162 精霊王が土下座しました
「ごめんなさぁ~い」
サーナリア国に蔓延り、長年苦しめてきた元凶の呪詛はあっさりと浄化し終わり、エスカのお願いも叶え、生け贄さんが私に託した遺産も回収して、さあ帰ろうとしたら。
いきなり、天板を戻した祭壇上にお子様ズ以上レオン未満な外見をした少女が土下座状態で現れた。
えっ?
どなた様?
「精霊王、貴女が人の世に顕現するには決まりがあったはずでは?」
はい?
フィディルが舌打ちしたかと思いきや、刺々しい声音で詰問する。
むーと、お子様ズが可愛い威嚇をして、私の傍らにいつでも攻撃しちゃえる体勢で待機した。
レオンやファティマも表情を無くし、少女を警戒している。
えっと、この涙目で土下座している白金の髪と金色の瞳をした美少女ちゃんが精霊王?
いやまぁ、視る限り漏れだす精霊力はフィディル達より上だが、威厳というか精霊王としての風格があまり見受けられないけど。
精霊王?
本気を出したら、十三柱の大精霊の攻撃は無効だわ、下手しら大精霊をもお仕置きできちゃう位階にいる精霊王さんですか?
あの、初対面で土下座はインパクトありすぎて、どうリアクション取ればいいのやら。
推測するに、腕輪関連でフィディルから報告がいき、回収に来たのかなぁ。
白地に色とりどりの糸で刺繍が施されたローブに、金剛石の周囲に十三個の大精霊を表す精霊石を嵌め込んである王を表す額冠を身に付けている。
左腕にも回収した腕輪と同じ腕輪があり、元は対の腕輪だったのだろう。
「済まない。保護者同伴で、許可を貰った」
フィディルの詰問に答えたのは、祭壇の横に新たに顕現した人外さんの同胞な神様だよね。
人外さんと初めて会った服装だし、鑑定するまでもなく人外さんのお仲間だと分かった。
そのお仲間さんは、頭痛がするのか表情を歪めこめかみを揉んでいますよ。
「人の世でエルネストを名乗る兄に習い名乗る。私は死と輪廻を司る神で、この醜態をみせる精霊王の保護者を任されている神だ。人の世ではインパネラという名がある」
「わたしは~、イシュザリアですぅ。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
ああ、迷宮都市を教区に持つ、ベネディクトさん達の保護者さんでもある枢機卿猊下でしたか。
今は、ベネディクトさん達パーティー仲間と私の護衛二人は時を停められて、静止状態にありますです。
ですが、枢機卿猊下は分かるが、精霊王が簡単に名乗るのは駄目じゃないだろうか。
「イス、勝手に名乗る事は禁じてあったはずだが?」
「えっ? でもでも、ミーアさんは大精霊のマスターですし、私の創造主の方のお気に入りですし、大姉様の……」
「黙れ、その情報は禁則事項だ。存在を消されたくなければ、余計な発言はするな」
「でもでも、そうなれば私のお役御免です。私的にはありがたい処分です」
「だから、嬉しそうにするな。お前の役目は、人の世の時間で1万年は交代禁止となった」
「ええーっ。私、聞いてません。私のお役目は、大精霊さん達が世界運営に協力してくださるようにお仕事を頼むのと、大精霊さん以外の非協力的且つお役目放棄する精霊を裁定する事です」
「そうだな。後、この国の精霊樹の監理も忘れるな」
「そうでした。あっ、で。サーナリア初代国王に貸与した腕輪何ですが。見つけてくれてありがとうございました」
インパネラ枢機卿猊下と精霊王さんの会話に、空気と化す私達。
そういや、精霊王はフィディルに早く交代希望出してたな。
大精霊達が最低限しか協力してくれないから、色々奔走に明け暮れ、中間管理職よろしく働かされていたんだっけ。
処罰を希望するだなんて、よほどストレスたまっているみたいだね。
「イス、あの腕輪は初代国王が逝去した際に回収したと聞いたが、嘘だったのか?」
「いいえ。ちゃんと回収しました。でも、回収したのが偽物だったのです。あっ、回収した時は本物だったのですよ。でも、ある日精霊樹ちゃんと精霊姫ちゃんが危ないからって、この国の担当精霊さんに再度貸与のお願いされて貸しました。それから、数世代代替わりした後に、何だかんだサーナリア国が精霊界から見えなくなって、担当精霊さんに回収してとお願いしたら、既に返しましたと返事があったんです。でも、私の手元になかったから、大精霊さん達に捜索依頼しました」
精霊王ちゃんは、えへんと胸を張り経緯を説明してくれた。
あー。
捜索依頼したけど、詳細には伝えてなくて、フィディル達は精霊王がうっかり無くしたと思った訳だ。
だがしかし、腑に落ちないのは、役目を放棄していたレオン眷属のあの精霊が関わっている点にある。
レオンも思い至ったのか、盛大に眉をしかめている。
あの精霊がネコババした説有効だ。
迂闊に貸与した精霊王ちゃんも悪い点があったが、騙されたんじゃないかねぇ。
そもそも、この腕輪が初代国王に貸与された理由も、大陸に唯一現存する精霊樹を守る為に、精霊の加護と防犯対策に力を貸して貰えないか、精霊王のお墨付きがあるよと目に見える証として貸与したと。
で、サーナリア国に想定していた以上に精霊の関心が集まり、精霊魔法師が誕生し、一躍精霊大国にまで発展した。
精霊王ちゃんは、大国にまで発展したから、腕輪の恩恵は必要無くなったと判断して回収したが、担当の精霊から腕輪が回収されてから精霊の関心が薄くなり、精霊樹の守りに難が発生したので、再度の貸与を願われ、何故か短命な精霊姫と激減した精霊魔法師を憐れんで、サーナリア国の内政も鑑みて再度貸与した。
でも、神器にも等しい腕輪が一国に長きに亘り存在するのも諍の種になるから、担当の精霊ではなく枢機卿猊下にサーナリア国の守護関連をお任せする手筈を整え、腕輪を回収した。
が、担当の精霊は既に返却したとの一点張りで、精霊王側に不備があったと主張した。
返却されてないのは自覚があるも、精霊が虚偽の報告する訳がないと思い、自分が無くしたとして、精霊界と地上界をくまなく捜索したも発見に至らずが、現在まで続いていた。
「あの、腐れ精霊。罪状追加だ」
「やっぱり、あの大地の精霊の仕業かな」
「確実にそうだろ。腕輪の恩恵を悪利用して、大精霊にでも成り代わろうとしたかだな」
「分かった。今は牢獄に入れてあるけど、存在抹消するね」
「俺に異論は無い。好きに処分してくれていい」
いかに、大精霊であろうと精霊の存在を抹消する権限は無く、出来るのは精霊王のみ。
位階を降格したぐらいでは、あの精霊は逆恨みするだけ。
精霊王とレオンはあっさりと不用と判断して、あの役目放棄した精霊を庇わず、重い処分を下した。
「じゃあ、これは返しますね」
「んー? ミーアさんなら、所持していてくれても、構いませんよ。だって、大精霊は六柱もいますし。他の大精霊もお願いは叶えそうですしね」
「黙れ。イスは単に腕輪の確認と称して、ミーア=バーシーの所に遊びに行きたいだけだろうが。それは、エルネストが赦さんわ」
「えー、何でですか? 私だって、たまには息抜きしたいです」
まあ、うちの農園は、精霊の避難所扱いされてますがね。
時折、女王陛下も骨休めに来ますけど。
移住希望者が先約です。
彼等が落ち着き、慣れた後なら遊びに来てくれてもいいかな。
それから、精霊王までうちの農園を贔屓にしたら、サーナリア国の精霊大国の名を貶め兼ねないので遠慮したいが本音である。
インパネラ枢機卿猊下とエルネスト枢機卿猊下に、それとなく辞退したい旨を相談しとこう。
「イスは、まずエルネストに申告しておけ。でないと、抹消どころか大量の仕事が舞い込む羽目になるぞ」
「いやぁ! 今でさえ、一杯一杯な綱渡りなお仕事なのにぃ。これ以上は、無理ぃ」
「だから、そうならないように相談は不可欠だ。諦めて、仕事をしろ。それから、御褒美におねだりしておけ」
「分かりましたぁ。不詳、新米精霊王お仕事してきます」
「あっ、これ……」
唐突に現れ、唐突に還っていく精霊王ちゃん。
腕輪返しそびれたや。
どないすんねん。
「あのお馬鹿め。どうやら、それは此度の一件の報酬にあてる気だな。かといって、君にはこれ以上の精霊の加護はいらないだろう。済まない、保管を頼めるか」
「はあ、ではアイテムボックスに死蔵しときます」
「うむ。で、私からも此度の報酬を渡したいと思う」
インパネラ枢機卿猊下からの報酬とやらは、何故に?
担当の教区でもないし、ベネディクトさん絡みでか。
「先に述べたが、私は死と輪廻を司る。死して呪詛に囚われ、己が何者かも忘却した生け贄にされた者達を解放してくれた礼がしたい。本来なら、死した時点で私が呪詛から解放してやらねばならなかった。しかし、あの我々が不干渉を誓約した人物が関与したせいで、エルネストも呪詛には手が出せず、被害者が出るのを見ているだけしか出来なかった。私もだがな」
インパネラ枢機卿猊下は神と崇められていても、誓約一つで救えないでいた呪詛の被害者に対して自虐的に暗い嗤いをした。
ダレンが関わると、不干渉の誓約が働き、後手に回り、救いたくても救えないジレンマを抱える羽目になっていた。
だから、不干渉の誓約を無視できる第三者の関与を待つしかなく、今回は私が間に入る事で呪詛を浄化でき、囚われていた生け贄さん達も輪廻の輪に戻す結果に繋がった。
そのお礼がしたいと言うインパネラ枢機卿猊下だけど、特段お礼とかいらないんだよなぁ。
私的には、ダレン泣かしてやると再確認でき、報復の意志が更に強固になっただけで御の字だし。
「なら、あの生け贄にされた人達の来世が、再度不運に見舞われない人生を送れる配慮をお願いします」
「君は、自分より他人を優先するのか」
「はい。ぶっちゃけ、金銭的財産は自力で何とか稼げますし。人外さんじゃないや、エルネスト枢機卿猊下からもありがたい事に、私的財産も豊富に持たせてくれましたので、生活に困らないですし。うちの子達の頼もしい家族もいますから、滅多に窮地に陥りませんし。今現在、不満や困った案件ないです」
「ああ、そうか。君に必要なのは、教師ぐらいか。まあ、それもエルネストが手配済みだろうしな。アルマニアも、何やら支援したがっていたから、私が出来る事は冒険者ギルド関連ぐらいか。よし、君の領地に自衛組織がなかったな。怪我で冒険者は引退したが、自衛組織として腕が立つ人材を派遣しよう。あれ等も、予備戦力としてくすぶっていたからな、今後の君の領地の発展に横槍を入れる輩程度は排除できる腕前はある。こき使ってやってくれ」
インパネラ枢機卿猊下は、お礼無しは嫌なんだな。
しかも、獣人差別しないできた人材を派遣するといって聞きはしない。
親切の押し売りは止めて欲しいのだが、移住者の安全を考えたらありがたい話かも。
そんで、何かしら問題起きたら人外さんに報告後、叩きだしてやるか。
こうして、着々と領地の移住者が増えていく事になったとさ。