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013 口喧嘩しました

 翌朝。

 朝食の席に、女王ちゃんと宰相の姿はなかった。

 私はファティマの給仕で、呑気に味が薄味になった食事を平らげていた。


「お食事中に申し訳ありません。宰相閣下が、面会致したいと申し入れがございました」

「うん。いいですよ」


 食後のお茶を楽しんでいたら、女官がやって来た。

 気位が高い女官は、返事を聞くなり背を向けた。

 付いて来るのが当たり前。

 得体の知れない守護者を侍らしている平民に、頭を下げるのは嫌です。

 全身で物語っていた。

 フィディルとファティマから、また冷気が漂う。

 レオンとお子様ズは、客室にて待機。

 わざと、目につく処に荷物を置いてきた。

 さあ、どうでるかな。

 少し、ワクワクしてきた。


「お客様。付いてきてくださいませ」

「まだ、食後のお茶をしているのになぁ。この国は客を急かすんだ」

「……宰相閣下がお待ちなのです。至急、馳せ参じるのが、国民の定めです」

「私、この国の住民ではないから知らなーい」


 ギャル風に茶化して見たら、女官の顔が真っ赤になった。

 おいおい。

 安い挑発に乗るなよ。

 女官のレベル低いなぁ。

 ここは、頭を下げて促すのが一流の女官ではないかな。


「自らお付きになられないのでしたら、兵士に連行させますよ」

「出来るなら、やってみたら?」

「この、平民風情が!」


 かっとなる女官が、ワゴンの上のティーポットを掴み、振り上げた。

 中身は熱いお湯なんだけど、客にぶっかける根性は汚い。

 あんたの国の女王は、平民出身なんだけどね。

 そうやって、裏では蔑む女官がいるのはリサーチ済み。

 今朝の食事が口にあったのも、客に出す食事でなかったからで、あからさまに平民が食べるとおぼしき食事だった。

 最初から給仕の人はいなかったしね。


「ぎやぁ⁉」


 女官が悲鳴をあげた。

 それも、そのはず。

 私にかけようとしたお湯が、自身に反射したから。

 何事が起きたのか、警護の兵士が飛び込んできた。


「どうなさいました」

「女官が自分でお湯を被っただけ。宰相閣下に呼ばれているんだけど、案内して」

「は、はぁ」

「ち、違うわ。この平民が……」

「違うも、なにも。ティーポットを持っているのは貴女だよ」


 見りゃ分かるから。

 席に座る私から、ワゴンは遠い。

 兵士も把握しているから、私を断罪できないんだよ。

 バカらしい。

 女官を無視して、席を立つ。

 兵士が先導して、食堂を出た。

 背後で女官が喚いているが、気にしないでおく。

 私は悪くないからね。


「先程の女官の家は爵位持ちです」


 先導してくれている兵士が、フィディルとファティマを気にしながら教えてくれた。

 心配されたかな。


「ありがとう。だけど、降りかかる火の粉は、全力で倍にして反す主義なんだ」

「そうでしたか。ならば、守護者は、御身から離さないようにしてください。爵位持ちを牽制できます」

「またまた、ありがとう。そう、します」


 出来た兵士さんだ。

 平民出身だからかな。

 勝手に鑑定して、ごめんね。

 近付く人は要注意だからさ。

 見目がいい異性はハニートラップ要員にしか、思えなくてね。

 後ろのフィディルが煩いんだわ。


「お客様をお連れ致しました」

「はい。承っております」


 宰相の執務室に到着。

 扉番の兵士が、執務室の扉を開けた。

 入室を促されて入る。


「ミーア様。昨夜の無礼をお許しください」


 そして、アリスに抱き付かれた。

 敵意もなく、泣顔だったので、フィディルは反応しなかった。

 アリスに無礼をされた覚えはないんだけどなぁ。

 んで、アリスの主はというと。

 憔悴した顔で、私を見ていた。

 こりゃ、一晩中アリスに説教されていたな。


「阿呆な主には、事の重大さを説明致しました。炎は、好意で地脈を制御して、温泉を湧かしてくれていたのに。この分からず屋は、それを当然の如く無限に有るものだと享受していました。炎が、呆れて休眠したのも頷けます」

「だよね。ジュリエットは、補給もままならず弱っていたよ。休眠しないと存在が消失して、制御を離れたマグマが噴き出して、王都は大惨事になってたね」

「ですよね。ワタシは火を司りますが、マグマは制御出来ません。ましてや、主も出来ません。民人からしたら、救いの手を出せない主は非難されます。平民の希望の星となる女王の後見人になり、人気を博していましたが、どん底に落ちますわね」

「アリス。土下座でもするから、そこで止めておくれ」


 宰相が音をあげた。

 アリスは言い足りない様子を見せていたが、主の言葉を受けて黙った。


「ミーア様。炎の方が休眠されましたのは、事実でしょうか」

「事実だよ」

「では、マグマが噴き出すのは、時間の問題になりますか?」

「そっちは、ガセ。うちの子達が、正しい地脈に直したから噴出はしないよ。温泉も、出なくなったけどね」


 痛む頭を押さえる宰相。

 マグマが噴き出してこなくなったんだから、安心じゃんか。

 レオンに頼んで、王宮に噴出させようか?

 意地悪く思っていると、宰相は机に突っ伏した。


「何故に、私の代で問題が起きるんだろうね」

「精霊や守護者へ対する意識が、ユーリ先輩の理念に反する意識に移行したからじゃないかな。だから、全てを終わらせられる私を呼んだ。創世神も、お怒りなんじゃないかな」

「神聖国の枢機卿から、何か教えられているのかい?」

「枢機卿ではなく、神様からかな」


 人外さんは創世神だったから、合ってるよね。

 勇者召喚に巻き込まれていた私には、使命がなく、自由に生きていればいい。

 私らしく、生きていく。

 なら、精霊の為に一国を脅すのもやむ無しである。


「バーシー嬢なら、神様と会話が出来るのも納得するよ。では、嘆くのも止めにするか」


 身体を起こした宰相の顔付きは、為政者のそれになった。

 表情を改めて、私に向き直る。

 私も、臨戦態勢をした。


「改めまして、昨夜の無礼をお詫び致します。それから、バーシー嬢の手元には三柱の休眠されている大精霊がいるんだろう? 復帰はいつ頃になるかね?」

「レットとレッタ。光と闇は二月もあれば、復帰は望める。だけど、炎は年単位の休眠が必要だね」

「では、光様と闇様が復帰したならば、守護者制度も復帰させる気は?」

「多分、しないね。序でに、うちの子達が温泉街の地脈と水脈は残したそうだから、規模は縮小するけど温泉は湧くよ」

「それは、有り難いと言わねばならないね」


 観光地に打撃を受けるも、全く湧かない状態にはならないから、工夫して売り出せばいい。

 それを、やるのが宰相の仕事だ。


「それから、聖母教会が苦情を申し出てきたよ。守護者制度が停止したのは、平民出身の女王の責任であり、退位しろと迫ってきたさ」

「そんなの、無視してればいい。大方、教会の意のままに動く駒を、次期女王にしたいだけでしょ。エルシフォーネが万全な今、敵はないからね」

「嵐の大精霊だったね」

「そう。風属性の精霊や雷属性の精霊に、嫌われるだけ。こっちも、序でにうちの子達の属性の精霊にも、嫌われる」


 聖母教会については、私にも責任がある。

 こちらは、私が矢面に立ち塞がろう。

 常識を学んでいないから、破門者続出に間違いなし。

 さあ、張り切って対応してやろうではないか。


「では、本日の朝議に参加して欲しいが、承諾してくれるかい?」

「事が、聖母教会に及ぶならね」

「実は、昨夜未明から聖母教会の代表が王宮に滞在してね。神託にあったマスター権限の方に会わせろと、しつこいぐらいに喚いているよ。教会と手を組む貴族も、バーシー嬢を探しているとさ」


 の、割には昨夜は静かに眠れたけど。

 犯人は、背後の二柱か。

 フィディルが空間を捻曲げて、ファティマが結界を張り巡らせたな。

 振り向くと、にこにこ笑っていた。


「マスターには、安眠していただかないと」

「寝不足は、美容の敵ですわ」


 宰相も二柱の悪戯に思い至った。

 はあ、と溜め息を吐かれた。

 恐らく、私が見つからないから、宰相の方に突撃をかました模様。

 寝不足は、アリスの説教だけではなかった。

 ご愁傷様。


「ひとつ気になるのだけど。女王ちゃんは?」

「陛下は、昨夜から工房にお篭りになってるさ。バーシー嬢から頂いた教本を手にしてたから、錬金人形を製作しているだろう」


 あらら。

 もう一人、徹夜組がいた。

 教本、渡さなければ良かったかな。

 でも、間違いだらけの教本を、永年有り難く戴いているのを、見過ごせなかったんだよね。

 てっきり、解読されていると思っていたら、ユーリ先輩が残した遺産を、改訂するのを躊躇っていたらしい。

 シェライラと女王ちゃんは、間違いに気付いて完全自律型の錬金人形を作製していた。

 宰相のアリスも多少の間違いは有るものの、私にリペアを申し出てこないので、気に入っているとみた。


「んー。女王ちゃんのデキ次第では、守護者増やしてもいいんじゃないかな」

「それは、陛下の守護者を増やすと、言って差し障りがないのかい?」

「別に、一人一柱の守護者って、決めてはいないんだよね。ただ、維持に魔力持っていかれるから、四桁の魔力保有してないと、複数同時は破綻するだけなんだよね」

「……つかぬことを聞くけど、六柱を同時に侍らせるバーシー嬢の魔力保有量は?」

「私? 五桁有るよ」


 アイテムボックスに死蔵してある装飾品を装着したら、六桁いくけどね。

 言わないでおこう。

 昨日鑑定したシェライラと女王ちゃんは、立派に四桁の魔力保有量だから、二柱を側に置けるのは必定。

 相性的にシェライラが闇、女王ちゃんが光の適性がある。

 二人で切磋琢磨して、国を守るといい。

 宰相はギリギリ四桁だから、少し気が重い。

 炎を、託せる器ではない。

 一柱で我慢して貰おう。


「守護者制度が停止しているが、守護者契約は結べるの術はあったりするかい?」

「あの大精霊石があれば、精霊王まで誓約の文言が届くでしょ。精霊王が許可だしたら、守護者誕生になるよ」


 これは、フィディルに聞いた。

 運営の統括AIがいないのに、守護者が誕生するのは精霊王が契約を見届けているから。

 教会の大精霊石が精霊界への門となっていた。

 レットとレッタは、昼夜問わずに避難してくる女性の為に、常に門を開けて待機していた。

 相性の適性を見て、守護者を選んでいた。

 それが、ユーリ先輩からの魔力補給が途絶えても続いていたので、二柱は消耗していた。

 私が役目を終わらせてないでいたら、ジュリエットと同様に器を喪い、存在が消失していた。

 あの子達は役目を担うことで、主不在の消失感を耐えていた。

 そこへ、主をよく知る私が現れ、待機していたフィディル達が人の世に顕現した。

 大精霊が集う懐かしさが、消失感を上回り漸く休眠に入ってくれた。

 宰相には二月と言ったけど、女王ちゃんとシェライラが託すに相応しくない行いをすれば、休眠させたままでいる。

 ましてや、利権に走る聖母教会には渡さない。

 渡すのは、引導だ。

 さあ、待ってなよ、聖母教会の聖職者。

 思わず、唇の端が弧を描いた。

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[気になる点] 朝議に参加してほしい旨の文が見当たりません。 いきなり了承してくれるのですね、と言われても聞いてないよ。となりませんか?
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