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015 驚かれました

 一旦休憩になった。

 濡れ鼠になった貴族が派手にくしゃみをしだしたのだ。

 侍従、侍女、女官等がタオルを手に会議室を走り回る。

 誰も気付いていないのが、不思議だ。

 私の膝には水を司る大精霊がいるのに、水を操り一瞬で乾かす術があるのだけどなぁ。

 大精霊のエルシフォーネとアリスも何も言わないし、主の女王ちゃんと宰相閣下も頼んで来ない。

 んん?

 気付いていないのではなく、知らないのかな。

 宰相閣下が侍女に、モップを依頼した。


「ユリス。せっかく出してくれたお水だけど、捨ててくれる?」

「はあーい」


 ユリスが人さし指を横に振る。

 すると、床を濡らした水と、濡れ鼠になっている大臣以下貴族の身体から水分が離れて、開いた窓の外へと捨てられる。

 何か、悲鳴が聞こえたが、知らない振りをする。

 うん。

 確実に、豚さんを直撃したね。

 ユリスなりの、嫌がらせだ。

 それで、強制的に乾かされた貴族達は、唖然と身体を触りまくる。

 やはり、精霊魔法に不慣れな気がする。

 乾かすなら、火の大精霊アリスにも出来るのになぁ。


「バーシー嬢。そんな、便利な魔法があるのなら、もう少し早くに使用してくれないかな」

「ユークレス卿。守護者の属性に関わる魔法は、滅多に人前では晒さないものなのだよ。私も娘にそう進言したら、怒られたものだ」

「それは、失礼した。うちは男ばかりなもので、守護者には縁がない。頼みの大叔母は、あの人だからな」

「申し訳ないね。政務の勉学に明け暮れて、精霊魔法の熟練度が足りなくて」


 宰相閣下が話に交ざる。

 アリスに頼めば良いんじゃないかな、とは言わないでおいた。

 宰相閣下の熟練度だと、個に対しては有効でも、全には匹敵しないのか。

 守護者は、マスターの力量に応じた精霊魔法を操る。

 これは、契約を交わす際に精霊と決める誓約書に関わる。

 私が行使する精霊魔法は、契約した精霊の階級に準じた位階の魔法を使用でき、契約した精霊はマスターの魔力を受け取り精霊魔法を行使する。

 それも、マスターが使用することができる魔法に限定される。

 先程ユリスが精霊魔法で水を出したり、捨てたりして減少した魔力は私から補給し、私がしたであろう精霊魔法を操ったのである。

 まあ、詠唱無しではユリスほど器用に人に限定して操ることはできないけど。

 私がやるなら個を指定せずに、会議室全体を水浸しにしてしまう。

 その場合、私も濡れ鼠だ。

 んで、宰相閣下とアリスでは、一人一人乾かしていかなければならない熟練度にしか、達していない模様。

 その場合は、全を乾かす熟練度に宰相閣下が足りず、アリスも一人一人乾かしていく悠長なことをやりたがらない。

 大精霊なのに、中級精霊魔法しか行使出来ないマスターに準じて、アリスは階級を露にしていないでいた。

 よほど、相性が良くなければ、アリスから契約を破棄してもおかしくはない。

 だってね。

 大精霊の矜持が高いと、要求される熟練度に達するまでがしんどいのよ。

 特に、時空と聖は長生きしているだけに、矜持は高い。

 あの、扉を繋ぐ精霊魔法や、回復支援の精霊魔法を特化型のプレイヤー以上に修得させられたのは辛かった。

 私は細工師だと言うのに、無駄に精霊魔法の熟練度が高いのはそのせいである。

 似非細工師と揶揄されていたが、本職は細工師だと声高に反論した。

 それなのに、攻略組のトップランカーに戦力として、連れ回されたのはいい思い出だ。

 しまった。

 あいつ等から、依頼料取り損ねた。


「バーシー嬢? 何か怒らせることを言ったかな」

「済みません。故郷にて、回収し損ねた借金を思い出しました」

「そ、そうか。借金か」

「今後、マスターとお付き合いなさるのでしたら、マスターの百面相には慣れておいてください」

「ユリス。慣れたー」


 法外な依頼料を手に入れ損ねたのを思い出していたら、顔が百面相していた。

 いかん。

 ポーカーフェイスをしなければ。

 会議室は戦場であった。

 他者の目がふんだんに向けられていたのを、忘れていた。

 フィディル、ユリス、ありがとう。

 突っ込みを入れた内容には、抗議しないでおく。


「それで、ご用はなんでした?」

「いや。バーシー嬢の胆力には、驚かされたと思ってね。幼いのに、守護者の複数契約をしているだけはあった」

「うむ。未成年なバーシー嬢が、教会長を言い負かす姿には感服した」

「本当にです。私よりも幼いのに、気迫に呑み込まされそうでした」

「うん。幼いのに、大した根性をしているね。陛下にも、分けて欲しいくらいだよ」


 あれ?

 良く日本人は、幼く見られているというけど。

 幼いを連発されるが、容姿は日本人ではないから、歳相応に見られているはず。

 プレートにも十六と記載されていたのを、見られていたのだがね。

 解せない。

 小柄なのも理由かな。


「ちょいと、お聞きしますが。皆さん、私の年齢はいくつだと思っていますか?」

「「「十四」」」

「ええと、十三かと」


 なんじゃ、そら。

 額を押さえたくなった。


「十六なんだけど。ってかね、ユークレス卿はプレート見たから、知っている筈だよ」

「あ? そうだったか?」

「十六? 後二年で成人?」

「十六。シェライラの二つ下。見えんな」


 思い思い言ってくれるなぁ。

 自信がなくなり、プレートを確認してみた。

 ちゃんと、十六と記載されている。

 何故に、誤解されたし。


「マスター」

「なに? ファティマ」

「マスターは、天翅族のハーフですから。寿命は人族より永くなります。百年程は、ゆっくりと成長します。ですので、歳相応には見られていないのでは?」


 ありゃ。

 そういうものか。

 でも、困ったな。

 未成年に見られていたら、旅が困難になるかな。

 でも、ライザスの街に着いた時は、何とも言われなかったぞ。

 未成年の一人旅は、容認されるのか?


「この歳での、一人旅は有り得るの? ライザスの街に着いた時は、特に言及されなかったけど」


 尋ねたら、変な顔をされた。

 女王ちゃんを除く大人が、顔を見合わせて何やら呟いている。


「あの、ミーア様。未成年の一人旅は、我が国でも危険な行為です。昨今は、魔物や害獣の被害が増大していますから」

「陛下の言われる通り、定期的に駆除をしているけどね。年々被害は増えている」

「まともな親なら、未成年者を一人で旅させるのはしないな」

「シェライラはライザスの街に赴任して間もないが、これは見過ごせないな」

「あのシスターの不正を抑えるだけに、時間を費やしているだけではないだろうと思いたいね」

「ですが、天翅族は他種族とは交流があまりないです。幼い外見で、年長者の例がありますよ」

「「「ああ。あったな」」」


 女王ちゃんの言葉に、頷く大人達。

 私も思い起こされるプレイヤーがいたから、妙に納得した。

 ゲーム内で、ネカマやネナベは当たり前。

 年齢詐称も有り得た。


「朝議が終わったら、街に降りて冒険者ギルドに行くといい。初代様の愛弟子なら、ギルドに馴染みがあるだろね」

「あるんだ、冒険者ギルド」

「初代様が流行らせた民間の組織だけどね。今では、国に無くてはならない荒事専門の組織だよ」


 ユーリ先輩、いろいろ手広くやっているなぁ。

 なら、最後の一柱の大精霊が采配しているのか。

 いや、あの子は天の邪鬼な人見知りだから、人が多くなったら姿を消してしまうか。


「当代のギルド長が、天翅族です。大変気難しい方で、ミーア様の守護者を見ると勝負を仕掛けてくるかもしれません」


 なんだ、それ。

 女王ちゃんは眉を顰めて、教えてくれる。

 フィディルを見ると、肩を竦めた。

 これは、何か情報を握っているな。

 後で、要確認だ。


「ユリス、知ってるー」

「ユリス?」

「あのね、マスター。ギルド長は、守護者が欲しいんだって。でも、振られたの」


 守護者に振られた、とは。

 主持ちの守護者に粉をかけたのか、実力で奪おうとしたのかどちらだ。

 後者なら、憤懣ものだ。

 うちの子に手をだしてきたら、叩きのめす。


「ユリスに補足です。ギルド長は、蒐集家です。守護者の見目はギルド長のお眼鏡に適うそうで、コレクションに加えたいそうです」

「阿呆らしい」

「マスターなら、一刀両断だと思いました」


 あれか。

 天翅族なだけに、光り物を集めたくなる本能心理といったやつか。

 私が六柱の大精霊と契約したのを、そう揶揄されたけどさ。

 一柱一柱、其々抱える苦悩を分かろうともしないプレイヤーに、何を言われても堪えはしない。

 うちの子達が自由気儘に活動しているのを、邪魔して奪おうとしてくるプレイヤーを何人返り討ちにしたか覚えていない。

 うちの子達にも、反撃してよしと言ってある。

 黙ってやられるのを見過ごせるか。

 何よりも、精霊をコレクションして見せびらかして、悦に浸る輩は逆に精霊に嫌われる。


「あの方は、エルシフォーネにも言い寄ってきました。ミーア様は、充分に気をつけてください」


 女王ちゃん。

 それは、フラグだ。

 対決間違いなしだね。

 よし、さくさく朝議をこなしていこうではないか。

 粗方、着替えた大臣以下貴族が、此方を伺っている。

 聖母教会の聖職者も、話を纏めた様子だ。

 教会長は会議室に入れなくて、扉の外で騒いでいる。

 エルシフォーネが、満面の笑みで威嚇していた。

 教会長が一歩でも入室すると、風の渦が傍らに出現する。

 怯んで逃げる教会長。

 追う風の渦。

 鼬ごっこが展開していた。

 聖母教会の長が大精霊に嫌われた。

 精霊の信頼を裏切った教会の長がこれでは、守護者制度が失われた理由にはなる。

 実際は、担ってきたレットとレッタの休眠が正しいのだけど。

 迷える女性には、関係がない。

 私は、聖母教会も転換の時期だと思う。

 精霊、守護者に頼らない社会が出来上がればいいと思った。

 まあ、理想論なのは自覚しているし、大精霊の恩恵を受けている私が声高に唱えても意味がない。

 だけどね。

 ユーリ先輩の理念がねじ曲げられた現在では、聖母教会の在り方が原初に戻るか、お手並み拝見させてもらうから。

 錬金術を邪道扱いしている聖母教会が、間違いだらけの教本片手に錬金人形を作製する。

 矛盾に気付く聖職者が現れることを祈ろう。

ブックマークありがとうございます。

今週木曜日はお休みします。


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