150 最後にグレイスがやらかしました
サイコパス女呪術師そっちのけで、セリオン国王に大衝撃的な暴露された。
あらら。
でも、第一王子はエルネスト枢機卿猊下に身柄を預けたんじゃなかったか?
何故に、ベネディクトさんはインパネラ枢機卿猊下の教区である迷宮都市で、英雄王の二つ名をいただく事になったんだろう。
何だかなぁ。
大人の事情がとか、そんな理由かなぁ。
「余の第一王子の存在を秘匿した件については、皆に詫びる。然れど、余もまさか閨教育で子供を授かると思いもよらず、第一王子を閨教育相手の女性の夫君の実子と戸籍に載せられていたと、随分後になって知った。何しろ、王室男児の閨教育で相手を務める女性は、下級貴族の寡婦が選ばれる。だが、余の時は報償金欲しさに、夫君が妻に強要していたと知った。
そして、女性が男児を産み、王室に内密に育てたのも、後に王室から金銭を強請る目的でと発覚した為、忠義厚き臣に身柄を確保させ、余の父にも卑しき血筋故に亡き者としたと虚偽の報告をし、エルネスト枢機卿猊下にお預けした。折しも、時期はクリステアが嫁いで間もなく懐妊したのもあり、我が父も下級貴族女性を母とする男児の継承に否やと宣言していたからな。然れど、産まれてきた子供に罪なぞありはせぬ。又、母とする女性が身分低かろうが、余の息子である。エルネスト枢機卿猊下には、セルジオが成長し、正常な判断がつく頃に、身の上を説明してくださるようお願いした。まあ、まさか異父姉と共に迷宮都市で、武勇に優れた者と誉れられ、成長した息子になっていたのは驚いたがな」
セリオン国王はベネディクトさんの武勇伝を鼻高々に自慢している。
まあ、説明された内容には、色々言いたい箇所もあるけどさ。
要は、セリオン国王も身分低い女性が母親の息子を遠ざけてでも、王室のいざこざに巻き込ませたくはなかったのだろうね。
正妃さんの子供が男児だった場合、継承権問題でベネディクトさんが暗殺される可能性は高いものだっただろうし。
ただ、正妃さんなら、国王の第一子として遇し、後見人となり第一王子に相応しい身分を保証したと思うが。
セリオン国王が危惧したのは、やはり呪詛の影響を与えたくなかったのもあったはず。
ていうか、セリオン国王は自分の代で、呪詛と対決しようと足掻いていたみたいだし。
エプスタイン大公家がサーナリア王室を乗っ取り、歴史改変した執念に対抗して玉砕覚悟していた腹積もりもあって、第一王子という血統だけ残して散る未来を想定してたと思い付く。
極端な話、さしもの呪詛の塊も傀儡となる王室が途絶えたら盾がなくなり、人外さんに駆逐されるのは目に見えている。
だって、復讐する王室が全滅したら、呪詛の意義が喪われて、暴走するだけだし。
被害がサーナリア国民に及び、他国にまで広がるのを見過ごす人外さんではないだろうからね。
きっと、歴代のサーナリア国エプスタイン王室があらがい続けてきた呪詛なんて、人外さんに掛かればぷちっと呆気なく潰されるわな。
なら、始めから人外さんが潰したら、こんな厄介な事態にまで発展しなかっただろうけど。
人外さんも人外さんで何らかの枷があったり、干渉不可なダレンの介入で更にややこしい事態になったのが正しい評価なんだろうな。
うん。
で、漸く干渉不可を払拭できる事案が、私の介入な訳だ。
エルネスト枢機卿猊下が、私なら呪詛に対抗できると判断したのは、周囲が想定している以上に、呪詛の塊が弱いからかもね。
それと、私が怪我したりすれば、それを理由にして人外さんが浄化してしまうのもあり得るな。
何て言うか、私は人外さん達神様が人の世に干渉できる理由が、使命なんじゃなかろうか。
と、愚考してしまう。
でないと、私に出会った事のない神様達が過保護な加護を与えるはずもないしねぇ。
ちらりと、エバンス司祭(中身は人外さん)を見れば、僅かに視線は逸らされた。
「それでは、第一王子殿下を、次代にご指名されるのでしょうか。そうなりますと、わたくしは義理の母として支援を惜しみません」
「いや、その件は此度の一件を終えた後に、セルジオを交え話し合うつもりだ。無論、クリステアの言葉には礼しかないがな。セルジオ、いやベネディクトに、王子の地位は要らぬと断られてしまっておる」
「まあ、まさか母君の身分故とかで、ございますか? ならば、第一王子殿下が王室に相応しくないと宣う輩は、わたくしが封じ込めましてよ」
「いえ、正妃様。そのお言葉だけで、充分自分は満足しております。確かに、母の身分は下級貴族の出自。また、自分は平民として成長致しました。図らずも、剣の道へと導いてくださいましたエルネスト枢機卿猊下に、成人後も自分を庇護してくださいましたインパネラ枢機卿猊下に恩返しがしたく、両枢機卿猊下へ剣を捧げたく。大変有り難きお言葉をいただきましたが、どうか我が身は初めからいない者であったとお思いくださいませ」
「と、この様に頑固でな。落ち着いたら、両枢機卿猊下にお時間をいただいて、話し合う機会を作ってくださった。その会談の場で、この頑固者を籠絡しようではないか」
「ですわね。では、わたくしはベルジニア妃にも根回し致しましてよ」
ベネディクトさん的には、実父が国王であろうと、その身分に甘えたくないお年頃な反抗期かな。
いや、でも偽物だった国王の使者代わりを務めたんだから、一応は忖度はしているか。
やけに、正妃さんはベネディクトさん押しで、強力な布陣で外堀埋めてきそうだわ。
そりゃそうか。
比較対象がセヴラン王子なら、英雄王として名声もある人材に国を託したくなるのも分かるわ。
だって、セヴラン王子は呪詛の塊の次代の傀儡として、甘ったれな環境を甘受してきた人物である。
初対面の他国貴族女性に一服盛る輩だ。
おまけに、精霊魔法に適性がある女性を、権力でもって毒牙にかけ、精霊姫となる女児を産ませる種馬でしかなかった。
そして、女児に恵まれなかったら、女性をはした金渡して子供共に放逐する所業だぞ。
誰が、そんな輩に国を託せるかっての。
まあ、現在は呪詛の塊に支配されて、人格破綻している状態なんだがな。
と、国王夫妻が着実に結託して、ベネディクトさんの逃げ道を塞ごうとしている会話の最中、忘れ去られていたサイコパス女が息を吹き替えした。
「ふっざけないでよ! 私を忘れるんじゃない! 何が、隠し子な第一王子の話題で盛り上がっているのよ! 煩い、煩い。私を無視するなぁ!」
私に呪術を仕掛けて、ファティマに返り討ちにあったサイコパス女呪術師が勢い良く身をお越し、絶叫する。
あ、ごめん。
完全に眼中になかった。
偽物国王共々、脅威でも何でもないので無視してた。
「もういい、こんな国なんか、どうなろうと知らない。セヴラン王子を代償に、呪詛よ私の願いを叶えなさい。皆、みぃんな、呪われよ!」
自暴自棄になったサイコパス女呪術師が、呪詛の塊と同期しているセヴラン王子を代償に、狂気の蓋を抉じ開けた。
「フィディル、領域空間遮断。ファティマ、領域浄化展開準備」
「「マスター。その必要は、ありません」」
「はい?」
「「あちらを」」
セヴラン王子を拠点に、サイコパス女呪術師が呪詛の源泉たる悪しき負の呪いを謁見の間に呼び込んだ。
謁見の間には、各自の派閥な貴族も多くいる。
彼等を守りながらの対処を、とフィディルとファティマに指示を出したら、揃って首を横に振られた。
二柱に促されてサイコパス女呪術師に視線を移したら、見覚えありまくりな大型の鎌=デスサイズがサイコパス女呪術師を横殴りしていた。
あれ?
グレイス?
グレイスが所持している武器は、実は鈍器なのは身内以外あまりしられてはない。
精霊は他者の生命を奪う武器は所持できない縛りがあり、何を思ったのかダレンは特注な見た目詐欺な鈍器仕様のデスサイズをクラン仲間の鍛冶師に依頼した。
ネタ武器とか面白そうなアイテム製作に寛容な鍛冶師は、見事にダレン好みなデスサイズを納品してしまいましたとさ。
で、付与に殴られる相手には痛覚増大といった悪のりまでしている。
ほんでもって、グレイスは手加減なくデスサイズをサイコパス女呪術師にお見舞いした。
悲鳴をあげる気力もなくなったサイコパス女呪術師、無様に壁に飛ばされ激突していった。
「三流いかのぅ、呪術師ごときがぁ、私のマスターのぅ、弟子なんかぁ、名乗るなですぅ。後、そこの木偶の坊さんはぁ、非常事態みたいぃ、ですからぁ。呪術からぁ、切り離しておきますぅ」
呪術に精通しているグレイスでも、呪詛は容易く対処できるのが判明した。
これ、グレイスが呪詛何とかできちゃう?
私、必要なかったかな。
一瞬膨れ上がった呪詛は、グレイスの一睨みで霧散した。
「な、何を。あんた、誰よぅ」
「ミーア様にぃ、執拗にぃ、名前をぅ、連呼していたぁ、グレイスでぇすぅ」
「あ、あんたが、グレイス? 何て幸先良いのかしら。獲物が、やって来るなんて。ああ、我が師様。この女を始末して、ご寵愛は私だけのものに……」
「それはぁ、絶対にぃ、無理でぇす。だって、 お前には本物の呪いを授けてやりますから」
普段まのびしたグレイスの言葉が、鳴りを潜める。
ああ、マジで怒ってるわ。
私は止めないから、好きに料理したげたらいいよ。
グレイスは突然現れて警戒する騎士を丸っと無視して、壁に激突したサイコパス女呪術師の元にゆっくり近付いていく。
虚勢を張り、優位を疑わないサイコパス女呪術師だったが、近付いてくるグレイスの大精霊たる本質を垣間見て、怯えを見せた。
格の違いが浮き彫りになったのだ。
今のグレイスは、邪の大精霊特有の禍々しい気配を隠しもしない。
いきなり現れた探し求めていたグレイスが、自分より呪術の格も上で、華奢な外見を裏切る負の悪意を惜し気もなく披露して、決して敵に回してはならない強者の威圧を全開にして、獲物を追い詰めている。
いつしか、負けを悟ったサイコパス女呪術師は歯の根を鳴らし、逃げようと動きたくても身動きできない哀れな狩りの獲物に成り下がった。
「私のマスターの弟子を名乗るなら、私の威圧ごときを跳ね返しなさい。それが出来ないお前には、お似合いな場所で後悔するがいい」
呪術の塊が可愛いペットと思えるぐらい、邪悪を体現するグレイスの最後通牒に、サイコパス女呪術師は我慢の限界がきて、敢えなく気絶した。
うん。
他にも、ばたばた倒れる被害がでているけど。
これ、誰がフォローするのかなぁ。
分かっているが、遠い目をしたくなった私です。