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131 旅立ちができませんでした

 そういや、気になった点がいくつかあったぞ。

 アンナマリーナさんから、冒険者ギルド本部のギルドマスターは異名が冒険王だったと聞いたが。

 目の前にいるベネディクトさんの異名は英雄王。

 違ってないか?


「話題を変えて済みませんが。冒険者ギルド本部がある迷宮都市を実質的支配するギルドマスターは、冒険王だと聞いたのですが」


 話を切り出した私の言葉に、ベネディクトさんと部下の人達は苦虫を噛み潰したような表情となった。

 あら、もしかして触れてはならない事案だったかなぁ。


「それは、先代までの事だな。迷宮都市が自治都市として、神聖国とインパネラ枢機卿の許可なく詐称しているのと同様に、自称で王などでは決してない。かくいう、俺の英雄王はインパネラ枢機卿からの依頼を達成した報酬代わりで、他の枢機卿からも許可を得ている」

「非礼を先にお詫び致します。ここからは、自分が説明致します」


 ベネディクトさんは秘匿されているであろう内情を語ってくれ、部下の人も詳細な説明をしてくれた。

 そもそも、ユーリ先輩が設立した冒険者ギルドだったが、袂を分かつ切っ掛けとなったのは、法外な上納金を要求したから。

 ギルド組織には八割の上納金を科し、一ギルド員には五割の税金を納めるよう無法な要求が成された。

 幾度、法外すぎると申告しても、聞き入れてはくれず、困り果てた末にエルネスト枢機卿に直談判した。

 それにより、エルネスト枢機卿もユーリ先輩があこぎな手段を押し付けていると判断を下し、インパネラ枢機卿の教区に新しく湧いた迷宮の土地に冒険者ギルド本部を移転させるペナルティをユーリ先輩に通達した。

 これが、冒険者ギルド本部移転の真相である。

 で、エルネスト枢機卿に建国したばかりで資金不足な女王国は、金蔓の冒険者ギルド移転に猛抗議するも決定は覆らず、金の成る組織を失った腹いせに依頼受注やランク管理システム機能の根源たる錬金術で作製された設備を無理に回収しようとした。

 そうして、再びエルネスト枢機卿の不興を買い、逆に国の庇護を剥奪する通達がまたもや成された。

 建国したばかりの弱小国に、エルネスト枢機卿の庇護剥奪はかなり痛い。

 奇しくも、同時期に建国したロンバルディア国と仲違いしたのもあり、不平不満でエルネスト枢機卿の条件を飲むしかなくなった。

 一つ、ギルドの設備管理は年に一度は行う事。

 一つ、その際の金銭はエルネスト枢機卿が設定した金額で受ける事。

 一つ、一度でも理由なく定期管理を怠れば、ユーリ=イシュトバーンが冒険者ギルドへ上納させようとした金額の十倍を迷惑料として支払う事。

 うん。

 ユーリ先輩の目論みが暴かれ、冒険者ギルドに損失が出なかったのはよしとしよう。

 いやぁ、冒険者ギルド本部が移転した切っ掛けが、ユーリ先輩にあるとはねぇ。

 初め、冒険者ギルドが女王国から移転した理由は、冒険者ギルド側にあると思いきや。

 ユーリ先輩がやらかしていたとは、笑わせてくれるわ。

 金蔓扱いされりゃあ、怒るのも当然だ。

 しかも、上納させる金額の割合が、強欲すぎだし。

 これじゃあ、幾ら職にあぶれた荒くれ者達の救済策だろうが、本末転倒。

 ただの、搾取でしかない。

 本当に、自分勝手な性格してるよ。


「まあ、こちら側も抑圧された反動で、暴走を招いてしまいましたけどね」


 部下さんの話は続く。

 エルネスト枢機卿とインパネラ枢機卿の庇護を受けて移転した冒険者ギルド本部。

 当初は、大規模迷宮で産出される迷宮産のドロップ品は、真新しい品々で他国に高額で売り捌け、両枢機卿の支援金を頼らなくてもよくなり、独立した都市へと至るまでになった。

 けれども、冒険者達は欲の虜となり、堅実な迷宮探索から、金銭欲と名声欲に取り憑かれ、無茶無謀な探索へと鞍替えし、数多くの人命が失われていった。

 そこで、インパネラ枢機卿は自身が養育していた武術に長け、人心掌握に優れたカリスマ性を持つ人材をギルドに加入させて、実力とカリスマ性を駆使して冒険者ギルド本部を掌握させた。

 そこで、インパネラ枢機卿はその人材に冒険王の異名を与え、冒険者ギルド運営が円滑に恙無く働くように梃入れした。

 が、その冒険王の威光が後世に遵守されたかと言うと、結論は徒労に終わった。

 二代、三代までは可もなく不可もない運営がなされたものの、それ以降の冒険王の名を継いだ人材が、力こそ全てであり、王たる自分に従うのは当然であるとの、ある意味頭の中味が脳筋な阿保としか言えない、変なルールが出来上がってしまう結果となった。

 で、再三インパネラ枢機卿が軌道修正しようにも、インパネラ枢機卿の支援を拒絶しても、迷宮都市が周辺諸国に受け入れられ、勝手に自治都市として認知されてしまったと。


「こう身内の恥を暴露するのも何だが。迷宮都市産のアイテムがだな。大国にとって、替えの利かない品々だったようで、大国の支援が裏であったらしい」

「我々がこうして貴女にお話できるのは、我々がインパネラ枢機卿猊下の教育を受けて、冒険者ギルド本部を乗っ取りしたからです。なので、冒険王の名は悪名高く、英雄王と名を改めたのです」

「まあ、でも。今回、姉の依頼を受けてサーナリアの迷宮に潜ってばかりいたせいで、僅かに残っていた先代冒険王の残党に出し抜かれて、騒動を起こしてしまった馬鹿な英雄王だがな」


 ベネディクトさんの自虐はまだ続いている。

 余程、腹に据えかねていたんだろう。

 もう、よしましょうよ。

 姪ごさんを、助けたい気持ちが強く現れただけでしょう?

 それを、言葉にだしたら


「では、俺の依頼は受けていただけるのか?」


 ベネディクトさんは弱り果てた様子でお伺いをたててきた。

 まあ、レオンが珍しく助力を願っているので、私に否やはないけどね。

 了承したら、ベネディクトさんは一刻も早くと私を、サーナリア国に連れていこうとして、文官として派遣されたフォードさんの絶対零度の眼差しに制止された。


「申し訳ありませんが。バーシー伯爵様において、幾ら他国への無申請での入国可能な旅券があろうと、我が国の貴族の一員です。旅立つ前準備として、王城の宰相閣下の承諾がないと、国を出ていかれるのは困ります」


 ですよねぇ。

 実は、フィディルなりファティマ経由で、王城のアリスやエルシフォーネに連絡して旅立つのもありかな、と。

 思ったりして。

 やはり、曲がりなりにも貴族の一員であるから、自己申告は必要だよね。

 ベネディクトさん側も無茶を言ったと理解していたので、今晩は我が家に宿泊して貰う事になった。

 ベネディクトさんがぼこった職員さん?

 あちらは、鳥小屋でお泊まりです。

 万が一にも可愛い家畜達に被害が出ないようにと、女史の旦那さんとヒューズ君もお泊まりするので、安眠はできるだろう。

 で、夕食時に他国に行くのをナイルさん一家とアンナマリーナさんには報告して、留守は頼んでおいた。


「まあ、細工師にはあれがあるから、帰りたい時には帰ってこれるから、心配はいらないと思うけど。念のために、忠告しとくわ」

「ん? 何か、サーナリア国に危険な案件でもあるの?」

「サーナリア国って、精霊信仰が狂信者並みにぶっ飛んでいるから、守護者が六柱もいるの隠した方がいいわ。それと、男性体もね。下手したら、細工師が精霊姫呼ばわりされてもおかしくないから」


 おおう。

 それは、避けたいわ。

 でも、安全面を考えたらフィディルを側につけた方が安心なんだよね。

 ファティマだと人間嫌いの一面があるのと、聖属性故に聖女扱いされかねないしなぁ。

 かといって、エスカとセレナでは外見が五歳児体型だから、大精霊の守護者に見えないだろうし。

 悩むなぁ。


「そこで、提案。うちの兄か、監視役にきた騎士連れて行ったら? うちの兄は武門の一家のアルバレア侯爵家の本家長女の血筋で、監視役の騎士は国防大臣の息子でかつては英雄視されてた騎士でしょう? 腕っぷしなら、まともな護衛役になるでしょう」

「自分もそれが、よいかと。アルバレア侯爵家には自分も話を持っていきます」


 後は、仲がいいライザスの領主さんの処の騎士さんとか。

 アンナマリーナさんとナイルさんに、代わる代わる代替案だいたいあんだされて、成る程と思った。

 別に、守護者を全面に出さないでもいいのか。

 でも、その案だとうちの子達がすねないかな?


「別に、一緒に行くなと言ってる訳じゃないわ。隠れて付いていって、人前に出さなければいいのよ」


 はいな。

 それなら、うちの子達も納得するわ。

 なら、早めに報告に行きますか。

 食後、お姉ちゃん、どっかに行っちゃうの。

 エメリーちゃんを不安にさせて泣かしかけたので、安心させる説明に時間がかかった。

 何とか、単なる旅行で帰ってくるのは当然だからと分かって貰ったが、頻繁に帰ってくるようにしなければと再認識した。


「って、言う訳で。少し、留守にします。後、アーガストさんに護衛して貰いたいので、任命状ください」

「また、唐突にやって来たかと思えば、他国へ人助けねぇ。うちとサーナリア国は敵対してはないけど、同盟もしてないよ。あちらさんは、精霊大国の自負があるからね。おおっぴらに宣伝はしてないけど、うちの初代女王の守護者が大精霊だと周知され始めた時点で、虚偽は止めろとは書状が来たぐらいで、お互い不干渉を貫いているよ。あんまり、騒動を起こしたりしないでおくれよ」


 突撃訪問した宰相閣下にお小言いただきつつ、ちゃっかり任命状は貰いました。

 帰宅した私をアンナマリーナさんは待っていて、次男のお兄さんの了承を得たから迎えに行けと言われて、アルバレア侯爵家に。

 シスコン拗らせたお兄さんは、妹に頼られて張り切っていたよ。

 用意万端で待ち構えていた。

 すぐに、とんぼ返りした私とお兄さん。

 お兄さんはアンナマリーナさんを視界に入れるなり、抱きつきに行って避けられたけど。

 アンナマリーナさんから話がいったのか、アーガストさんも待っていて任命状渡したら承諾して準備すると部屋に戻っていった。

 翌朝、朝食はサーナリアへいく私達とベネディクトさん達で食べ、自己紹介を済ませて鳥小屋へ放置した職員回収して、いざ移動しようとして、気付いた。

 私達、移動手段なかったよ。

 ベネディクトさん達は自前の馬があり、職員達は不似合いなごてごてと飾りがある工芸品かと思わせる馬車に乗せられたが。

 私達の乗るスペースがなかった。

 うーん。

 馬車本体ならアイテムボックスにあるのだけど、肝心の馬さんがいない。

 どうしたら、よいか。

 どなたか、教えてください。

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