103 報復は必要でした
無事にハーピー親子のお世話係に、ヒューズ君はなってくれた。
そうして、怪我の経緯や具合を見て判断を下した。
「旦那様、奥様。ミーアさんからあるお仕事を任されました。ですが、お二人は接触厳禁を言い渡します。いいですね。ミーアさんには、旦那様と奥様が関係する小屋に入らないように、手筈を整えていただきました。くれぐれも、好奇心にはやり、忠告を忘れて、あちらの小屋に侵入しようとあらゆる手を使われましたら、お説教を外して、旦那様と奥様は、こちらの農園とはご縁がなかった事になります。簡単に言いますと、放逐です。また、支援者のクラーゼン侯爵様の顔に泥を塗る行為となりますから、今回の様に家畜丸ごと移住させてくださる牧場を斡旋してくださらないですよ。分かりましたか、そうなったら旦那様の愛する家畜は即お肉屋さんへ、奥様の研究資料は紙くずと化します。では、復唱しましょう。さん、はい」
「「新しい家畜小屋には入らない。興味を持たない。テイムしない。研究材料にしない」」
「はい、言質は取りました。では、本日からそうしてください」
「「はい、分かりました」」
「と、言う事になりましたので、安心してください」
「……あっ、はい」
いやぁ、夕食後にヒューズ君に話を持っていったら、僅か一時間も経たずにこの様な結果に落ち着いた。
マクレーン女史夫妻は、何故か床に正座して並んでヒューズ君の説得めいた説明に聞き入っているし。
これが、マクレーン家の日常茶飯事な出来事だったりして。
まあ、それだけ女史夫妻がやらかしていたんだろう。
クラーゼン侯爵の後ろ楯があるとは言っても、女史夫妻は準男爵位の貴族階級的には下部の方で、対する私は伯爵位持ちの上級階級の部類に入る。
おまけに、女王陛下の特別相談役との兼ね合いもあり、宰相閣下にも直で直訴出来たりするので、身分的にはかなり重要な位置にいるしね。
ついでに、守護者は六柱の大精霊だし。
休眠状態の大精霊を除いて、他に活動している大精霊が束になって反旗を翻してかかってきても、力量差もあって簡単に勝利してしまえる戦力を保持している。
うわぁ、私ってば、無双できるわ。
何らかの理由に則り行動しても、人外さんはミーアちゃんがやりたいならやればいい、的な温度で国取りとかしても承認しちゃいそうだ。
面倒臭いから、やらないけどさ。
私が目指すは、マイ農園スローライフだ。
余計な騒動は御免被ります。
ただし、ダレンを闇落ちさせたあれな神関連は、容赦せんがな。
どうやら、二年後の勇者召喚関係で、関与する事になりそうだからさ。
今は、私の立ち位置とか、背後を任せられる人材や組織を育成するか、共闘関係を築く段階だと思うな。
第一段階の拠点は手に入れた。
国の重鎮達とは友好関係を築けてはいる。
良し、ならば徐々に増やしていこうではないか。
先ずは、冒険者ギルドのお姉様の処に、ベルゼの森の反対にある領地の情報収集に行かねば。
ハーピー親子は常識人のヒューズ君に託し、農園の畑仕事を終えてから、いざ出陣。
うむ。
植えたばかりの小麦畑が、エメリーちゃんの背丈を越えた順調すぎる成長成果は見てみぬ振りは、良かれといい仕事をしてくれた大地のおちびちゃん精霊の為出来ず、小さなお菓子を大盤振る舞いしてきた。
それが、更にやる気にさせているとのレオンの呟きは、聞かない振りをさせて貰った。
エスカも、樹木のおちびちゃんも頑張っていると言うので、そちらも大盤振る舞いしといた。
結局、我が家に居着いた邪の大精霊のグレイスが、しれっと混ざっていたがな。
まあ、いいわ。
グレイスも、ダレン関連では意気消沈していたしな。
気の済むまで、居候したらいいよ。
ただ、グレイスまでお菓子を配ったら、うちのお子様ズがむくれたので、ご機嫌直しに大好物のアップルパイを口にほうりこんどいた。
勿論、レオンやフィディルやファティマにもあげたけどね。
なので、冒険者ギルドに行けたのが後日になってしまった。
「あら、ミーア様。どうされました? また、何か問題でも起きました? それとも、依頼の受注ですか?」
「あー。なら、これとこれの、納品依頼をお願いします」
本来なら、冒険者ギルドの依頼ボードに張ってある依頼票を剥がして、受け付け窓口に行くのだけど。
ミスリル級の冒険者には、直接依頼票を受け付け嬢が提示してくれたりする。
私が冒険者ギルドを訪れた時間帯は昼過ぎな事もあり、依頼ボードに張り付く冒険者とはかち合わず、窓口も空いていた。
お姉様も他の仕事をしていたのをみるに、サブマスの仕事をしていたのだろう。
書類をてきぱきと処理していた。
んで、私に気付いた他の受け付け嬢に、私の来訪を教えられて手招きされた。
ああ、お姉様が私の個人担当を請け負うのか。
まあ、人外さんから勅命受けてるしね。
他の受け付け嬢に、任せられないのだろう。
そうして、お姉様の窓口に行くと、数枚の依頼票を提示しながら、目的を聞かれた。
お姉様。
もしかして、千里眼のスキル持ちですか?
吸血種族騒動で討伐したベルゼの森の魔物の素材と魔石の納品依頼票が、的確に出されたのですけど。
にこやかに笑うお姉様に逆らう気も、スキルを尋ねる気もないので、アイテムボックスの肥やしとなっていた素材と魔石を納品した。
いや、毛皮とか魔力を含んだ牙やら爪やら角やらは、私も素材として必要としないのでありがたい限りでしたけどね。
お肉類は、ある程度我が家のブラウニーに渡してなお、余りあるから適材適所でお肉屋さんに卸してくださいな。
魔石の方も小粒の種類だったので、魔道具の燃料となるのだと思う。
大きな魔石は需要からいって、上級貴族階級の装飾品にもなるし、大型の魔道具の燃料となるので、売るなら専門店にと紹介状をいただいた。
それは、大きな魔石は適切な処理を施さないと、内包する魔力が魔物を呼ぶ性質があって、呼ばれる魔物の種類によっては強固な壁がある町でさえ、被害は看過出来ない程の災いになる。
だから、魔石の管理は国の許可した業者しか扱いは駄目な訳で、冒険者ギルドも大きな魔石を管理するスキル保持者がいないと、買い取り拒否される場合もある。
ライザスの冒険者ギルドの場合は、スキル保持者が前領主の指示で横領したのが判明して、大きな魔石の管理権限は一時凍結されているのだとか。
新しく赴任してきたギルドマスターがスキル保持者だけども、前任者のスキル保持者が管理していた魔石が膨大で、手に余ると判断して特別製のマジックバッグに仕舞い混むのが精一杯で、新たな管理は無理と既に王都のグランドマスターに宣言して、凍結したぐらいである。
なので、手に余る魔石は、スキル保持者を沢山抱える専門店へと案内しているんだとさ。
うん。
お姉様が紹介してくれる専門店なら、ぼったくられる事はないだろうな。
あー。
またもや、人外さんの配下だったらどうしようかな。
もう、過保護の域を越えてる気がしないでもないが。
「それで、本日のご用件は?」
「本題を忘れる処でした。ベルゼの森を挟んで、私の領地とは別の領地の領主が、ベルゼの森で無法な案件やらかしてるそうです。で、対抗手段として、反対側の森との境界線に結界を構築して、侵入禁止にしました。だから、あちらのギルドに所属する冒険者も不法侵入者と見なしますから、悪しからず」
「……それは、頭の痛い案件ですわね。それで、昨日からあちらのギルドから苦情が来る訳ですわね」
物騒な案件に、聞き耳立てなくても聞いてしまった受け付け嬢が、目を見張った。
ベルゼの森から採集される薬草類や素材となる魔物や、樹木の需要は他国からも関心が高い。
一攫千金を狙う荒くれ者の冒険者が、目的のベルゼの森に入れない状態の原因を把握したら、あちらのギルドは閑古鳥が鳴く羽目になる。
「何か、領主自身も悪どい事やってるみたいなので、苦情か上から目線の命令をしてきたら、証拠と証人連れて、貴族院の裁判でお会いしましょうと言っていたと報告して貰って構わないですよ」
「そうですわね。あちらのギルドがある領地はカイゼルと言いますが。あまり、商業ギルドの評価は高くないですわ。それは、領主の独断専行な規則と税金の負担額が酷く、商会の会頭は領主の縁戚がなっている商会しか繁盛しないでいるからです。新興の商会は尽く潰し、買い物にかかる税金もかなり高めに設定されているとか」
ふむ。
消費税とかいう部類のヤツかな。
そんな悪徳商法の商会と、後押しして私腹を肥やす領主は潰れるのが民の為だ。
直に、クレーム来ても無視一択だ。
「あちらのギルドのマスターは、それを見てみぬ振りですか?」
「グランドマスターとの連名で、抗議はしました。ですが、有りもしない不敬罪で拘束され、法外な慰謝料を請求され、資産を全て奪われました。それから、奥様と娘さん二人は借金のかたに娼館へ売られましたが、グランドマスターが私財を持って買い戻し、他の町へ配置換え致しました。その後に赴任されたギルドマスターは、宰相閣下のお身内なので、冒険者ギルドとの揉め事は無くなりましたけれども」
他に代わる金儲けの手段として、見目麗しい吸血種族さんが目をつけられた悪循環を産み出したわけに繋がるのか。
ほんでもって、私の領地となったベルゼの森で好き勝手やらかしたツケは払って貰うのが決定した。
吸血種族問題のあらましと、私の領地になる前は女王直轄地だったのに、無断で私腹を肥やしたのなら、税金はきちんと納めてはないと見た。
これも、宰相閣下に奏上して報告しておくか。
一気に仕事が舞い込みそうで憐れだけども、宰相なのだから馬鹿を取り締まる切っ掛けとなったのだから、働いてくださいな。
無論、金儲けの手段を閉ざされて言いがかり付けられたとしても、貴族院には金で買収されない限りは、私の言い分が罷り通る。
よっしゃぁ。
迷惑被った吸血種族と、ハーピー親子の為に慰謝料は盛大にむしり取ってみせようではないか。
待っていろ。
馬鹿な貴族め。
名前は忘却の彼方だが、記憶力がすこぶる良いうちの子達がいるから、人間違えは起こしはしないな。
ふふん。
さあ、待ち構えて罠は仕掛けておこう。
似非細工師と言われる私の罠細工を、身を持って味わっていただこうではないか。
待ち遠しいな。
しかし、その罠に別の厄介な阿保な輩が引っ掛かったのを見て、後日我が農園が人外魔境と化すとは、この時は思いもしなかった。