164 迷惑料?が○○億でした
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
「ミーア姉ちゃん、お帰り」
はい、ただいま無事に我が家の農園に帰ってきた私です。
というか、墓所の帰り道にて、何故か出入口前に待機していたエルネスト枢機卿猊下バージョンの人外さんに出迎えられ、
「ミーア君、お疲れ様。不甲斐ない私の代理を押し付ける形での依頼達成、感謝する。ただ、今後のサーナリア国に関する問題に、君が関与するのは望まない。申し訳ないが、ただちに帰国させて貰う。まあ、君の農園にて、代官だけでは済まされない案件も発生しているので、私が送ろう。ああ、サーナリア国とティファーラ国(女王国)の重鎮方には私から通達しておく」
と、有無を言わさずに、人外さんに護衛の二人と共に農園に転移させられた。
ベネディクトさんはサーナリア国王への報告がとか抗議していたが、魔法師の方にインパネラ枢機卿猊下さんに忠告されたのを進言して黙らせていた。
依頼に対する報告義務の内容が、第三者に話せない内容もあり、枢機卿倪下からの記憶操作を受ける人間を減らしたい意向がみえた。
人外さん側も、サーナリア国側の影武者国王派閥の貴族が、私に関して何らかの思惑みたいな権力闘争の種にならないようにしたいのだろう。
私がサーナリア国に協力したのは、エルネスト枢機卿猊下の推薦であり、秘蔵っ子扱いの私を利用するなと警告とかやらかすんだろうと思われる。
なので、転移魔法に抵抗しないで送って貰った。
そういや、転移魔法は遺失魔法の分類で人間種族は習得不可な魔法だったっけ。
で、魔族特有の固有魔法でもあったよね?
しかし、枢機卿クラスの聖職者が行使するのはOKなのは解せないが、神様の恩恵とかで納得されているのかなぁ。
その割に、時空属性の精霊と契約したら、条件付きながら転移魔法行使できちゃうのが、世間に広まってないのは何故だろうか。
私と一緒に転移で送られた護衛のアーガストさんとアレクシスさんも、エルネスト枢機卿猊下が転移魔法行使したのには何も言及しなかった。
アーガストさんは、宰相閣下に報告する文書を作成すると言って屋敷に一足早く去り、アレクシスさんは妹のアンナマリーナさんの処へ顔出しに行った後に、自領に帰して欲しい旨を伝えてくれたので、私がアルバレア家に送ることとした。
人外さんは屋敷内ではなく、外の農園地帯の外れに送ってくれたようで、ちょうど午後の農園作業が終了したエメリーちゃんとロイド君兄妹や元養護院の子供達に帰宅の挨拶をされた。
「ミーアさん、お帰りなさい」
「お帰りなさい、ミーアさん」
「あっ、お帰りなさい」
「お帰りなさい、ミーアさん。そうだ、代官のフォードさんが、ミーアさんが早く帰ってこれないか、隣の領主様にお伺いしたぐらい大変らしいよ」
「農園の外、視察だったかな。行ってあげた方がよいです」
マイク君やメイベルちゃん達からもお帰りなさいと言われて、ああ、ここが私の帰る場なのだと再確認した。
それから、人外さんからも教えてくれた案件とやらにも心配された。
農園の外?
いや、いきなり視察だなんて行けないか。
まずは、留守中役のフォードさんに会わねばならぬ。
シェライラにもお伺いしたぐらいだから、あれか。
シェライラの実家のバウルハウト侯爵家からの移住者でも到達したかな。
屋敷に向かえば、玄関口にはアーガストさんから聞いたのだろうフォードさんが待ち構えていた。
無論、家妖精のクリスとアンジーも揃って出迎えてくれた。
「バーシー伯、お戻りと聞きましてまかりこしました。お帰りなさいませ」
「「お帰りなさいませ。ミーア様」」
「ただいま。フォードさん、クリス、アンジー。留守番、ありがとうございます」
「いえ、これが自分の役目です。お礼を言われるほどではありません。が、労いのお言葉、嬉しく思います」
「「我々も、ミーア様のお屋敷をお守りするのは、当然の役目。しかし、同じく嬉しく思います」」
生真面目なフォードさんは僅かに口元を綻ばせ、ブラウニー二人は満面の笑顔で頭を下げる。
「ご無事なご帰還な御様子から、御依頼の件は完遂された事と思います。本来ならば、お休みの後に留守中の御報告をしたいところでありますが。何しろ、自分が許された範囲を越える事態が起こりました。申し訳ございませんが、ただちに執務室にお出でくださいませ」
「了解です。サーナリア国でもエルネスト枢機卿猊下より、こちらで何かしら不測の案件が起きたと聞きました。休憩がてら、報告を聞きます」
フォードさんの執務室は作ったが、私の執務室ってあったかなと思いつつ、屋敷内に入りフォードさんの案内に付いていく。
二階の左側の棟がどうやら私やフォードさんの執務室と、フォードさんとアーガストさんの私室といった配置になっている模様。
きっと、ブラウニー二人がフォードさんを交えて、貴族の屋敷仕様に屋敷内を更新したな。
で、真新しい私の執務室には、何処から調達したか分からないアンティークと鑑定結果が出た執務机や椅子に、客をもてなすソファセットに、執務机と同じ素材の書架。
幽閉されていたサーナリア国王の部屋で欲しいと思った本棚の製作者と同じだったよ。
何故に?
誰が手配したんだか。
私、誰にも話してないよね?
後、フォードさんの執務室に置いた筈の大金庫も移動されていた。
私の執務室にあったら、フォードさんは大金庫からお金を取り出せないのでは?
『代官が大金庫からお金を出す際は、我々かブラウニーの許可を得て入室するか、我々とブラウニーが大金庫からお金を出して渡すか。その時の状況次第としています。それから、出金した金額は帳簿に記載し、我々かブラウニーが承認してから外部に持ちだしています』
疑問に答えてくれたのはフィディルだ。
我々と言ったも、金銭面に関してはフィディルがファティマは農園の結界を担当しているそうだ。
レオンは農園内の安全面を、お子様ズはレオンの補佐と農作業に従事する子供達の体調面を見守る役割分担が決まった
で、フィディルが不在時はブラウニー二人が、屋敷内と大金庫を管理してくれていると。
「先ずは、悪い報告を。バーシー伯不在時にて、三度冒険者ギルドがベルゼの森の教習を行いました。一度目は何事ももなく終了致しましたが、二度目にてある一部の冒険者パーティーが農園に侵入を図り、引率者に捕縛され問いただした結果、事前の準備不足で手持ちの食糧や飲水が尽き、農園に集ろうとしたのが判明しました」
フォードさんの説明に、ライザス冒険者ギルドサブマスターのお姉様のお怒りが伝わってきそうだ。
ベルゼの森は、私の領地に含まれる。
冒険者ギルドとの交渉で、ベルゼの森に入るには少額の税金を納める事と、うちの農園を補給地にしない旨の誓約書を交わしてある。
よって、その冒険者パーティーは違反行為をした訳で、罰則としてかなり重い罰金を支払う羽目になるんだが。
多分、支払うべき資産がなかったのだろう。
初回の違反として、冒険者ギルドが肩代わりした違反金をお姉様自ら持ってきては謝罪していったそう。
私が不在だったのもあり、直に謝罪できないお詫びの分厚い手紙が渡された。
お姉様だけでなくギルドマスターからもお詫びの手紙が入っていた。
この問題は初回の違反というのもあるし、分厚い謝罪の手紙もいただいので、水に流そう。
「次に、三度目にて農園を脅かす事件が起きました」
はい?
何ですと?
それは聞き捨てられないではないか。
執務机に私が座り、机を挟んでフォードさんが立って報告という、慣れない状態なんですが。
思わず、視線で続きを促すといった偉い仕草をしなければならなくなった。
「どうやら、三度目の教習に来たある冒険者パーティーは、先にやらかし違反者の烙印を受けた冒険者パーティーの身内だったようでした。まあ、身内と言いましてもライバル的な仲だったそうです。そうした仲であったのもあり、先の冒険者パーティーより己れのパーティーが優れているのを見せつけたかったのでしょう。無謀にも深淵部に入り込み、己れの力量にあわない魔物に出くわし、一人が食われ、一人が食われを繰り返し、残った三名が魔物を引き連れて農園に逃げ込みました」
あー。
ゲー厶内用語でモンスタートレインが発生し、安全地帯に引き連れて来て、魔物や害ある人物を排除する農園の結界をあてにして、逃げてきたのか。
だけどさ。
あんたら、冒険者パーティーは農園に属する人物ではないから、勿論農園に入れない訳だが。
逃げて来ても無駄足だぞ。
「ベルゼの森に接する農園地帯は、未だ未開発地帯でしたので子供達はいなかったのですが。運悪く、居候のご夫妻の旦那さんが居合わせました。あの方は、バーシー伯と冒険者ギルドとの誓約を把握されてなかったそうで。どうも、危機的状況にあると判断され、その三名を招き入れようとなさいました。結論的には、あの方にそんな権限はないので、三名は農園に入ること叶わずでしたが。何を思われたのか、ご自身が農園の外に出て、三名と一緒に入ろうと試みられ、ご養子の少年に意識を刈り取られ怪我を負わずに済みました。そうして、逃げ損ねられた三名は、バーシー伯の守護者に救助され、引率者に引き渡されました」
女史の旦那さん。
阿呆か。
貴方、テイマーだけど、攻撃手段皆無でしょうが。
ヒューズ君が間に合わなかったら、確実に魔物の餌食になってたよ。
だって、旦那さんが一緒でも、部外者は農園に入れないからね。
農園に入れない三名を四苦八苦して、どうにか農園に入れようとしている間に自分も食われてたから。
ほんでもって、再度の更に分厚い手紙が出されたよ。
要約すると、ごめんなさい、見捨てないでください。
もう、次は絶対に問題起こさせないから。
迷惑料と違約金とベルゼの森にかかる税率アップした金額を渡します。
フォードさんが、冒険者ギルドから渡された金額の詳細な書類を机に載せた。
うん。
またもや、白金貨が数枚手に入りました。
「ん? これも、硬貨なのかな?」
白金貨より小ぶりだけど、初めてみる硬貨が一枚あった。
水晶にしては、虹色に輝いているけど。
「そちらの硬貨は、虹晶貨と言います。ですが、日常では使われない硬貨になります。というのも、商業自治都市ガストーネが、白金貨の大量保管に盗難や強盗被害を危惧して、担当教区の枢機卿猊下と調整して新しく設けられた硬貨になります。金銭的価値は白金貨の百倍です」
白金貨の百倍の価値がある硬貨?
日本円に換算して十億?
商業自治都市の取り引きでは、こんな価値高い硬貨が使用されるの?
っていうか、この硬貨が迷惑料代わりに出せちゃう冒険者ギルドもギルドだけど。
そんなに、問題ある事案だったのか?
ええと。
ちょっと、頭を抱えたくなってきたよ。
どうするべ?