表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/327

118 勧誘を提案しました

 いきり立ち、犯罪を匂わせる発言をする、アナベラちゃんの戸籍上従兄弟で、遺伝子上は叔父と叔母のランドルフ伯爵家の息子と娘。

 よっしゃあ。

 言質は取ったぞ。

 あんた等もれっきとした犯罪者の仲間入りだ。

 余罪発言ありがとうございます。

 ただ、母親の夫人は、驚いていたのが解せないが。

 まあ、私が追及するのは、確実になった。

 裏?

 そんなの、とっくに把握済みである。

 ランドルフ伯爵がアーゲード侯爵の息子なのは知り得ていたが、兄の代役を弟がやらされていた情報は私には届いてなかったけど。

 私も、そこまで詳細に情報を得ようとしていなかったので、その点は反省するしかない。

 で、問題発言を聞いたフェルナンド氏は、アナベラちゃんを抱えて、庇う姿勢を取る。

 死んだと聞かされていた愛娘を、再び失う事態にならないようにするにはどうすればいいか、フェルナンド氏も内心で思案しているだろう。

 が、事前に自分も処罰覚悟で父親を弾劾した手前、有効性がある安全地帯の確保には、貴族院を頼るか、はたまたこれまでアナベラちゃんを庇護してきた私を頼るかはフェルナンド氏次第である。

 よって、私もアナベラちゃんの身の安全を鑑みて、容赦はせんぞ。


「随分と物騒な事を言いますね。アナベラちゃんの殺害指示に、適切な治療を施さないように指示ねぇ。まあ、お宅等の言い分だとアナベラちゃんは下賎な平民の女が産んだ賎しい子供なんでしたっけ? アナベラちゃんの父親はそこの侯爵さんの次男で貴族なのに、正式に書類が処理されていたらお宅等と同じ身分なんですけど? て言うか、お宅等と違って正式な夫妻の子供で、お宅等は息子の嫁と義理の父親との間の子供で、貴族院でも醜聞だと判断されるのが妥当な血筋なんだと思われますが?」

「なっ!? そんなの、そいつが言った出鱈目な話だ。私と妹は、きちんとランドルフ伯爵の息子と娘だ。母上が、そんな不義を働く訳ないだろうが!」

「そうよ。お兄様が言う通りだわ。私達が、不義の子供だという証拠がどこにあって? ほら、あるなら出して見なさいよ」


 あーあ。

 本当に、こいつ等阿呆だわ。

 私は、視線を裁判長に向ける。

 裁判長は、向けられた視線の意味を理解してくれた。


「ふむ。ランドルフ伯爵家の系譜に関して、貴族院も看過出来ない案件に発展しましたな。何しろ、バーシー伯爵を告発したのはランドルフ伯爵である故、原告側の存在意義を見失う訳にはいきませんな」

「はい、裁判長に同意致します」

「裁判の審議に必要だと思われますので、ランドルフ伯爵家の系譜に関しての、賢者の石板の使用に同意します」

「……待って。お待ちくださいませ」

「母上?」


 私の弁護人のフォードさんや、裁判の作法を教授してくれたエンブリオ公爵さんの説明では。

 賢者の石板は、裁判長の質疑に答えを表してくれるのだけど。

 何せ、人の世の機微に疎い精霊が記す答えなものだから、気紛れに質疑以外の答えが明るみに出てしまう事が多々ある。

 要は、精霊が毛嫌いしている貴族がいたら、念入りに秘匿している事柄も裁判長に教えてしまっていたりするから、賢者の石板使用は毎回許可される訳ではないそうだ。

 主に重犯罪とか、反逆罪とか、国の為にならない犯罪を犯した貴族を裁く時に使用される。

 今回は、アーゲード侯爵側に長年不正と人身売買疑惑が持たれ、内密に捜査されていたのもあったり、エンブリオ公爵が管理する初代女王の遺産を隠匿している問題もあって、賢者の石板が使用されている。

 これは、アーゲード侯爵側も寝耳に水だったはずで、まさか賢者の石板の使用許可がおりているとは思わなかっただろう。

 だから、意気揚々と自分達に有利な判決がおりると疑いもしないで、のこのこと全員で法廷にやって来た。

 まさか、フェルナンド氏が自暴自棄で、内情を暴露するとは、微塵にも考えていないでいたとはね。

 お粗末さに、呆れるわ。

 ほんでもって、告発したランドルフ伯爵が代理の人間で、戸籍上は死人の次男が兄の名を騙らされていた。

 となると、告発の申請書類に不備がある事となり、審議は中断するしかなくなった。

 では、申請者の名義を書き換えるとすると、死人のフェルナンド氏では法的に無理があり、次にアーゲード侯爵ではフェルナンド氏の暴露で信用は出来ない。

 なら、ランドルフ伯爵夫人かその子供では、どうか。

 娘は未成年だが、息子は成人している。

 じゃあ、息子がランドルフ伯爵の正当な継承者だから、名義を書き換える?

 ちょっと、待て。

 フェルナンド氏は、本物の故人なランドルフ伯爵夫人は、義父と不義を働き子を成したとも暴露されている。

 この際、名義書き換えの為に、賢者の石板に聞いたらいいんじゃないかな的な、裁判官達の後押しで進んじゃったね。

 息子と娘は、フェルナンド氏の暴露に懐疑的で嘘だと信じているみたいだが、母親はかなり狼狽えておりますなぁ。


「お待ちくださいますよう、お願い致します。どうか、どうか、それだけはお止めくださいませ。お願い致しますから、止めてください」


 原告側席から、裁判官の座す高台にすがり付くようにランドルフ伯爵夫人は何度も何度も、止めるよう訴える。

 その形振り構わない姿は、認めてるようなもんだって、第三者にも分かるんだけど。

 母親のあまりにもな姿勢に、息子と娘は顔面蒼白になっている。

 どうやら、悟る思考はあったらしい。


「母上? そんな、まさか……」

「お母様、嘘でしょう?」


 驚愕の面持ちで、母親を見て、祖父だと思ってきた侯爵を見る。

 ああ、侯爵は沈黙させていたな。

 うん、解除しますかね。

 どんな、反論してくれるかなぁ。


「お爺様。あいつが言ったのは、真実なのですか? 私達の父親は、お爺様の息子ではないのですか?」

「……知らん、知らん。儂に、聞くな。儂とて、お前達は孫だと思っておったわ」

「ですが、父上の、私達への無関心振りは……」

「お父様は、私を一度も誉めたり、抱き上げたりはしてくださらないでいたわ。誕生日の贈り物だって、お爺様しかくださらなかったではないですか」


 ありゃ。

 ちょいと、お子様には聞かせてはならない話題になってきたかな?

 マイク君の耳はナイルさんが、アナベラちゃんの耳はフェルナンド氏が塞いでくれていたりする。


「先にも述べたが。父、アーゲード侯爵は無類の女好きの性質だ。兄嫁が嫁いだ日から狙われていた。中々、兄夫妻に子供が産まれない時期が続き、兄夫妻の寝室が別と分かるや否や、兄嫁に手をだした。故に、兄は父への恨みと、父を拒まなかった兄嫁への不信感から、男色に走り、兄嫁を拒絶した。兄嫁とは寝室を同じくした日は一度としてない。ならば、兄嫁が宿した子は誰の子かは、屋敷に勤める者なら誰もが知っている」

「黙れ! 貴様もファルゼンも、儂の期待を裏切りおって。ファルゼンは男色となり、貴様は下賎な平民女を妻に求めた。儂が、どれだけ、下位の貴族から、失笑され、貶された事か。貴様も、貴様を誘惑した下賎な女も、その娘も、生かしておいたのは愚策であったわ。もう、貴様なぞいらんわ。我が家は、孫のフォルクスに託す。どこぞへ、放逐してやるわ」

「ああ、なら。私がフェルナンド氏を雇います。ちょうど、税務とか内政に詳しい人材が欲しかったんですよね。貴重な人材、手放してくれて、ありがとうございます」

「は?」


 うん、本当に良かった。

 実は宰相閣下とか、バウルハウト侯爵家からとか、アルバレア侯爵家からとか、領地開拓に移住希望者を、私に断りなく人選募っていたりしてたんだよね。

 善意からきている行動だが、私が一切関わっていない水面下で、やるなっての。

 まあ、それも私を良く知るアリスとジルコニアが、レオンやフィディルが報告する前に謝罪に来たけどさ。

 私が画いていたプランではさぁ。

 冒険者ギルド員で、加齢による引退者や、怪我による引退者の受け皿として開拓人材を考えていたのだけどねぇ。

 宰相閣下の言では、冒険者ギルド頼りなのが不安視されていたようだった。

 女王国の冒険者ギルドは、まともな運営していたから機能不全状態にならず、ギルドは稼働しているけど。

 本拠地の本部ギルドや他国の冒険者ギルドは、まだ機能不全状態なまま。

 本部ギルドや他国からの賠償金請求は相変わらず続いているそうであり、女王国は賠償には応じてはいない。

 で、やっかみもあり、本部ギルドは女王国から冒険者ギルドを撤退させると強引な要求をしてきている。

 それに対して、女王国の冒険者ギルドマスターは、それならと独立を示唆して、納めていた上納金送金をストップさせていて、その問題でも揉めているとか。

 宰相閣下は、ギルドマスターが、私を御輿に担いで新しいギルド制度の改革に利用するのを阻止したいらしく、私と冒険者ギルドの友誼に胃を痛めているそうな。

 バウルハウト侯爵さんも、私を派閥に迎え入れる目的ではなく、第三者に利用されないように釘を差す意味を持って、自分の配下を潜り込ませたかった。

 アルバレア侯爵家は、単に後継者のナイルさんがまともな人材が私の元に集うまで居残る旨を告げていたから、安心して領主になって貰う為に、人手を選出しただけ。

 どちらも、私の為との思いがあるから、拒否するのもなぁ、と。

 しかし、黙って甘受するにも、私もひねくれているから受け入れ難く思い。

 なら、アナベラちゃんの父親を勧誘してしまえと思い至った訳である。

 いらないと言うから、良い拾い物したよね。

 まあ、父親の言いなりで、犯罪の片棒を担いでいたから、罪は償ってからだけど。

 フィディルとファティマからは、反論ないから異議は無しとみた。


「裁判長。フェルナンド氏は、父親のアーゲード侯爵の犯罪に加担していたでしょうが。御覧の通り、奥さんと愛娘を人質に取られていた状況を鑑みて、減刑を望みます。ついでに、罰として、我が領地での監視付きの無料奉仕を提案します」

「裁判長。バーシー伯爵の弁護人としても、ランドルフ伯爵を詐称し、バーシー伯爵の資産奪取の目論みに加担したフェルナンド卿への罰として、バーシー伯爵領地での無料奉仕による労役は妥当な判断だと思われます」


 要は、うちの財産狙った相手に、無料奉仕労役して悔しがれとこじつけた提案を、フォード卿も支持してくれた。

 甘い判断だけど、アナベラちゃんへの父親の態度を見たら、やはり根は悪人ではなかったんだとね。

 アナベラちゃんも、父親の印象が変わったのが分かったし、一緒にくらさせたくなった。

 元養護院の他の子供達には、アナベラちゃんだけ父親がいて特別扱いになるのは、幸せな姿を見せびらかす可能性が高くなるだろうけれども。

 母親役が頼りにならない人だけに、新しい父親役がいてもおかしくはないと思うのだが。

 こればっかりは、相性とかあるから一概に、良い案だとは思えないのもある。

 が、そこはどうにかして、乗り切るしかないのであって、手間を惜しんで愚策にするつもりはないぞ。

 誠心誠意を持って、子供達には説明をしよう。

 と言う訳で、裁判長様。

 フェルナンド氏の勧誘を、許可くださいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >我が家は、孫のフォルクスに託す。 【妄想劇場】 裁判長「その前に貴殿とフォルクス殿が貴族として残れますかな?」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ