001 召喚されました
新作です。よろしくお願いいたします。
ラノベでよくある異世界召喚。
まさか、自ら体験するとは思わなかった。
私こと、紅林雅。
星蘭高校二年B組。
花も恥じらう十六才。
只今、絶賛困惑中である。
事の起こりは、修学旅行で乗ったバスが、あるトンネルに入ろうとした矢先。
向い側から、強烈に眩しい光と爆音が、バスを襲った。
運転手の咄嗟の判断で、急ブレーキをかけたのだけど、時遅し。
バスは、爆風によって横転した。
シートベルトをしていた私は、天井や窓ガラスに叩きつけられるのは、難を逃れることが出来た。
だけど、シートベルトをしていなかった同級生にぶつかられ、押し潰されて、全身に痛みが走ったと感じたら、呆気なく気絶した。
そして、次に気が付いたら、真っ白な何もない空間にいたのだ。
驚かない訳がない。
いつ、バスから助け出されたのかも、分からない。
何故に、真っ白な空間にいるのかも、分からない。
ないない尽くしで、プチパニックしていた。
取り敢えず、深呼吸して落ち着こう。
スーハースーハー繰り返して、周囲を観察してみた。
あれれ?
同級生発見。
クラス委員長と、クラス一お調子者の男子生徒が二人。
容姿は優れているが、性格は悪い女子グループの三人。
そんで、私を入れて計六人が寝転がっているのだ。
他のクラスメートの安否は?
身を起こして探してみるけど、他には人がいない。
いや、いた。
やたらと、綺羅綺羅しい見目麗しい人外さんが、こちらを見ていた。
白い貫頭衣に、背中には一対の翼。
どう見ても、天使かと思わしき姿。
じゃあ、私は死んだのだろうか。
ここは、あの世という場所なのかな。
「やあ、おはよう。紅林雅さん」
「……おはようございます」
見つめ過ぎていたら、挨拶された。
行儀作法に厳しい母親の躾により、反射的に挨拶を返してしまった。
人外さんは、にこにこと胡散臭い笑顔を湛え、面白い玩具を見つけた子供の様なノリで宣った。
「ピンポンパン。業務連絡致しまぁす。君達六人には、僕が護る世界セリアアークにご招待させていただきます」
「お断り致します」
「うわっ。即答。雅ちゃんは容赦がないなあ。でも、ブッブーです。これは、決まりであって断れません」
イラッときた。
殴っていいかな。
自衛官の父より伝授された、体術の制圧術で排除していいかな。
百五十五センチと小柄な私だけど、合気道と空手は有段者である。
招待という名の、拉致容疑者をぶん投げても罰が当たらないよね。
さあ、行動に移すか。
あれ?
身体が動かない。
さっきまでは動いたのに、どうなってる?
「雅ちゃん。残念ながら、ここは僕が支配する空間だよ。支配者には、危害が加えられないからね」
人外さんが、ウィンクした。
ちっ。
腹が立つなあ。
「ついでに、思考も筒抜けだからね。こう見えても、僕は神様ですから」
「その、神様が何の用で、私達を招待なんてしてくれるのですか?」
他の五人が一向に目覚める気配がないのが、気になってきた。
「あぁ、うん。雅ちゃんと彼等の行き先は違うから、少しだけ眠ってもらっています」
「行き先が違う?」
「うん。正確に言うと、ある国が禁術の勇者召喚をしました。その、禍々しい禁術の影響で、雅ちゃんが乗ってたバス? が事故りました。生存者は君達六人だけ。そして、勇者召喚されるのは五人。一人余っちゃう訳」
「それが、私」
そこまで、説明されたら誰だって分かりそうなもの。
つまり、余り者の私の対処に困っている様子なんだ。
「ピンポン。大正解」
再び、イラッ。
少し、準備運動がしたい。
相変わらず身動きひとつ出来ない身体を、無理にでも動かそうと足掻いてみる。
「あのさぁ、雅ちゃん。無茶は止めようよ。転生前の危うい準備期間で、無茶をしたら転生体に不備がでるだけだよ」
転生体。
何だ、それ。
友人一同から冷めていると言われる私の性格でも、驚いたりするのだけどなあ。
動くのを止めて、人外さんをみる。
人外さんは、痛ましい表情をしていた。
「雅ちゃん。雅ちゃんの元の身体は、修復不可能なぐらいに傷ついています。つまり、植物人間になっているのです」
それは、亡くなっていると、同じだ。
あまり、ピンとこないけど。
じゃあ、この身体は精神体とかいうのかな。
「うん。他の五人同様に精神体です。彼等には、てきとーに肉体再生して、いくつかのスキルと加護を与えて、ある国に召喚されます。だけど、雅ちゃんは、ちょっと困っているんだよね」
人外さんは、半身を起こして固まっている私の隣に、腰をおろした。
それから、優しい手つきで、頭を撫でられた。
「ごめんねぇ。雅ちゃんは勇者召喚に巻き込まれた一般人なんだけど。元々、保有しているスペックが高すぎて、あの国では忌み子扱いされちゃいかねないんだ」
心底、心配されている声音で説明される。
身に覚えがありすぎて、笑えない。
先に述べたけど、私の父は現役自衛官。
娘に、護身術だとサバイバル能力を教練した強者である。
おまけに、父の実家は牧場経営している。
殊に、またぎになって熊やら鹿やら狩ってくる。
鶏や、豚の解体はお手の物。
また、母の実家は農園を経営している。
一通り、栽培知識は習っている。
うん。
私、一人でも充分に生きていけそうだ。
「そうなんだよね。あの国は、雅ちゃんにあわない。折角、召喚した大事な勇者を、即処刑なんてあり得るからね。雅ちゃんは、五人とは違う国に送ります」
「ちょっと待って。何で、私は特別扱いなのさ」
「それはね。現世の徳が高くて、雅ちゃんがある称号を持っているからだよ。絶対、あの国は雅ちゃんを使い潰す気だよ。僕は嫌だよ。雅ちゃんが、感情を奪われて人形の様になっちゃうのは。だから、相性のよい他国に送ります。そこだったら、長生きできるからね。あっ、そろそろ時間だ。地上に降りたら、ステータスを確認してね。念じれば出てくるから。後、無一文で送り出すのは何だから、困らない程度のお金と日用雑貨は入れておくね。では、紅林雅ちゃん。第二の人生を歩んでください。使命とかは特にありません」
人外さんが、ショルダーバッグを手渡してきた。
身体が動く。
立ち上がると同時に、足元に光が瞬いた。
「雅ちゃんは、雅ちゃんらしく生きればいいからね。これ、僕創世神の神託だから、頑張ってね」
足元を照らしていた白い光が、私を隠す。
光を凝視すると、文字が発光しているのが分かった。
人外さんが、にこやかに笑って手を振る。
釣られて、振り返す。
何が何やら理解不能だけど、
私はバス事故で植物人間になった。
精神体だけで召喚されて、人外さんに助けて貰えたのだと分かる。
なら、人外さんのお告げどおりに、第二の人生を私らしく生きるのが恩返しとなる。
女は度胸。
私は、光の渦に呑み込まれた。