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165 過保護も極まりでした

 お姉様からの分厚い謝罪のお手紙によると、冒険者ギルドとうちの農園との取り決めを破った冒険者達は、拠点がライザスの冒険者ギルドではなく、二組ともある領地の冒険者ギルドに所属していた。

 ライザスの冒険者ギルドに所属している冒険者達には、ベルゼの森に活動許可が出る際にはうちの農園とトラブルを起こさない契約を結び、過剰に荒らさない旨も事細かに通達し、違反したら罰金刑どころか、ギルドから除名後追放処分といった重い罰が課せられるのも徹底して通知してはいた。

 今回問題をやらかした冒険者パーティーは、ライザスの冒険者ギルドの決まりを書面では遵守する言質は取ったものの、お姉様率いる懲罰隊による調査で、拠点としていた領地の領主から私に接触し、農園と領地の利権のおこぼれに与ろうとか。

 商業ギルドを介さないで農作物や女史夫妻の家畜から生産される加工品を独占して買い付け、暴利な値で販売する計画を練っていたのが判明した。

 冒険者パーティーもこの計画がばれたら、自分達に罪が被せられると危機感を持った為、焼却予定の領主との契約文書を隠し所持していた。

 お姉様は、すぐにライザスの領主たるシェライラに報告し、シェライラは問題有りと判断をくだし宰相閣下にも件の文書と事件を報告した。

 結果、黒幕的な領主は、宰相閣下に呼び出され、貴族院の重鎮方からも断罪され、家督を甥に譲る羽目になった。

 領主の息子はいたが、以前より素行不良が知れ渡っていたので、元領主一家は最下級の分家とされ、宰相閣下の許しが出るまで、王都や王城への移動は禁止となった。

 二通目のこれまた分厚いお手紙によって、その後の元領主一家の悲惨な結末が記載されていた。

 元領主は、一役人としての職は与えらるも、反発して拒否し、宰相閣下の命令に従わない以上、貴族籍剥奪の上平民に。

 お金で買われた奥方は、主人のサンドバッグ扱いだったが為に、思考力を奪われ生きる人形として、自己を保つしかなく、実家に帰らせ療養を余儀なくされた。

 で、残りの息子と我が儘娘は、さる上位貴族の屋敷で、下男やランドリーメイドとして雇用され、再教育の最中だそうだが。

 同僚達にも上から目線の貴族癖が抜けず、とうとう上位貴族も見放し、過酷な鉱山労働へと送り込まれていった。

 所謂、一家離散した。

 奥方の実家は誠意の証として、家宝の宝を私に迷惑料として差し出してきたが。

 代官のフォードさんが、私が受け取らないであろうと推測して、家宝の宝ではなく奥方の実家の地域にしか植生しない果実の若木の方が喜ばれると説得して、エスカに進呈したと。


「それから、ヒューズ君より些か、マクレーン氏が二組目の冒険者パーティーを救助しようとした理由をお聞きしました。何でも、ヒューズ君は面識はなかったそうでしたが、あちらのパーティーにマクレーン氏の親戚にあたる方が居られたので、救助しようとされたと」

「女史夫妻の親戚? 女史夫妻に実家の牧場を押し付け、得られた財産を狙って寄生した阿保な親戚がいたと聞いてたけど」

「マクレーン氏曰く、祖父の奥方の親戚で、血の繋がりはありませんが。牧場問題で、味方になってくださった恩があったそうです」


 ああ、なら救助しようと思い付くか。

 でも、現在は女史とヒューズ君に盛大に叱られ、罰としてモーモーとコッコが僅かだが売りに出されたと。

 哀れにも犠牲になったであろうモーモーとコッコはお肉にされたかと思いきや、何と農園の外に新設された牧場で飼育されているそうである。


「バーシー伯が他国へ招聘された五日後、アルバレア家とバウルハウト家からの移住者が、ランカ領地に到着なさいました。私の代官権限で受け入れ受理致しました。ですが、住まいとなる土地の居住権利はバーシー伯でないと受理できませんので、こちらの書類の決裁をお願いいたします」

「えっ? ていう事は、移住者の皆さんは、どうやって寝泊まりしているの?」


 一応、移住者が来たら、この辺りに居住区をといった計画は立てていた。

 しかし、フォードさんの説明では、どこの土地に誰が住まうかは領主の許可がないと、不法滞在にあたるのだとか。

 勝手に家とか建てたら駄目なんだって。

 唯一許されるのが、中立国であり信仰の拠り所である神聖国の教会。

 神聖国の教会は治外法権もあり、虐げられる弱者の救援を第一に活動しているので、必ず王都や準ずる大都市や町には存在していないとならない。

 やべ。

 人外さんからのお説教がまだだ。

 教会が建てられたら、私が一番乗りで有難いお話やらお説教受けるんだろうな。


「移住者の皆さんは、バーシー伯の守護者の方が仮住まいとして建てられた家や、持ち込まれた天幕ですごされてます。井戸や小さい畑も既にあります」


 やらかした冒険者パーティーの救助や、移住者の皆さんへのフォローを、うちの子達が率先してやってくれたのは嬉しいけどさ。

 報告なかったのは、ちょっと寂しいな。

 きっと、レオンやエスカが頑張って、農園の外の荒れ地をすごしやすい環境に直してくれたのだろう。

 後で、褒めてあげようね。


「それから、ロンバルディア国からも移住者がやって参りました。彼等は、主に農作業より牧場の方にお仕事を割り振りました。というのも、マクレーン氏の家畜は半ば魔物ですから。

 普通の人間では、世話どころではなく危険と判断し、魔物にも動じない獣人の方は適役でした」


 そう言って、フォードさんは農園外の地図を机に広げた。

 何でも、フィディルが助言した移住者の皆さんの居住区の設定と、ランカの領地の町作りの計画書だった。

 アルバレア家からの移住者とロンバルディア国からの移住者を隣接するには、過去の因縁が有りすぎて騒動が起きても仕方がないかもしれない。

 アルバレア家からの移住者は大半が農民なのに対して、ロンバルディア国からの移住者は戦闘種族も含まれる。

 小さい諍いが大騒動に発展したら、私も困るしな。

 問題起こしたら領地追放は、できるだけしたくない。

 私がやりたいのは、敵対していたロンバルディア国との友好だからね。

 フィディルも私の意を汲んで、彼等の居住区の間にバウルハウト家からの移住者を挟んでいた。

 バウルハウト侯爵さんからは、移住者の皆さんは獣人差別とかしないおおらかな性格の持ち主ばかりを選び、引退した騎士や冒険者達もいるので多少の荒事を解決したり、制圧したりできると。

 まあ、うちの領地には、治安維持を担う人材が不足しているので、何か起きたら彼等を武力の一端に加えて貰って構わないともお墨付きをいただいていたりする。

 しかし、多分だが、彼等の出番は住人同士の諍いを収めるだけで終わりそうな気配がしてならない。

 何せ、うちの子達やら、眷属の子達やらが、治安維持方面を、私が認識する前に対応しちゃうのが目に見えている。

 ファティマの万能結界は農園に限定されているけど、不審者を感知する結界は領地に張り巡らされているのが、帰還して把握できた。

 フィディルの時空監視の魔法も併用されているし。

 うちの子達は、移住者も守ろうとしてくれているんだよ。

 マスター至上主義が定番のうちの子達は、私の領地の住人限定で身内判定ではないが、私の領地を栄えさせる一員判定で受け入れ納得したのだと思う。

 だから、移住者の皆さんに助力してあげた。

 そんな、うちの子達大精霊が働いているから、眷属の精霊達も協力を厭わない。

 神聖国の教会が建て終わったら、聖母教会ではない、精霊を奉る教会も建てていいかな?

 神聖国から赴任してくる聖職者さんに相談しよう。


「成る程。アルバレア家やバウルハウト家からの移住者は農業を、ロンバルディア国からの移住者を牧場の役割り分担したと」

「はい、当初はそうしようかと。ただ、ロンバルディアの方々の中には、農業もしたいと言われる方や、狩りや領地巡回をし、バーシー伯の領地を守りたいと言われる方もいます」

「アルバレア家やバウルハウト家からの農業従事者を見下したり、仲間と見なさない獣人の方はいたりしたかな」

「バーシー伯が心配されていた事は一度起きました。守ってやるから食料を寄越せと、力で持って農民の方を支配しようとされた獣人の方は、狼の部族の方々がかなりボコられ、国に強制送還されました。後、バーシー伯がベルゼの森より連れ帰られた灰色の狼殿が、何故か獣人の方々に崇められてます。灰色の狼殿が、不快と称した獣人の方は漏れなく強制送還でした」


 灰色君か。

 種族は森林狼だけど、血統を遡ると神獣フェンリルの末裔だと鑑定さんは申告しやがりましたからなぁ。

 だから、祖たるフェンリルの体色の白を神聖視してたんだよ。

 で、白い色を受け継がなかった灰色君とアルビノ君の祖父やら父やらが、アルビノ君を羨んで害そうとして灰色君を焚き付けて同士討ちを企んでいた。

 灰色君はお兄さんを嫌いになれないのに、対抗馬に担ぎ上げられて自暴自棄になっていた矢先に、私に負かされて一族から離れるのをよしとした。

 ああ、世間にはこんなに継承騒動が溢れているや。

 話が逸れた。

 灰色君の血統が神獣を祖とするから、獣人の皆さんは親神にも等しい扱いするんだろう。

 フォードさんによると、灰色君は敬われるのがぞわっとくるそうで、以降獣人の皆さんとの交流を絶っているとのこと。

 現在は、ベルゼの森付近での巡回に切り替えていた。

 うーん。

 これ、灰色君が獣人の皆さんの前に姿を現さなくなったら、余計に心配されるんじゃね?

 そのうち、一目無事な姿をとか嘆願されそうな未来が。

 勿論、その時は、家主権限で連れ出すぞ。


「あっ、大事な事を報告するのを忘れておりました。そちらの決裁書の中に、絶対に目を通して貰わなくてはならない書類がございます。ライザス商業ギルド長と冒険者ギルドマスターより、ランカ領地に各支部の建設許可願いがだされております」


 支部?

 ああ、両ギルド共にどんな小さな町や村にも必ず支部は建設されるからかな。

 しかし、促されてみた書類を見なかった事にしたくなった。

 支部の責任者に、現ライザス商業ギルド長や冒険者ギルドのサブマスターなお姉様が就くですと?

 人外さんや。

 まさか、これも過保護な配置ですか?

 お説教の前に、ちょっくらお話し合いが必要です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者ギルドは既に対処されてる様だし、今後の懸念は移住者の中に潜んでる阿呆への対処…ですかね? 農園内は従業員達(主に年長の子供達)が目を光らせてますし、眷属である精霊達も見張ってるから多少…
[一言] 黒幕さんは一家離散、問題獣人が灰色くんのおかげで強制送還されて行きました。
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