168 面談、バウルハウト家、ロンバルディア国でした
私が夢見たスローライフ生活はどこに行ったのやら。
異世界転生した事実も、本音はあまり受け入れがたい事実なんだけども。
ゲーム内でしか触れあいできなかった、ゲーム内AIの私の守護者達大精霊達は健気にも、マスターと再会を望んで、人外さんの手を取った。
そうして、待ち望んだ私と再会を果たし、はっちゃけたり、裏側で何かしら画策していたりと、今が現実であると毎日教えてくれる。
私だって、まだ十代の小娘でしかない。
幾ら、父親からサバイバル技術や護身術まなんでいても、転生前の私は立派な未成年な女子高生なだけ。
未熟者であるのは理解しているし、夜半には世界を隔てた家族が恋しい思いをする。
そんな時は、黙ってお子様ズや、甘え下手なレオンといった第二の家族である守護者達が傍らにいてくれる。
我が身孤独で異世界デビューしていたら、きっと今この場に私はいなかっただろうな。
一人ふらふらと人外さんのお墨付き旅券を手に、異世界を放浪したと思う。
と、なり得た未来を、只今盛大に逸脱した領主になってしまい、拠点をいただいてしまった。
貰ってしまった以上、領主の役を全うしなければなぁ。
でないと、日本の家族や親戚達に叱られてしまうや。
頑張ろう、私。
いや、何センチメンタルになっているんだ?
いかん。
今は、移住者さん達の代表者との会談中だった。
「細工師? 体調でも悪い? 普段の細工師ではないみたいだけど」
「いやいや。少しばかり、おセンチな思考がね。随分と、私は故郷から遠い国に来たなぁとか。領地持ちの領主になった責任感が、やっと芽生えた感じがしてさ」
「ああ、まぁ。それは、理解できる。私も今の性別に慣れるまで、淑女教育なんぞやってられるかと暴れたしな」
私と同じく(実際は異世界デビューした経緯は違うが)、異世界転生したアンナマリーナさんINわらび餅さんには、私が抱える内心の弱さは理解された。
ただし、アンナマリーナさんには守護者はいないが、その代わりシスコンの兄や愛情を上手く伝えられない父親や、娘の異常さに寛容であり理解してくれた母親がいて、支えてくれる人に恵まれていたけど。
わらび餅さんが、どうやって現状を受け入れられたか、先達として後で教えを乞うてみようっと。
「バーシー伯、会談は別な日に延期にしようかな」
「ありがとうございます。ですが、二度手間となりますから、大丈夫です。単なる、故郷が気になっただけですから」
「しかし、顔色が悪いが。本当に大丈夫だろうか、心配だ」
本気で心配して声をあげたのは、バウルハウト侯爵次男で、シェライラのお兄さんのニールさんという名前だったはず。
貴族裁判でお世話になった方だが、まさかニールさんも移住者さん達と等しくテント暮らししてましたか?
それから、貴族院のお仕事はどうされましたか?
「ん? 貴族院の仕事は、特殊任務による休暇扱いだから、気にしなくて構わないよ。それから、私も従軍経験があるので野外生活は一頻り嗜んでいるよ」
「あれ? 言葉にだしてました?」
「うん。私は耳が良いからね。妹様によれば、精霊の加護らしいよ? まあ、生憎私は精霊視の才がないから、加護してくれた精霊の姿は視えてないけどね」
ニールさん曰く、シェライラ含む三兄妹の母親が先々代の女王と継承権を巡り競った、他国に暴風の魔女という二つ名で、怖がられていた女傑だそう。
まあ、その当人は、当時はバウルハウト侯爵家嫡男の現侯爵と大恋愛の果てに、女王候補を辞退して嫁いだ逸話が、貴族院のご意見番な方々において、笑い話の種だとか。
現在は東の国境沿いの領地にて、その暴風の魔女らしく、外敵や魔物を殲滅してるとか。
さすが、女王国。
女性が活躍しとりますなぁ。
で、どういう訳か、長男次男には魔力が遺伝せず、お二人はあまり強力な魔法は行使できない体質で、精々生活魔法が一般庶民よりやや上ぐらいの魔力補助量で、長男は嫡男として外交官となり、次男は貴族院に政務官のお仕事に就いている。
その兄二人より、妹のシェライラが筆頭女王候補になれたのには、心から喜び、また不安な事案もあったりした。
それは、初代女王から十五代目までは、女王選出に欠かせない守護者(大精霊)は、国に留まってくれるが。
十五代過ぎたら、縛りがなくなった大精霊の加護は失われるのではないか、貴族院のご意見番の方々はその問題を大変危惧していた。
が、その十五代目の女王時代に、六柱の守護者と契約している身元保証がない不審で、物騒な過保護極まりない、世間では一番苛烈な枢機卿たるエルネスト枢機卿猊下の秘蔵っ子が現れた。
それに伴い、次々と全十三柱の大精霊が顕現し、女王国一国に集結してきた。
外務大臣なバウルハウト侯爵や、長男の外交官には、遠回し的な話しやら、質問状が届いているとの事。
ゆえに、私の領地へ移住する人物は選別され、人種差別をしない穏やかな農家の方を中心に、私兵を持たない私の為に、治安維持してくれる人材も見繕ってくれたのだろう。
うん、まあ。
その辺は、多分うちの子達の眷属ちゃん達の方が優秀なんだけれども。
姿が視えない存在よりも、れっきとした人材がいた方が、移住者の皆さんも安心はするよね。
よって、この件も後でフォードさんに監修して貰い、お礼状を出さないとならないな。
「済まない、話が逸れたね。で、彼が臨時の自警団の纏め役で、彼が農家代表者だよ」
「は、初めまして。自分はかつて冒険者ギルドにて金プレート持ちでした。ある依頼で片目を傷つけ引退しましたが、引退後は年少のギルド見習いを育ててました。自分を含め八名が臨時の自警団となります」
「追記すると、二回目の移住者の内訳が、彼みたいな自警団の役に就くよう手配している」
「会話に混ざる無礼を申し訳ございません。私共、冒険者ギルド側も治安維持にまずは五名推薦致します」
「同じく、会話に割って入る無礼は承知ですが、許していただきたい。我々、商業ギルドも約二十名を、治安維持の自警団に交ざらせたく、領主様の裁可いただきたく存じます」
おっと、冒険者ギルドのお姉様と商業ギルド長さんも、負けじと声をあげた。
お姉様側は先の事件の失態挽回をかな。
商業ギルド側は、うちの農園の販路拡大を見込んでの投資かな。
それと、馬鹿な貴族が難癖つけて、農園を手に入れようとするのを回避させるべく、先に手を打っておこうとしてかな。
「治安維持なら我の一族も協力したいが。この身では、逆に馴染めぬかな」
「いいえ。身体的能力においては、獣人の方に軍配はあがります。協力できるなら、強い味方となりますよ」
「委細、承知した。しかし、我はアルバレア家を襲撃した犯罪者でもある。極力レア地区には、配置はしないが良かろう」
そう切り出したのは、私が爵位を叙爵された諍いの根源なロンバルディア国の獣人さん。
率先して攻めてきた総大将だった狼の獣人さんは、ハーシュさんだ。
しかし、見るに顔腫れてないですか?
ハーシュさんは、レードさんと違い獣の顔をしたお姿。
毛並みでわかりづらいが、青アザありません?
「ん? ああ、これか。見苦しくて済まぬ。諍いをお越し、国の守護者たる精霊を失わせた罰故、気にしなくて良い。我も嫁にぶん殴られ目が覚めた。ある意味、別な意味での勲章よ」
かかっと、清々しいまでにハーシュさんは笑い話にしたが。
私が知らないとでも、思いましたか。
ちゃんと、ハーシュさんに罰を与えた内容は、宰相閣下から書状が回ってたので、知ってます。
ロンバルディアに帰還したその日に、番の奥さんや子供達や一族の皆さんに、ネリエの木が枯れた原因を招いたとして、犯罪奴隷の烙印押されちゃたんだよ。
ロンバルディア国の刑罰に口を挟めないから静観したが、口だすんだった。
聞いた瞬間、ロンバルディア国の刑罰は重すぎだと感じたからね。
まさか、刑罰内容も白夜なんたらが関与してないよね。
これも、確認しておくか。
ああ、白夜関連も調査しないとね。
また、やるべき事増えた。
ますます、スローライフが、遠ざかる。