146 状況報告でした
「妃達よ。迷惑かけて済まなんだ」
サーナリア国王をマーガレット妃の離宮に拉致ってきた訳だけど。
えーと、人外さんに突撃かましかけようと、再会の場から退去しようとして、説明責任があると正妃さんに止められた私であります。
で、衰弱し過ぎている国王の姿に、正妃さんとベルジニア妃さんは言葉もなく、ただ現状を受け止めきれてはなかった。
無理もないわな。
正妃さんは国王として悪政を敷いてきていた影武者を国王と信じて対立してきていたし、まさか軟禁されていたとは思いもよらずな仲だったし。
ベルジニア妃さんは極力接触を避けていたのもあり、国王の異変を察知できないまま、娘を精霊姫座に就任させられ、呪いにかけられた対応に精一杯だったし。
唯一、国王の異変を見抜いていられたマーガレット妃さんも、ほぼ離宮に監禁で接触不可能な状態に陥っていて、離宮の女官や侍女も本宮には出入り禁止で情報収集すら出来ないでいたし。
どの妃さん達も四面楚歌というか、独自に対立していたが為に影武者や取り巻きの貴族達に出し抜かれてしまったのだろう。
正妃さんはわざとマーガレット妃さん達を孤立させて、匿おうとしていたのが仇となった形を知り、更に落ち込まれていた。
「では、現在国王を名乗る輩は、貴方様の双子の弟君と言われますのね。そうですか、ではあの奇妙な差出人不明であり、内容が不明瞭な手紙の主もあの輩なのですか」
「手紙の事は知らぬが、あれは確かに余の実弟である。が、王室の系譜には名すらなく、余の影武者として生きるしかなかった哀れな弟である。推測になるがな、クリステアを己れの許嫁と紹介したのは先代であろうな。あれは、余の影武者として生かさなければならない事情もあり、その情報はあれにとっては唯一の存在意義を確約するものだったと余は思う」
「わたくしは、父王よりサーナリア国のセリオン殿下に嫁ぐと幼き頃より聞いておりました。ましてや、他の殿方の名は一切聞いてはおりません。だというのに、サーナリア国から差出人不明な手紙が届き、不審に思い、一度父王が問い合わせ致しましたが、サーナリア先代国王陛下は病身の余命幾ばくもない縁戚の子と文通してくれとのお返事でした。訳ありの身故に名を証せぬ子を不憫に思うならともありました。ですので、セリオン殿下に許可があればと、セリオン殿下に手紙をだしましたけれど。もしや、その手紙は御身には届いてなかったでしょうか」
正妃さんは、婚約相手のセリオン殿下以外の男性から手紙を受け取るのは、不貞を疑われてもおかしくはないと判断して、サーナリア先代国王ではなく、じかにセリオン殿下に手紙を出したという。
まあ、国絡みの政略的な婚約だけども、婚約相手以外の異性と文通してたら、そりゃあ不貞を疑われても仕方がないわな。
下手したら、正妃さん側の有責で婚約破棄になり、国の名を冠する王族ならば、莫大な慰謝料支払わないとならないかとか、サーナリア側に有利な交易関係を強いられたり、領土権を対価になんて発展したら、大変だ。
幾ら、身の潔白を訴えても、婚姻前に親しくしている異性がいれば、産まれてきた赤子の血統も疑われるのは明白。
単なる噂で済む筈がない。
だから、正妃さんは事前に許可を得ようとした。
けれども、国王の表情を見れば、その許可も先代国王が偽装したと思われる。
「届いておらぬ。余がクリステアから手紙を受け取った事はない。おそらく、余宛の手紙も文通相手の手紙も、全てあれに届いておるのだろう」
「ああ、何てことに。それならば、弟君様が貴方様の身代わりとして、何ら矛盾のない言動をされているのが分かりました。時折、幼き頃よりの話題も出る為に、弟君様が貴方様であると信じ込んでおりました」
「で、あろうな。余が軟禁状態になり、六年近く経つ。そんな長きにわたり、クリステアやマーガレットやベルジニアが、あれを余と思い過ごしてきた年月を鑑みるに、あれは余以上に余の情報をもちえておる。何分、余は先祖代々の負の遺産とあらがい続け、傀儡の道具に向かないでおった。業を煮やした我が父は、国王の資格ないあれを処分出来ずにおったしでな、傀儡にならぬあれを操る法として、クリステアを利用したのであろう」
ん?
サーナリア国王になるには、傀儡になれるかどうかの資格も必要なのかな。
恨み辛みが募ったエプスタイン大公家の呪詛を引き継ぎでき、精霊姫になれる王女がいる事で、サーナリア国王の座に就ける。
でも、サーナリア国王の継承権利を審査するのはエルネスト枢機卿猊下であって、先代サーナリア国王がとやかく喚いても資格無きと烙印押されたら、傀儡の道具に向いている継承者が国王にはなれないのでは?
何か、ますます、サーナリア国問題がややこしくなってきているぞ。
本気で、他国の貴族に連なる私が関与していいんかいな。
正妃さんの国元から付いてきた女官さんと、マーガレット妃さんの信頼感厚き女官さんに見張られて逃げ道塞がれているので、自ずと聞き役に徹しているけどさ。
あっ、ジャスミン王女は父親の不調の原因の呪詛を和らげようと癒しの花を咲かせまくったので、魔力不足になり別室で休んでいます。
ていうか、際限なく無理しちゃったので、危惧したレオンがファティマに頼んで強制的に眠らせたんだけどね。
タイプの違う美女三人を眺めながら、サーナリア国の醜聞話を聞いている我が身であります、はい。
人外さんよ。
何故に、現れないかなぁ。
「……六年ですか。陛下の人柄が変化してきたのが、ベルジニア妃が第三王女を産んだ辺りからでしたね。そして、先代国王陛下が逝去した年からですか」
「ベルジニアには、女性の尊厳を無視した行いをした余の弱さを詫びるしかない。あの年は、我が父の叔母君であった精霊姫殿も心身に不調を煩い、クリステアが産んだ第一王女亡き後、マーガレットの産んだ第二王女のジャスミンの精霊姫就任を拒んだが為に、精霊姫の職務を担う王女が不在で、我が父が画策し余とベルジニア共に薬で意識を奪い、操られておった。当時の余は、父の言いなりであっただろう。本当に、済まなんだ」
「いいえ。私自身も愚かにも迂闊に生家の言い分を信じた責任がございます。不仲であった生家が、困窮していた生活に対してのお金の無心を、捨てた私たち姉弟に幾度も寄越してきており、辟易しておりました。その決別をする為、弟に相談なくサーナリアに帰国した私にも、悪かった責任がございます。それに、当時の私も記憶がうっすらとしか覚えておりませんし、先代国王陛下のお姿も覚えておりません。気付いたのが、逝去した後になります。それに、陛下のお話によれば、ベルジーニは陛下の娘でありますかとの疑惑が浮かびますが」
「うむ。ベルジーニは、紛れもなく余の娘よ。それは、間違いはない。これは、妃達にも秘密であったが。代々の国王には、影武者がおる。しかも、己れの兄弟が選ばれ、内紛にならぬように子が出来ぬ処置がなされる。よって、サーナリアの王室の系譜は、国王以外の男系の血統はなく、精霊姫になれなかった王女の血統しか続いてはおらぬ」
あらまぁ。
変な血統管理してるや。
分からないでもないけどさぁ。
野心を抱く男系の継承者の下克上を阻止するには、役立つ方法だとは思う。
エプスタイン大公家の王女の血統を引いてないと精霊姫に就任しても、長くは生存できなかったから、王子より王女の数が重要視されていたから、男系はあまり歓迎されてない状況だったんだろうね。
それから、代々の国王に引き継がれてきた呪詛の怨念も、複数の王子に別たれるより一人に絞って操り易く選んでいたと推測できる。
で、邪魔になりそうな王子は、歪んだ教育を施した影武者になる王子以外は生存を望まれてなかった。
暗に、秘密裏に悪い意味で処分されていたと。
だから、操る呪詛に抵抗できていた現サーナリア国王は、第一王子を逃がして、人外さんに託した。
あれ?
なら、セヴラン王子は人身御供宜しく、差し出したのは何故だ?
同じ息子に差があるのは、父親としてどうなんだ?
『マスター。第二王子のセヴランの実父は、先代国王です。今の国王の息子ではありません』
『は? でも、正妃さんと容姿が似てたよね? だから、正妃さんの息子だと思ってたけど』
『恐らく、それも影武者を役だたてる飴だったのではないかと』
『ああ、成る程。セヴラン王子は、正妃と影武者の息子だと思わせている訳ね』
フィディルから捕捉されて、納得できた。
多分、サーナリア国王が呪詛の怨念から僅かでも抵抗できたのは、エプスタイン大公家の血筋を有していたからじゃないか?
それで、意のままに操れない傀儡の役割を違う人物に求め、子が為せない影武者ではなく先代国王が正妃さんに似た女性を犠牲にして子を為し、影武者の息子だと信じ込ませて、セヴラン王子を次の依り代の傀儡の国王にするべく、当代国王を軟禁して影武者が堂々と表に現れ、悪政を強いて国王の悪評を作り、譲位に持っていこうとしているのか。
だけど、正妃さんが優秀過ぎて、譲位に持っていけてないのが現在なんだ。
まあ、セヴラン王子が国王を継承する資格である精霊姫に就任できる娘がいないのも、一役かっているのだけども。
私って、そんな最中にサーナリアに来てしまったんで、セヴラン王子に狙われているのか。
それも、精霊姫を産む母体といった、有り難くない道具扱いとして。
あーあ。
そりゃあ、人外さんもでばってきた訳だわ。
サーナリア国王の継承権利一位な第一王子が手元にいて、歴史改変を正さない方向でサーナリア国を修正しようと配下の人材を潜り込ませ、正妃さんに陰ながら支援して、サーナリア国を破綻しないよう配慮しつつ、あるべく国へと戻そうとしていたんだろうね。
そこへ、庇護している私が巻き込まれたもんだから、早急な対策にシフトチェンジを余儀なくされた。
実は、人外さんもテンパっていましたか?
だもんで、第一王子云々やらの説明を忘れてたとか、あり得そうだわな。
うん。
悪いのは、呪詛の怨念と黒幕的な影武者のせいにしとこうか。
よしよし。
ならば、私も他国の貴族の概念捨てて、巻き込まれた被害者として正妃さん達に協力を惜しまないでやろうっと、決意した。