158 お叱りをうけました
あー、すっきりした。
見たくもないゾンビが出現したのもあり、単にちまちま支援魔法やら攻撃魔法放つのに飽きたので、大技ぶっぱなしました。
で、綺麗さっぱりと呪詛本体が産み出した魔物を一掃してやりました。
「……バ、バーシー伯爵! 貴女、何をされるんですか。いや、魔物を殲滅されたのは我々も助かる行為ですけど。大変有難い助力してくださった訳ですけど。貴女、我々が知ってはいけない秘密を簡単に披露しないでください」
「シュミット。お前が怒るという事は、我々は禁則事項を垣間見たのだな」
「ええ、そうです。如何に、我々がインパネラ枢機卿猊下よりエルネスト枢機卿猊下の秘蔵っ子である方の情報を口外したり、文書に残したりした場合、課せられた誓約魔法により生命を喪っても自業自得ですが。果たして、墓所から生きて出られるのか、想像したくもないです」
あれ?
もしかして、私はやってはいけない事を、やらかしたんだろうか。
ベネディクトさんパーティーの魔法師さんに、盛大に感謝されたのか、嘆かれたのか分からない発言されてしまった。
私に突進しそうな勢いだったため、護衛の本分をいかんなく発揮したアーガストさんとアレクシスさんが間に立ちふさがり、魔法師さんは足を止めたが、懇願するような困った視線で伺ってくる。
ありゃ、これは表の姿の人外さんに話をつけてくれとのお願いかなぁ。
しかし、何が駄目だったのやら。
「シュミット殿。我々も武の一門の家系故に、バーシー伯が為された行為の何が貴殿達の生命が危ないのか。できれば、教授願いたい」
魔法師さんの発言に、ベネディクトさん達パーティー仲間が皆さん項垂れたのも相成って、代表してアーガストさんが質問した。
呪詛さんや。
ちょいと、静かに待て。
まあ、反撃する余裕がないのは、呪詛瘴気汚染がほぼ解消されたので、新たに魔物を産み出す余力がないのは把握しているので、質疑応答時間に入っても大丈夫ではある。
私も、かなり背中に暗雲背負っている皆さんが、ひじょーに気になった。
「あのですね。私以外は、バーシー伯爵が詠唱された魔法言語は理解してませんので、一番危険因子になったのは私です。が、我々もサーナリア国王に依頼されて墓所攻略している訳であり。バーシー伯爵については守秘義務が課せられてますが、攻略報告はしないとならないのです。それで、バーシー伯爵が道中魔法を行使されたことは報告しないとならないのです。これは、依頼内容に添っているか最低限報告しないとならない義務で、虚偽の報告を冒険者ギルドの頂点に座すベネディクトがする訳にはいかないのです」
ああ、うん。
冒険者なら、依頼内容に応じて報告義務あるからね。
ましてや、国王からの依頼に冒険者ギルドの頂点たる英雄王が嘘を吐くわけにはいかないのは、誓約が課せられているからだろうとは推測できた。
依頼文書にも一種の誓約魔法が使われているからね。
でないと、依頼を受けた冒険者が、金銭をちらつかせて上位の冒険者を雇い、代わりに依頼を達成して、さも自分が達成したと虚偽の報告をしてくる輩がいて、貢献度を満たし実力にあわないランクにあがる不正に繋がるからだし。
不正して上位ランカーになった冒険者が、無謀な依頼を受領し達成出来ず、なにがしかの問題を起こしたら斡旋した冒険者ギルドの信用にも障りがあるから、苦肉の策だったりする。
で、そんな冒険者ギルドの頂点に座すベネディクトさんが、私に関する内容の報告をしないでいたら、違反になるんだろうな。
ましてや、私に関する情報を気軽に他者に話さない誓約を既に課せられている身では、私が行使した魔法の詳細は語れない。
でも、報告はしないとならない矛盾が発生してしまった。
また、何やら禁則事項に触れる魔法を行使された。
これは、詰んだ、となった訳か。
「問題は、バーシー伯爵は難なくホーリー系統の魔法を行使されていた件にあります。ユークレス卿やウィンチェスタ卿が魔法に明るくないのは、私も理解しましたが。バーシー伯爵は精霊魔法師だと公表されてます。ホーリー系統の魔法は、神聖魔法に分類されているんです。まあ、バーシー伯爵がエルネスト枢機卿猊下の秘蔵っ子だとは知らされてますので、おそらくエルネスト枢機卿猊下にご教授されて学ばれたとは言えます。で·す·が! ジャッジメント系統は、司祭クラスでも数名しか行使できません。ましてや、上位版のディバインを冠する神聖魔法は枢機卿猊下クラスしか行使してはならないんですよ」
おやまあ。
私は、精霊魔法を行使したはずだが。
いつの間に、神聖魔法なんぞを行使した訳かいな。
『ファティマ。ディバインジャッジメントって、ファティマから習得したけど。何故、神聖魔法に分類されてるのか分かる?』
『そうですわね。わたくしも、不思議に思うのですけれども。マスターは先程、神々にも請願為されました詠唱句を覚えておられますか?』
『へっ?』
『無自覚でしたか。推測になりますが、マスターが習得された精霊魔法の一部は神聖魔法や古代魔法に上書きされている可能性が高いかと思われますわ』
『マスター。精霊王より伝言です。マスターが習得された精霊魔法は、いわばこちらの世界では古代魔法にあたり、神々との取り決めにより一部詠唱句に修正が入ったと。それから、聖の精霊魔法は神聖魔法の見本となったが為に、マスターは精霊魔法のつもりで神聖魔法を行使されたそうです』
『ええー? でも、ステータスに神聖魔法なんぞ記載されてないけどなぁ』
ジャッジメント系統をスパルタ方式で習得させたのはファティマだ。
ああ、でもゲーム内には神聖魔法とやらは無くて、聖職者達は法術だとは言っていたな。
ファティマ曰く、この世界を創造した神々は法術に代わる聖職者の魔法を神聖魔法として統一する見本に、聖属性の精霊魔法を選択した結果が、私が習得した精霊魔法も神聖魔法と見なされる事にあてはまったのか。
そういや、神々云々詠唱してたな。
おかしいと思わない自分は、人外さんによってこの世界の理に添うように無意識に意識改革されているからか?
フィディルも精霊王からの伝言を伝えてくれたが、ステータス表示しても神聖魔法の……おい、人外さん。
何、ちゃっかり修正しやがりましたか。
スキル一覧に、神聖魔法と古代魔法追加するなや。
ステータス表示して、現れた新しいスキル一覧に燦然と記載された二つの魔法に突っ込みいれたら。
ピロロン。
ゲーム内でのメール受信音が鳴った。
果たして、送信相手は人外さんだった。
『ミーアちゃん。ちょっと、何で、ほぼ初対面の人間がいる場所で、あんな秘匿魔法使うかなぁ。まあ、インの釘刺しされた人間だから口外されたりはしないだろうし。護衛の二人も、女王や宰相さんにしか報告はしない人柄だろうけど。ミーアちゃんの知人なんで、人知れず処分はしないでおく代わりに、記憶操作はするからね。いーい、ミーアちゃんが人前で披露していいのはホーリー系統だけにしてね。それなら、エルネストの名で周囲は黙らせるから。ああ、ミーアちゃんの周りにエルネストの配下、この場合は聖職者だね。これを配置しなかったぼくのミスだぁ。誰を配置しようかな。うーむ、困ったな』
人外さん、フォローよろしくお願いします。
が、勝手にスキル追加すんな。
そこは、抗議しておくからね。
「バーシー伯爵、聞いておられますか?」
「あっ、ごめんなさい。じ、じゃないや、エルネスト枢機卿猊下からお叱りのお言葉が、ですね」
「……それは、我々の処分も?」
ファティマ達と念話で会話していたら、魔法師さんがかなりヒートアップして神聖魔法の希少性を訴えていた。
念話に意識が向いてたので、内容はあまり聞いてなかったけど。
聖属性の適性持ちは希少価値が高く、ほぼ神聖国に所属する聖職者であり、浄化や治癒特化なら聖女や聖人待遇だとか。
でも、神聖国所属の聖女や聖人は他者に尽くすのが当たり前、自分の名声や称賛には目もくれず、傲った精神の持ち主はいない出来た人材であった。
反面、聖母教会が母体の教国の聖女(聖人は無し)は、対価に莫大な金銭的寄付を要求するわ、宝石や何処で着るのか分からないドレスなんかも直球で欲しがるわ、下世話の事に見目良い男性を所有したがっているらしく、評判は最悪。
腐ってるなぁ、聖母教会。
帰国したら、真っ先に潰すか。
いかん、逸れた。
私がエルネスト枢機卿猊下の名を出したら、ベネディクトさんまでもが神妙な面持ちでいる。
日本なら正座待機してそうだ。
「エルネスト枢機卿猊下は、皆さん、私以外の方をどうこうする気はないそうです。ただし、皆さんが嘘つきと糾弾されないように、記憶は改竄する妥協されました」
記憶改竄なんて人格無視した非合法な処置だと思うのだけど。
魔法師さんやベネディクトさん達は安堵した模様で、安心したのか床に膝をついた。
「良かった。冷酷無比なエルネスト枢機卿猊下においては、寛大な慈悲に感謝しかない」
「魔法言語を理解した私なんて、真っ先に消されてもおかしくはなかった。ああ、ご慈悲に感謝を」
「これで、嫁を未亡人にしなくて済んだ。息子よ、父ちゃんは生きて帰れるぞ」
「こっちもだ。未亡人になった嫁の行く末が、場末の娼館にならなくて良かった」
数名泣いているが、そんなに厄介極まりない出来事だったんかいな。
メールで済んだけど、これは後日人外さんによるお説教が待ち構えていそうだわ。
日常的常識とあわせて魔法関連の教師の必要性大。
勉強はあまり好きじゃないんだけどなぁ。
今のままだと、周囲を巻きんでひそかに処分されていたら、引きこもりになるしかなさそうな未来が……。
考えてみたら、それこそが待望のスローライフ満喫になるのか?
農園こそ貰ったが、全然スローライフ出来てはいない現状を鑑みたら、それも有りか?
『マスター、諦めろ。マスターの性分だと、絶対に厄介ごとには首を突っ込むから』
『レオ兄、言い過ぎ』
『マスターは、優しいんだよ』
『……セレナやエスカを助けてくれたマスター。人助けするマスター、セレナ大好き』
『エスカも!』
『ユリスも!』
『わかっているってば。俺だって、マスターは尊敬してる』
普段好意を口にしないレオンは、別な言葉で好きだと言ってくれる。
勿論、ファティマもフィディルも好意を口にする。
可愛いうちの子達に和まされました。