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9月7日(金)⑨ 聞こえてきたその声は

兎にも角にも、このままおとなしく山鰐に食われてやる謂われはない。

 私は首に巻き付いていた触手を力任せにはぎ取る。ヌラヌラした体液で手が滑る。正直言って気持ち悪い。

 多分ソフトボール部のものだろう。籠の中に突っ込んであった金属バットを手に取ると、蛇の頭を思い切り殴りつけてやった。思わぬ反撃にあって焦ったのか、三本の触手は一瞬、怯んだ様子を見せた。

 

 これが好機と見た私は、残った触手を一気に引き剥がす。ぬるりとした感触が手に伝わってくる。加えてジャージから変な粘液が糸を引いてるが、そんなことを気にしている場合ではない。

 

 私は急いでチカゲちゃんのリュックを背負う。入りきらなかった矢が、チャックの開いだから伸びている。最後に弓道部の部室から持ってきた弓を肩に掛ける。

 横に積まれたマットの山に上る。こっちの方が高さがあるので山鰐から距離がとれる。マット特有の乾いた匂いが鼻をつく。体育の授業でマット運動をしたことを思い出した。


 上る途中で足を滑らせそうになる。しかし、何とか踏みとどまってマットの山の頂上までたどり着く。まるでボルダリングだ。天井は頭のすぐ上、三十センチほどの高さにある。蛍光灯が目と鼻の先にある。

 二メートルほど眼下では、山鰐が怒りに満ちた目で私を睨め上げていた。

 ははっ、激怒してるねぇ。今度捕まったら最後かもね。


 とにかく、今できることを全力でやることにする。

 チカゲちゃんの荷物を今一度確認する。お札やら、怪しげな木彫り人形やら、ソフトボール大の結界石やら、よく分からないものばかりだった。いや、よく分かるものがあったとしても、素人の私では使えないだろう。チカゲちゃんと違って、私は何の修行もしていないし、霊力があるわけでもない。


 そのとき、体育倉庫が大きく揺れた。ガラス窓がビリビリと揺れ、天井からは木くずがパラパラと落ちてくる。 

 山鰐が跳び箱に体当たりしたからだと分かった。サメはもう一度身をよじらせると、勢いよくその巨体を壁にぶつけた。大きな音とともに足場が揺れる。このままでは体育倉庫が崩れてしまうかもしれない。

 

 私はリュックの中のものを、手当たり次第に投げつけた。最初は水晶。ボムッという乾いた音とともに、山鰐の目の下にヒットした。意外だったのは、山鰐に少しひるんだような様子が見られたことだった。単にボールをぶつけられるよりも、妖怪退治用の道具の方が効果があるということなのだろうか。


 少しは効果があると見た私は、リュックの中のものをやたらめったらに投げつけてやった。お札の束、木彫り人形、錫杖、とにかく目に付いたものを手当たり次第に投下した。チカゲちゃん、ごめんなさい。緊急避難的措置として大目に見てください。


 私の必死の抵抗も、山鰐にはあまり効果がないようだった。確かにある程度怯んだ様子は見せた。しかしながら私の抵抗が決定打となることはなさそうだった。

「やばい……」

 リュックの中身もそろそろ尽きようとしていた。元から入っていた道具の三分の二ほどを使い果たしてしまった。リュックの底が見える。


 私はそこに黒い立方体を見つけた。

 プラスチックでできている。長さは二十センチほど。手に取ると、どこかのスイッチにさわったらしく、LEDがぽうっと光った。おそらくは何かの通信機器なのだろう。しかし、私が今置かれている極限状態では、どこかと連絡がとれてもそれは何の意味もない。


 もはや他に投げるものがなかったので、私はその端末を投げてやろうと振りかぶった。

 そのときだった。右手に握った端末がガッと鳴った。危うくそれに気付かずに投げてしまうところだった。

 端末下部にあるスピーカーから女の子声が聞こえる。多少くぐもっていはいたものの、そのうららかな声には確かに聞き覚えがあった。

『ナナミさん! 聞こえますか!?』

 間違いない。若き退魔師、服部チカゲその人の声だった。

 

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