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182 再生薬は禁止薬品でした

 シルビアちゃんの状態は落ちついた。

 抗体異常を侵していた根源は私が治療したから、再発はないだろう。

 ただ、完全にはとは思わないでおこう。

 何事も、想定外の事が起きる可能性は秘めているからね。

 だから、シルビアちゃんの母親と看護していた侍女さんが歓喜して涙を流すのを冷静に眺めていた。


「エスカ」

「はぁい。マスター、何か御用事?」

「預けてあるバッグ貸して」

「もぅ。だから、この子の持ち主はマスターなんだってばぁ」


 上級万能薬を出した後、再度エスカに預けたアイテムボックス兼用のショルダーバッグが必要となったので、エスカに呼び掛ける。

 私がお願いしたお仕事でヘンドリックス伯爵邸内を動きまくっていたエスカは、すぐに傍らに転移してきた。

 守護者がマスターの呼び掛けに応じて傍らに転移できる術は、時空属性がなくてもどの属性の精霊でも行える権限の一つでもある。

 まあそうでないと、守護者の契約でマスターから貰える魔力だけでは存在を維持できない下位や中位の精霊もいて、度々属性に応じた精霊域なり、司っていた場所で精霊力を回復しないとならないのだ。

 その回復中にマスターに呼び出されたら、すぐに応じられるようにマスターの傍らに転移できる権限を時空の大精霊が、守護者に限り許可していたりする。

 無論、うちの子達含め大精霊は特権で、ゲーム内の世界中において、司る属性の場があれば何処にでも移動できてしまえるけどね。

 閑話休題(話しが逸れた)

 で、そういや先程も同じやり取りしたっけ。

 エスカの頬がぷっくり膨れつつ、バッグを差し出してくれているが。

 可愛いな、ちくしょう。

 何故、スクショ機能がないのだ。

 人外さんや、ゲーム内の魔法やらステータスボードやら守護者システムがこちらの世界に反映されているが、何故スクショ機能がないのだ。

 創世神様、是非スクショ機能ください。


「マスター?」

「「ミーア様?」」

「ミーア君?」


 表面には出さず内心で悶えていたら、エスカとシェライラ主従コンビとエルネスト枢機卿猊下に、(いぶか)しがられた。

 いかん。

 そんな場合ではなかった。


「ありがとう、エスカ。で、ほいっと」


 エスカの外見よりは小さいが、かなり容量が入り重そうなショルダーバッグを頭上に差し出す姿を他人からすれば、すぐに受け取らないのは罰を与えている虐待に思われても仕方ないじゃないか。

 ごめん、エスカ。

 中味が入ってなく、軽々と頭上に上げているショルダーバッグを、慌てる素振りを見せないで受け取る。

 そして、目当てのレシピ集を取り出す。

 私が目的のモノを取り出し、バッグの必要がなくなったと思い、また預かろとするエスカの頭を撫でて、待機を念話でお願いする。


「シェライラ。このレシピ集の三十二項目の薬品を、錬金調薬依頼します」

「はい。では、レシピ集を拝見させていただきます。……ミーア様!」

「シェライラが言いたい事は理解している。その上で、依頼します」

「ですが……」


 レシピ集の内容を見たシェライラの困惑した内情は、当然な反応だ。

 私もその薬品については、女王相談役に就任してから、宰相閣下と女王選別議会の代表と貴族院のご意見番の方々と意見のすり合わせをしているから、把握している。

 初代錬金女王以降、ただいま間近にやり取りを見守って沈黙している枢機卿猊下が、女王候補の選別試験においてのみ錬金調薬できる薬品だってのはね。

 それから、無事に作製できても、合格判定されたら即廃棄するのもね。

 だから、ここからは私とエルネスト枢機卿猊下との対峙だ。


「エルネスト枢機卿猊下」

「何かな、ミーア君」

「緊急事態につき、こちらの薬品を錬金調薬する認可をください」

「……ふむ。成る程、確かに女王筆頭候補ならば、作製可能だね。しかも、この薬品がわたしがある特定の時期にしか作製認可させない、との認識もしている。ゆえに、わたしがおいそれと、認可しないとも認識しているね。だが、ミーア君は二つの認識をしているにも関わらず、ミーア君を貶めようとした人物の娘を救う為に、わたしに懇願している。わたしが認可して、ミーア君に何が得られるのかな?」


 シェライラに見せたレシピ集を、次にエルネスト枢機卿猊下に突きつける。

 一度眉をしかめたエルネスト枢機卿猊下は、言葉を重ねて私に釘を刺してきた。

 うん。

 過保護な人外さんだから、やはり簡単には認可くれないよなぁ。

 何しろ、私が提示した薬品は再生薬だもの。

 蘇生薬やエリクサーと並び、奇跡の薬品の分類にある秘薬の一つだしね。

 いわば、欠損部位を治す薬品の扱いである。

 ゲーム内だと欠損部位を治療するには、住人(NPC)聖職者にお布施を支払い治療するか、聖属性の魔法を取得したプレイヤーの魔法か、別名欠損部位治療薬とも言われる上級回復ポーションか、全状態異常回復ポーションのエリクサーが主流だ。

 まあ、この再生薬でしか治療できないクエストがあり、高額なクエスト報酬とスキル目当てに、希少な薬草が根こそぎプレイヤーに採取されて、あわや住人との軋轢発生チェーンクエストのキークエストだったのだが。

 我が摩訶不思議農園と樹木の大精霊のエスカの協力で、運営の住人を大事にしなさいクエストは悪質なクランを幾つか潰し(垢バン)、初心者掲示板のトップに記載させて事なきを得ましたよ。

 某錬金術魔女さんから、嫌がらせ一歩手前の要約すると、お前が目立ってるんじゃないメールを沢山信者に送りつけさせやがったのが届いたけどな。

 本人からのメール?

 クランが崩壊した原因作った人は、ブロック対象ですが、問題あります?

 で、その曰くある薬品は、こちらの世界でもご禁制で枢機卿猊下の監視薬品であったのさ。

 再生薬という人類を救うはずの薬品を、流通させてはいけない暗黙のルールは知った。

 初代錬金女王が再生薬を世に公開した時代は、きちんと治療目的に使用されていた。

 けれども、ある国が大量に再生薬を購入し、建国初期の女王国の財政が潤った代償に、多大な悪意が蔓延したのを初代錬金女王は反省しなかった。

 己れは国の為に再生薬を販売した。

 購入した相手がどんな方法で使用したかは、己れの責任ではないと宣った。

 結果、ある国は数名の枢機卿猊下の逆鱗に触れ、滅亡した。

 そして、流民となった何ら責任のないその国民を、女王国の国民とするよう初代錬金女王に圧力をかけた。

 受け入れなかったら、女王国も潰される。

 初代錬金女王は渋ったものの、腹心の宰相や闇落ちする前のダレンの説得で、再生薬を販売して得た代金の半額分を受け入れた国民の当分の生活費として分配し、怒れる枢機卿達へ誠意を表した。

 よって、女王国の重鎮達も、初代の為した悪しき前例を後世に残した。

 再生薬は枢機卿猊下の認可を得、治療目的にのみ作製し使用させる。

 決して、歪んだ思考の持ち主の嗜好による拷問や欲求を満たす暴力を力なき者に与え、肉体の欠損を治療し、再度拷問や暴力を繰り返す性格破綻者に渡してはならない。

 女王候補の試験の項目にあるのは、再生薬でしか治療できない事態を考慮しての事。

 一国を滅亡させた忌まわしき薬品ではあるが、他者を救う薬品でもある。

 心に刻め、誓え。

 再生薬は救う薬品であると。

 女王候補になり、試験を受けた候補者に口伝されている重い言葉だ。

 私は、錬金術の初歩を教授されただけだが、初代錬金女王の愛弟子だなんて称号がある。

 宰相閣下とかに身分証を明かした時点で把握されていたし、特に口止めしてなかったから、女王選別議会の代表に私も初代と等しく錬金術を修めていると思われたのだ。

 そうして、禁止薬品を錬金調薬しないで欲しいと願われた。

 危険視された意味をその時は理解してなかったので、ステータス公開して錬金術の熟練度が低い事実を見せた。

 初歩の初歩しか学んでいない事を知り、代表は謝罪して再生薬にまつわる事情を話してくれた訳。

 だから、再生薬について、禁止薬品扱いになっているか認識している。


「エルネスト枢機卿猊下。間違えないでください。私が、シルビア嬢やヘンドリックス伯爵夫人にいつ貶められました? 私を罠に嵌めようとした人物が所属している団体に、二人はいますか?」

「成る程、そうきたか。しかし、ヘンドリックス伯爵はミーア君を捕らえようとしているが?」

「それこそ、私が逆に謝罪しないとならない状況ですよ。ヘンドリックス伯爵は利用され、薬物中毒にまでされたのですから」


 間違えてはいけない。

 シルビアちゃんの状態も、悪用されてんだぞ。

 ヘンドリックス伯爵に取り入った犯罪ギルドと、その依頼人で黒幕でもある聖母教会。

 断罪されるべきはこいつらであって、ヘンドリックス伯爵家ではない。

 また、再生薬は救う薬品でしょう?

 シルビアちゃんは十代前半の少女なのを思いやってあげないとならないのは、人外さんも分かっているだろうに。

 あどけない少女が、焼けただれた痕は癒えても、一生頭部に髪が生えないだなんて状態を見過ごせるかっての。

 |

 私の損得を気にしてどうする。

 私が得るモノを提示したら、どうせ爆笑するだけだろうが、宣言するのに躊躇いはない。


「私の得? そんなの、シルビアちゃんの無邪気な笑顔で充分満足です。ヘンドリックス伯爵家に恩を売る気はさらさらありませんよ」

「……ははっ。ミーア君なら、そう言うと思ったな。シルビア嬢の笑顔か、そうだな。少女には笑顔が似合うだろう。バウルハウト侯爵令嬢にして、女王筆頭候補者」


 思った通り笑われたが、悔しい感情は湧かない。

 エルネスト枢機卿猊下も、シルビアちゃんの未来の笑顔を望んでいた。

 破顔した後、表情を改めてシェライラに向き合うエルネスト枢機卿猊下は、流石弱き者を見捨てない体現者だった。


「はい、枢機卿猊下」

「エルネストの名にて認可す。ヘンドリックス伯爵令嬢シルビアを救う為、再生薬の作製を願う」

「はい、畏まりました。枢機卿猊下の認可及び、ご下命承りました」


 願われ、受諾したシェライラは淑女の礼カーテシーを優雅にこなした。


「女王や宰相等には、わたしが説明しておく。煩い輩どもも、わたしが排除する」

「枢機卿猊下の手を煩わせるは、わたくしも遺憾に思いますが。あの方々を沈黙させる事が可能であるは、猊下しかおられませんのも理解しております。ですので、ありがたく甘受させていただきます」

「うむ。他に必要なモノは?」

「わたくしが習得致しております禁止令の薬品の素材につきましては、聖石以外はわたくしの工房の秘されし金庫にございます」

「ならば、聖石はこれを使用せよ」

「ありがたく、受け取らせていただきます」


 ありゃ?

 聖石がレシピに記載してあったかな?

 再生薬に必要な素材は……、ああ、そうだ。

 肝心要な素材に、必要じゃん。

 聖霊石。

 良く間違われるが、精霊石ではなく聖霊石。

 上級聖職者の魂魄の欠片だもんな。

 初代錬金女王は、私みたいにゲーム内のアイテム所持していたから作製できただろが。

 他国が真似しようとしたなら、聖石を得ようとして聖職者狩りとかしてたらねぇ。

 そりゃあ、枢機卿猊下達の逆鱗に触れるわな。

 一国の滅亡有り得るわ。

 ああ、はい。

 分かりました。

 聖霊石も死蔵ですね。

 だから、分かりましたから、こっちに視線で威圧してくんな、人外さんや。

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉伯爵家には罪なし と言いますけど、少なくとも現伯爵には裁かれる理由が出来てます。 藁に縋ったとは言え御禁制の品を使用し、大多数の使用人を害した人間に助力したって罪が 他にも自領の民を困窮…
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