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107 問題児はまだいました

 約一名を除き、農園ライフに慣れてきた元養護院のこども達は、同年代の年下であるロイド君とエメリーちゃんの良きお友達となった。

 以前は、兄妹を見下して搾取してきた大人を真似て、虐めばかりする同年代の子供しかいなかったので、兄妹は純粋に遊び相手が増えて楽しそうな日々を送っていた。

 エメリーちゃんの髪飾りを欲しがったアナベラちゃんも欲しがる癖は鳴りを潜め、アンナマリーナさんから身寄りのない少年少女が我が農園に雇用されたと聞いたオレリアさんが、少年少女宛にちょっとした贈り物を送って寄越してきた。

 少年達には、木剣と小さな護身用ナイフ。

 少女達には、レース編みのリボンとお揃いのブローチ。

 どちらにも、アルバレア家の家紋が入れられていて、アルバレア家が後見人になった証しでもある。

 何故にとアンナマリーナさんに問えば、もしかしたら将来子供達の中から、兄妹の側付きの家臣になるかもしれないからときた。

 ああ、青田買いとかいうやつか。

 それから、単純にロイド君とエメリーちゃんの境遇を救えなかった罪滅ぼしみたいなのも含まれているそうだ。

 アナベラちゃんは、エメリーちゃんとお揃いのリボンが余程嬉しかったようで、今では親友のポジションにまで成長していた。

 最初の我が儘ぷりが、嘘のように甲斐甲斐しくエメリーちゃんのお姉さん役が板についている。

 んで、反比例するかの如く、約一名の評価が駄々下がりしてき始めていた。


「おい、エリーゼ。お前、今日も仕事をサボったな」

「違うわよ。身体の調子が悪くて動けなかっただけよ」

「それ、何度目だよ。アナベラの我が儘だって、半分はエリーゼの仕業だったと判明したんだぞ。アナベラに嘘を教えて、孤立させて、陰で笑ってたんだってな」

「そんなの、嘘よ。私はアナベラがおかしな事をしていたから、正してただけじゃない」

「なら、明日からはアナベラに仕事を押し付けて、楽をしようとするなよな。母さんにも、既に話してあるからな。夜にでもお説教されてろ」


 少年達のリーダー格のマイク君は、正義感が強く曲がった事が大嫌いな性格をしている。

 だから、アナベラちゃんが我が儘に振る舞うのも、許せないで強めな口調で責めたりしていた。

 でも、理由が判明したら、きちんと謝罪できる子でもあり、和解して兄貴分としてアナベラちゃんの頑張り過ぎる仕事を然り気無くフォローして、あれこれと世話を焼いている。

 本来は、少女達のリーダ格のエリーゼちゃんが、仕事配分を采配して振り分けてフォロー役に徹しないとならないのだが。

 エリーゼちゃんは、楽な仕事だけをしたがり、それも数分したら休憩を繰り返して、決められた仕事を全うする気が全くない。

 これには、マルローネさんも何回か注意しているのだけども、身体が弱いのを理由にして逃げてばかりでいる。

 そんな状態なエリーゼちゃんなので、気にいらないなら何時でも農園から出ていって貰っても私は構わない。

 何せ、手癖が酷すぎた。

 初めは、ブラウニーのクリスから誘惑してくると、頭を疑いたくなる話題が出た。

 齢十四歳の少女が、誘惑とは何事か。

 クリス曰く、始まりは休憩時間に配られるおやつを他の子達とは差がつくようにして欲しいと要求。

 それから、度々マルローネさん達が住まう離れから私が寝起きする母屋に部屋が欲しい。

 使用する食器類を、木製から陶磁器への変更。

 あの部屋に飾られている高価そうな花瓶や、家具が欲しい。

 エメリーちゃんが身につけている髪飾りと同じのが欲しい、もしくはアンナマリーナさんみたいな上等な布地の服が欲しい。

 あれこれ、挙げていくとキリがない。

 どうも、欲しがる癖はアナベラちゃんではなく、エリーゼちゃんだったようだ。

 フィディルに過去を覗いて貰ったら、アナベラちゃんが欲しいと言った品々は、結局エリーゼちゃんに没収されていた。

 そして、換金されて秘かに高額な装飾品が買われて、隠し持っていたりする。

 おい。

 それが、同じ境遇にいる妹分に対する態度でいいのかよ。

 序でに、フィディルは爆弾を投下してくれた。

 マルローネさんが抱いていた乳児だが、捨て子ではなくエリーゼちゃんが産んだ赤子だとさ。

 しかも、父親はあの屑野郎。

 そう、母親であるマルローネさんのもと旦那。

 聞いて、発狂しそうになったのは言うまでもない。

 十四歳の少女が母親だぞ。

 屑野郎め。

 少女趣味の性癖持ちだったのか。

 喚いた私に、またもやフィディルは暴露する。

 クリスを誘惑した時点で、気付け私よ。

 屑野郎を誘惑したのも、エリーゼちゃんからだとよ。

 そんな、醜聞。

 流石に、マルローネさんも言えんわな。

 私の中で、エリーゼちゃんの評価は最低値となった。

 なので、ブラウニーのクリスもアンジーも、うちの子達も、エリーゼちゃんを警戒するようになった。

 それとなく、ナイルさんにも事情を打ち明け、エメリーちゃんに言葉巧みに言い寄って、家宝の品々をあげようとしないように忠告しておいた。

 まあ、エメリーちゃんには、未来の守護者たるナナリーがついているので、その手の心配は杞憂に終わりそうだけどね。

 問題は、ロイド君に向けられそうである。

 同じ農園従事者とばかり思われているロイド君が、次々代の侯爵様となるとばれたら露骨なハニートラップを仕掛けてきそうだからなぁ。

 ただし、その標的になりかねないロイド君は、野性の勘が働いているのかエリーゼちゃんを避けている節がある。

 うん。

 最下層の農奴扱いされていた経験が、身を護る手段になっていて良かったわ。

 ほんでもって、エリーゼちゃん関連についてマルローネさんと話し合いをした。


「と、言う訳で、エリーゼちゃんについてマルローネさんが隠していたがった事案が、公になりました」

「はい。いずれは、話さないととは思っておりました。あの子が異性と肉体関係を持つきっかけになったのも、実父が幼い娘に春を売らせて金銭を得ていたせいでもあります」

「それは、前領主の悪政による被害だそうですね」

「はい、おっしゃる通りです。エリーゼの母親は、父親共々前領主の屋敷に仕える使用人でした。しかし、母親が前領主のお手付きになり、一時的な寵愛の末に飽きられて捨てられ、両親は職も喪いました。その憂さ晴らしなのでしょうね。母親は産まれた娘の父親が前領主か夫なのか分からず娘を虐待し、父親は自分の娘ではないと思い込み春を売らせる事で、前領主への恨みを晴らしていました」

「けれども、エリーゼちゃんは前領主の娘ではなかった」

「そうです。五歳の誕生日に適性検査を受ける折りに、エリーゼの血筋は二人の娘であると証明されました。父親は、前領主の娘であると期待して、エリーゼの養育費をせびろうとして僅かな退職金をはたいて証明神託を受けさせました。証明神託でエリーゼが貴族の血筋ではないとはっきりとくだされ、当てが外れた実父は母親と同じく娘を売り物にしたのです」


 マルローネさんの元へエリーゼちゃんが保護された経緯は、娘に春を売らせようとした相手が常識ある人物で、治安維持の自警団に話を持っていっても相手にされないからと、まだまともに機能していた冒険者ギルドに報告した。

 当初は、そのギルド長も体調が悪く、二の足を踏んでいたものの、サブマスターのお姉様の知る事になり、漸くエリーゼちゃんを毒親から引き離すのが叶った。

 だが、エリーゼちゃんは既に歪んだ思考を植え付けられていて、成人男性を見ると身体を使って甘え、食事を得ようとする。

 お姉様達、女性ギルド職員が歪んだ思考を再教育するも中々治らず、そこで救いの手を差しのべたのはあの聖母教会のシスターハシェットだった。

 その時点では、シスターも問題を起こしてなかったのと、弱者の女性を救うのが聖母教会の理念だったので、迷いなく預けられた。

 結果、エリーゼちゃんの思考は正常に戻ったとして、毒親の元に戻す訳にもいかないので、母性愛溢れるマルローネさんが営む養護院に引きとられた。

 まあ、それも上手くいってなかったのだけどさ。

 シスターの教育は、エリーゼちゃんの思考を如何に隠して手駒に出来るかの一言に尽きる。

 エリーゼちゃんは、シスターに傾倒して従順な信者になり、シスターの言うがままに異性を誘惑していた訳だ。

 マルローネさんもエリーゼちゃんの異質さを察知して、ギルドのお姉様に相談して、エリーゼちゃんの内面が奥底では変化がないのが分かり、二度目の隔離教育が為された。

 お姉様は、異性を誘惑する行為を暗示によって封じ込めた。

 が、異性との性行為を覚えた身体は、暫し肉体の不調を訴え、寝込む羽目になった。

 その不調につけ込んだのが屑野郎だった。

 マルローネさんに黙って作った借金を精算する為に、エリーゼちゃんの暗示を解き、春を売らせようと企んで強要した。

 ああ、屑野郎をしばき倒したい。

 自分の借金は、自分で返済しやがれ。

 屑野郎!

 エリーゼちゃんが金目の品々を欲しがるのも、屑野郎が中途半端に解いた暗示が捻れて、屑野郎を助ける為らしい。


「エリーゼの事を話せなくて、大変申し訳ありませんでした。話してしまうと、貴女を頼ってしまうのを、私が嫌だったのです」

「ああ、レアーネさんから、私ならエリーゼちゃんの人格矯正が出きるかもと言われたからでしょうか」

「はい、そうです。私はエリーゼを救えないでいました。けれども、貴女ならそれが出来る。私の、浅はかな矜持が、貴女を頼るのを、拒否してしまっている。囮にされた子供達を救い、アナベラの問題も解決し笑顔を取り戻してくれたにも関わらず。私は、貴女に対抗意識を持ち、エリーゼが困らせるのを見逃した愚かな女です。どうか、私の放逐だけで済まして、子供達だけはお見逃しください」


 マルローネさんは心情を吐露するけど。

 私は、マルローネさんを嫌えない。

 だって、彼女も目に見えない被害者であるからだ。

 伴侶には騙されて土地や家屋や私財を奪われるわ。

 悪どい輩には、身売り同然な借金返済方法を提案されるわ。

 精神的ストレスによる過労故に身体を壊して、庇護するべき子供達を危険に晒すわ。

 問題児を手放さず、保護者の責任感に雁字搦めになるわで、そりゃあ簡単に他人信じろというのが無理だ。

 マルローネさん自身、まだ三十代の若い身の上だけども、頼りになるはずの旦那は屑で、多分泣きたくても泣けなかったんだろう。

 嗚咽を堪えて涙を溢すマルローネさんの姿に、同情しか湧かない。

 だからさ、この場では存分に泣いてくださいな。

 小娘な私にも、少しは重荷を分けてくれてもいいのだから。

 それが、雇用主の義務ってモノでしょ?


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