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144 有り得ない国王の状態でした

「妃殿下並びに王女様。体調のほどは、如何でしょうか?」

「あっ、えっ。昨年からの胃の腑辺りの痛みが無くなりました」

「わたくしも、酷い倦怠感が薄れた気がします」

「では、ご不快かと思われますが。体調面の鑑定しますね。ああ、はい。お二人とも、毒と呪いの状態異常が消えています。滋養のよい食事を取る事と、身を削り花を咲かせる行為は禁止にしてくださいね。そのかわり、精霊姫さんには、エルネスト枢機卿猊下監修の元に作製された、呪詛 を緩和する魔法具を装備して貰いました。ついでに、職務放棄した守護精霊が解任されて、新たな精霊が守護役につきましたから、ご心配はいりません」

「お待ちくださいませ。第三妃様と第二王女様が毒に侵されておられましたのは、真実でございますか?」


 マーガレット妃とジャスミン王女は、サーナリア国王側からの呪詛は軽微だったけど、片手の数の年月は毒を摂取していた鑑定結果が出ていた。

 精神がおかしくなる前のサーナリア国王は、信頼のおける人材を二人に付けた様子だが、少数の不届きな侍女がいるのを教えた方が良さそうだ。

 忠義に厚い女官さんは、憤り今にも犯人を特定したいみたいだが、それは後回しにしようぜ。

 ジャスミン王女が、何か言いたそうに私を見る。


「あの? 不躾なお願いだとは思いますけど。貴女様は、どこまでサーナリア国の現状を把握されていますか?」


 視線があったので、軽く頷くとジャスミン王女は意を決して質問してきた。

 自分の身より、自国に対して思い入れがあるみたいだね。

 初対面で一服盛ったり、夜這いしてきた某王子とはえらい違いだよ。


「忌憚なく話せば、サーナリア国とエプスタイン公国の王室一族が入れ替わっている事。先祖代々のサーナリア王室憎しの呪詛が、未だに続いている事。王太子の資格なき馬鹿が、養父に倣って女性の精霊魔法師に薬物を盛って既成事実を画策し、国王になろうと躍起になっている事。真実のサーナリア王室の第三妃と第二王女が、第二妃の第三王女の為に魔力と寿命を対価に、呪詛返しの花を咲かせている事。概ね、サーナリア国の問題は把握してます」

「では、国王陛下の父君様の容態も?」

「国王様に関しては、まだ一度もお目通りが叶ってないので確かとは言えませんが。情報を収集してくれた精霊によれば、かなり高い確率での先祖代々からの悪意の塊による洗脳と憑依状態にあるかと」

「そうでしたか。またもや、無理をいいますけども、父君様をお救いいただく手段はあるのでしょうか」

「わたくしからも、お願いいたします。どうか、わたくしが嫁いだ頃のお優しいセリオン様に、再びお会いしとうございます」


 うん。

 だから、寿命を削り花を咲かせている事に、危機感を持とうよ。

 ジャスミン王女とマーガレット妃は、世間の評価は最低だけどね。

 他者に対して、献身的過ぎるきらいがあるわ。

 何故に、この二人に悪評が付きまとうか、ちょいと調べてみるかな。


『マスター。こちらの方の悪評ですが。出どころは、正妃ですね。おそらくは、二人を隔離する理由付けと、保護の為かと』

『成る程。ジャスミン王女は精霊姫に一番就任できる王女だし、真実のサーナリア王室一族だからか。もしかして、正妃さんはジャスミン王女がサーナリア国を継ぐ唯一の存在だと思っている訳か。で、ジャスミン王女が無事に王位を継いだら、悪評を流した責任取って修道院への追放どころか、害虫を巻き込み自害したりしてね』

『マスターの懸念は当たりです。一番の障害になりそうなあの阿保王子に、秘密裏に子を為せない処置を実行しています。現在、阿保王子の庶子である子供は、阿保王子の実子ではなく、正妃お墨付きな下賜先相手の子供です』

「バーシー女伯爵様?」


 ナイスなタイミングでフィディルから報告が入る。

 そうか、正妃さんも真実に辿り着いていたか。

 わざと、マーガレット妃達を孤立させ、極力呪詛の影響を受けている貴族と接触させないでいる間に、臣下の見極めをして、女王を支える忠臣の選定を始めているか。

 でも、サーナリア国の王室女性は、本当に自己犠牲過ぎる。

 これは、人外さんに丸投げしとこう。

 他国の貴族が干渉していい問題じゃない。

 下手したら、内政干渉であると女王国への外交問題に発展し、大国に付け入る隙を与えてしまいかねない。

 私が許された干渉は、精霊姫ちゃん問題である。

 逸脱した干渉は出来ない。

 思考に耽っていたら、ジャスミン王女に声をかけられた。


「バーシー女伯爵でも、難しいのでしょうか? 父君様にも花をお贈り致しましたが、わたくし達からの贈り物やお手紙は見ることなく廃棄されていると、父君様付きの女官が得意気に報告に来ました」

「あちらの女官達は、わたくし達を寵愛を無くした穀潰しと呼び、 見下しております故。わたくし達は、セリオン様に近付く事は叶いません。ですが、正妃様より、セリオン様は御酒による病にて臥せっているとの事。お見舞いもできず、歯痒く思っております。呪詛は無理でも、御酒による病は回復できないでしょうか」


 黙っていたら、ジャスミン王女もマーガレット妃も、僅かに手元に残された装飾品を持ってこさせ、私に国王の治療を願ってくる。

 断り辛いわぁ。

 女官や侍女達も期待の目を向けてくるしで、確約は出来ないと前置きし、成功報酬は後でと言い逃げして、離宮を半ば逃げる形でお暇してきた。

 もうこの際だ。

 毒を食らわば皿まで。

 国王の居室に侵入を敢行してみた。

 あのさぁ。

 侵入した私が言うのも何だが、一国の国王が病に臥しているんでしょ?

 看護人や、護衛の騎士はどこ行った?

 換気も充分に行われていない、カーテンも開けられてはいない暗い無駄に豪華な寝台だけある寝室に痩せ細った中年の男性が横になっていた。

 しかも、天蓋付きの四隅の柱に手足が繋がれた状態でだ。

 まさか、この男性がサーナリア国王?

 いや、鑑定はそうだと申告している。


「……誰ぞ、おるのか?」


 しゃがれた力ない乾いた声が、まともに水分を取っていないと分からされた。

 アルコール依存性を強引に治療しようとして、酒断ちを促す為にこうしているのなら、ふざけんなと為した輩をぶん殴りたくなった。

 水分や食事を満足に与えてないではないか。

 いや、国王が拒否している可能性も捨てきれないけれど。


「済まんが、水を飲ませてはくれんか。今日は、まだ一度も水や食事がない。ああ、そこの水差しの水は止めてくれ。あれは、鎮静効果のある水故、直ぐに寝てしまい、満足に食事もできん」


 国王に言われて水差しを手に取って見たが、ユリスが顕現して首を横に振ってから頷く。

 ユリスが水球を作り、差し出してくる。

 水差し自体もあまり人体に良くない素材が使われていて、証拠品としてアイテムボックスに収納する。

 で、手持ちの水筒に、ユリスの水球を注ぎいれた。


「少々、お身体を起こしますね」

「うむ、済まんが頼む」


 弱った身体で寝たままでの水分補給は、危ないと思い身体を起こそうと近付いたが、代わりにレオンが顕現して国王を介助してくれた。


「マスター、水筒を」

「ん。お願いね」


 レオンは人間嫌いな面があり、あまり他人と関わりを持とうとはしないけど、サーナリア国とエプスタイン公国については、精霊樹が関連しているのもあってか、率先して行動していたっけ。

 だから、サーナリア国王にも手を伸ばしたのかな。


「ゆっくり飲め」

「うむ、ありがとう。この水は、何か回復薬でも入っておるのか? 少し、身体の不調が和らいだ」

「ちょっとだけね。癒し効果と浄化効果のあるユライラの泉の水だよ」

「何と、それは貴重な水を、死に損ないの我が身にくださったか。礼をしたいが、見ての通り。この身は、最早国王とは名ばかりな身。満足に礼もできぬ。許してくれ」


 あー。

 ユリスが言うユライラの泉の意味を知らないけど、どうも病を治す効果がある有名な水なんだろうな。

 でもさぁ、マーガレット妃達に聞いた国王の印象が乖離していくのは、国王が正常な受け答えしているからだろうか。


「ふぅ、ありがとう。幾分か楽になった。ところで、精霊が我が身を案じるとは、どうやら完全に余からエプスタインの怨念が、セヴランに継承されたからか」

「だろうな。数日前にあったあれはまだ、怨念の形代にはなってはなかったが。フィル兄とティア姉が呪術師の弟子を駆逐したのと、あんたの抵抗力が衰えず操り難かったが為に、怨念も操り易いあれに鞍替えしたんだろう」

「成る程。余は、精霊の姿は見えず、声も聞こえず、魔力も然程高くはない故、利用価値が国王である点しかなかったからな。また、父上との仲は反発しかしてこなんだ。父上の怨念も、長じてますます父上似の趣味嗜好をしているセヴランを操り人形としやすいのだろう。余を弱らせ、セヴランに譲位させようと企んでおるようだが、あれは子が為せん。父上も、セヴランに憑依して、さぞ悔しがろうな」


 えー。

 ただいま、絶賛空気と化している私です。

 レオンと国王が分かりあっているのに、口を挟めません。

 このまま、会話を聞いてりゃいいのでしょうか?


「で、この状態は正妃か? それとも、阿保王子か?」

「正妃は知らぬだろう。彼女は、余に代わり執務をこなすのと、セヴランへの対策に精一杯であろう。この有り様は、正妃が余に付けてくれた人材をセヴラン側の重臣が買収し、余を逝去させる事で、唯一の継承者がセヴランであると喧伝し、即位に持っていく流れを作ろうとしたのだろが、そうはいかん。公式にはセヴランは第二王子。現正妃が嫁ぐ以前に、余には許嫁がおり、婚姻前に死去したとしたが、父上が忌み嫌いしたが為に、腹の子共々エルネスト枢機卿猊下にお預けした。王室の系譜には第一王子が存在しておる。まあ、ほとんどの貴族どもは、余が許嫁の死を受け入れられず、妄想の子だと認識してはおる。余が死去したら、エルネスト枢機卿猊下が真実を公表し、第一王子を次代の国王に据え、後見をしてくださる手筈になっておるわ」


 人外さーん。

 この情報、初耳なんですけど。

 何で、教えてくれなかったですかぁ?

 まあ、他人に情報を教えて貰うのはあてにするなとの、教授ですかね?

 何か、ややこしい事態になってきた感が否めないのは、サーナリア国問題が盛大に絡まりづいた、すれ違いの果てにあるからとしか思えぬ。

 国王の身柄は、マーガレット妃の離宮に移して、感動の再会させたくなってきたや。

 きっと、マーガレット妃もジャスミン王女も、正常な精神に戻った国王を喜んでくれるさ。

 後、正妃さんの処には、簡単に寝返る人材を国王の側に侍らすなとお小言を、人外さんに頼んでおこうっと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族達にも原因があるかもと考えると天を仰ぎたくなって来ますね… 妃の皆様方が現状の歯止めをして下さったお陰で軽度で済んでた様だけど、もしその頑張りが無ければ国としての形を成さず、荒廃し…
[気になる点] 簡単に願える人材→簡単に寝返る人材 [一言] どんどん他国の問題に絡まって行きますね。
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