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016 ギルドに行きました

 朝議の結果は、何処までも平行線。

 守護者制度ありきの聖母教会が、精霊に頼るしか術がないなんておかしな話である。

 豚さんに代わり交渉に立った聖職者も、有効な手段を持ってはいなくて、マスター権限を暗に寄越せと言ってきた。

 そこはさ、先ずは頼ってくる女性重視ではないかな。

 職業訓練施設を作るとか、宿泊施設を充実させるとか、他に話題があるはずだけど。

 私より年長者なんだから、案を出せるでしょ。

 金儲けに加担するつもりはない。

 豚さんを追放するだけで、濁す腹なら付き合う気はなくなった。

 女王ちゃんには悪いけど、席を立った。


「ミーア様?」

「暫く街に滞在して、世間を観察してくるよ」

「ちょっと、お待ちください。お一人では危険です。護衛を……」

「いらない。守護者がいるから」


 心配してくれるが、護衛を引き連れて街に降りたりしたら、それこそ襲ってくれと言っているものだ。

 常識を学ぶ前だけど、一般庶民の常識なら日本と変わりがないと思う。

 派手な騒動を起こさなければ、平穏でしょ。


「フィディル」

「はい、マスター」


 ユリスを抱っこして、扉を開く。

 フィディルの魔法で、あっと言う間に街中に出た。

 どこぞのお店から出てきた客に扮して、人混みに紛れた。

 街中に覚えがあるので、ここはライザスの街で間違いがない。

 フィディルも粋なことをする。

 今頃は、王都を捜索されているだろう。

 ファティマとユリスは残してきたお子様ズと合流して貰い、フィディルをお供に街をぶらつく。

 朝議に時間をくったので、人の行き交う姿は其れほど多くない。

 商店街に群がるおばちゃんがいたら、会話を盗み聞きしようと思っていたけど、時間が悪かったみたいだ。

 場所も商店街でも市場でもない、店舗が建ち並ぶ落ち着いた静かな一画に出たようである。

 ふむ。

 気儘に足を向けたら、居住区に行き着いた。

 門番が睨みを利かせているのを見ると、貴族や富裕層が暮らす地区と分かる。

 注意を受ける前に退散だ。


「フィディル。冒険者ギルドに行こう」

「では、案内します」


 土地勘のない私が気儘に歩くより、案内された方が良さそうだ。

 フィディルが、先導で歩く。

 黙々と歩くと、希に荒事専門の団体とすれ違う確率が多くなってきた。

 依頼を受けて郊外に出ていくのかな。

 直に、見覚えのある看板が見えてきた。

 剣と盾に籠手。

 冒険者ギルドの意匠はゲームのままだった。

 ユーリ先輩の手抜きか、私の様に転生なりした旅人を思いやったのか、悩ましい。

 懐かしいなぁ。


「マスター?」

「ん。なんか、先輩達を思い出してね」


 立ち止まる私に、フィディルが声をかける。

 初心者講習から始まり、指名依頼を受けるまでお世話になった冒険者ギルド。

 商業ギルドと同じく稼がせて貰った。

 冒険者ギルドの依頼の中で一番に思い出せるのが、地の大精霊のレオンとの邂逅である。

 まさか、お使いイベントで大精霊と出会うとは、誰も思い付かないでいた。

 ワールドアナウンスで流れた情報を頼りに、精霊を求めたプレイヤーは謎解きが出来なくて、粘着されたのもいい思い出だ。

 まあ、そう言ったプレイヤーは精霊を得られなくて、運営を敵に回した。

 序でに、精霊も敵に回した。

 精霊が慈悲深いのは、主にだけ。

 苛立ちを募らせたら、周囲の精霊も同調する。

 地味な嫌がらせが続いたプレイヤーは、精霊の敵と言う称号がついてしまう。

 返上するには、大変な時間を費やしたと聞く。


「お嬢さん。ギルドに入るのかい? 入らないのなら、退いてくれないかな」

「あっ、済みません」


 感慨無量に浸っていたら、依頼者らしき商人の邪魔をしていた。

 道の真ん中で立ち止まっていたら、そりゃ邪魔だね。

 失敗、失敗。

 脇に退いて、商人に道を譲る。

 商人は慣れているのか気にした様子を見せずに、ギルドに入っていく。

 が、お付きの従者に睨まれた。

 これぐらいで気分を害するのは、商人に向かないね。

 フィディルが間に入り、従者の視線を遮る。

 此方も気にしないでいるので、フィディルの腕を叩き促した。

 あっさりと退く、フィディルに続いてギルドに入る。

 扉一枚隔てたギルド内部は、雑然としていた。

 受け付けカウンターにて、依頼をする人、受ける人、依頼ボードに群がる人。

 年齢、人種様々な人がいた。

 確か、ギルドに加入出来るのは十二才からだけど、十六になるまでは仮の入会だったはず。

 その間の見習い期間は、先輩冒険者が面倒を見るか、街中の依頼しか受けれない。

 これは、プレイヤーも住人も変わらない不文律。

 比較的空いていたベテラン受け付け嬢のカウンターについたら、怪訝な顔をされた。


「冒険者ギルドにようこそ。初めてのお客様ですね。当ギルドに、御依頼ですか?」

「いいえ。加入したいのですが」

「はい、畏まりました。後ろの付き添いの方が、保護者様でよろしいですか?」


 ああ。

 ギルドでも幼く見られているのか。

 背伸びしたいお年頃とでも思っているのかな。


「後ろのは守護者で、成人しています。幼く見えるのは、種族差です」


 守護者の一言に、騒がしかったギルドが静かになった。

 ん。

 なんでだろう。


「お嬢様。守護者がお付きなら、冒険者にならなくても領主館で働くことが出来ます。我が国では、守護者付きの方は優遇されます」

「ご忠告ありがとう。でも、私は冒険者ギルドに加入したいの。ギルドは来る者拒まず、でしょ」

「頑固なマスターは、梃子でも退きません。加入させておいて、領主にでも報告された方が良い案件です」

「……分かりました。加入の書類に記入をお願いいたします」


 ふむ。

 製紙技術は発展している。

 真白い用紙には、特別な魔法が施されていた。

 鑑定すると、要するに依頼で死亡したり、後遺症が残る怪我を負っても、ギルドに責任はないと誓約させるのか。

 守護者を得る為に高額なお布施が必要な現状にて、守護者を連れている私は金持ちのお嬢様に見られたわけか。

 怪我をした責任を、金持ちの親が追求するのを防ぐ目的だね。

 残念ながら、私のバックにはそんな親はいないよ。

 煩く喚く人はいない。

 人外さんが読み書きには不自由しない知識を与えてくれていて、助かった。

 さくさく、記入をしていく。

 名前、年齢、種族、職業は細工師では駄目か。

 なら、精霊魔法師で。

 使用武器は薙刀で、スキルは記入をしない。

 なんで、手の内を晒さないといけないのか。

 不思議だ。


「はい、お姉さん」

「承ります」


 事務に徹するお姉さんが、カウンターに置かれている水晶球に記入した用紙を乗せた。

 水晶球が発光して用紙が吸い込まれていく。

 そして、一枚のプレートを出現させる。

 仕組みが不可思議。

 ある意味、神器に等しいよ。

 ユーリ先輩の錬金術製品かも。


「……えっ⁉」


 プレートを手にしたお姉さんが固まった。

 ぎこちなく、私を窺う。

 なんか、おかしな情報でも載っていたかな。


「失礼致しました。此方が、お嬢様のギルド証になります」


 内容を言わないだけ、プロ根性である。

 ギルドの受け付け嬢には、守秘義務が課せられていて、違反したら即禁固刑。

 酷いと、鉱山送り。

 ゲーム内での情報だけど、合っているかな。


「どうも、ありがとう」


 渡されたプレートは、ミスリルで出来ていた。

 記載してある情報は、用紙に記入をした内容である。

 何が、琴線に触れたんだろう。


「あの、お嬢様。以前に、他国で手続きをされたことがありますか?」

「ないけど、何故?」

「お嬢様のギルド証には、未精算の情報があります」


 はあ。

 転生してからは、一度も戦闘らしきものをしたことがない。

 なのに、未精算とは摩訶不思議。


「マスター。恐らく、留守番の子達の仕業ではないかと」

「レオン達?」

「はい、昨日の自由時間に遊びに出ていましたから」


 あー。

 守護者の討伐記録が主に反映したらしい。

 何て、お邪魔な仕組みである。

 おちおち、遊びにいかせられないじゃんか。


「お姉さん。理由が判明したけど、詳しく言えなくなりました。取り敢えず、保留にしてください」

「分かりました。後、これをお読みください」


 カウンターに差し出されたのは、短い文面だった。


『初加入でミスリル証は、本来なら有り得ません。先ずは銅証から始まります。身辺、お気を付けください』


 なんか、やらかした様でした。

 そう言えば、周囲の騒がしい空気が鳴りを潜めている。

 頻りに、こちらを気にする視線が増えてきていた。


「ありがとう、お姉さん。まぁ、伊達に場数は踏んでいないから。後、規則が載っている冊子とかはないの?」

「あら、済みません。此方が、ルールブックです。基本的に、ギルド員同士の揉め事には不干渉です。しかし、国の法律に触れた場合は、ギルドから追放されます。ギルドは民間組織ですが、個人の罪を庇い、国と矛を交える気はありません」


 まっ、当然だよね。

 荒事専門の団体だけど犯罪者の溜り場ではないし、職業軍人さんには負けるからね。

 冊子は宿にでも落ち着いたら、拝見しよう。

 お姉さんの気遣いに感謝して、踵を返した。

 今日は、依頼は受けるつもりはない。

 けど、依頼内容が気になり、依頼ボードを覗いて見た。

 ボードにはランク分けして、依頼票が張り出されていた。

 ブロンズ、アイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコン。

 八階級。

 うん。

 六階級もスキップしたら、自分でも驚くわ。

 一体、お子様ズは何を狩ったんだろう。

 亜種の竜とかではないのを、祈ろう。


「……い! おい、お前。守護者持ちなら、俺達のパーティーに入れてやる。光栄に思え」


 でも、うちの子達の自由を奪う権利はないしなぁ。

 大精霊だから、向かうところ敵無しなのだろと思う。

 最悪、器が壊れてもスペアボディは確保してあるけど。

 ユーリ先輩がいない現在は、品質の高いスペアボディを消耗したくはないしなぁ。

 シェライラか女王ちゃんに、発注してみようか悩む。


「おい、無視をするな‼」

「マスター、羽虫をどうしますか?」

「無視、一択」

「貴様‼ 俺達はゴールドランクの冒険者だぞ」


 カウンターを離れたらすぐに、テンプレな勧誘擬きの脅しがかかる。

 男性ばかりのパーティーに、誰が入るものか。

 下品な思考が丸分かりだ。

 大方、男性体の珍しい守護者を好事家に売り払う算段もしているのだろう。

 私はお楽しみな後に、奴隷商行き。

 馬鹿らしいので、無視を決め込んだ。

 ゴールドランクとやらに、脅威は感じない。

 私の方が高いしね。

 だけど、少しがっかりだ。

 成り行きを見守る人の中で、危険に足を突っ込むお人好しはいないらしい。

 日和見な冒険者が多いのか、私の実力を計りかねているのか。

 はたまた、守護者のフィディルを警戒しているのか。

 ギルドを緊迫した雰囲気が支配していた。


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