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012 千客万来でした

 本日の宿泊先は、何故か王宮になりました、まる。

 シェライラは夕食を一緒に摂った後に、ライザスの領主館に送り届けた。

 何処でもフィディル君、再びである。

 扉一枚隔てた先が、ライザスの領主館。

 実際に体験した大臣二人と、副総長がまたもやぱかりと口を開けた。

 何故か、シェライラと女王ちゃんがどや顔をしていた。

 解せない。

 宰相さんいわく、ユーリ先輩の遺言と各自の守護者から愛弟子の存在は秘匿されていたらしい。

 ユーリ先輩が天啓を受けて、時の彼方から私が来訪するのは、歴代の女王と筆頭候補には知らされる情報で、待ち望まれていた。

 ライザスのシスターも知っていたようだが、お金儲けにかまけて忘れていたようである。

 シスターの守護者は高位精霊だけど、愛弟子の私を様付けで呼べるのは大精霊だけだと決まりがあるそうな。

 ジルコニアが薄い胸を張り、説明してくれた。

 そうそう、夕食の席には女王ちゃんと宰相さん、シェライラ父娘の五人のみで、国防大臣は二人の息子を引摺り去っていった。

 これから、総長の引き継ぎと警護の再確認をするそうな。

 頑張ってくださいな。

 んで、給仕には守護者が就いた。

 内密な話が有る為と言うか、常識を知らない私が破門者続出させない為の措置だと思う。

 上流階級のテーブルマナーなんぞ、知らんわ。

 見よう見まねで、何とか食べた。

 贅を凝らした訳ではないが、味が微妙に濃いと感じた。

 見事なテーブルマナーを披露したシェライラや宰相さんは、普段通りに食事をしていたので私が味に慣れないだけらしかった。

 水を飲む回数が増えた。

 明日もそうなら、早々と宿を取るか、自炊するかな。

 いや、まてよ。

 王宮がこれなら、宿屋も同様か。

 ならば、自炊一択有るのみである。


「マスター。何を思案中ですか?」


 座り心地のよいソファにて、行儀悪く足を組んだ姿で座っていた私に、ファティマが問うてきた。

 何時の間にか、うんうん言っていたらしい。

 不安な眼差しでお子様ズが見上げていた。


「うん。王宮の食事が合わなくてね。微妙に味が濃かった」

「そうでしたね。マスターは濃い味付けは好みではなかったでしたね」

「うん。これが毎日続くなら、街に宿を取るかなあって思っていたところ」

「エスカ、料理する所見ていた。料理作る人、怒りながら作っていたよ」

「ユリス、見ていた。お水、変な味していた。だから、少し細工した」

「……セレナ、見ていただけなのよ」


 守護者に食事は必要ではないけど、食べれない訳ではない。

 ユーリ先輩が作製した守護者には、食べ物を魔素に変える機能がある。

 味覚嗅覚まで、兼ね揃えている。

 なので、私の守護者は食べ歩きの仲間でもあった。


「水かぁ。軟水と硬水の違いしか分からんなぁ」

「お水、温かいよ」

「マスター。この国は火山地帯ではないけど、温泉湧いているから、硫黄の味が含まれていると思う」

「温泉?」

「うん。魔石で水は浄化しているみたいだけど、王宮の下にはマグマが流れている」

「それ、危なくないの?」

「炎が制御しているから、危ないのか?」


 レオンが後ろを振り向いた。


「大変、です~。少し、代わって、くださいな~」

「うん。マスター、少し炎と代わってくる」

「ああ、うん」


 千客万来。

 深紅の髪色をした炎の大精霊が、床にへたり込んで座っていた。

 守護者ではない精霊の姿に、異変を悟らされた。


「レオン。地脈をちょい移動して。ユリスは水脈を整えて頂戴」

「はい」

「はぁい」


 レオンとユリスが姿を消す。

 ショルダーバッグは何処に置いたかな。

 まぁ、いいか。

 思考入力でアイテムボックスを展開する。

 ウインドウが浮かび、目的の品を探す。

 確か、持っていた筈だ。

 あっ、あった。

 炎の精霊石を選択して、ワンスタック分を取り出す。


「ジュリエット。ほい、補給して」

「ありがとうございます~」


 器がない精霊を回復させるのは、骨が折れる。

 大量の魔素が必須になるから、属性の魔石や精霊石がかなりの量消費される。

 六柱も守護者がいると、いつ何時器が破棄状態に陥るか不安になる。

 ので、精霊石は欠かせないアイテムである。

 全属性の精霊石を所持しているのは、コンプ魂がそうさせていた。

 準備よければ憂い無し。

 所持して良かった。

 因みに、アイテムのワンスタックは、999個である。

 ジュリエットは、一瞬で精霊石の魔素を取り込んだ。

 精霊石が砂と化す。


「まだ、必要?」

「はい。後少し、くださいな~」

「ほい」


 ワンスタックだと不十分に思えたので、もうワンスタック追加した。

 次から次へと砂と化す精霊石を、惜しまない。

 精霊の加護を過分に頂いているので、恩返しである。


「もう、充分です~。ありがとうございます。ミーア様~」

「うん。顔色良くなってきたね」

「ジュリエット。わたしの魔力を譲渡しますね」

「ありがとうございます~。ファティマ姉様」


 聖の大精霊のファティマだけが、大精霊を癒すことが出来る。

 虹色の魔力がジュリエットを包む。


「随分と無理したね。レットとレッタも器が消失したよ」

「二柱も、ですか~? ミーア様が来訪するまで、頑張りすぎました~」

「うん。ユーリ先輩と約束を交わしていたんだね。先輩に代わって、褒めてあげる」

「うわぁ~。嬉しいです~」


 精霊の姿だと触れはしないが、頭の位置に配慮して撫でてみた。

 ジュリエットは、花が咲いたかのように微笑んだ。

 私はジュリエットのマスターではないけど、彼女のマスターをよく熟知している。

 裁縫師、エララ。

 炎のジュリエットと嵐のエルシフォーネのマスター。

 クラン仲間だ。

 エララは当初は水のユリスを欲していたのに、逆属性のジュリエットと契約していた天然さんである。

 ジュリエットの口調はエララ譲り。

 二人して間延びした口調で話すから、慣れない人は付き合う価値がないと判断する。

 それで、エララが裁縫師のマイスターだと知ると、喚くだけ喚いて難くせをつけるのだ。

 酷いと、騙した、無償で装備を作れと強要してくる。

 そういった輩は、クランから追い出して取り引きを停止したものだ。


「ジュリエットはどうする? レットとレッタ同様に、精霊石で休眠する?」

「ですが~。わたしが居なくなると、この国は温泉が湧きません~」

「でも、器が消失したから、先輩との約束は破棄だよね。このままだと、存在が消失するよ」


 温泉とジュリエットを天秤にかけたら、ジュリエットの方が遥かに重い。

 大精霊の一柱が欠けるのは、ユーリ先輩だとて容認はしないだろう。


「フィディル。宰相さん、呼んできて」

「はい。既に、繋いでいます」


 扉前には監視の目的を含んだ警護の兵士がいる。

 外に出ようものなら、しつこいぐらいに付きまとわれる。

 気分転換の散歩も許してはくれないので、客室におとなしく居たのだけど。

 私にはフィディルがいる。

 やろうと思えば、何処にでも行ける。

 フィディルは扉を数回ノックし、返事を得てから開けた。


「あら、時空(とき)の。どうかしましたか?」

「マスターが、至急宰相に会いたいと言われた。炎が、地下のマグマの制御を離れる。温泉が湧かなくなるぞ」

「それは、大変です。アメリア、ミーア様のお呼びです。至急とのこと、会議をしている場合では、ありませんよ」


 フィディルの魔力を感知したのだろう、火のアリスが扉口に居た。

 会議をしていたとは、タイミングが良かったのか悪かったのか、どっちかな。

 扉に、視線が注目する。


「会議中は、資格なき者の入室は禁じられている。如何に、バーシー嬢の守護者といえ、入室はさせるでないよ、アリス」

「あら、いいの? 炎が地下のマグマを制御しているから、この平地に温泉が湧いているのよ?」

「それは、秘匿情報さ。部外者が知るべき案件ではない」

「でも、ミーア様はご存知よ。それに、対処を誤れば温泉を観光地にしている街が打撃を受けるわ。ワタシは忠告はしたわ」

「どういう意味なんだい?」

「炎がユーリ様の盟約を終了して、新しいマスターの元へ契約したら、温泉が二度と湧かなくなると言っているのよ」

「なん、だって。一大事ではないか」

「だから、そう言ってるの」

「どうして、今日なんだよ。聖母教会の守護者制度が停止したのと言い、炎の方の盟約が破棄されかかる。あの方は……」


 宰相の続きの声は聞こえなくなった。

 フィディルが扉を閉めたからである。


「マスター。ユーリ殿の遺産を引き継ぎましたら、王宮を出ましょう。まだ、ライザスの娘のがましです」


 にこやかに微笑んでいるが、目は笑っていない。

 エスカとセレナの肩が跳ねた。


「フィルにぃ。お怒りぷんぷん」

「……にぃ。ぷんぷん」


 うん。

 ぷんぷんである。

 ファティマも、微かに冷気を漂わせていないかな。


「むぅ。ミーア様を馬鹿になさいましたね~。知りません~。休眠いたします~」


 会話が筒抜けだった為に、ジュリエットは即決してしまった。

 最後に残しておいた、高純度の精霊石に宿り熟睡モードに入った。

 どうするかよ。

 この問題は只事ではなくなってきましたよ。

 日本人としては、お風呂には毎日入りたいぞ。


 ぐらり。


 王宮が揺れた。

 レオンが地脈を正した行為による地震である。

 あの会話がフィディル経由で伝わり、ジュリエットも休眠したのでマグマの流れを本来の位置に戻したのだ。

 これで、温泉が湧かなくなったのが確定した。


「マスター、ただいま」

「ただいま、マスター」

「おかえり。そして、ご苦労様」


 順番に頭を撫でる。

 レオンは照れくさそうに、ユリスは満面の笑顔で受けている。

 序でに、エスカとセレナも頭を出してきたので、撫でておく。


「マスター。炎が盟約を終了したと伝えてきたから、地脈を正したぞ」

「うん。火の子達、棲み家に帰っていったよ」

「だけど、マスターが悪く言われるの嫌だから、温泉地は規模縮小して温泉湧くようにした」


 あら。

 何ていい子達なんだろう。

 嬉しくなり、撫で撫でをしておく。


「この国は、精霊の恩恵を享受しすぎていました。無限に有るものと勘違いしてきていますから、湧かなくなるのも仕置きになったかもしれません」

「でも、フィルにぃ。マスター、お風呂大好きだよね」

「はっ。そうでした」


 フィディルが、地味に凹んだ。

 まあね。

 清潔好きだからね。

 ゲームでも、クラン仲間も拘りを見せて大浴場作ったしなぁ。

 レオンは覚えていたのだろう。


「フィディルが言いたい事も、レオンが言いたいことも分かるから、二柱(ふたり)とも言い合いは止めよう。精霊に関しては私が悪役になっても甘んじて受け止めるよ」

「「マスター?」」

「守護者システムを停止したのも私だし、ジュリエットを休眠に誘ったのも私だしね。レットとレッタを女王ちゃんかシェライラに託そうと思ったけど、暫くは様子見だね」


 ユーリ先輩が興した国が、精霊が存在を消失してまで守る価値があるのか。

 界と時を越えて現代に降り立った私が、監察させてもらう。

 だからさ、私が疫病神になるかは、この国次第なんだよ。

 宰相さん。

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