104 住人が増えました
「この度は、私共を受け入れてくださり、誠にありがとうございます。また、無知故の成り行きで囮にされ、ベルゼの森で果てかけた息子達をお救い頂き、お礼の言葉が尽きません。本当に、ありがとうございました」
質素な衣服に身を包んだ女性が、頭を下げに下げまくる。
その母親の姿を見て、縁があり助けた子供達と兄妹達が揃って頭を下げる。
うん。
なんか、いたたまれない。
お姉様に森での案件を報告して帰宅したら、レードさんパーティーが護衛して、件の養護院ご一行が家で待たされていた。
うちの農園には、私が許可した人間しか出入り出来ないので、レードさんご一行は農園の門前で、どう入ればいいか困り果て思案していた処に、ナイルさんが気付いてわざわざブラウニー達に伝達し、そこからレオンに伝わり件の人員が来たと判断されて、漸く家に招かれた様子だった。
勿論、レオンは私の護衛に張り付いているフィディルに念話をして、了解を得てから入れた。
ただし、想定していた以上の数の子供達を連れての来訪に、レオンもややてんぱっていたらしい。
て、いうか。
来るなら、前以て連絡しろっての。
帰宅して、話を聞かされて私も少し動揺した。
なにせ、ラなんとか伯爵が私の領地の反対側で、騒動を起こしているのだ。
関係ない子供達が巻き込まれたら、どうせいっての。
この一件が落ち着いたら、受け入れる気でいたので、今の時点での受け入れはあまり良くなかった。
が、来てしまったのを、事情を明かさずに帰す訳にもいかない。
レードさんから、借金のかたにされた養護院の土地が既に差し押さえられて、子供達の寝泊まりする場所が無くなってしまったと聞かされた。
何やら、借金取りの方々が、差し押さえた土地を第三者に売りに出して、契約が纏まったとかで、荒々しく追い出されたんだとか。
養護院の子供達と養母さんは、うちの農園に雇用される契約を仮に結んでいたので、追い出されるだけで済んだのだけど。
どうも、借金取りと土地を買った第三者側は、養護院の子供達を無給での働き手として欲していた。
所謂、借金奴隷というヤツである。
しかし、仮とはいえ、雇用契約は結ばれている。
無給の働き手を逃した彼等は、嫌がらせ目的で早めの土地差し押さえをして、追い出したとくる。
レードさんは事後報告になるが、一刻も早く農園へ連れていった方が、子供達の安全に繋がると判断して、お姉様達冒険者ギルドの上司に報告せず、連れて来たそうだ。
無論、無断で行動した罰則は受け入れると潔かったので、お姉様には処罰は軽めにと注進しておこう。
まあね。
養護院の養母さんは、質素な身形をしているが、容姿は美人さんでした。
明るい金髪に琥珀の瞳で、一見おっとりとした貴族令嬢にも優る礼儀作法を有しているし、着飾れば充分支援者にも事欠かないだろう。
だが、養母さんの感情を無視して、支援者に容姿目当ての肉体関係を迫られる落ちが見えてくるがな。
お姉様からも、博打に身を崩した元旦那から、高級娼館へ身売り計画を計られていたと聞いてはいた。
借金取りや、土地を買った第三者も、養母さん狙いが透けて見えて、レードさんも危険視したのだろうな。
うん。
むしろ、良くやったと誉められるべきなんだろうね。
「この前は助けてくれて、ありがとうございました」
子供達のリーダー格のマイク君だったかな、彼が最初にお礼を述べて順に助けた子供達がお礼を言ってくる。
次に、最年長らしき少女が私の前に出てきた。
「弟達を助けてくれて、ありがとうございました。私が、働きに出なければならなかったのに、体調を崩してしまい、弟達に負担をかけてしまいました。これから、ミーアさんの農園で親身に働きますので、私達を受け入れてください。お願いします」
少女は十代後半ぐらいの年齢だから、養護院を卒業して独立しないとならない年齢だろうが。
線の細い身体付きをしているから、あまり体調が健康とは言い難いから、働く場に恵まれてなかったのかもね。
恐らくだけど、この少女の未来は娼館行きになる可能性がすこぶる高そうな気配がしてならない。
私が受け入れなかったら、そうなるんだろうとありありと分かるわ。
マイク君達も眉を盛大に下げて、私の反応を伺う素振りを見せて不安がっている。
見てみぬ振りは出来かねるので、受け入れますよ。
養護院の子供達の内訳は、十代後半が三人、十代前半が八人、十代前が7人、乳児が二人といった大所帯だった。
我が家の出来るブラウニー達は、以前シェライラが派遣してくれた騎士さんの拠点とした離れを改築して、二階建ての建物にして、部屋数も個室と大部屋を準備し終えていた。
今日は、移動の疲労もあるだろうから、そちらの建物に案内して休息をして貰い、明日ツメの本契約を結ぶ事にした。
見届け役として、レードさんパーティーも居残りさせた。
ブラウニー達が腕を振るった夕食に、養護院の子供達は食べていいのか躊躇った様子だったが(私達は同席しないよう配慮した)、養護院の案件の責任者たるレードさんから促されて食事を始めると、皆無我夢中で食事を堪能したようである。
んで、寝る前のお風呂タイムに驚愕しつつも、就寝と相成った。
強行軍で来たらしいので、お風呂後は睡魔で撃沈したとか。
元養護院の子供達専任のブラウニーがアンジーの配下で呼び出され、お世話を任せる手筈も整えた。
その夜、レードさんから内密に話があると乞われたので、対応したらロンバルディアからも農業教育を教授出来ないかお願いされた。
「それは、女王国から依頼された農業大国の人材が仲介されたんじゃ、なかったっけ」
「それが、先の諍いで、白夜に手も足も出ず逃走した種族の長が、逃げ出した若者を排斥し、一族から追放し、女王国を目の仇とした旧い思考に凝り固まり、農業従事に異論をぶちまけ、獣王を堕落したと糾弾して謀反を企てた。まあ、すぐに鎮圧されて、其方が国から追放の憂き目にあったがな」
「それが、どう繋がるという訳かな」
「一族から追放された方の中に、あの諍いの司令官を務めた方がいて、謝罪の代わりにフォレスト領に農業の教授に行きたいと申し出があった」
「成る程、司令官を務めた自分が率先して、両国の友好の架け橋とならんとしたのか」
「そうだ。奥方と離縁してまで身を整理して、長年の宿敵の地で、恨みを一身に背負われる覚悟を示された。しかし、奥方やお子様方も、離縁する気はなく、共に責め苦を背負われると表明され、獣王陛下がフォレスト領主と女王陛下に相談された結果。白夜の農園で、先ずは慣れされた方が良いのではと返事が来た」
あー。
次期フォレスト領主のナイルさんがいるのも、あるからか。
もしかしたら、子供世代にも友好の兆しが望ましいと思われたかもだね。
それから、私のところなら思惑があって、せっかく結ばれた同盟の破棄を狙った暗殺を警戒するには、もってこいの場所であるのも一因か。
さっきも述べたけど、うちの農園は部外者は容易に入り込めないから、安全地帯だしね。
となると、養護院の子供達が来たのも、巡り回って良い策になったわ。
元司令官さんのお子様も、十代の年齢だから人種族の友達が出来れば、凝り固まった人種族敵対心が薄まる期待が持てる。
最初は習慣によって、些細な行き違いが発生するだろうけど。
長い目で見たら、友好の絆は深まるだろう。
ならば、そちらも受け入れましょう。
快諾したら、レードさんは安堵の息を吐き出した。
お断りは是非とも無い方向へと、重圧かけられていたんだろうなぁ。
私的に、子供が増えた事もあり、警備の面で目に見える獣人種族が常駐してくれれば、舐めた行為はされないだろうとふんだ。
が、逆に獣人種族を奴隷にしていると弾劾されても、獣王さんや女王ちゃんのお墨付きと、農業支援の名目があるので、黙らせるには充分な材料がある。
有り難く、労働力は受けとる方向へ。
「それから、先日俺のパーティーにいたカレンの件で警戒してくれ」
「ああ、治癒魔法行使出来なくなって、それを私の責任として、聖母教会とつるんで弾劾しようとしたらしいね」
「ああ、だが。奏上した枢機卿に歯牙にもかけられず、破門を突きつけられたそうだ。それも火に油を注ぐ結果になり、またもや何かしら画策しているようだ」
「ん、分かった。うちの子達に情報収集お願いしとく。んで、うちの農園の人達に被害が及んだら、徹底的に潰しておくけど。元パーティー仲間を擁護する?」
試しに聞いて見たら、レードさんはきっぱり否定した。
パーティー仲間と言っても、回復役不在のレードさんパーティーに半ば押し掛け加入して、騒ぎを起こしていて、パーティークラッシャーの異名通り、パーティー内部の不協和音の種でしかなかった。
何故、加入したかは、お姉様が見事な回し蹴りをお見舞いした上司の命令で仕方なく加入させていて、お姉様からは見極めを頼まれたのがあったから。
そうして、強者の恋人気取りで、レードさんの所有権を主張して、ギルド内部の女性ギルド員に、自分の男は凄いでしょと、自慢してマウント取りたがりの浅ましい性格が露呈する結果に繋がった。
唯一誇った治癒魔法も無くして、一気に見下していた女性ギルド員や職員から、憐れみと嘲笑の的になり、喧伝した私を逆恨みしたそうですわ。
誰も、彼女に的外れだと指摘をしてあげなかったんだろうな。
それだけ、人望がなかった。
自業自得だ。
その逆恨みをバネにして、落ち目の聖母教会と手を組んだも不発におわり、私の過保護な枢機卿さんから、警告食らった訳だけど。
まだ、諦めてはないらしい。
裏社会の情婦になり、復讐の機会を狙っているとか。
もう、ラなんとか伯爵やら、逆恨み女とか湧いて出てきて、お腹が一杯です。
まあ、負ける気は、更々ないがな。
来るなら、来やがれってなもんだ。
受けてたつわ。
もういっそのこと。
海洋諸国の阿呆と一緒に、断罪してあげるから。
ヒューズ君経由でアルマニア枢機卿に、報復プランを根回ししておきます。
外交問題スレスレな範囲で迎え討つのを決めた。
あはは。
容赦はせんぞ。