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148 呪術師はサイコパスでした

「ダフネ。我の命令を叶えよ!」


 自称サーナリア国王が、何か喚いている。

 軟禁していた本物の国王の代わりに贅沢三昧していた証拠の太った身体を玉座に納め、隅に控えている侍女に命令する。

 いやさぁ、あんた馬脚を露にし過ぎ。

 一応、国王の影武者だったなら、こういった場合の対処は帝王学辺りで学んだはずでしょうが。

 正妃さんに正論ぶっかけられ、答えに窮し、頼ったのが一侍女だなんて、取り巻きの国王派の貴族達も曇りきった目を見開いているけど?


「ダフネ! 早く、我の命令を! 誤った真実を、この者達に植え付けよ。我は、悪くない。我こそが、サーナリアの国王であり、あれは不要な人間で、クリステアは、我の妃なのだ」

「正妃様! 此方へ!」


 己れが正しいと思い込み、歪んだ教育を施された愚者が望むのが、正妃さんか。

 まあ、この執着の感情も先祖代々続いてきた意思ある呪詛の塊によって、操り易い環境に適用した自称国王の命題なんだろうけども。

 サーナリア国王を演じている際には、正妃さんと対立していたのに、影武者の役割りが果たされたら、正妃さんが傍らにいると思っているのが、哀れみを誘うな。

 普通、考えたら分かるだろうに。

 役割りを終えた人形は、廃棄される。

 セヴラン王子に譲位した後に、どの面下げて正妃さんに会えると思えているんだろうか。

 ましてや、内政で対立しあい、足の引っ張りあいで、サーナリア国を潰しかけている張本人がさぁ。

 セヴラン王子が国王になったら、先代国王は病死したとか偽装するか、軟禁している本物の国王を暗殺したとしてもだよ?

 いかに容姿が似ていても、身体付きで他人と丸分かりな遺体があれば、正妃さんもいずれは真実に気付くわな。

 で、頃合いを見計らい、さも当然の成り行きといった呈で、亡くなった夫と同じ顔の男が現れたら、普通に疑惑が証明されて、拒絶されると推測できるが?

 ましてや、冷遇されている第三妃のマーガレット妃の手元には、本物の国王の手記が残されている。

 正妃派の貴族達が一丸となって、真実を解明していくだろうに。

 そうなったら、役割りを終えた影武者さんは、サーナリア国と国民を騙した責任を取るしか道はない。

 まあ、呪詛云々辺りは秘匿されるだろうから、影武者が全てを策略したと追及されて、アウトだよね。

 国王の双子の弟であろうが、王室の系譜には存在しない人物だから、正妃さんと対立していた国王派貴族達も責任逃れの勢いで、影武者に罪を被せて日和り、後腐れなく断罪されるだけだと思うがな。

 後ろ楯がない名ばかりな王室男性の行く末なんか、よくて修道院送りか、最悪は処刑。

 しかも、王室の系譜には存在しない以上、王室騙りで詐欺罪も付加されたら、最悪コース一直線だし。

 下手したら、正妃さんの生国との外交問題から開戦に至る可能性だってある。

 ただし、正妃さんの生国は、万能薬の素材である精霊樹の果実を搾取したがる列強国の防波堤として、正妃さんを嫁がせていたりする。

 また、サーナリア国とエプスタイン公国との繋がりも把握していて、正妃さんの次にエプスタイン公国のマーガレット妃さんが嫁いでくるのは容認していた。

 要は、エルネスト枢機卿猊下にサーナリア・エプスタイン両国の監視も担わされているらしい。

 というか、列強国の仲間入りした折りに、サーナリア国を属国にと野望を抱いた当時の国王が、エルネスト枢機卿猊下に馬鹿高い鼻っ柱を見事に木っ端微塵にされて、完全に傘下に入門しちゃった因縁が王家に語り継がれているんだとか。

 そして、王位を継承する男児は幼少期をエルネスト枢機卿猊下の元で初期教育を施され、お墨付きを得られた男児のみが王家に戻れるんだって。

 人外さん。

 何気に、教区の国々の王家を掌握してますなぁ。

 なんて、緊迫した謁見の間で呑気に評論してます。

 何せ、なんにもされてないからだけどね。

 玉座の辺りは、自称国王が何回も同じ言葉を喚いていたり、正妃さんに執着している言動から危険を察知した正妃さん付きの女官や騎士が正妃さんを守ろうと、自称国王との間に割って入り、ますます自称国王が騒ぐ混沌の場と化してきているが。

 ダフネと呼ばれた侍女は、視線は私に固定したまま、緩やかに支配者気取りな足さばきで、隅から歩きだしただけ。

 まあ、真っ黒な呪詛の念は纏っているが、蠱惑的なナイスボディと称賛したくなるメリハリが利いた身体に不似合いな侍女服に駄目だししたいが、ぐっと我慢する。

 でないと、うちの子達に正気を疑われそうだしね。

 いや、長い付き合いだから、内心で私が称賛しているのは理解しているかも。


「ダフネ!」

「……ちょっと、黙ってくださる? 国王サマ?」

「………! ……!」


 居ても居なくても謁見の間の置物であるべきな侍女ダフネは、空気に徹していた先程の体裁を脱ぎ捨て、衆目の最中謁見の間の中央に現れ出た。

 最早、侍女の役柄は彼女の頭にはないだろう。

 その証左に、きつく纏めていた髪をほどいて、紫暗色が背中を覆う。

 私を値踏みする瞳も濃い紺色。

 呪術師の称号を得る者の特色で、髪や瞳などは暗色に変化するのはこの世界が大精霊達が活動していたゲーム内の影響があるからか。


「後、みぃんな、ちょっとだけ、静かにお利口さんにしていて?」


 呪術師へと本性を変化させたダフネが、左手を水平に横凪ぎする。

 それだけで、喚いていた自称国王の声は封じられ、正妃さんを庇う女官や騎士が身動き一つ出来なくなった。

 無論、謁見の間にいる各派閥の貴族達も、私の護衛であるアーガストさんとアレクシスさんも、私の盾になろうとして身体にが動かなくなった。


「「バーシー伯!」」

「ああ、あなた達も、静かに、ね」


 脅威を感じて無理に動かない身体を動かそうともがくアーガストさんとアレクシスさんに、ダフネは流し目を送り、呪術を行使した。

 だけど、想定していた通りにならなくて、幼子の様に首を傾げた。


「あら、あなた達、何かに、守られている? ああ、司祭がいたのね」

「ええ、呪術師ダフネ。貴女の天敵である私がおりますので、貴女の思い通りにはなりませんよ」

「あらあら、まあまあ。どうしましょう。そうね、司祭がいたら、厄介ね。でもね? 司祭風情に、負けるわたしでは、なくてよ」

「ははは。呪術師ダフネの手口は、勿論承知のこと。ですが、呪術師ダフネの対策は、既に為してありますので、私を支配するのは無理ですよ?」

「そうね。そうだけども、わたしは彼の方の直弟子でもあるから。司祭風情に、捕らわれたりは出来ないわ」

「まあ、そうですね。我が師、エルネスト枢機卿猊下との誓約故に、呪術師ダフネの師たる彼と庇護下の貴女をどうこうする権利は、一司祭の身にはないですが」

「ならば、司祭は、単なる傍観者。わたしの、邪魔は出来ないわ」


 呪術師ダフネとエバンス司祭(中身は人外さん)とのやり取りで、師とか彼が誰を意味するかは理解できた。

 人外さん達神々は、ダレンについてかなり負い目があり、ダレンがこの世界で暗躍している事象に干渉しない不文律を誓約として、自らに課している。

 よって、ダレンの犯罪紛いな暗躍の対処には事後処理でしか、干渉ができない。

 結構歯がゆい思いをしていただろうな。

 だからといって、ダレンが起こす犯罪を黙認はしてはいない。

 干渉ギリギリラインで、配下の人材を派遣して未然に防いでいたりもしている。

 この情報は、うちの子達からもたらされた。

 大精霊の特権生かして、協力していたのだろう。

 多分、グレイスの心情を慮り、ダレンを改心できたらいいなとの同僚想いで為していたのだろうね。

 しかし、ダレンの称号をフルに使用されたら、大精霊でも容易には確保はできなくて、今に至るところである。

 ダレンが本気で隠れたら、時空の大精霊のフィディルでも発見できないので、仕方がない。

 その称号と誓約の恩恵が、弟子にも付随しているならば、呪術師ダフネはエバンス司祭より上位者となる。

 その為か、呪術師ダフネは束縛されないとの自負があり、自由きままに余裕綽々と人前に現れた。

 うん。

 サーナリア国王すらも、自身の道具であると認識しているな、これ。

 でもね、あんたが余裕ぶっこいてるのも、時間の問題だからね。

 あんた等の誓約をものともしない、神々の誓約? 何それ美味しいの? って、無視できる人物がいるのを教えてあげようではないか。


「ねぇ、ミーア=バーシー? わたしの、質問に答えなさい。貴女、グレイスっていう女を、ご存知?」


 はい?

 呪術師ダフネに変な質問された。

 グレイス?

 あんたの師匠の、守護者ですが?

 それが、何の意味があるのか、ちょっと分かりません。

 グレイスの話では、ダレン側から守護者契約破棄されているが、グレイスが承諾してないので、まだ契約したままだけど?


「ミーア=バーシー、答えなさい。グレイスっていう女は、どこ? 女王国にいるの? 長命種だろうらしいのは、把握しているわ。未だに、あの方の記憶から消えない女は、どこにいるの?」

「とりあえず、聞いてどうする訳?」

「勿論、消すのよ。あの方に侍る女は、わたしだけでいいのよ。ミランダも、ジョアナも消してやったわ。グレイスも、消さないとね」


 うわぁ。

 このダフネ。

 サイコパス女だわ。

 どういった経緯で、ダレンの弟子になったかは知らないけど。

 師弟愛から、男女間の愛情へと昇華していったら、独占欲丸出しの危ない女となり果てたか。

 こりゃあ、ダレンももて余し、体よくサーナリア国へ押し付けやがったな。

 まあ、ダフネの外見は美人さんの範疇に入るかな。


「ミーア=バーシー。早く、答えなさい。グレイスは、何処?」


 何回も名前を呼び、命令口調で答えを要求してくるのが、鬱陶しいなぁ。

 微かに、苛立ちを見せるダフネに、返事なんか決まっている。


「悪いけど、教えてやんない。自分で探せ」

「なっ!? わたしの、呪術が効かない?」

「あー。ミーア君には、呪術師ダフネの能力教えてなかったかな? 呪術師ダフネはねぇ。傀儡師の異名があってだね。名前を掌握されたら、名前を媒介にして、相手を支配してしまうんだよね。まあ、ミーア君みたいに、対策されていたり、格上の相手には意味がない呪術だけど」

「こんな小娘が、わたしより、格上? 嘘っぱちだわ。もういい、人格が壊れようと、構わない。わたしに、その身体と記憶を明け渡せ!」


 呪術師ダフネの能力か。

 いわば、言霊みたいなもんか。

 だから、うるさい程に、名前を連呼してたのか。

 納得した。

 うん。

 ミーア=バーシーっていう名前は本名ではないから支配されないのを、エバンス司祭は対策してあると言い換えて公表したのは、衆人環視な中だからか。

 流石に、人外さんに預かられているとは、言えんわな。

 あっ。

 業を煮やした呪術師ダフネが、別の手を繰り出してきた。

 けれども、ファティマに呪術を弾かれ、反動で床に倒れのたうち回っている。

 何したか、知らないけど自業自得だね。

 で、どうしようか、この事態。

 収拾するの、誰の役目?

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― 新着の感想 ―
[一言] 大勢の守護者に護られてるだけでなく、こいつ曰くの「彼の方」と同等なミーアさんを弟子如きがどうこう出来る訳が無いってね? しかも守護者を人族の女性と勘違いしてるし ミーアさんは「リアデイル…
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