138 レオンが関与してました
ああ、本当にどう対処するのが正解なんだか。
ましてや、私は招かれた他国の貴族。
招かれた理由は、呪詛に侵されている精霊姫ちゃんの解呪なんだけどなぁ。
ただ、解呪して終わりとはいかないだろう。
が、他国の貴族が過去の幾度におけるサーナリア国の醜聞を暴露して、根元にある王家の乗っ取り改変事象を正したとすれば、内政干渉になりえ、派遣を認可した女王国の宰相閣下や女王陛下が糾弾される可能性が捨てきれない。
一介の新米貴族が、どうしろと?
おまけに、こういった騒動が起きた際の情報役が、真実を明かさなかったのも気になった。
フィディルもレオンもマスターの私に嘘をつくことは、契約時の誓約に反する行いだ。
今回は、嘘をついた訳ではなく、真相を織り混ぜて、現状を報告したのみ。
怒りはしないけどさ。
私が問い質す前に、相談してくれても良かったんじゃないか。
「うん? バーシー伯、何だか睨まれている気がしますが。私は何かやらかしたでしょうか」
白々しい。
のほほんと、サーナリア国とエプスタイン公国の詳細な情報をわざと、ぼかして報告するよう圧力かけた人が、良く言うわ。
「うちの子達に、何かしたのはそちらですよね? エ、ル、ネ、ス、ト、枢機卿猊下?」
威圧プラス嘘を付くなオーラスキル発動して、眼前のエバンス司祭に向けて目線は怒り、口許は弧を描いて詰問を投げてやった。
「はっ?」
「えっ? 枢機卿猊下? エバンス司祭殿が?」
「やはり、ミーア君にはバレてしまったか」
アーガストさんとアレクシスさんが驚愕して思わず席を立つなか、お人好しで柔和ながら毒舌だったエバンス司祭の雰囲気が変化した。
それでも、優雅に茶器を手にしたままなのは、実は甘党な名残りらしい。
特定されて観念したのか、エバンス司祭の姿から絶対零度の代弁者と異名を持つ威厳ある、白金の髪に金の瞳の青年が存在を現す。
人外さんの仮の姿のエルネスト枢機卿猊下は、枢機卿の中でも虐げられている弱者を救うのに一番苛烈な断罪を施行するも、熱烈な信望者がおり、一番神聖国の教皇に近く尊い存在だと。
まあ、本人は枢機卿の地位にしか興味はなく、フットワーク軽く日々教区の巡回に重きをおく方でもある。
で、そんなやんごとなき立場の枢機卿猊下の変装に気付いてなかったアーガストさんとアレクシスさんは、旅程でフランクな態度で接するエバンス司祭に気軽に話し掛けていたり、食事中でもため口利いたりしていて、今更ながら非礼にあたる行為をしていたのを思い出して、顔面蒼白になっていたりする。
「エルネスト枢機卿猊下とは知らず、大変不敬な行為をしておりましたこと、謝罪致します」
「自分も同罪でありますが、どうか処罰は我が身だけに賜りたく。身内に咎は……」
「ああ、そんなに畏まらなくて構わない。私も、君たちを騙していたのだからね。申し訳ないが、この国にいるのはエルネスト枢機卿派の司祭であるエバンスと思ってくれ。少々、サーナリア国に私がいては障りがあるからね。それから、ミーア君と内密に相談したい案件がある。君たちは、席を外してくれないかな。無論、君たちの居室は護衛を兼ねているので、ミーア君の客室に近い部屋を手配してある。室外に待機している侍従は、私の手の者だ。彼以外の者は信用しないように」
「「はっ、畏まりました。バーシー伯、御前を失礼する」」
人外さんや。
二人に軽く精神操作しやがりましたね。
でも、身内を配していたので、抗議はしないでおきますがね。
何か、エルネスト枢機卿猊下の人外さんの態度に鳥肌立つのは、人外さんの印象が最初に出会ったのと夢に出てきた時と違うからかな?
私の知っている人外さんではないのが、どうもしっくりこないから反発したいのかな?
「あー。ミーアちゃんを騙せるとは思ってはなかったけど、割りと早く指摘されて驚いちゃったよ」
アーガストさんとアレクシスさんが退室したら、途端にいつもの人外さんに戻った。
お茶うけの菓子類をぽいぽい口に放り咀嚼しては、お茶を飲む。
エルネスト枢機卿猊下とのギャップに、些か反応に困るわ。
「何時、気付いてたの?」
「まあ、始めの方からですね。うちの子達がエバンス司祭の同行に文句を言わなかったし、まあまあ気にしていたし、エバンス司祭の口調が人外さんに似ていたのもあったのと。フィディルとレオンに、見知った魔力? 神力? が監視している様に纏わりついてたんで、先ほど両国の事情を聞いて、私に報告する内容に干渉していたと確信しました」
「ああ、丁寧語はいいよ。今の僕はエバンスでもエルネストでもない、ミーアちゃんが知る人外さんだからね」
うわ、面と向かって人外さん呼ばわりしてたっけな。
人外さん。
もしかして、その呼び名気に入ってたのかいな。
「うん。ミーアちゃんの守護者君には、サーナリア国とエプスタイン公国の問題をあまり耳に入れないで欲しいと言ったのは、僕だよ。理由としてはね。僕はミーアちゃんに使命とか役割りとか与えるなって、同胞に注意しまくったのに、ミーアちゃんなら何とかしてくれるんじゃないかって、勝手に期待していた馬鹿がいてね。手下を利用して、巻き込ませていた馬鹿を折檻していたら、又もや問題解決にミーアちゃんを指名しやがった馬鹿がいて、押し掛けたのが今に至るんだけど。サーナリアは僕の教区だけど、エプスタインはオズの教区だから、あまり僕は干渉できないのが痛かったよ」
人外さん曰く、サーナリア国の王家は度々問題を起こすから、反省するまで保護も支援もしないと通達はしてあった。
けれども、隣国のエプスタイン公国はオズワルド枢機卿猊下の教区としてサーナリア国から独立したので、そちらは干渉しない約束を交わしていたのが仇になった。
オズワルド枢機卿猊下も、エプスタイン大公家が呪術に手を染め、サーナリア王家と入れ替わりの改変をするほど怨讐を募らし実行するとは露にも思わず、後手に回るしかなかったそう。
気付いたら、両国の王家が入れ替わり、改変されたにも関わらず、呪詛はサーナリア王家をまだ呪っている状態にある。
ここで、枢機卿ではなく神の権能で改変の事象を正せば良かったのではとの私の意見に、人外さんは首を横に振った。
「何故、僕が枢機卿として人の世に関わっているかが、ここまで拗れた原因でもあるのだけどね。僕はこの世界の創世神であるけど、厳密にはこの世界を創世したのは僕ではないんだ。だから、僕達は世界の因果律に干渉はしてはならない。いや、できないんだ」
なんですと?
じゃあ、どの神がこの世界を創世したのだろう。
もしや、あれな神がとか言わないで欲しいと願う。
「まあ、人の世で言えば妹がこの世界の雛型を創世し、守護している。ただ、妹の能力ではそれが限度だった為、その後の世界創世を引き継いだのが僕だという訳。まあ、アリーやオズやイス等も手伝ってはくれたけどね。で、その雛型を創世した妹に、頼りにされなくて除け者にされたと嫉妬したのがあれで、妹が創世した世界を乱そうと画策して、僕達に封じ込められた訳。本当は、神の権能を剥奪して消滅させたかったのだけど、あれも僕には身内に等しい存在だから一度は許そうとしたんだ。まあ、それもあれにとっては逆方向な感じで、恨まれる結果になっただけだけどね」
はぁ。
人外さんは随分と厄介な事情を抱えていたよ。
それにしても、人外さんの妹さんが真実の世界を創世した女神様だったとはね。
いや、この世界の常識を学んだ際の神話では、女神は複数存在していたけど、創世神は男神として認識されていたよ。
なので、人外さんに創世の暴露話されて、誰かに話したとしても異端児扱いされそうな話になる可能性が高く、迂闊に他人に話せやしない。
そんでもって、あれな神がやらかした裏事情が逆恨みだなんて、巻き込まれたダレンやら犠牲になったプレイヤー達が哀れすぎる。
「ああ、この話はいいや。で、サーナリアとエプスタインの話に戻すけど。サーナリアに精霊樹を託したのは、精霊王に頼まれたエスカちゃんなんだ。精霊樹は、妹が世界に張り巡らした魔力の源の魔素と世界を安定させる神力が地表に漏れだして大地を荒らす原因を浄化する為に、植えたんだ。まあ、その二つの浄化し損ねた力を凝縮して果実にして万能薬の素材にと、世に公表したせいで乱獲されて、現在サーナリアでしか人の世では精霊樹は現存してないけどね」
「まあ、人の欲は果てしないですからねぇ」
「そうなんだよ、マスター。人間は酷いんだよ。せっかく、人の住める大地にしてくれた精霊樹を、みぃんな独占しようとして、競いあって切り倒しちゃったの」
人外さんの説明に追従したら、エスカがぷんすか頬を膨らませてお怒りだ。
樹木の大精霊のエスカは、切り倒される精霊樹を嘆いて、人の世から精霊樹を取り上げようと主張したんだって。
それに、待ったをかけたのがレオン。
人の欲から精霊樹を1本でも無くそうと、精霊樹回収に奔走するエスカに、サーナリア国だけ回収を除外するように持ち掛けた。
「レオ兄、サーナリア国の王女さんが必死に隠す若木を見逃したの。あの頃、精霊果実を独占したがる王族や貴族が多かったけどね。サーナリアの国だけは、一般庶民を優先してたの」
「だから、フィル兄も、ティア姉も、レオ兄の説得に応じて、許してくれたの」
「……でも、セレナ達、眠っていた間に、サーナリアの王家、かわっちゃってたの」
「若木を、精霊果実を民の為にと訴えて、真摯に俺達に許しを乞うてきた王家は、無くなったんだと思った。でも、あの時の約束はまだ守られていた」
「わたくしが、レオンにサーナリア国との約束を提案させました。サーナリア国の王家、特に王女がレオンと約束を交わした際に、加護を与えました」
「真実のサーナリア王家王女は、精霊の癒しである花を咲かせる能力を有している。よって、レオンはサーナリア国は見限る事はできません」
エスカ、ユリス、セレナ、レオン、ファティマ、フィディルは、口々に私に教えてくれる。サーナリア国だけが、民の為にと精霊樹の回収を拒んだ。
当初は、ただの言い逃れだと判断したレオンは、人の欲の結末を見定める様にして、サーナリア国だけ精霊樹を残した。
まあ、当然浅ましい強欲な他国は精霊樹を奪いにかかり、サーナリアは戦禍に見舞われた。
けれども、精霊樹を託されたサーナリア王家は、始めにレオンと交渉した王女や王子を贄とし、精霊樹を悪意を持った輩から守る結界を構築する礎となり、その事態を知ったレオンが侵攻してきた他国へ鉄槌をくだし、枢機卿猊下数名の暗躍もあり、サーナリア国への他国の干渉を禁じた。
レオンは後悔したと、言葉をはっした。
一国だけ精霊樹を残したらどうなるか、託されたサーナリア王家がいかに信頼に応えたか。
そして、改変された後も、約束事は続き、サーナリア王家はエプスタイン大公家に名を奪われても、サーナリア王女は癒しの花を咲かせる能力を保持していた。
だから、レオンは今なお、サーナリア王家を気に掛けていた。
うん。
やっぱり、私には荷が重たい案件じゃないか。
レオンが関わってなかったら、首を突っ込まんわ。
本当に、どうしろと、いうんじゃい。
やさぐれたくなりました、とさ。