムレス家当主であったくそじじいは、祖母が女王であった為に、秘匿されていた情報の一部を祖母から聞いていたのでしょう。ジェレミー殿の夫人の守護者がアリスだと把握した途端に、夫人の生家をラムレス家であると貴族院の戸籍部に圧力をかけて偽ろうとした。まあ、それは常識ある方々に阻まれ、実を結ばなかったですが」


 そこで、諦めるという常識をどこそこに捨て去り、先代ヘンドリックス伯爵夫人を女王位に即位させようと目論んだり、あれこれやらかしたと。

 また、若かりし宰相閣下も反発して、女王即位に必要不可欠な錬金術は最低限の学習にとどめ、内政の分野をひたすら学習した。

 当時のラムレス家に女性は宰相閣下だけだったのも重なり、祖父から受ける重圧は計り知れないわ。

 反抗されるほど、宰相閣下の祖父がやらかした案件は、話題にできないぐらいにあったのだろうと思われる。

 いったい、何度くそじじいと宰相閣下が連呼したか、数えきれない。

 で、宰相閣下が反抗している間に、風の大精霊を守護者に持つ先々代女王がラムレス家と敵対する名家の後見を受けて即位。

 先代ヘンドリックス伯爵夫人は、ラムレス家当主の執拗な守護者契約変更を余儀なくされて、アリスは宰相閣下と契約変更させられた。

 それから、先々代女王即位後すぐに国が荒れると判断を下した宰相閣下が宰相に就任。

 間もなく、先代ヘンドリックス伯爵夫人の病が一気に重篤な状態に陥り、先々代女王と秘薬の錬金調薬騒動が起きた。


「その秘薬を女王が錬金調薬できないと判明した時点で、女王即位の条件を満たしてないと女王認定評議会に奏上してれば良かったと、今では後悔しています」


 気のせいか。

 宰相閣下の、私に対する口調と枢機卿猊下に対する口調が違うのを、突っ込んだらいけないのは理解しているが。

 丁寧語の宰相閣下の口調に慣れないせいか、妙にもやっとするのを、誰かに言いたい。

 シリアスな雰囲気なので、絶対に公言してはならないけどさ。

 分かっている。

 分かっているが、私の中での宰相閣下の気質が江戸っ子気質だと訴えているんですよ。

 ああ、私自身がシリアスな雰囲気が苦手なだけかも知れないや。


「先々代女王は以降も女王らしからぬ失態を犯し、先々代女王を後見した名家も離れ、ラムレス家のくそじじいもいなくなり、漸く退位させれる事に邪魔する老害達も排除ができました。

 私自身も宰相位を辞任して、アリスをジェレミー殿の亡き夫人の生家に返せると思っていました」

「しかし、亡くなった我が妻が産んだ子は男児。それから、生家の弟妹達の子も男児ばかりでしたな」

「ジェレミー殿がおっしゃる通り、アリスを託せる子がいなかった。私もくそじじいの思惑どおりにしたくはなく、婚姻は拒否し続け、子はいない。けれども、ラムレス家の縁戚にも、アリスを託せる子は見つからなかった」


 そこを、あちらは突いてきた。

 先々代女王と不倫相手との娘フレリア=ナイアス。

 母親から契約譲渡された風の大精霊ジルシニアを女王即位の好条件だと誤認識し、かつて母親を後見した名家と接触後、その名家を隠れ蓑にして母親が退位させられた復讐も含め、女王に即位しようと画策している。

 姿なき賢者からの警告が、宰相閣下と貴族院長老達に告げられたのは、錬金術は優秀ながらあまりにも選民意識過ぎ、国民を省みない発言や法を提議する先代女王を退位させる決議の真っ最中だった。

 フレリア=ナイアスは、先代女王の不始末の責任を、女王に即位させた宰相閣下達にも連座させるべきではと、いかにも女王国内を憂いている体で進言してきた。

 そして、実は自分が母親の守護者と契約している。

 初代錬金女王の守護者を自分が得ている。

 先代女王が評価を貶めた女王位を、初代錬金女王の守護者と契約した自分が立て直してもいい。

 上から目線の、やってもいい発言する女が女王にだなんて、私でも先が読めてくるぞ。

 あはは。

 阿呆め。

 だから、時は残酷なまでに真実が明らかになった。

 名門バウルハウト侯爵家令嬢が、真実の風の大精霊と契約を果たした。

 同じく、錬金術を学ぶ学院の平民特待生が、風属性の上位に座す精霊と契約を果たした。

 前代未聞の出来事が、フレリア=ナイアスを撃破した。

 風の大精霊と思われていた精霊ジルシニアは、風の大精霊ジルコニアの意思により誤認識を訂正せず、女王位に群がる輩達を見定め、選定していた。

 十五代目までは、女王国内に縛られていた風の大精霊と協力関係にある他の大精霊達が、十五代を過ぎても女王国内にとどまり、助力しえうるか。

 既に、時空、聖、樹木、氷、大地、水の大精霊は、女王すら眼中にはなく、眷属の精霊が最低限協力してくれているだけ。

 十三柱の大精霊が二柱のみ、女王国を支えてくれている(実際は、光、闇、炎の大精霊が影で支えていたが)。

 庇護者のエルネスト枢機卿猊下も、十五代目を境に女王国を支援継続されるか、悩みが尽きない。

 うん?

 枢機卿猊下の十五代目縛りは、私が関連あるからか?

 初めに、私を女王国に転生させたの人外さんだよね?

 んん?

 人外さんは、私がうちの子達と再会したら、女王国を出ていくと思っていたりして。

 ほんでもって、私が拠点を築いた国が担当教区外だったら、教区を鞍替えしたりして。

 あー。

 想像したら笑えんわ。

 だって、過保護な人外さんだしな。

 筆頭枢機卿猊下であっても、そうそう他教区の国に頻繁に来たら差し障りがあって当然な成り行きだから、教区替えやりそうだ。

 ていうか、絶対にやるな。

 そうなると女王国側としたら、枢機卿猊下が交代されるのは止めて欲しい。

 なぜなら、担当枢機卿が交代だなんて事態は、国にとっては重大な問題でしかない。

 過去に一度、ある国が教区の枢機卿猊下を怒らして庇護を失い、新たな枢機卿猊下と良好を築けず、滅亡しちゃった例があったよ。

 宰相閣下も、だからエルネスト枢機卿猊下が教区替えされたりしたら、過去の例と同列にみなされ、他国からの信頼も失われ、結果女王国もと想定した訳だ。

 先々代女王、先代女王と続いて、国民からの女王の信頼や評価が低下した。

 十五代目という節目に、難あり女王を即位なんてできる理由がない。

 ならば、真実の風の大精霊ジルコニアが守護者のシェライラを女王位に推薦したら、当の風の大精霊が己れより上位属性の嵐の精霊(大精霊とは言わなかったらしい)が守護者の平民女性が相応しいと固辞。

 バウルハウト侯爵家が平民女性の出自を調査し、過去に女王を輩出した家柄の貴族の血脈だと打ち明けられた。

 両親は平民だが、血脈は貴族に行き着く。

 女王認定評議会も荒れに荒れ、最終的に宰相閣下と養子縁組して後ろ楯を得たシャロン=ラムレスを、エルネスト枢機卿猊下は女王と認めた。

 この間に、宰相閣下とエルネスト枢機卿猊下は密約を交わす。

 十五代目の女王即位に関して、彼女の即位期間にある条件を達成できたならば、以降も女王国を庇護してくださる確約を願った。


「条件の内容は、私と枢機卿猊下との間の密約故に明かしはしません。ですが、フレリア=ナイアスとその母親に隠れ蓑となった後見の家門。それらが、その条件を達成するには障害となりました。先々代女王は、ヘンドリックス伯爵家があるから娘が女王になれないと、偏った思い違いゆえに。フレリア=ナイアスは、自身が女王になる障害がアリスにあると盲信し、誤った認識から先代ヘンドリックス伯爵夫人の血脈を完全に途絶えさせるべく働きだしました」

「その件については、自分にも非があります。ジェレミー殿、大変申し訳ない。貴方の孫娘殿が、大叔母上の守護者アリスの正統な契約者だと、迂闊にもあちらに届く場で話題にしてしまいました。それと、あちらに届いたところで、何もできやしないと考え、大叔母上にも報告しなかった自分の非を詫びます」

「それは、どうしてですかな」


 ユークレス卿が、先代ヘンドリックス伯爵さんに頭を下げた。

 なる。

 ラムレス家にアリスを託せる子がいない。

 近しい縁戚のユークレス家にもいない。

 しかし、元の先代ヘンドリックス伯爵夫人の血脈を継ぐ、孫娘のシルビアちゃんが存在している。

 先代ヘンドリックス伯爵夫人に敵愾心を抱いていた先々代女王と、女王位を狙うフレリア=ナイアスにとって、女王位の条件の一つであるアリスの守護者契約をシルビアちゃんにさせる訳にはいかない。

 だから、ヘンドリックス伯爵家は最初に狙われた。

 真っ先に潰しておきたい案件なんだ。

 うわぁ。

 宰相閣下がヘンドリックス伯爵家を餌役にする理由が、これか。

 既に女王位にあるシャロン=ラムレスや、筆頭女王候補のバウルハウト侯爵令嬢シェライラには、国の騎士とバウルハウト侯爵家が信頼をおく護衛騎士がついているから、排除するには時間がかかるし、手間もかかるしで、餌役には向かない。

 対して、ヘンドリックス伯爵家は領地替えも相成って、あちらが接触できる隙が生まれる状態を作った。

 後は、餌役に食い付いてきたのを待つだけ。

 なのだけど、食い付いてしまったのが肝心なフレリア=ナイアス達だけではなく、前領主の悪質な遺産たる犯罪者ギルドと手を組んだ聖母教会ときた。

 想定外な事態が起きていたのを、宰相閣下達は把握してなかった甘さが、露呈していた。

 まあね。

 今回は、想定外のオンパレードが続出したのだけどねぇ。

 やっぱり、報、連、相は忘れたら駄目だ。

 忘れてなく、連携できていたら。

 こうまで、厄介な事になってなかったと思うのは、私だけかなぁ。

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