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110 法廷にやって来ました

 はい。

 只今、王城内の貴族院部署法廷に入廷しましたミーア=バーシーです。

 シェライラから簡単な法廷での作法を聞き、何処でもフィディルの時空魔法転移を利用して、宰相閣下の執務室にお邪魔しました。

 ついでに、アリスとジルコニアとシェライラも同行している。

 ノックも無しに開いた執務室の扉で、王城にいるはずのない人間が現れたせいで、宰相閣下の部下さんと護衛官の騎士さんに不審者扱いされたのは言うまでもない。

 が、宰相閣下の守護者であるアリスの一喝で、事なきを得た。


「頼むから、王城に先触れ無しで転移しないで欲しいんだけどね」


 宰相閣下に注意されたのも追記しておく。

 で、執務していたお仕事を止めて、部下さんと護衛官の騎士さんを執務室から人払いした宰相閣下。

 眉間に盛大な皺を寄せて、重い溜め息を吐き出した。

 私の来訪の意味を理解しているのだろう。

 何せ、アリスを私の元に派遣するのを了承した訳だから、理由は把握済みでないとおかしい。


「バーシー伯爵を貴族院に訴えたのは、ランドルフ伯爵だけどね。どういう事か、父親のアーゲード侯爵が筆頭で息子を支援してるよ。ああ、アーゲード侯爵は貴族院の重鎮で、貴族院裁判では副審の裁判官でもある。でだ、アーゲード侯爵も馬鹿じゃない。息子が勝てると信じて、バーシー伯爵を裁く気でいるよ」


 ふむふむ。

 じゃあ、裁判官は侯爵さん側に付いてる訳か。

 要は、根回しは済んでいると。

 こりゃあ、息子の犯罪に父親も加担しているのが透けて見えた。


「でも、身内が関わる裁判に父親の侯爵が副審に付くのは、貴族法に違反するからね。今回の裁判に、関与は出来ない。しかし、侯爵の意思を汲んだ副審がその席に座るだろうね。もっとも、バーシー伯爵の擁護にはバウルハウト侯爵家の息がかかった裁判官が、味方するだろうさ」

「そうですわね。ミーア様にはご紹介しておりませんが、次男のお兄様が文官として貴族院の裁判官吏をしております。ミーア様と敵対するなとお父様が、我が家の身内や縁戚の家には通達しておりますゆえ、バウルハウト家は擁護致しますでしょう」

「それから、先代マーベリック子爵家のお家問題で、当時若さを理由に擁護を黙殺された貴族院の文官達が、今では発言力の高い裁判官吏だからね。彼等もバーシー伯爵の擁護に回って、赤の封蝋ではなく黄の封蝋でと召喚状の封蝋で揉めに揉めたさ。当代エンブリオ公爵様も仲裁権利を持つからね、黄で送る手筈になりかけたけども。アーゲード侯爵の提出した証拠書類が決め手となって、赤にならざるを得なくなったんだ。私としては、叙爵されて一月も経たないバーシー伯爵が、そんな犯罪を犯す意義がないとは踏んだけどね。どういう訳か、アーゲード侯爵は、バーシー伯爵の事細かな来歴を捏造したらしい」


 宰相閣下の苦虫を噛み潰したような渋い表情を鑑みれば、盛りに盛った来歴が捏造されたんだろうね。

 曰く、大陸全土に渡って名高い犯罪集団の幹部だとか。

 いやぁ、私の身許保証人は神聖国の枢機卿さんなんだけどなぁ。

 私を貶めると、必然的に枢機卿さんまで犯罪集団と関係していると話が拡がるのだが。

 そこの処、認識してないのかなぁ。


「言っとくけどね。ミーア=バーシーが女王国近隣諸国を教区に持つ、エルネスト枢機卿猊下の後見を受けているのは、あの場にいた人間にしか知らせてないよ」

「あら、何故に?」

「あんたね。エルネスト枢機卿猊下の庇護下にいる後見人を疑うだけで、枢機卿猊下の勘気に触れて制裁を受けた国がどうなったか。おいそれと、口に出せないんだよ。只でさえ、枢機卿猊下の耳が何処ぞに潜んでいるかも分からないのに、火種が野放し状態なおかげでも胃が痛い案件なんだよ。小さな小火(ぼや)が、気付いたら王都が全焼する火災に見舞われるのを防ぐ術がないんだよ。どう対処しろってんだい。あの阿呆な輩め」


 半ば、自棄糞気味な宰相閣下に、後日効き目が高い胃薬でも進呈しとこう。

 あー。

 人外さんの印象は、気の良いお兄さんな感じを抱いているのは私だけみたいだね。

 枢機卿バージョンのエルネストさんに直に会ってないから何とも言ないけど。

 どうも、畏怖されてない?

 余程、制裁された内容が、えげつないモノだったと思えた。

 と言う、やり取りを宰相閣下として、シェライラに案内されて貴族院の法廷へと移動したのである。

 ああ、王城は、三区画に分割されて一括りで王城と呼ばれている。

 女王陛下の居住区と専用工房がある奥宮。

 宰相閣下や大臣達が執務する内宮。

 他国の大使や王侯貴族をもてなす迎賓館を兼ね、女王が謁見したりパーティーが開かれる本宮。

 専ら、他国や一般の平民は本宮が王城だと思っているが、王城に勤務する文官武官や大臣達にとっては内宮が本来の意味で王城と知る。

 本宮は客をもてなす迎賓館だから、やたら豪華な美術品で飾られているせいもあり、希に内宮に行きたがる他国の大使を案内すると文官が走り回る状態を見て、然程興味を引かなくなるそうだ。

 本当は興味を喪わせる魔法の道具が、そこかしこに配置されて認識を阻害させているのが正しい。

 勤務する文官武官達は、その道具の影響を受けない備品の装着義務があり、また内宮で見聞きした情報を他者や他国に話したり文字で教えたりするのを誓約魔法で縛られている。

 まあ、他国の大使達が欲しがる情報は、女王国の要である錬金術の秘技なのだが。

 工房がある奥宮に勤務する女官は、更に厳しい誓約が課せられて、寿退社したら記憶が曖昧になり、例え拷問されても情報が引き出せないんだって。

 ああ、これはグレイス辺りが誓約魔法で縛っているなと感じた。

 邪の大精霊のグレイスは、誓約関連の魔法に干渉出来るので、配下の眷属を監視に充てているんだろう。

 聖の大精霊のファティマも誓約魔法に干渉できるが、ファティマは解除するのに長ける。

 時空の大精霊のフィディルだと、誓約魔法で縛られる前の状態に時を戻すので、その間の記憶自体も付随して消去してしまうから、安易に使えない。

 他の大精霊だと、そもそも誓約魔法に干渉できないので、よって誓約魔法を監理するのはグレイスとなる。

 きっと、マスターのダレンに言われて主命を果たしてるのだろう。

 ユーリ先輩のお願いには、おちゃらけて無視するのがありありと目に浮かぶわ。

 んでもって、貴族院の法廷に来たはいいけど。

 召喚状を見せて来訪の意を述べたら、対応してくれた職員の文官さんに驚かれた。

 何故に?

 召喚状には、受け取ったらすぐさま来るべしと記載されてたんだけど?


「あっ、あの、こ、こちらで、お待ち、いただけますか? ただちに、法廷の準備を致しますので」


 腰の低い文官さんに、控えの間らしき部屋に押し込まれた。

 次に、女官さんか女性の文官さんか判別つかないけど、若い女性がお茶セットをワゴンに載せて運んできた。

 今日のお供はフィディルとファティマの二柱だけど、女性は詳しい説明もなくお茶を運ばされたのか、付き添いのシェライラの護衛さんの分までお茶をテーブルに並べて、用が済んだと言わんばかりに出ていった。


「あら、そう言えば。貴族院に先触れ出してませんでしたわね」

「そうですね。故に、まさか召喚状が送付された当日に、被告人が来訪すると思ってもなかったのでしょう」

「ですな。今頃、原告のランドルフ伯爵やアーゲード侯爵は自宅に居られるのでしょう」

「あら、ふふふ。おかしな話ですわね。被告人にはすぐさま来いと命じておいて、原告側が只の一人も法廷の控えにいない。充分な、瑕疵になりますわね」

「誠に、嘆かわしいですね。貴族院の法廷に訴えを陳情し、裁判を開く要請をしておいて、肝心の原告側が従者の一人も法廷の控えにいないのは、法廷を蔑ろにしている証しでしょう」

「尤も、その呼び出した貴族院も、被告人が当日に来訪するとは露にも思ってはいない珍事ですが」


 シェライラ主従がジルコニアを交えて、談笑している。

 わざと、私に聞かせてるのだろう。

 あー。

 そうか、私の領地であるランカから王城まで来訪するには、数日間の日数がかかる。

 貴族院はアリスを使者に出した割に、私が王城に来訪する方法に思い至らないでいた。

 だから、被告人である私が当日に、王城の法廷に現れて混乱した訳か。

 よもや、アリスが転移していくとも理解してなく、陸路を馬車か何かで赴き、召喚状を手渡しされても、私が陸路で王城に向かうから法廷の準備とか、裁判官の待機とかしてなかったのか。

 でも、シェライラ主従によれば、被告人が出廷する間は、原告側も貴族院にいないとならない決まりがあり、それも怠っていた。

 うん。

 かなり、舐められてたんだな。

 私が。

 まあね。

 外見は十代後半な小娘だから、裁判と聞いて尻込みしては、後見すると喧伝したバウルハウト侯爵に相談なりしに行き、裁判官へ根回しをしてから出廷すると思われたんだろうね。

 生憎と、シェライラ個人が付き添うだけで、バウルハウト侯爵家を頼ってないのが現状だがな。

 どおりで、貴族院が静かだと思った。

 裁判の準備すらしてなかったから、職員も最低限の人数しか勤務してなかったようだし。

 呑気に、シェライラ主従の愚痴に付き合っていたら、慌ただしい足音が近付いてきた。

 漸く、貴族院のお偉いさんが来たようだ。


「バーシー伯。貴様、先触れ無しで訪れるとは何様だ!」


 ああ"。

 いきなり扉を開けて無礼極まりない発言した馬鹿がいた。

 伯爵様だが、それがどうした。


「召喚状にはすぐさま来いと、命令されて来たんだけど? 実行して怒鳴られる意味ないと思うけど?」

「ぐっ。だが、しかし、召喚状は今朝発行され、使者が出発したばかりだ。何故に、貴様が出廷出来た」

「その使者が昼過ぎにうちに来て、召喚状を渡されたから、至急来たのだけど?」

「だから、何故、当日に、王城に、来れたと聞いている!」


 私的には、素直に召喚状に従った結果だけどね。

 一文官、それも敵側の輩に話す理由がない。

 それから、あんたこそ何様だ。


「貴様院法、第三条その五項。爵位保持者は、その位階に応じて身を改めるべし。解釈文、下位の爵位保持者は上位爵位保持者に、断りなく話し掛けるべからず。身分相応の態度、発言しすべし」

「違反者は、罰金刑及び、爵位降格か重労働を課す、でしたわね。貴方、ご理解しているかしら。貴方の爵位では、バーシー伯爵を貴様と呼んだり、乱暴な口調で問い詰めるのは、その法が適用されていてよ。見苦しいから、黙ってくださる?」

「? !! あ、ああ。も、申しわけ……」

「まさか、法の番人たる方が法を犯すだなんて不祥事。貴方が所属なされている派閥の長は、どう思われるでしょうね。それから、此方の私達に出されたお茶ですけど。とても刺激的な隠し味がありますのね。貴方、残りのお茶を飲み干してくださる?」


 唐突に、私が言い放つ条文に、シェライラが乗っかる。

 貴様呼ばわりした輩は準男爵位保持者なので、目上の伯爵位の私や子爵位のシェライラに上から目線な口調は許されない行為である。

 法の番人であろうが、爵位が下位なら丁寧語で恭しく対応しないとならない。

 それと、シェライラが静かにお怒りになっているお茶問題。

 刺激的な隠し味と揶揄しているが、歴然とした物的証拠たる異物(くすり)が混ぜられたお茶である。

 まあ、毒薬ではない、単なる眠り薬だが。

 悪意ある物的証拠を差し出して、シェライラは顔面蒼白な文官に容赦なく促す。

 その気迫に、薬が何ら役にたたず効果を発揮してないのを目の当たりにして、文官が力なく座り込んだ。

 馬鹿だなぁ。

 私達を眠らせて、その隙に法廷の準備を済ませ、原告側を法廷に控えさせて、遅刻したのは私達だと辻褄あわせたかったのだろうが。

 御愁傷様。

 私達に、薬は効かん。

 私は体質的とファティマの恩恵にだが、シェライラは上位貴族令嬢で、筆頭女王候補。

 対策しているのは、当然だ。

 あーあ。

 初っぱなから、これだ。

 裁判も、一筋縄ではいかないかもね。

 まあ、私は突き破るだけどね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >貴様呼ばわりした輩は準男爵位保持者なので、目上の伯爵位の私や子爵位のシェライラに上から目線な口調は許されない行為である。 あれ?ミーアとシェライラの爵位が逆のような…… 一話から…
[一言] 相手のやらかしでいろいろやれることが増えてますね。
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