157 飽きたので大技ぶっぱなしました
休憩時間はきっちり休憩する。
これは、冒険者において、迷宮探索等ではお約束な決まりごと。
疲労が蓄積した状態で階層主のフロアマスターやら、ボスクラスの魔物に相対したら、確実に命を捨てにいっている自爆行為でしかない。
なので、ベテランパーティーはちゃんと準備万端な休憩用の飲食物を持参している。
今回、ベネディクトさん達も疲労回復を促す飲食物を各自で食べている。
で、私というと農園作物のバフ効果満載な軽食だったりするので、護衛の二人に揃って溜め息吐かれた。
「これが、妹が忠告寄越した農園産の他国に輸出とか出来ない禁制の食べ物か」
「自分の鑑定スキルで見た情報を、気軽に話せない食べ物を出してくるバーシー伯に、どう突っ込みを入れてよいやら。分からん」
「ある商業ギルド長が、商業自治都市で自慢しまくっている農作物だとも聞いたが」
「今まで、農作物に精霊の加護がつく事がなかった事象故に、大叔母上も悩ませている案件らしい」
「世間では、行き場を無くした子供を酷使するどころか、一般的な農園従事者並みの給金と衣食住を負担している優良農園として有名になりつつあるがな」
「ああ、留守役の代官に任命された役人が、募集してないのに、雇用希望者が百人単位で連日押し掛けてきては、提携している冒険者ギルドの巡回組とライザス領主が派遣してくれている騎士に阻まれていると泣きの連絡があった」
アーガストさんとアレクシスさんは、何やら仲が良くなってきたみたいで、こうして愚痴を言い合うのだが。
目の前には、農園主がいるんだけどね。
わざと、聞かせる発言かいな。
そりゃあ、留守番のフォードさんから、うちの子経由での報告で訳ありを含む雇用希望者が押し掛けてきているとあったが。
ランカの領地への移住希望者は、バウルハウト侯爵家やアルバレア侯爵家から身元保証された各十軒の家族がお試しとして移住してくる予定となっている。
また、ロンバルディア国からも、農業を学びにある一族を受け入れることになってもいる。
だから、獣人に忌憚なくお付き合いできる家族しか受け入れはしないとは両侯爵家には通達してはいたりする。
おめがねに叶った家族が移住してくるのは、私が帰国してからになる。
それから、先住の元養護院の子供達を見下したりしない性格の人材しかいらないとも条件は付けた。
最も重要な項目としては、目先の欲に逸って盗難したりしない、うちの農園の秘密(精霊豊富な避難場所)を暴露しない誓約を課すのを忘れてはいけない。
まあ、盗難者が出たら、即農園から排除の上、犯罪履歴がつき、破門の末路だろうがな。
ああ、元養護院の子供達の保護者を担ってくれる母親代理には、かつてはライザスの聖母教会に従じていた元年配のシスターが就任してくれ、徐々に慣れていった子供達からお母さん呼ばわりされて感謝のお手紙いただきました。
元シスターだけに治癒スキルもあり、病気の子供を甲斐甲斐しくお世話して信頼を得ていったそうだ。
少女達のリーダー役だったメイベルちゃんも、重責が外れ甘えれるようになったのが、ちょっとだけ悔しい気もする。
雇用主と雇用者の立場が私達にあったから、仕方ないといえば仕方ないのだけれども。
そんなこんなで、農園やランカの領地に関しては、留守番役の人材に任せておけるので心配はいらないだろう。
何かあったら、フィディルの転移で帰れるので、その辺りは適宜対応していこう。
バフ付き軽食はベネディクトさん達にも振る舞い、休憩をしっかり取り、疲労が解消したので、攻略再開と相成った。
最奥の祭壇までは一本道だったので迷いようがないのと、ベネディクトさんさん達パーティーの経験豊富な差配で呆気なく到達し、直前の罠ありセーフティエリアで休憩を取り、私が持ち込んだバフ有り軽食のお陰で、気力体力魔力は完全回復していた。
で、件の祭壇前には扉はなく、半透明な結界が敷かれていたも。
〔王室の人間無き場合は、退散せよ。王室の血脈のみ、道は開かれる〕
との大陸共通語で書かれた文章があり、これはサーナリア国王の庶子のベネディクトさんが結界に触れたら消失した。
ああ、これがあるからベネディクトさんが同行した訳か。
てか、ベネディクトさんや。
逸る気持ちは分からないでもないけど。
貴方、お喋り君と同じミスしてますよ。
祭壇に何があるか理解してたでしょうが。
「ファティマ!」
「はい、マスター」
阿吽の呼吸で、ファティマによる呪詛瘴気対抗結界を全面に展開する。
「ベネディクト!」
「おい、こら。リーダー、ハイルと同じことやらかすなっての」
「す、済まない。バーシー伯爵、申し訳ない」
長年サーナリア国を呪詛してきた本体の源があるんだよ。
仮初めだが意思があるんだよ。
呪詛を浄化する輩がやって来たら、問答無用で排除一択じゃないか。
千人は余裕で入る祭壇の間には、呪詛が産み出した魔物と呪詛瘴気がこぞって襲ってくるのは分かりきっているはずだ。
詠唱していたら間にあわないから、ファティマに魔力を対価に譲渡してこちら側も結界を張る。
呪詛瘴気は既に渡してあるアイテムで対抗できるけども、流石に本体から溢れる呪詛瘴気は汚染濃度が高い。
また、産み出される魔物の種類と数が桁違いになっている。
ミイラ、吸血蝙蝠、見たくはなかったゾンビ、物理攻撃無効のリッチ等々。
広い祭壇の間を埋め尽くす勢いで魔物がねぇ。
「取り敢えず、魔物の数を減らす」
「「「了解」」」
「私の護衛はうちの子達に任せて、アーガストさん、アレクシスさんも加勢してあげてください」
「「承知」」
先ずは、魔物を殲滅しないと呪詛の本体に近付けない。
皆で、魔物殲滅しましょう。
「【浄化の雨よ降れ。ホーリーレイン】」
私は広範囲に弱体化を促す魔法を行使して、物理無効のリッチ優先して攻撃していこう。
防御はうちの子達を頼りにして、攻撃に専念。
私の意を汲んで、棘の檻に閉じ込められたゾンビを氷結後に粉砕させるエスカとセレナコンビ。
水幕に取り囲まれ足止めされたミイラを床素材の先が尖った石柱で核を貫き消失させるユリスとレオンコンビ。
私の負担軽減とばかりに、ベネディクトさんパーティーとアーガストさんとアレクシスさんに、支援魔法と簡単な治癒を施し魔物殲滅を率先してやらせるファティマ。
空間魔法を駆使して私がリッチを駆逐しやすく支援するフィディルは、他の人達が討ち漏らした魔物を空間圧縮と空間断絶で殲滅に一役かっている。
襲撃してくる魔物越しに呪詛の怨念みたいな悪意満載な気配は感知できているが、本体が視認できないや。
ベネディクトさんパーティー側も初動の焦りは失せ、的確に魔物の数を減らしていっている。
アーガストさんとアレクシスさん即席コンビも、徐々に連携を取りながら魔物を殲滅していっている。
「【聖なる光よ。不滅なる御霊を滅し、輪廻の輪に還せ。ホーリーランス】」
ベネディクトさんの仲間の魔法師さんは光属性持ちであるが、リッチ等の死霊系統の魔物に対抗する魔法はライトアローか、浄化のピュフュリケーションの二択だそうで、その二つの魔法が効かない魔物に対してはインパネラ枢機卿猊下謹製の護符を消費して討伐するしか手はないと先に報告済み。
よって、リッチ系統は私の担当となった。
うん。
私は聖属性の大精霊のファティマが守護者でもあるので、ホーリー系統魔法は網羅している。
連発してもそれほど魔力消費の負担はかからないのと、魔法効果大のアクティブスキルの相乗効果も極まり、魔法一発でリッチは撃退できた。
防御はうちの子達に任せていいと伝えてあるが、英雄王の二つ名持ちパーティーと、剣技を磨いてきた護衛役二人も物理攻撃無効特性の魔物以外は見事に、私に近寄らせない活躍しています。
しかも、体力のペース配分をわきまえて、的確かつ最小限の行動で魔物を殲滅している。
皆さん、なかなかにやりますなぁ。
若干の汗は見られるも、体力や集中力切れを起こさない余力を残しての魔物殲滅行動に、所属する国や職業は違えど、根っこの部分で似通った闘いの基幹を学んでいるんだろうね。
また、ベネディクトさん達なら、冒険者として王侯貴族や一般庶民からの数多ある依頼内容に準じた討伐や護衛や迷宮探索に応じて習得した冒険者の心得。
アーガストさんは女王国の騎士団総長を務め、騎士として国民を守護する盾であり剣であった誇り。
アレクシスさんは敵対していたロンバルディア国との侵略戦争を間近にあり、領主の家系故に率先して先陣をきり、領地や領民の安全を優先してきた貴族の義務の体現。
それぞれが、今まで生きてきた道筋から称賛に値する結果が、私の傍らに存在している。
にわか貴族の私には、眩しすぎるなぁ。
だからといって、私も負けてはいられない。
何せ、こちとら人外さんからいただいたチートな恩恵がありまくりだ。
小一時間ぐらいは平気で魔物と闘えちゃう方々だろうけど、こっちも敢えて呪詛の本体にあわせて消耗戦なんかしてあげる必要性なくない?
「いい加減、飽きました。大技いきます」
「バーシー伯爵?」
「バーシー伯、何を?」
ちょいと、呪詛さんや。
あんたに付き合うのは、止めた。
短気だと思うなかれ。
こちとら、立派な作戦だ。
訝しむ発言は無視して、大技いくよ。
「【我に加護を与えし神に請願す。我と契約せし大精霊に懇願す。ミーア=バーシーが対価を捧げん。我と我を護衛せし者達を阻む魔物を殲滅せん。さあ、高らかに神々の威光と裁きよ下れ。ディバインジャッジメント、&、エレメンタルハーモニー】」
私が選択した魔法は、神々の権能を模した裁きの威光と、荒ぶる神々の威光を抑えかつ呪詛瘴気が産み出す魔物の原因の源を浄化して、祭壇を元のあるべき姿に戻す調和を促す魔法である。
人外さんが墓所外で待機しているから、助力してくれないかと願ったら、惜しみ無く助力してくれたさ。
呪詛瘴気の源がある限り産み出され続けていた魔物は、神々の裁きの力になすすべなく一体も残らず消失した。
そこへ、消失した魔物の残留物である瘴気をファティマ主導で浄化して、祭壇の間を綺麗さっぱり呪詛瘴気汚染から解放した。
かなり、対価として魔力を消費したが、呪詛本体を浄化するにはまだまだ余裕ある。
さあ、本番のクライマックスが迫ってきたぞ。
次は、呪詛本体だ。
失敗する気は更々ない気分である。
鬱陶しい魔物が産み出されなくなり、呪詛本体を視認できるようになった。
うふふ。
どう料理してやろうかな。
「マスター、きれちゃったね」
「でも、早く終わりそうだから、結果オ~ライだね」
「……マスター、ガンバ」
お子様ズ、声援ありがとう。
やり返すのは、正統な手段だよね。
背後で、フィディルとファティマとレオンが諦観の溜め息吐いたのは気にしないでおく。