017 出会いました
お馬鹿な冒険者が、私に喧嘩を売ってきた。
いたって、私は冷静で、相手側は頭に血を昇らせている。
一触即発な雰囲気の中で、巻き込まれ御免な冒険者が多くいた。
守護者連れな若い少女は、無謀にも常識外れな同業者となった。
世間の荒波を身を以て理解すれば、実家に帰るだろう。
お馬鹿な冒険者は、実家から金をせしめて豪遊するか、手酷く痛め付けられるか、様子見しておこう。
そんな、ところかな。
生憎とお金持ちな親はいないし、荒事には慣れている。
だてに、実父から対人の手解きされていないぞ。
心持ち身構えていると、最初に声をかけてきた男の手が伸びてきた。
爪先に力を入れて、踵を浮かす。
所謂、猫足立ちになる。
私が臨戦態勢になったのを見ていたフィディルが、間に入るのを止めて身体を引く。
手を払い転がしてやろうとした時、真横から腕が更に伸びてきた。
「止めておけ。ギルド内での、諍は御法度だ」
「……レード。貴様、ギルドの狗が、しゃしゃり出てくるな」
「そのギルドの狗に手を出せば、冒険者ギルド全体を敵に回すのは、理解しているだろう」
おや。
ギルドお抱えの高ランク冒険者か、引退した保安部の人物かな。
いつの間にか、高身長なフィディルより頭ひとつ分高い背丈の持ち主に、庇われていた。
後ろ姿だけ拝見すると、肩幅も広く全体的にがたいの良い獣人の男性だ。
白髪に獣耳、白に黒が混じる尻尾。
ひょいと横顔を覗けば、人の容姿ベースの顔に琥珀の瞳。
うん。
白虎さんだ。
「ゴールドランカーなら、ギルド内で燻っていないで、ベルゼの森の害獣を討伐していろ」
「だから、嬢ちゃんを誘っているんだ。レードには関係がない。引っ込んでいろ」
「だが、お嬢ちゃんはお前達に興味が全くない。オレが出張る意味は、分かっているだろう」
「ちっ。獣風情が、人間様にくち……」
「止せ。ギルド内だ」
「その言葉は言うんじゃねえ」
一瞬私に視線がきたが、レードさんは絡んできた冒険者に向き直る。
何やら、禁句を言おうとした男を、仲間が諌める。
そうだよね。
ギルド内には職員合わせて、多種多様な人種がいる。
特に、獣人が多く目立つ。
人種差別な発言は、不味いんじゃないかな。
「レード、済まん。おれ等には、お前達獣人と事を構える気はない」
「そう。こいつには、おれ等が言って聞かせる」
「大した侮辱ではない、詫びを受け入れる。だが、依頼の失敗を他事で購おうとするな。ギルドで庇えなくなるぞ」
「分かっている。嬢ちゃん、八つ当たりして悪かった」
口を抑えている男を引き摺って、絡んできた冒険者達がギルドを出ていく。
喉元過ぎればなんとやら。
ギルド内がざわめきを取り戻す。
「えっと、レードさん。ありがとうございます」
「いや。オレが出ていかなくても、お嬢ちゃんなら簡単に対処しただろう。が、あれ等も高ランカーだ。恨みを晴らすまでつき纏われ、冒険者を続けられない身体になっていたやも知れん」
冒険者を睨んでいた眼差しが、私とフィディルに刺さる。
ふむ。
私がではなく、彼等が殺られるのが前提ですか。
まあね。
私に何かあると、うちの子達がやらかすからなぁ。
きっと、悲惨な目に遭うことになる。
「あれ等も、依頼の失敗を女で晴らそうとしたのも悪い。だが、お嬢ちゃんも些か軽率だ。守護者をこれ見よがしに、見せびらかして出歩くな。お貴族様なら、お付きの供を撒いて来るな」
「あっ、そういうやり取りは必要ないです」
正面で相対すれば、レードさんは思っていた以上にお人好しである。
本人も若い端正な面持ちをしているのに、老成しているのは苦労してきたからかな。
獣頭獣身ではないのが、惜しい。
魅惑なモフモフ尻尾が目の前に有るのに、モフれないとは残念だ。
「私は常識に疎い旅人で、貴族ではないから。縁があってこの国に根をおろすかもしれないので、手っ取り早く稼げる冒険者になってみただけだから」
「しかし、守護者を手に入れるには法外な金が必要だ」
「そうみたいですね。うちの子は聖母教会に頼らず、自力で縁を結びました。それ以上は、秘密です」
「……いいのか、暴露しても」
「聖母教会が潰れたのは、知ってます? これからは、私みたいに自力で縁を結ぶ守護者が増えますよ」
にっこり笑えば、溜め息を吐かれた。
貴重な情報を握る私の取扱いに、悩むだろうね。
暫くは、要監視対象だ。
私を捕捉するのは大変だぞ。
フィディルがいるから、行ったことのある場所には神出鬼没である。
「情報の対価に何を望む」
「何も。強いて言うなら、不干渉でお願いします」
「お嬢ちゃんの存在は、領主に密告される。自由は、望めない」
「ああ、そっちは大丈夫。既に、女王陛下にもお目通りしているから」
「よく、自由にされたな。宰相辺りが、囲い込みに計っただろうに」
「うーん。割と自由でしたよ」
ありのままを告げたら、また溜め息吐かれた。
視線がフィディルにいく。
珍しい男性体の守護者。
連れて歩けば、欲の塊が沢山釣れるだろう。
敢えて、ファティマと交代させなかったのは、世間の反応を見たかったから。
レットとレッタを復帰させなければ、人が守護者を選ぶのではなく、精霊が人を選ぶのに相応しいか見極めたいから。
そうしたら、異性の守護者は誕生する。
私で免疫をつけておけば、大袈裟に騒がれることはなくなる。
守護者に纏わる案件なら、人身御供になる気は大いにある。
先駆者になってみようではないか。
「ライザスの街が拠点になるのか?」
「それは、今の処は未定かな」
「なら、安全が確保出来るまで……」
「バーシー嬢‼」
「? はーい」
ギルドにダンディなおじ様が飛び込んできた。
シェライラの護衛の騎士さんだ。
息を切らせて、扉を開け放っていた。
手をヒラヒラさせて、居場所を伝える。
「バーシー嬢。見つけましたよ。さあ、領主館へご同行願います」
私を見つけるやいな、一気に言い放ち詰め寄る。
逃がさないとばかりに、退路を絶つ。
あらら。
タイムリミットだ。
ジルコニアの探索に引っ掛かり、見つけられたか。
「オルファン殿。捕まえていてくれて、助かった」
「いや。オレは、新人冒険者に教訓を語っていただけだ。それより、彼女に何か用事か」
「バーシー嬢が、新人冒険者?」
「職業に貴賎はないよ」
「しかし、ある役職に就かれたと聞く。冒険者にならなくても、稼げるだろうに」
「毎日じゃなくて、必要なら呼ぶ。基本は自由に、が就任した条件。だから、自由時間は自由にやらせてもらうから」
「まぁ、いい。領主様がお呼びだ。来てくださらないなら、自分が出向くと仰っているが」
おじ様は貴族令嬢のシェライラを、冒険者に関わらせたくないようである。
渋い表情をしている。
領主なのだから、荒くれ者達と如何に立ち向かい転がしていくかが、課題になるはず。
事務仕事だけを担わせるのなら、領主の肩書きはいらないでしょ。
過保護を発揮するなら、屋敷の奥に飾っておけばいい。
「なら、出向いてきて」
「「なっ⁉」」
提案したら、何故かレードさんも驚いていた。
一庶民が領主を呼びつける権利を行使したのは、初めて見るのかな。
苦虫を噛み潰すおじ様と違い、レードさんは私を探る。
「領主を待たせるな」
「あら、悪役を演じようとしたギルドの狗さんも、領主には阿ねるんだ」
「……。オレの素性を把握しながら、狗呼ばわりか」
「そちらも、プレートの情報を見たい放題だよね」
睨み合いに発展していく。
悪いと思ったけどさ。
鑑定さんが仕事をしたんだ。
レードさんは、ギルドのサブマスター(代理)だった。
受け付け嬢から話が伝わり、探りに来たのだよね。
得体の知れない身元不詳の守護者持ち。
冒険者なんて荒事をしなくても、楽に稼げる職があるのを薦めに来たのかも。
それか、さっさと領主に保護されるのを期待していたかな。
口元だけ笑みを浮かべて対峙する。
負けず嫌いなもんで、私からは目を反らしてやらない。
根負けしたのは、レードさんだった。
「はあ。騎士殿。ギルドの一室を貸すので、早く領主殿に来てもらえないか」
「その方がいいですね。オルファン殿にむちゃ、迷惑をおかけする」
「やだなぁ。行かないなんて、言ってないでしょ」
言ってやれば、どの口が言うか。
なんて、表情をされた。
シェライラが出向けばと言っただけで、行かないとは言ってない。
「それは、屁理屈だ。揚げ足を取るのが楽しいか?」
「楽しくはないけど、愉快かな」
「未成年者だと思えば、赦されるとでも思い上がっているのか? オレが優しくしている間に、領主館へ行け」
「凄んでも無駄だよ。ぶちギレした大精霊の方が、肝は冷えたよ」
「小娘が!」
本当の事なので、獣人の怒りぐらいでは意思は翻したりしない。
ぐるる、レードさんの喉が鳴る。
琥珀の瞳が、黄金に変化していく。
まさに、獲物に食らいつく猛獣の瞳孔で、見据えられる。
破滅主義ではないので、見惚れる隙は与えてやらない。
腰にさす白雪の鞘に触れた。
レードさんの牙が、私に迫る。
「はいはい。其処まで、です」
ジルコニア~。
一触即発な気配を駄々もれな私とレードさんを止めたのは、呑気な風の大精霊。
麗しい男装姿で現れ、私とレードさんの距離を開ける。
「ミーア様。初対面の相手の人柄を知る為に、怒らしてみる性格は控えましょう」
事実なので、横を向いて口笛を吹いてみたり。
「オルファン殿」
「済まない。怒りに呑まれた」
「それが、ミーア様の手なので、オルファン殿は悪くはないです。この方は他人には酷く理解し難い思考をされているので、理解しようとするだけ無駄です」
わお。
辛辣なご意見、ありがとう。
だけど、真面目なレードさんは、小娘に主導権を握られたのが、赦せない性質らしい。
肩を落として、述懐していた。
「だが、もう少しで喉笛に噛み付く処だった。自己の制御が出来ないでいた」
「それも、ミーア様の術です。この方、会話の中に精神操作の魔法を混ぜてきますから、初見の方は必ず嵌まります。オルファン殿が噛み付いてもミーア様の防御は崩せないですから、仔猫にじゃれつかれた風にしか打撃を与えません」
「はっ?」
「オルファン殿も、ご存知ですよね。この方は、白夜の星ですよ」
「……はあ? この、娘が、白夜の星?」
「そうです。獣人族の虎族と獅子族の二部族を、手玉に取った逆らってはならない精霊魔法師本人です」
あー。
あれか、どちらが獣人族を支配するのが相応しいか、阿呆な戦をしようとしていた鼻先に、マタタビをぶっこんで鉄拳制裁したイベントか。
あれが、この異世界で生きていた。
驚きである。
「いえ、ユーリ様が実践なさって、話を広めたのです」
ユーリ先輩~。
何を、やらかしていますか。
主従揃って私を脱力させるとは、恐ろしい。
フィディル。
背後で頷いていないで、反論しておくれ。
笑っているのは、分かっているんだからね。
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