149 衝撃的な内容でした
さて、このサイコパス女呪術師をどうしようかね?
グレイスに直接会わせるのは厳禁だわな。
あの超絶人見知りなグレイスに、このサイコパス女呪術師と会話が成立するはずないし。
かといって、私に何かしようとしてファティマの呪術対抗策の反転魔法食らって、自分の呪術に自分が状態異常に陥り、激痛か何かでのたうち回っている姿は見苦しいの一言に尽きる。
自称サーナリア国王は、サイコパス女呪術師の優位性に乗っかって、やりたい放題してきていた訳で。
その優位性を保っていたサイコパス女呪術師が、使い物にならない現在において、事態の把握が出来てない様子で呆けている。
既に、執着していた正妃さんは護衛の騎士さんと女官さんにより玉座から離れ、周りを信頼できる者達に囲まれ、守られている。
すぐにでも謁見の間から退避できる位置に移動しているのを、自称国王は認識していない。
「ダフネ! 貴様、何をしている。あれだけ、貴様には便宜をはかり、重用してやったのに、小生意気な小娘一人掌握できないとは、何様だ。ええい、貴様等も我に媚びるだけでなく、働け。あの、小娘を捕らえ、調教し、我に従わさせよ!」
頼りにしていたサイコパス女呪術師が、自分の命令に従えない事態になっているのに、次は取り巻きの貴族達に命令をくだす。
喚き散らして、私を確保しようとするのは、次代の国王となる予定のセヴラン王子に、精霊魔法の適性が高い女児を産ませる目的なんだろう。
もしくは、自分がとか考えていたりして。
「バーシー伯爵。お気をつけください」
「貴女に何か起きたら、妹に嫌われる。それは、何としても避けたい事態です」
護衛のアーガストさんは隠し持っていた短剣を取り出し、自称国王に叱咤された貴族への牽制を。
シスコン全開なアレクシスさんは、アンナマリーナさんから依頼されたアイテムボックスの劣化版を付与した腕輪から、愛用の長剣を取り出した。
他国の貴族が、他国の国王がいる場で、武器を披露したら外交的問題になるのだけど。
「はい、何やら国王を詐称する輩が、無礼な発言されましたので。バーシー伯爵の身の安全を優先させる為、枢機卿猊下から武装の許可がおりました」
よっしゃあ。
エバンス司祭の説明により、人外さんから正当防衛のお墨付きが出た。
不敬罪とか心配いらなくなったぞ。
まあ、如何にも荒事に向いてない取り巻き貴族達は、軟弱だわ、肥満体型さらして、警戒する二人に萎縮してしまい動くに動けない状態だけど。
お前がやれ、いや貴様がとか醜い押し付けあいしてやがりますわ。
この国の騎士?
仕えていた国王が偽者判定出されたんで、命令に背いている。
騎士団の将軍クラスは正妃さん側の派閥に入っていて、わざと聞こえてませんを貫いている。
反面、国王派の貴族達には警戒しているぽいが。
こうしてみると、自称国王は人望なかったんだと丸分かりですなぁ。
推測するに、国王派の貴族達もサイコパス女呪術師が操っていた可能性大だ。
サーナリアには特大な呪詛の塊があるので、それを源泉にして暗躍していただろう。
呪術師にとっては、活動拠点とし重宝していたと思われる。
で、放置されていたサイコパス女呪術師が、起死回生にと名前を掌握している人物に向けて、悪あがきをしようとしていた。
騎士であろう人物を操って、としたかったのだろうが。
名前を呼ばれた騎士は、
「躊躇いなく、やってくれ」
同僚の騎士に、容赦なく物理的気絶や薬瓶を口に突っ込まれて敢えなく倒れていく。
「心配ご無用。単なる眠り薬です」
階級的に上司ぽい隊長さんが、よい笑顔で報告する。
いや、騎士が眠ってどうするよ。
暴走する自称国王とか国王派貴族達への抑止力が減少したら、どないするねんと言いたい。
「ご安心ください。現在、ダフネという名の輩に名前をよばれても支配されない我々は、隊長や将軍位におります故、腕は立ちます。荒事に不馴れな方々を鎮圧するには、少々能力的に差がありすぎますので、呆気なく捕り物は終了致します」
「……なんで、この城にいる人間の名前は、全て、掌握したはずよ!」
「貴様は、貴族の出身ではないのが災いしたな。大抵の騎士団将軍や隊長位を拝命した者は、貴族の三男以降の出自だ。貴族に産まれついた者には、洗礼名や公開していない先祖から受け継いだ隠し名があるのだよ。貴様はその名前を知らないから、我々貴族出身の騎士を操れはしないんだ」
ああ、日本史にも、平安時代とかで呪詛対策に真名を秘匿したり、通称名が名前として通用していたもんな。
あの時代は、幼少期と成人名が違うのもざらにあったし。
魔法があって当然の世界なら、名前で呪詛したり、傀儡にしたりとか、世に蔓延ってそうだから、対策は充分取られるわなぁ。
私も、日本名は人外さんに預け、隠している状態だしね。
そりゃあ、国の上層部に位置する人材なら、当然対処してるわ。
「どいつも、こいつも、あてにならない屑ばかりか。もういい。こんな国、破滅してしまえ。【サーナリアを支配する者達よ。王が命ずる。先祖代々より伝わりし、英霊の御霊よ、解き放たれ、サーナリアを蹂躙せよ】」
「何を! 思い通りにならないからといって、罪なき国民に、非道な行いはお止めなさい」
「あはははは。もう、遅いわ。クリステアが手に入らないなら、等しく死すだけよ。そして、次の世こそ、我はクリステアを妻にするのだ」
とうとう、自称国王が自棄を引き起こした。
でもさぁ、あんたのその言霊、意味ない気がするんだけど?
あんた、魔力保持者じゃないし、国王ですらないから。
言葉だけ理解しているだけで、強制力ないよ。
高らかに哄笑しているけど、なぁんにも起きてないですが?
うちの子達も、警戒してないし。
自己満足な破滅は一人で勝手にやれば?
自称国王の発言に狼狽えている面々を余所に、私はアーガストさんとアレクシスさんに待機を指示しておいた。
二人はエバンス司祭も頷いたので、警戒はしつつ静観の構えに移行した。
「あははははは……」
「何も起きる気配皆無ですけど? 何がしたかったんです?」
「ふん。今頃は、英霊様方は王都を襲撃しているであろう。城にいる者どもは、なまじ抵抗力がある様なのでな。先ずは、無抵抗な民を食らい、力を付け……」
「馬鹿か、貴様は。あれは、単なる呪詛の怨念よ。英霊などと崇められるモノでもなくば、意思あれど知恵はない。民とか貴族とか区別がつくものか」
「な、何だと。貴様、何を根拠に……。あっ、あっ、貴様、貴様! 何故、ここにいる」
「セリオン様!」
「えっ? 国王陛下?」
馬鹿な自称国王を煽ろうとしたら、別な人物が登場した。
両脇をマーガレット妃と義弟のベネディさんに支えられて、衰弱状態から脱したセリオン国王がゆっくりと謁見の間を歩いてくる。
正妃さんも慌てて囲みから飛び出し、セリオン国王の元へ。
痩せ衰えているも、顔付きは自称国王と瓜二つ。
正妃さんとマーガレット妃が傍らに寄れば、どちらが国王であるか一目瞭然だろう。
「名も無き、余の偽者よ。年貢の納め時である。玉座から、離れよ。余こそ、サーナリア国王、セリオン=ベルジュ=エプスタインである。玉座よ、偽者を排除せよ」
「ぎゃああ」
セリオン国王の名乗りで、玉座は直ぐ様反応した。
座る自称国王の身体に、雷撃が襲い、太い身体が玉座から転がり落ちる。
玉座の仕組みを理解していたであろう騎士団の将軍さんが、自称国王の腕を取り、玉座から引きずり離す。
ゆっくり、ゆっくり歩くセリオン国王が玉座に辿り着き着席するのを、騎士達が頭を垂れて迎える。
「玉座よ。余は国王か? 相応しくなき者なら、等しく排除せよ」
セリオン国王の言葉に、玉座は無反応。
これで、真実が判明した。
正妃さんも隣に座り直し、マーガレット妃とベネディクトさんは、二人の脇に控える。
その周囲を、正常な騎士達が取り囲む。
「さて、ではな。何を、初めに語るかな」
「セリオン様。お身体の具合は如何でございますか? まだ、療養なさった方がよろしいのでは?」
「正妃、心配かけて済まぬ。あれなる偽者に囚われたわ、余の不始末よ。片手の数の年月を、あれにとって代わられ、軟禁された恥を余は生涯忘れぬ。然れど、サーナリアをあれの意のまま、終焉させるはならぬとのエルネスト枢機卿猊下のお言葉があり、少々お力添えいただいた。あれが、呪文めいた解放の口上を述べたが、英霊なぞいもしないが。厄介な事に、王室の墓所の奥底にある、秘匿していた迷宮に眠るあれが起きたのは間違いはない。本来ならば、国王か立太子された王太子のどちらかと、精霊姫の二人で儀式を行わねばならないのだがな。生憎と、余はこの通り使い物にならぬ」
セリオン国王は自虐的に笑う。
けれども、その瞳は輝きを失ってはいない。
代替え案があるのだろうが、嫌な空気になってきた。
国王の次点で王太子なんだけど、セヴラン王子が呪詛に苦しむ精霊姫ちゃん連れて行く訳ないわな。
となるとさぁ。
考えつくのは。
「あい、済まぬ。エルネスト枢機卿猊下庇護下の精霊魔法師殿。貴殿を、他国の事情に巻き込んで、本当に大変申し訳ないと謝罪する。しかし、墓所の迷宮に入宮できる条件は大地の精霊の加護持ちの精霊姫か、大地の高位精霊を守護者として契約している精霊魔法師のみ故に、伏して願い致す。墓所の迷宮に眠るあれを浄化できる唯一の方でもあると枢機卿猊下はおっしゃった。余の代にて、サーナリア国に蔓延る呪詛を晴らして貰いたい。切に、お願い致す」
あー。
やっぱりなぁ。
私にお鉢が回ってきたよ。
まあ、精霊姫ちゃんが万全な状態だったとしても、呪詛の塊を浄化は出来なくて、サーナリア国王は呪詛の塊の傀儡になるしか未来はない。
そうして、いつかは分からないけど、人外さん達によってサーナリア国自体が無くなるしか未来もない。
となるのが見えていたら、協力するしかないよね。
ここで、断ったりしたら、まあサーナリア国側は面と向かって非難はしないだろうけども。
口コミで、私の評判は最悪になる。
ほんでもって、私を貴族に叙爵した女王陛下や女王国の評価の低下に繋がるとなれば、断れないや。
何か、背後のレオン(穏行中)からの視線も痛いしなぁ。
はい、了承しますよ。
「そのご依頼、承りました。ですが、国王陛下の代理人はどなたが?」
「うむ。承諾していただき、礼をいう。ありがとう。で、余の代わりはだな。そのな、正妃達にも言えなんでおったがな。余にはだな、そのぅ、十代の歳にな、閨教育があってだな。その女性がな、男児を産んでくれてだな。第一王子がおってな……」
「陛下。閨教育についてはとやかく言う権利は、わたくしにはありません。はっきり、きっぱり白状なさってくださいませ」
「うむ。ここにおる、ベルジニアの弟のベネディクトが、余の息子のセルジオである」
はい?
何ですと!
ベネディクトさんが、セリオン国王の息子?
幾つの歳の息子だよ。
ベネディクトさん二十代だよね。
で、人物鑑定では国王さんまだ三十代。
計算したら、十四、五?
うわぁ、でも日本の一昔でもありな話だったから、有りといえば有りか。
ちょっと、衝撃的な内容に驚愕な私だった。