表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/327

153 獅子身中の虫がいました

 最終的に、私が提供する呪詛瘴気無効化付与付き指輪は、墓所攻略終了時までの貸与となった。

 ベネディクトさんの仲間で一番若い二十代ではない少年が、もったいないとか呟いたものの。

 指輪を鑑定した魔法師さんが、買い取るならと提示した金額の高額さに仰天し、ベネディクトさんに拳骨食らい沈黙した。

 そして、他の仲間さん達にお叱りを受ける羽目になった。

 それから、貸与の誓約に関してはエバンス司祭(IN人外さん)が承認し、貸与された皆さんの左手の甲に証の紋章がはっきりと残された。

 きっと、返却されなかったら、誓約を違えた証に左手消失するんだろうな。

 皆さん、全員絶対に返却すると公言したからね。

 で、漸く墓所攻略へと。


「うわぁ、真っ暗だ」

「うむ。確か、陛下の話では、墓所に入室すると自動で魔法具の照明が灯る、はずなのだが」

「【魔力よ、光為せ。ライト】」

「……一瞬だけ光り、消えたな」

「まだ、入り口だからか、外部の光が差し込むから、うっすらと見えるが」

「光がなければ、内部に入れないな」


 ああ、うん。

 想定外な事態になったとさ。

 墓所、所謂王室の方々のお墓は、城の外れに位置する聖堂から地下に降りた先にあるのだけど。

 聖堂内部では、ちゃんと照明の灯り魔法具は正常に作動していたが。

 墓所へと至る扉を潜った途端、内部は闇に包まれていた。

 入り口付近だと、聖堂内部の照明が僅かに入る為、一応視認はできるけども先に進めば暗闇に呑まれるのは必須。

 そんな状態で襲われたりしたら、下手すれば仲間同士で傷付けあうことになる。

 まあ、暗視のスキルや気配察知のスキルレベルが高ければ、同士討ちにはならないけど。

 打開策にと魔法師さんが灯りの魔法を行使してみると、一瞬だけ光の塊が出現した後すぐに消えた。

 ベネディクトさん達は、何故消えたか理解してないらしい。

 手持ちの魔法具らしきカンテラを取り出して火を灯したが、こちらも不発に終わった。

 いや、あのね。

 ここは、王室のお墓なんで魔法で破壊されないように、魔法阻害の魔法陣が扉に描かれてたんだけど。

 なんで、気付いてないんだろうか。


「ふむ。こちらの、魔法具も駄目か」

「ああ、自分の灯り用の魔法具も作動しないな」


 アーガストさんとアレクシスさんも、試したのか灯りの魔法具は反応しなかったぽい。

 いや、だから。

 皆さん、これを認識しようよ。

 仕方ないなぁ。


「はいはい、皆さん。注目、注目」

「ん? バーシー伯爵、どうされたか」

「はい、こちらの扉に描かれている模様は単なる装飾ではありません。墓所内部で、魔法及び魔法具が作動しないよう阻害する魔法陣です。よって、始めから墓所内部に設置されている灯りの魔法具以外では、灯りは原始的な松明による灯りしか手段はありません」

「なんと? 言われて見れば、確かに魔法阻害の魔法陣でした。いや、ですが。バーシー伯爵に説明されるまで気付かないのも、おかしいですね。ああ、魔法陣にも認識阻害の効果があるのか」


 あっ、本当だ。

 魔法師さんに言われて、私も気付いた。

 魔法陣自体にも、認識阻害ついてたぞ。

 だがしかし、私は認識したけど?


『マスターの規格外な魔力保持量と魔力の質が、こちらの世界の住人とは違いますから。その結果、認識できたかと』

『おそらくですけれども。マスターの魔法は、阻害できない仕組みみたいですわ』

『ですが、単なるライトの魔法では駄目だと思います』

『そうですわね。呪詛瘴気も関係致しますから、わたくしの分野かと思われます』


 穏行しているフィディルとファティマからの念話による説明に、微妙に納得した。

 私みたいなイレギュラーな異世界転生した人種だと、こちらの世界発祥の阻害魔法は効果はないと。

 規格外なとか魔力の質とかは、聞かなかった振りしておく。

 イレギュラーの存在を、全面支持しときます。


「【聖なる光よ、浄化の光よ、灯れ。ホーリーライト】」


 ファティマ分野の聖属性の魔法によるライトは、ちゃんと発動した。

 一つだけだと、まだ暗いので都合五個ほどホーリーライトを頭上に展開させた。

 これで、ベネディクトさんパーティー五人、私側三人がかなり広く間を開けても、暗闇に阻まれる事はなくなった。


「おおう、一気に明るくなった。しかも、何か墓所に入ってからの、重苦しい感じもなくなった」

「……そりゃあね。光魔法の上位魔法な聖属性の光だからな。浄化の効果付きだ」

「うわっ。聖属性って、神聖国の聖職者か、教国の聖女並みに、貴重な属性じゃんか」

「よし、ハイル。お前は墓所攻略が済んだら、エバンス司祭にまた誓約を交わさせる」

「リーダーに賛成。お喋りハイルの口の軽さには、厳罰が必要だな」

「「賛成」」


 あら?

 また、私はやらかしましたか?

 ハイル君とやらが、パーティー仲間から盛大に突っ込み入れられているのをみるに。

 ハイル君はお喋り好きなんだ。

 で、質問されたら、気軽に答えてしまう懸念持ちなトラブル体質とみた。

 ギルドの依頼には、守秘義務とかあるんだが。

 ハイル君は、よく今まで平穏無事に冒険者やってられたなぁ。

 まあ、年長者達がフォローとかして、莫大な違約金とか支払う展開を、何とか逃れてこれたが正解だろう。


「はい、質問。教国って、神聖国とはまた違う国なんですか?」


 ハイル君の教国の聖女云々が気になったので、聞いてみた。

 ホーリーライトを見上げていたアーガストさんとアレクシスさんが、眉をしかめて口元も歪めた。

 フィディルとファティマの念話もない。

 聞いたのまずかったのかな。


「そうだなぁ。バーシー伯爵の国の方には悪いが、教国は一言で表せば聖母教会がある大国に庇護されて戴いた一領地なんだが。神聖国は国としては認証してはいない、聖母教会が勝手に国と喧伝している土地を揶揄しているだけなんだ」

「噂では、神聖国の枢機卿達が、聖職者に非ずと資格を剥奪した元司祭やら司教等が行き着き、神聖国に対抗して剥奪された経緯を美化して、如何に自分達が聖職者として有能だったか吹聴し、大国の威を借りて神聖国を貶めている集団にしか過ぎない。だから、教国とは名ばかりな自称集団なんだがな」

「奴ら、なまじ着服した資産は膨大であるせいもあり、治癒に特化した人材を幼少期から集め、その保護者には支度金と偽り、多額な金をばらまいて、人買い紛いな手法で教会に所属させて、治癒師の適性ある子供を洗脳して、使い潰しながら、世間には認知された曰くある集団でもある」

「枢機卿側も、教育された子供を保護したくても、洗脳された子供は教会からは逃げる意志がないせいで、保護できない現況だよ」


 成る程。

 聖母教会も女王国から独立して、私腹を肥やそうと画策していたと。

 ついでに、錬金人形の教本も奪取しといて、女王国の錬金人形を不完全な紛い物と糾弾し、聖母教会で独占販売して、女王国をも傘下に下そうとか下らない野心を狙っていたのもあり得る話か。

 ただ、聖母教会もまさか、ユーリ先輩が公表していた教本が、まともな教本でなかったのが運の付き。

 現在、宰相閣下が以前の教本は、複製時に間違い箇所が多々ある翻訳が為されていた旨を公開して、私提供の修正された教本を無償配布している。

 これにより、元女王候補者で錬金人形を製作できる市井に下った錬金術師や、私塾を開く錬金術師達には性能が上がった錬金人形が製作できたと高評価を得られた。

 対して、古い初代錬金女王の教本を頑なに指示する聖母教会縁の錬金術師は、出来の悪い錬金人形しか製作できない、守護者となり得る精霊も解放されて宿る当てのない錬金人形を製作する悪循環にはまっているのを自覚してはいない。

 宰相閣下的には、いつでも聖母教会にしがみつく教会関係者を追い出す算段はつけているそうである。

 閑話休題。

 で、話は変わって、教国何だけどさ。

 大国も馬鹿ではない。

 利用価値がないと判明されたら、見放されるのは確実だわな。

 私が手を下す前に、自滅しそうだわ。

 放置しとくかな。

 しかし、治癒特化した子供を半ば人買いさながら確保だなんて。

 教国も詰んだな。

 サーナリア国にも人外さん配下が重要な地位に配置されているから、あちらも既に手は回ってそうだね。

 二度目だが、放置しとこう。


「バーシー伯爵、少し内密な話がしたい。護衛の方、バーシー伯爵には決して危害は加えないと誓う。少し、離れて欲しい」

「了解です。アーガストさんもアレクシスさんも心配なく。ベネディクトさんの全身全霊の攻撃は無力化できるので、お構い無く」

「そう、はっきり言われると自分に自信はなくなるが。概ね、事実なのでバーシー伯爵には害はない」

「バーシー伯が、そう言われるのなら事実でしょう。分かりました」


 付き合いはないに等しいけど、アンナマリーナさんから危険人物(煽るな危険)認定されている私なので、シスコン兄は妹からの取り扱い注意事項を遵守するらしい。

 逡巡するアーガストさんを制して、私から距離を取った。

 ベネディクトさんはホーリーライトの灯りと浄化の範囲内からは出ない離れた位置に私を促して話を切り出した。


「我々が女王国へ謝罪に訪れた際、聖母教会の上位聖職者が接触してきた。その時の内容では、バーシー伯爵が教国の聖女でも治療できない、四肢欠損した怪我をも難なく治療したとあった。真実なら、教国だけでなく大国からも狙われると思ってくれ」


 ナイルさんの怪我治療の時の話か。

 治療内容を見ていた治療師と薬師は、グレイスの誓約で話したり文章に残したりしないように縛ったはずだっが、そういえばどちらかが死体で発見されたんだっけ。

 尋問だったか拷問受けた節もあり、あの時の内容がばらされた可能性が高いんだったな。


「ある大国の国王は隻眼で、治療師を招聘しては、治療できなかったら腹いせに牢獄に入れ、生き延びた者はいない。また、ある大国の唯一の継承者は何らかの病に侵され、有能な治療師を探している。こちらも、全快には至らないが回復させた治療師を、強引に引き留めているそうだ。その治療師はさる国から派遣された人材で、本人は帰国したいが軟禁状態にあると聞く。バーシー伯爵は、枢機卿の中でも苛烈な断罪を行うエルネスト枢機卿猊下の後見があるが、気を付けてくれ」

「了解です。でも、今回の墓所攻略で、ベネディクトさん達が怪我したら、回復はやりますよ」

「分かっている。が、ハイルには情報を渡すな。あれは、隠しているが、情報屋だ。金次第では、我々の情報も売るだろう」

「何故、そんな危ないメンバーを入れましたか?」

「インパネラ枢機卿猊下の指示だ。獅子身中の虫だが、逆にある大国の弱味を握る手段になると」

「二度目の了解です。では、ちょっと遊んでみます」


 人外さんにはお世話になってますので、身内への協力は惜しまない方向で。

 騙し騙されは、どちらに軍配があがるか楽しみですなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 逆に情報を渡して泳がせるのかな? 何処に流すかは情報屋さん次第だけど、相手共々自ら首絞めて自滅する未来が浮かんできそうw 奇跡的に自滅から逃れたとしても情報の重要さを噛み締め、今後は軽…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ