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180 私が悪役になってました

「猊下の秘蔵っ子殿。確か、バーシー伯であったな。済まぬが、少々確認したい事が何点かある。聞いてもよいだろうか」

「どうぞ。シルビア嬢の状態は把握してます。多少の時間経過しても、容態が急変する事態になりませんので、構いません」


 先代ヘンドリックス伯爵さんに邸内の中毒症患者の対応を任せる旨を伝えたら、やや困惑した表情で尋ねられた。

 睡眠魔法を行使した時点で邸内の様子は把握済みであり、シルビア嬢の容態も認識している。

 紫薔薇の虜は所謂麻薬の部類の薬だが、シルビア嬢にとっては苦痛を和らげる効果が発揮されていて、穏やかな眠りの中にいる。

 まあ、その傍らに邸内のヘンドリックス伯爵一家や従者や侍女含む使用人までに及ぶ、中毒症患者を大量に発生させた原因もいるし、あるがな。

 シルビア嬢の容態は落ちついているので、急変しない限り質疑応答していても問題はない。

 了承すると、先代ヘンドリックス伯爵さんも疑問に思う点をまず聞いてきた。


「先ほど、お香の煙と言われた点だが。わたしは、そのお香とやらを間近に見た記憶がない。どういう意味であろうか?」

「ああ、そうですね。多分、先代様は紫薔薇の虜は薬であるとの認識されているんですね」

「……横入りを済まないが、わたしも薬であると認識していたが。違うのかな?」


 エルネスト枢機卿猊下もかいな。

 ありゃ、シェライラも同意なのか頷いていた。

 あー、あれか。

 ユーリ先輩の底意地悪い嫌がらせで、正しい情報を残さないで間違った情報をレシピや教本に記載したんだろうな。

 ユーリ先輩至上主義のジルコニアも、ユーリ先輩の為す事は否定しないから、怪しいと提議した人物がジルコニアを論破しないと、訂正されないまま間違った認識されてんだ。


「大地の精霊の報告によるのですが。先代様がこちらの屋敷に住居を変更なさり、転居されてきたのはつい三日前ですし。シルビア嬢にあまり近寄らせて貰えてないので、認識されてないのだと思われますが。シルビア嬢は、もう自力で薬を飲めない状態にあります。ですから、当主のヘンドリックス伯爵へ、囁かれたのでしょう。薬を錬成してお香の形に代えて、煙を睡眠状態のシルビア嬢に吸わせれば、何ら問題がないと」

「……そうか。だから、門番の者だけが、正常な思考を持ち、わたしに邸内の息子達や家人がおかしいと連絡してきたのは、これが理由か」


 先代さんの説明捕捉だと、領地替えとなったヘンドリックス伯爵家なのだけど、元のヘンドリックス伯爵領地は分家の筆頭家に子爵位を宰相閣下と貴族院名義で叙爵し、当主一家は先に新領地に赴任し、先代さんは後任の子爵家当主が領地の内政に慣れるまで後見として残留されていた。

 そこへ、先代さんが当主時代に侍従として仕えてくれていた人物の孫が、見習い従騎士の職務の一環として門番の職務を担当している間柄で、孫から祖父へ、祖父から先代様に新領地でのヘンドリックス伯爵一家の周囲がおかしな状況におかれていると伝わり、急遽先代さんが前倒しして転居してきた、と。

 で、門番が言う通り、息子のヘンドリックス伯爵の言動は一貫性がなく、ただシルビア嬢に関してだけしか動こうとしない。

 息子を支える臣下に、相談役としてベテラン重鎮をつけたにも関わらず、その臣下の言動もおかしな点が見受けられた。

 また、孫娘のシルビア嬢の見舞いにすら拒絶され、今に至るまで会えてはいない。

 それから、息子の嫁であるヘンドリックス伯爵夫人にも一度も会えてはいない。

 これは、おかしすぎると判断したも、息子が領地の内政を放棄していて、代理で処理しなければならない仕事に追われている中で、息子が犯罪の片棒を担ぐというか、後ろ楯にまでなっていたのも判明した。

 宰相閣下直々に任命された職務が遂行されてない現状を、報告しようかとしていた矢先に私達がやってきた訳であった。

 しかも、来訪者にかつて仕えていたエルネスト枢機卿猊下がいる。

 ありのままの現状を話すべきだと思っていたそうだ。


「シルビアに服用させていた薬が、禁忌の紫薔薇の虜だとは知らないでいた。しかし、シルビアの事を思えば、一時は回復した薬にすがらなければなりませんでした」

「先代ヘンドリックス伯爵様、無知を承知でお聞き致します。シルビア嬢の正式な病名は何になりますの?」

「わたしも、詳しくはないが。わたしの亡き妻も罹患していた病でな。何でも魔力持ちが罹患する病であり、治療には希少な薬草を錬金調薬した薬ではないとならないらしい。しかしながら、妻の病を当時の女王陛下に奏上し、初代女王陛下のレシピによる薬ならば治療できると申された。ゆえに、要求されるがまま、希少な薬草を採取してくれる冒険者への依頼料や、所持していた貴族にもそれなりの対価を払い入手したがな。女王陛下は、一向に薬を与えてはくれなんだ」


 シェライラは、シルビア嬢が何故紫薔薇の虜を服用しないとならなかったのを疑問に思えたらしい。

 先代ヘンドリックス伯爵さん一家と、当時の女王との溝が出来た経緯を知らなかったようだね。

 錬金調薬できない癖に見栄を張り、できると宣い、先代ヘンドリックス伯爵一家から金銭や希少な素材を巻き上げた一件は、以前に聞いてはいたけどさ。

 まあ、筆頭女王候補たるシェライラには、教えられない一件だよね。

 臣下や国民に奉仕すべき立場の女王が、我が儘で臣下のヘンドリックス伯爵家を見捨てただなんて悪質な醜聞は、反面教師として教訓にするか封印するか迷われた結果、女王候補には教えないように選択されたんだね。

 先代ヘンドリックス伯爵さんに、当時の女王の悪意を打ち明けられたシェライラは、やはり怒りの感情をかくせないでいた。


「シェライラ。シェライラが怒りを覚えて当然だと思うけど。今は、忘れて。シルビア嬢の治療が先」

「分かりました。ですが、あの方に対しまして、ますます不信感を抱きました。わたくし、必ずや、あの方にヘンドリックス伯爵家へ謝罪させようと決めましたわ。それで、ミーア様は病名がお分かりになられておりますの?」

「まあね。直に接見してないから、正しくあるか今は言えない。で、先代様の次の質問は?」


 憤然極まりないシェライラをおいて、何点かある疑問に答えますよ。

 遠くに、バタンバタンと小さくない音が聞こえるけど、うちの子達がお願いしたお仕事果たしてくれているだけだな。

 後で、邸内の修繕費を私宛に請求してくれるよう手配しとこう。


「いや、何故正常な思考を持った者と持たない者の違いが何であるか、知りたかったのだが。

 先の質問の答えで理解した。門番は、屋外にいたからお香の煙を吸わないでいたのだな」

「ですね。紫薔薇の虜も薬として一度や二度服用しても依存性は低く、中毒症にはなりません。邸内の住人は、シルビア嬢に近い立場の使用人から残り香が伝播して、自分からお香が焚かれた部屋に入っていたのだと思います」


 ってことか、そうであったのが精霊達から報告されている。

 残り香でさえ、誘蛾灯の如く誘惑する薬の特性で虜なんていう名がついてるんだなぁ。


「なら、質問は終わりでいいですか。そろそろ、シルビア嬢の治療に行きたいと思います」

「ああ、頼む。シルビアを救ってくだされ」

「はい、頼まれました。じゃあ、シェライラ、エルネスト枢機卿猊下、移動しましょう」

「案内は、不要みたいだな」


 先陣きって移動を促したら、先代さんに苦笑された。

 ごめんなさい。

 乗り込む前提でいたから、邸内の内部は調査済みです。

 先代様にお詫びを告げて、移動した。

 ヘンドリックス伯爵邸は、急な領地転換だったのもあり、前領主のランドルフ伯爵家の別邸を改装して臨時の領主邸にしていた。

 まさか、その別邸にも厄介な問題があったとは、私も調査の一環で地形把握のグランドサーチして初めて知った。

 別邸は、ランドルフ伯爵家と親のアーゲード侯爵の不正の書類倉庫と、秘密の麻薬製造工房が地下にあったとはねぇ。

 前領主の取りまき商会も、驚いただろう。

 地下工房の秘密を暴かれて宰相閣下が身内の領主を送りこんで来たと警戒していたら、禁忌の薬を供給していた聖母教会に接触され、ヘンドリックス伯爵が仲間に引き込めると持ち掛けられ、案の定その通りになったのだから。

 悪徳商会は、前領主に続いて後ろ楯を得て、再度の犯罪紛いな手法で財を築こうとした。

 まあ、その手も、先代ヘンドリックス伯爵さんが領主代理の仕事に着手されて明るみになったけどね。

 こちらは、既に報告が成されていて、宰相閣下の命で捕り物が実行間近に迫っているのだが。

 私も、それに協力するよ。

 何ていったって、今からいく先に犯罪の副主犯がいるからさ。


「あら、先に進むごとに眠る人物が増えてまいりましたわね」

「中毒症患者が、禁断症状のあまりにお香の近くに寄ってきた弊害だね」

「ティレル。聖騎士達に回収させよ」

「はっ、ただちに報告致します」


 私の睡眠魔法をくらい、眠りこける人間が先に進むと増していっていた。

 爪を確認したら、結構中度から重度患者が多数いる。

 それだけ、副主犯側もやり手な人物だってこと。

 相手にするには不足なしだ。

 で、漸くシルビア嬢が看護されている部屋に到着。

 侍従に交ざり、先代の家人とは思わしくない部外者を発見した。

 まあ、寝てるので脅威でも何でもないが。

 扉を塞ぐ折り重なる形で眠りこけてるんで、フィディルと聖騎士さんがどかした後、扉に身体強化してから蹴りをお見舞いした。


「ミーア様?」

「ミーア君?」

「あっ、ごめん。鍵が物理と魔法でかかってたので、ぶち破りました」


 シェライラとエルネスト枢機卿猊下に窘められたので、一応弁解しといた。

 何せ、部屋にいる副主犯は私の睡眠魔法に抵抗してレジストされて起きていたし、入室してくる者に攻撃性の魔法準備してたので、蹴破った扉を盾にしてみました。

 果たして、内側に向かって飛んでいった扉が炎に包まれ炭化していった。


「ヤホー。前領主の腰巾着で、前領主の権力ちらつかせて悪徳商人の皮を被った犯罪ギルドのサブマスさん。前領主の代わりとなる寄生先に選んだヘンドリックス伯爵家だけどさ。残念でした。あんた達の情報不足が露呈したね。先代ヘンドリックス伯爵様とエルネスト枢機卿は、未だに知己があった。こうして、救援の手が来た訳さ。さあ、あんた達の悪行もこれまでと知れ」


 一気呵成に啖呵を吐いたら、後日シェライラに言われた。

 ミーア様の方が悪役に見えました、だって。

 解せぬ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 〉ミーア様の方が悪役に見えました 時代劇の主人公みたいな登場でしたが、そうするとアレはギリギリかグレーって事に? 視点が違えば見えてくる物も変化しますが、異世界人に時代劇の話をすると面白…
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