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019 土地を貰いました

 グレイスの一件は忘れよう。

 なるようにしか、ならないし。

 では、インベントリの中味を精査しよう。

 やっぱり、一番にお金が入っていた。

 人外さんから頂いた金額の十倍は優にあった。

 一生働かなくてもいいんじゃないかな。

 後は、ゲームのアイテムを再現した魔法具(マジックアイテム)魔法薬(ポーション)類。

 ポーションは助かる。

 ユーリ先輩の錬金術で作製されたポーションは、効果が高く副作用もない。

 依存性もなく安心して使える。

ただし、あまり信用できない可能性も秘めているかもだ。

 それから、神秘の霊薬(エリクサー)蘇生薬(ネクタル)は、表に出せない。

 常識知らずな私でも、如何に危険な薬品かが分かる。

 何故に、厄介な騒動の種になる薬品を作製したかな。

 万能薬や各種耐性薬品は、ジルコニア曰く稀に迷宮都市から出土されるから、一流の冒険者が所持していてもおかしくはない。


「ミーア様。オークションに出展すれば、ひと財産ですわ」

「私は今。迷宮都市に心躍っている」

「そちらが、気になりましたか。でも、迷宮都市へ行くには通らなくてはならない国があります。その国と我が国とは仲が良くありません。女性の一人旅は危険です」

「守護者がいても?」

「守護者がいてもです。()(どころ)か、守護者を買い取る強欲な王侯貴族がいます。主の身柄を人質に、守護者を戦に駆り出したりもしています」


 ふーん。

 要注意な国があるのか。

 どんなに対策しても、食事や睡眠の最中に襲われたら、どうしようもないのか。

 うん。

 君子危うきに近寄らず。

 迷宮都市は諦めよう。

 万が一私が人質になり、うちの子達を戦に関わらせたくはない。

 国交断絶迄はいかないまでも、良好な間柄ではないらしい。

 推測だけど、守護者を寄越せとか言ってるんじゃないかな。

 守護者を使い潰して、国土を狙っていそうだし。

 聖母教会が盗んだ錬金人形の教本を、高値で買い取りそうである。

 間違いだらけの教本では、正式な錬金人形は作製出来ないけど、紛い物を作製して特攻とかさせたりして。

 手を結ばない様に気をつけておこう。


「それよりも、ユーリ様が遺されたアイテムが気になりますわ」

「ミーア様に遺されたアイテムですから、ミーア様にしか使用できないかもしれませんよ」

「構いません。初代様の御手によるアイテムを、目にできるだけでも励みになりますわ」


 憧れの初代錬金女王の遺産は生前に整理されて、マジックアイテムの類いは一切遺されていない。

 殆どが、お金や宝飾品に換金され、宝物庫に眠っているそうな。

 何か、シェライラが気に入りそうなアイテムあるかな。

 破壊力を秘めた爆弾は、駄目だな。

 あっ。

 これなら、いっか。


「シェライラ、錬金術の熟練度は幾つ?」

「ええと。先日、Bになりました」

「なら、これ手本にしたらいいよ」


 直径十センチに満たない水晶珠を手渡す。

 一見すると、スノードームに似たミニチュアの家が水晶珠の中にある。

 違うのは、これがマジックアイテムな件だ。


「これは、何でしょうか?」

「懐かしいですね。簡易小屋(ポータルハウス)ですよ」

「ポータルハウス?」

「あれ? 知らないの」

「エスカ、知ってる」

「ユリスも、知ってる」

「……セレナも」


 うん。

 冒険時にはお世話になりました。

 安全地帯を配置していないエリアで、安全に休憩出来るばかりか、ログアウトも出来る便利なアイテムである。

 時空属性がなくとも、錬金術で作製出来るのがポイント。

 時空属性持ちが作製出来る完全防御小屋(セーフティハウス)に劣るものの、持ち運びが出来る面では大して違いはない。

 ユーリ先輩謹製だから、只のポータルハウスではない。

 物理防御、魔法防御はドラゴンの一撃にも耐えうる安心設計。

 お子様ズに説明されて、シェライラの顔が輝いた。


「まあ。それでは、賊に襲われても安心して、救援を待てますわ」

「ですが、難点もあります」

「そうですの?」

「はい。ポータルハウスの収容人数は、六人迄です。避難場所にはなり得ません。それに、一定の平地がないと、展開しません」

「では、民へ普及はしない方が良さそうですわね」


 為政者は考え方が違うね。

 最初は、シェライラが避難する気でいるのかと思った。

 守護者持ちの領主なら、率先して陣頭指揮しないといけないのでは?

 でも、シェライラは民の避難場所として、一家にひとつ普及させる気でいた。

 ごめんね、シェライラ。

 侮っていたよ。


「ハウスの中には、食糧ないよ」

「お水もないよ。人には、必要なのでしょ」

「……お腹が空くの駄目。お水飲まないの駄目」

「ポータルハウスには、食糧や水は収納が出来ないのですのね」

「「うん」」

「……そう」


 お子様ズの指摘も難点のひとつ。

 セーフティハウスには、時空属性が関わるから食糧や水は腐敗しない。

 けど、ポータルハウスでは腐敗してしまう。

 まあ、プレイヤーならアイテムボックスがあるから、必要な食糧や水は所持しているので不便がない。

 これが、プレイヤーと住民の差の弊害だよね。


「ジルコニア、質問。一般庶民に魔法鞄(マジックバッグ)は、広まっているの?」


 シェライラは、何とか普及出来ないか悩み中。

 ときおり、お子様ズに質問している。

 お子様ズも、茶化すことなく対応していた。

 必然的に、私の質問相手はジルコニアになった。

 フィディルとファティマとレオンは、世情には疎かった。

 近年は、待機状態で半覚醒だったからね。

 外の世界とは切り離された空間にいれば、疎くもなるさ。


「ミーア様が思い描いているマジックバッグは、商会が独占しています。末端の庶民が個数制限ありのマジックバッグを手にいれたら、すぐに売り払われてしまいます」

「なら、シェライラや女王ちゃんが、ポータルハウスとマジックバッグを普及しても、売買の対象になりかねないか」

「他国の商会が、目の色変えて飛びついてきますよ。無償で配布しても、ハイエナの商会なら配布元を探しだして、輸入の目玉商品にします」


 そうだね。

 利に聡い商会なら突き止めて、利権にむらがってきそうだ。

 ポータルハウスが普及したら、宿屋に払う宿泊費を浮かせることになり、宿屋が倒産する羽目になったりして。

 悪循環が生まれるなぁ。

 ポータルハウスを渡したのは、悪手だったかも。

 他に、シェライラが食い付いて、安全なアイテムはないだろうか。

 インベントリの中には、うちの子達のスペアボディやら、錬金術で作製されたマジックアイテムが沢山ある。

 大半が冒険に役立つアイテムばかりで、私にとっては真新しさはない。

 攻撃系アイテムは省くとして、防御系アイテムか支援系アイテムに絞られる。


「ジルコニア、これなんてどうかな」

「でしたら、こちらはどうでしょう」


 アイテムリストを可視化して、ジルコニアに提示する。

 私が指したのは防御系のエンブレムだったけど、ジルコニアは鑑定系のモノクルを選んだ。


「最近の若い子、錬金術を習い始めの子達は鑑定を疎かにして、危ない薬品を作製しては怪我を増やしています。モノを見極める癖を付けさせるには、最適かと愚考いたします」

「でも、モノクルって、意見割れるよ。下手に流通すると、鑑定士の仕事奪わないかな」

「そこは、学院の備品扱いにして、持ち出し不可にしてはどうでしょうか」

「どうせなら、生徒に作製させて、固有化付与したら?」

「それも、ありですね」


 念の為に、モノクルをジルコニアに渡しておく。

 学院内で普及するなら、仕事の邪魔にはならないだろう。

 他にはないか精査すると、気になる用紙の束があった。

 具現化すると、私が開発したマジックアイテムの特許申請書や土地の権利書等が書かれていた。

 土地の権利書?

 詳しく見ると、ライザスの街から西に位置するベルゼの森近くにあるようだ。

 かなり、広大な土地の面積である。

 個人で所有するには、手が余りそう。

 これは、雇用を生み出せとの指示かな。


「シェライラ、悩んでいるところ悪いけど。ベルゼの森近くのランカの土地の情報頂戴」

「はっ! 済みません。ランカの土地ですか? あの土地はライザスの人口が急激に増えて、食糧を賄う為にベルゼの森を切り開き開拓した土地になります。ですが、ベルゼの森は魔獣や害獣が棲息する魔の森でしたから、近隣の土地は開拓失敗による荒れ地になっています」

「王領に組み込まれましたが、肥沃な土地ながら生産率が低いです」


 おう、何て魅力な土地なんだろ。

 開拓しがいがありそうじゃないか。

 ベルゼの森に魔獣や害獣が蔓延っていても、うちの子達の遊び相手にしかならないから気にしない。

 地図を読取ると、すぐ側には川が流れている。

 清流なら稲作も夢ではないかも。

 昨日、短い時間に街歩きした時には、お米の存在はなかった。

 日本人にはなくてはならないお米がないなら、自分で作ってしまえばいい。

 一年目は無理でも、下準備しておけば、来年には収穫が出来る。

 籾だねは、エスカに覚えさせてある。

 と言うか、うちの野菜や麦の品種改良はエスカの担当である。

 頼めば、喜んで出してくれる。

 やったね。

 転生二日目にして、土地持ちになった。

 荒れ地であろうが、耕せるのは有り難い。

 ストレス発散に、久々に鍬を振るえるぞ。


「もしかして、ユーリ様がミーア様に遺された土地は、ランカにあるのですか?」

「そうみたいだよ」

「拝見致します」


 権利書を見せると、主従は違った表情をした。

 ジルコニアは、私好みの土地が気に入れられて満足。

 シェライラは、魔獣や害獣が出没する治安の悪さに眉をしかめている。


「初代様は何故にあんな荒れ地をミーア様に。王領で栄えるところは、幾らでもありますのに」

「シェライラ。そこは、ミーア様の感性の違いです。ミーア様は、豊作が約束された土地に見向きもしません。ここではない遠き世界では、砂漠化が進んだ土地を開拓しました」

「砂漠は砂ばかりの土地で、水が少ないと知ります。何処から、水を?」


 シェライラの疑問は尤も。

 だけど、忘れてはいけない。


「はぁい。ユリスがいるよ」

「水の大精霊がついていますからね。オアシスを作り放題でした」

「そうでした。ミーア様には六柱の大精霊がいましたわ。なら、この采配も当然なのかしら」


 砂漠の枯れ井戸を再生させるのは、ユリスにはお手の物。

 寒暖差が激しい土地に適した植物を品種改良するエスカ。

 肥料が少なくても土を活性化させるレオン。

 なんて農業に適した子達と契約したか。

 ビバ、私。

 大精霊持ちがトップランカーにならない理由が、農業に従事していたからだなんて、良く怒られたのはいい思い出である。

 ウフフ。

 未開の土地が待っている。

 さあ、目指せ農業ライフ。



ブックマークありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >ストレス発散に、久々に鍬を(奮)えるぞ。 【奮う】(気持ち)  奮ってご応募ください。  (怖れを抑え)勇気を奮って立ち向かう。 【振るう】(実際に)行う。  剣を振るう。 【揮う】…
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