172 問題は次から次にでした
我が領地に子供を捨てる非道な親に対する対策として、まず宰相閣下が近隣領地や王都にて罰則を課すとお触れを出した。
ただし、育児放棄や虐待疑いがある理由によっては、一時保護しても良い許可も出されている。
そして、その一時保護の部分で問題が続出してしまった。
女王国内では、国民の戸籍を領主は管理しなくてはならない。
かくいう、新米領主の私も移住してくれた住人の戸籍は、真っ先に代官のフォードさんに作成して王城の領地管理部署へ送付する事を念押しされた。
その際、商業&冒険者ギルド職員やロンバルディア国の獣人さん達も、領地の住人に含ませていいのか疑問点があがり、ただいま王城へ問い合わせ中。
先輩領主のシェライラ曰く、商業&冒険者ギルド職員はランカ領地の住人として戸籍を移転する手配をしたそうで、王城の管理部署から許可が降りたら正式にランカ領地の住人となるみたいではあった。
が、ロンバルディア国の獣人さん達に関しては、農業関連の仕事を学びに来た短期留学生みたいな位置付けであり、正式な領民扱いにはならないようだ。
となると、獣人さん達には移動制限があり、ランカ領地から他領地へ移動する毎に、私の許可状がないと気軽にライザスの町に遊びにも行けないらしい。
まあ、獣人さん達は町に遊びに行くより、ベルゼの森で猟師よろしくお肉狩りした方が喜ばれているがな。
おかげで、ランカ領地の住人の食卓には、お肉類は豊富な食材として、獣人さん達は貢献してくれている。
また、商業ギルドも買い取りしてくるので、うちの祝福付き農作物の次に、商業自治区では高級食材として有名になりつつあり、ロンバルディア国内では貨幣制度がなく物々交換が主の内情であったが為に、金銭を対価に渡されて困ると代官のフォードさんに陳情されたけどね。
で、面倒身のよいフォードさんは、対価の金銭で何が買えるのか、何を買ったら生活が豊かになるかレクチャーし、水の浄化魔道具や料理に欠かせないコンロ式魔道具等生活に根付いた魔道具の扱い方も教えてあげていた。
後、調味料や香辛料で料理の味が劇的に美味しくなる事も、伝授していた。
何しろ、獣人さん達の食事は、少量の塩をまぶした肉を焼くが定番料理だったからね。
これには、バウルハウト領地からの移住者であるハウト地区と、敵対していたアルバレア領地からの移住者であるレア地区の住人が、みかねて料理を教えていたりして、異種族交流の場を私がでしゃばらずお世話焼いたりしないで済んだ。
それから、甘味に関しても獣人さん達は、甘味は果物しか知らなかった。
ユーリ先輩は、砂糖の精製に甜菜を用いて女王国内で流通させていたから、女王国内では砂糖は一般庶民でも買える価格で販売されているので比較的入手は楽。
銅貨数枚で子供がおやつを買えちゃうのだ。
獣人さん達がお肉類を提供し、他の住人がおかずや甘味を持ちより、種族の垣根を無くした交流がランカ領地に芽生えたのは嬉しい限りである。
ほんでもって、本題の子供を一時保護の問題というのが、目下の悩ましい問題であった。
「失脚したアーゲード侯爵の後任で、カイゼル領地に領地替えになったヘンドリックス伯爵が、どうやらきな臭い企みをしているようです」
元アーゲード侯爵の息子のフェルトさんには聞かせられない内密な話しだという事もあり、フォードさんは噴水をつくる為に広場にいたレオンに伝言役を恐縮しつつお願いした。
レオンはフォードさんの人柄を理解していたから、伝言くらいなら請け負っても気にならないとは返事をしたそうだが。
フォードさん的には、役場の執務室から領主館(女王国内一領主館には見えない我が家だが)の私の執務室に直に連絡が取れる魔道具を希望されていたりする。
しかし、基本的に私はフォードさんが、決裁書やら領主の承認がいる書類を持参しなければ、
執務室にいないからね。
農園で、農作業している時間の方が主目的である。
執務室に魔道具置いても、ブラウニーのクリスやアンジーしか気が付かない可能性が高いし、クリスやアンジーも主の備品には手を出さない。
せいぜい、魔道具が鳴っていますとか、呼び出しされてます報告を、帰宅したら教えてくれるにとどまる。
ので、私に緊急性ある報告したい場合は、うちの子達か大地のみえる場所でおちびちゃん精霊に声掛けした方が早く伝わる。
魔道具は絶対に、調度品となる事請け合いますわ。
で、マイク君達やメイベルちゃん達や、ロイド君エメリーちゃん兄妹に交じり、農作業していたらレオ兄が呼んでいるとエスカに伝わり、汗を流してから役場に来たのだが。
開口一番、フォードさんは物騒な話しを持ち出した訳。
「きな臭いとは?」
「前領主は議会で定められた税率を守らず、二割も増税しておりました。それを、宰相閣下は定められた税率に下げる指示を出され、一時は遵守されましたが、前領主以上の税率増税を領民に課しました」
「成る程ね。宰相閣下って、結構節穴な目を持っているのか。これ、そのまま報告したら、宰相閣下辞任か更迭されかねない案件かな」
不敬罪かもしれんが、言いたくなる気持ち理解して欲しい。
私が、こちらの世界に転生してから問題勃発し過ぎだよね。
中には、私が騒動の種を蒔いたのもあるけど。
火の大精霊アリスの契約者である、資格にも難があると思うがな。
政務はできるが、何処かで綻びが目立つ歪さが垣間見えてるんだけど?
「それが、後任の伯爵は甥のユークレス卿の一族でもあり、一概に宰相閣下だけが悪いとは言いきれません」
「あー、なる。ユークレス卿も私の不興を買わない人材を選出したら、飼い犬に手を噛まれた、と」
「何故か、エバンス司祭から忠告されました。彼の伯爵には溺愛する娘がいるようで、その娘は治療が困難な病に罹患していると。恐らく、彼の伯爵が増税したのも、娘の病の治療に大金が必要な治療師を雇う為だとか。エバンス司祭の元にも、多額の寄付金を支払う代わりに万病に効く神水を求める書状が非公式に届いているそうです」
神水って、ユリスとエスカが精霊王に頼まれたユライラの泉の水の事だろうね。
エバンス司祭はエルネスト枢機卿猊下の腹心の配下だから、その線から入手を依頼したかったとかあり得そう。
万が一にも、ユリスに頼めばエルネスト枢機卿猊下を通さなくても入手できるとは、言えんな。
「それから、もう一つ。ライザスの町にて、四肢欠損した怪我人を難なく治療した高名な治療師がいるとの噂があがっております。こちらは、バーシー伯が関与しておられますか?」
「うん。ナイルさんを治療したね」
「……そうですか、ならば立ち会った治療師が拷問の末亡くなっているのも、ご存知ですか?」
「うん。治療内容については、口外禁止、書面に残すのも禁止の呪いを施して放逐したけど。呪術に明るい呪術師なら、口を割らせるのは容易いかもね」
「では、いずれバーシー伯に辿り付く可能性もあると警戒して良さそうですね」
「だけど、私の過保護な後見人辺りが、暗躍しそうで、やらかさないか、そっちが心配だよ」
私の後見人。
自称バウルハウト侯爵さんやアルバレア侯爵代理さんや、元エンブリオ公爵さんではなく、苛烈だと評判のエルネスト枢機卿猊下。
私には甘いが、私を利用したり、搾取したりすり輩には容赦なく破門と鉄槌を下す厄介な人外さん。
ついでに、私の敵には子々孫々まで許さないと宣言するうちの子達も加わったら、精霊の恩恵が領地から無くなるわ、領地は荒れるわで被害が拡大する恐れあり。
おちおち、喧嘩相手をつくってはいられないや。
「分かりました。この問題はエバンス司祭とも協議して対策を練ります。いかに、御大を鎮めていただけるか、もしかしたらバーシー伯にも協力いただくかも知れませんので、ご了承下さいませ」
「了解です。エルネスト枢機卿猊下とうちの子達は私が対処します」
「では、次にその後任の伯爵がやらかしている増税の副産物である税金が納めきれず一家離散し、捨てられた子供をランカ領地に引き取らせようとする商売を始めた子悪党商会が直に摘発されると内密に騎士団から情報をいただきました」
「それについては、私も把握してます。あちらの領地では、非合法な人身売買が成り立っていたとフェルトさんも、気にしてました」
先日の話だが、親に捨てられ人身売買を主とする商会から逃げてきた兄弟が、ベルゼの森に入り込み、森の守護役を担う森林狼のアルビノ君と吸血種族が保護して、私を頼ってきたからね。
現在、衰弱が激しい為マイク君達の母親代わりのチェルシーさんに、面倒を見て貰っている。
アルビノ君達には、身の危険にある子供を見かけたら、うちに連れてきて欲しい旨は伝え、承諾は得た。
勿論、対価は払いますよ。
アルビノ君達は何故かお肉料理を、吸血種族さん達は居候の女史の旦那さんが溺愛する家畜の乳製品と卵を所望された。
アルビノ君達は、灰色君が自慢した料理だからというのは分かったが、吸血種族さんの希望にははてなとしか考えられない。
が、旦那さんが溺愛する家畜は魔物だったのを忘れていた。
魔物の乳製品やらは、魔力が含まれていて、血液以外で唯一糧になるそうな。
知らんかったわ。
まあ、居候させてくれる対価に、私にも乳製品や卵は納品してくれるので、私の懐は一切痛まないから惜しみ無く提供させていただきました。
こうして、子供を保護する対策は順調に稼働していった。
後日、アリスが宰相閣下の不手際に大説教をかまし、大不機嫌に陥り、巻き込まれたユークレス卿も、アリスの眷属の細かなお仕置きにあい、暫くまともにお仕事できない日が続いたそうだ。
女王陛下に取りなしを頼まれて王城に参内したら、見事なアフロ髪した二人に出会ってしまいました。
笑いを抑えるのが大変な目にあった一日となりましたとさ。