166 移住者が増えそうでした
商業ギルドと冒険者ギルドの支部が、ランカ領内にできるのは歓迎するけどさ。
責任者の名前に、頭を抱えたくなるのは仕方がないよ。
両名とも、人外さんの関係者。
追加で、神聖国由来の教会責任者も人外さんの配下だろう。
どれだけ、私の周囲に身内を配置したがるのか、過保護極まりないでしょうが。
憤慨したところで、再考の余地なしは決定されている為、フォードさんから提出された急ぎの決裁書を、フォードさんから指導されて処理していく。
まずは、移住者さん達向けの家屋を建築する資材の購入費と、建築家達の雇用契約と、移住者さん達に割り振られた土地と畑に掛けられる税率の設定又は購入費用の設定。
それから、商業ギルドと冒険者ギルドが領主に納める税金の設定とは別の、上納金の金額設定。
何故に、ギルドからは税金と上納金とで、二種も納めないとならないんだ?
尋ねたら、税金は各地にあるギルドが納めるお金で、上納金はギルド本部が領地にギルドを置かせてもらえるお礼のお金だとか。
ほんでもって、納められた税金の何割かは国の国庫へ納め、上納金は領地の開発や運営に回していいお金だそう。
日本でいう所得税とかの部類と、宝くじ当選金額に税金がかからない仕組みと考えていいのか。
フォードさんに手伝って貰い、細々とした急ぎの決裁書の処理が終わり、休憩もそこそこにして、移住者の皆さんに挨拶というか、不自由がないか視察に行く事にした。
勿論、護衛はうちの子達だけで済むので、アーガストさんにはクリスから私が出掛ける旨の伝言を託した。
いや、アーガストさんて、アナベルちゃんの父親の監視役が仕事なんで、私の護衛はサーナリアから帰国したら終了です。
一応、フォードさんが案内役をしてくれるので、移住者の皆さんへの挨拶は問題がないでしょう。
「「「行ってらっしゃい。ミーアさん」」」
目敏く、元養護院、いやもういらない呼称か。
農園の貴重な働き手たる農業従事者である子供達と、ナイルさん一家に見送られて農園の外にお出掛けする。
あら、大変。
私が拝領するまで荒れ地であった乾いた大地だった土地が、農園の外でも地味溢れる農作業に適した土地に変化してたよ。
きっと、レオンとユリスとエスカの協力で、土地丸ごと精霊の恵みを惜しみ無く使い、改良したんだなぁ。
で、農園から5分位歩く距離には民家や畑の類いはなく、石畳の道が作られていた。
これも、うちの子達の成果らしい。
フォードさん以外の他人がいないからか、お子様ズが褒めてと言わんばかりに代わる代わる話してくれた結果、石畳の道は破壊不可と持ち去り禁止の魔法が込められていると。
まあ、他の大きな町にも、石畳の道やらは簡単に割れたり壊れたりしない処理が為されているとのフォードさんの談。
ただし、半ば永久的な破壊されない石畳の道は、ここだけだとは苦笑されたがな。
そうして、歩く事十分内に大広場建設予定地に到着した。
まだ、民家らしき建物はないが、何故か噴水施設ぽい建築物があった。
「これは、レオ兄が作っている途中」
「出来たら、ユリスが水脈引いて、ぶわぁっとお水をだすの」
「……夏の暑い時期は、セレナが冷やすの」
そうですか、噴水広場にするのか。
最初、レオンとユリスに調査して貰ったランカ領内は、水脈と地上の間に硬い岩盤地層があり、井戸堀りしても岩盤地層に阻まれて水が出なくて放棄された井戸が多々あったんだよね。
それを、レオンが岩盤地層に穴を開けて、放棄された井戸にユリスが水の流れを促して使用できる様にした。
その井戸を、移住者さん達が現在は使用している。
しかし、うちの子達が手入れした井戸なんで、浄化槽代わりの錬金道具無くても、飲水可能な美味しい水だと評価されている。
多分、ユリスの眷属の精霊ちゃん達が、お願いしてないのに浄化してくれてるんだろう。
ユリス経由で、魔力入りお菓子を配ろうと決めた。
「こちらの噴水広場を起点に、西側をアルバレア家領地からの移住者十二家族計三十七人が。中央側をバウルハウト家領地からの移住者二十家族五十五人間が。東側をロンバルディア国からの移住者三部族百八名が、移住者総計になりました。が、ロンバルディア国からの移住者二十六名が強制送還されています」
成る程、残数百七十四名が新しい住人となったという訳か。
少ない?
いやいや、多い移住者だよ。
だって、両侯爵家の領地から、それだけ領民が移住したら、領地の税収も減少するリスクがある。
しかも、領地に欠かせない農民をだよ。
両領地の農作業効率も落ち、農作物も減少する訳だから、領民の移住を推奨する領主はまれ。
バウルハウト家は、治安維持も兼ねた引退した騎士や冒険者さんも移住者に含めてくれたからね。
下手したら、放逐されたと逆恨みされてもおかしくはない事態もあり得た。
まあ、バウルハウト家もアルバレア家も、移住者を募った背景や、推薦した人材の方には丁寧な説明をして、無理強いして移住を願ったのではないと書簡が届いていたそうだ。
フォードさんも領主不在であるから、両侯爵家から身元保証した書類片手に、一家族づつ面談したり、うちの守護者の大人組二人とこっそりグレイスも参加して移住者さん達の身辺調査していたとか。
で、中には、先の他の領主の息が掛かった問題行動をやらかした冒険者パーティーみたいに、後ろ暗い暗躍を目的とした思考の持ち主もいるそうだ。
既に、目を付けられた人物の監視は、うちの子達の眷属がしているので、騒動が起きる予兆があったら、私がでばる前に終結している事だろう。
それから、善良な移住者の皆さんも、その人物を仲間と見なしてはなく、警戒していると教えてくれた。
うん。
私が目指すスローライフは、まだ遠いかなぁ。
「それから、事後報告になりますが。噴水広場の右手側の空き地が、教会建設候補地となります。左手側が商業ギルドが購入したいと申し出ております。冒険者ギルドは、噴水広場の後方をと」
「噴水広場周囲に、教会と各ギルドね。となると、雑貨屋や生活に根差した商店とかも誘致した方がよいかな」
「はい。そちらは、商業ギルドの支部が開業した際に、商店が誘致されるまでは商業ギルドが代理店舗として生活雑貨や食料品を販売してくれるそうです。又、数店舗ランカ領地に店舗を移しても構わない商店や、鍛冶屋の名乗りがあったと聞いております」
「商店の移転? 各ギルドみたいに支部とかではなく?」
「はい。どうも、女王陛下や宰相閣下が、ランカ領地への移住者にお会いになり、ランカ領地が我が国で一番安全な領地であり、今後最も栄える土地だと賞賛したらしく。まあ、元々ベルゼの森という、ある意味一財産築ける宝の森がありますからね。ただし、最初の領地開拓には失敗してはいるのと、ランカ領地は荒れ地で作物が育たない不毛な土地との印象があったので、半信半疑だったそうですが」
フォードさん曰く、やはり到着当時は荒れ地だったからか、落胆した移住者だったけれども。
一晩明けたら、あら不思議。
使えなかった井戸は澄んだ水を湛え、不毛な乾いた土地が耕作に適した土地に早変わりしていた。
驚愕していた移住者さん達は、領主不在な為に農園に入れない移住者を思い、レオンに急造して貰った仮役場で、農園外で寝泊まりしていた代官に突撃してきた。
説明されたフォードさんも、これはうちの子達領主様の守護者の仕業と思い至り、領主様は精霊に好かれておられ、意を汲んで精霊様方が恵みを与えてくれたのだと力説した。
おまけに、移住者の皆さんがお腹を空かせてはいけないからと、農園の従事者の子供達(ナイルさんや騎士ワイズさん同行)が、農園で採れた販売に適さない農作物を無償提供した。
ああ、うん。
形が悪い農作物は、私達のご飯の食材になるのだが。
アンナマリーナさん命名異世界摩訶不思議農園故に、採っても採っても実る農作物が余ってきていたらしい。
食べきれず腐らせるよりは配ってしまおうと、子供達なりに考え、フォードさんに了解を取り付け配って回った。
フォードさんも、私の承諾無しに、出荷できない農作物を配ってよいものか悩んだそうだけど、あっさりお子様ズがマスターならいいと言うよと言い、レオンも駄目とは言わず、フィディルとファティマも口出しせずにいたので、領主様からの移住のお礼という名目で、引っ越し祝い的な余りモノの農作物を配り歩いたんだって。
勿論、私に異存はない。
むしろ、良く気づいてくれたなぁと感心したよ。
販売に適さない農作物を腐らせて肥料にする案も出ていたけど、せっかく精霊ちゃん達やうちの子達大精霊の恵み過剰な農作物だから、多くの人に食べて貰いたいのが本音だし。
だがしかし、過剰な恵みの恩恵でうちの農園から出荷した食材を使用した料理に祝福(ゲーム内用語におけるバフ効果)付きになったせいで、他領主から狙われるというデメリットも発生したけどね。
まあ、そちらは過保護な方々が対処してくれるであろうし、私も反撃は辞さない。
どこまで、やられたらやり返していいかは、フォードさんに教えを乞うておこうっと。
話が逸れた。
で、開拓失敗したランカ領地に移住するのは正気を疑われる話題であったも、何らかの功績によって爵位と領地を報奨された新興貴族がいる。
侯爵家でも名門のアルバレア家とバウルハウト家が後見に立ち、宰相閣下も領地開拓に希望を寄せている。
また、先々代の女王の王配であるエンブリオ公爵も目を掛けて、わざわざ支援物資を持参してランカ領地を訪れた。
唯一、農園らしき場所があり、あっという間に実り豊かな農園が出来上がっている。
近隣の領主は、噂話に過ぎない与太話と受け止めたが、万が一を想定して小飼の部下に偵察に行かせたら、あら不思議。
農園には入れないでいたが、確かに目視した農園内は、既に農作物が豊富に実っていた。
ライザス領主の筆頭女王候補に探りを入れたら、簡単にランカ領主は六柱の守護者のマスターであり、精霊に好かれているから、ランカ領地が精霊の恵みの恩恵豊かな土地に変化するのは当然のこと。
けれども、新興貴族だからといって領主個人を侮る行為は、筆頭女王候補である自分だけではなく、女王や宰相閣下からも不快に思われるとの警告したと、フォードさん宛に報告されていた。
大半の他領主は敵対するより友好を望み、貴族の仲間入りして間もないランカ領主に、先達として領地の運営の助言したり、不足な品なりあれば格安で融通すると言ってくれているらしい。
ただし、一部の私の財産狙いでやらかした貴族はいて、貴族院や宰相閣下は始めが肝心と処罰が重くなった。
そうした、話題もとくに隠蔽しなかったので、ランカ領地はもしかしたら旨みがある領地なのではないかというのが、商店主が支店を出店したい理由で。
鍛冶屋の方は、ベルゼの森に隣接する領地なら、上級な素材入手に掛かる費用や手間が楽になるのではないかとか、自分が把握してない素材が入手出来るのではないかと思い、ランカ領地に移住したいのだそう。
うん。
私の不在の間に、ランカ領地の噂が国内で随分広まってますわ。
移住者が増えるのはいい案件なんだろうが、治安維持問題を早く何とかしないとね。
こうした内容も、雇用増加を促して、無職の人材を減らす結果に繋がるんだから、良い事になるはず。
さあ、ランカ領地の開拓を交えた、スローライフを満喫しようっと。