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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
3章 長い長いしっぽとり
9/30

子どもの遊びには通過儀礼の意味もあったりするんだよ。

 夜のとばりが降ろされて、辺りはすっかり真っ黒。燃えさかるキャンプファイヤーだけが光源だった。月も星もなくて、まるで墨をぶちまけたかのような真っ黒な夜空はどこか作り物みたいだったよ。


「なので、私はこう叫んじゃったの。わ、私のちくわがなくなってるじゃない!」

「いったいだれがたべたのかな?」

「なぞときみすてりーだな」

「なぞがなぞをよぶてんかい」


 たくさんの獣人がキャンプファイヤーを中心に車座になって騒いでいる。アリスもそれにもれず楽しむ。話し手の中心はアリスで、本当か嘘かも分からない話を、きゃぁきゃぁ、いって獣人達が楽しむ。そんな感じだったよ。ちくわ?



「色々、調べた後にようやく真相がわかったの。それで私はこう言ったの。ちくわを食べた犯人はあなたです!」

「すごいねーありすちゃん。かっこいー」

「いっぱしのたんていだね」


 色々な獣人と親交を深めるアリス。嘘も交えて交わされるお話。それは学校の放課後に繰り広げられるたわいのない話や、身はないけれど楽しかった思い出のように輝いて見えた。謎のちくわ押し。



「ねぇ、いいこと、自首すれば罪は軽くなるわ、って説得して犯人も罪を認めたの。それで私の話はおしまい」

「いいはなしだった」

「たのしんだ」

「だいちょうへんだったよ」

 

 謎のちくわ消失事件の話も一段落した頃で、服も乾き始めたけれどもまだ生乾き状態程度になった頃。ヒグマがおもむろに立ち上がりこう言った。


「よーし、ひとごっこやろー」


 突然の遊びの提案だったね。


「ろくでなしのひとごっこ」

「こわいけどたのしい」

「いいね」


「ねぇ、ひとごっこってなに?」


 アリス以外の他のみんなは、ひとごっこについて知っているようで、盛り上がっていた。けれど、アリスは聞き慣れない言葉だったので質問したよ。


「にげてつかまえるだけ」

「けつろんは、おいかけてー、つかまえるー」

「るーるはそれだけー」


「結局、鬼ごっこみたいなもの?」


「のー。ちがうよ。ひとごっこだよ。おにじゃなくて、ひとがつかまえるのー。つかまったらおりにとじこめられるんだよー」

「よせなべにされちゃう」

「うまうまされます」

「すまきにされちゃう」

「うまくつかまるのだー」

「たっちされたらまけー」


 みんなの発言が飛び交う。けれど、どれも曖昧あいまいな説明だったね。抽象的な答えだったけど、統合してまとめてみると、言葉的には鬼ごっこっぽい感じだけど、どうもケイドロのようなものだろうね。ちなみにケイドロは地域によって呼び方が違うみたい。ドロケイ、ドロジュン、ジュンドロとかね。地域ルールもあってなかなか奥が深い遊びだよ。食べはしないけど。


「けっきょく、やってみたほうがはやいよー」とマンモスが言った。


 そしたらスナイロヒツジが遊びの範囲を決めてね。とはいってもキャンプファイヤーの明かりが届く範囲だったけど。それ以上離れると、何も見えなくなっちゃうからね。範囲が決まったら、みんながキャンプファイヤーの周りに集まってくる。


「よーし、じゃあ、ありすちゃんがひとよー」

「よーい、すたーと」


 急に鬼……いや、ひとに指名されるアリス。その言葉をきっかけに全員あちこちに散らばってね。みんな好き勝手に逃げ出して走ってさ。そして我に返ったアリスが、追いかけ始めたのさ。


「鳥さん待って」

「ていっても、またないよー」


 シギと追いかけるアリス。


 いつまでとか、どうなったら終わるかとか細かいルールも決めずにゲームスタート。そんなぐだぐだだけど、みんな楽しそうだったよ。


「よーし、ありすちゃんこっちー」

「ちょっとー逃げないでよー」


 いろんな獣人が走る走る。アリスも走った。でもクラスでも足が遅いアリスはやっぱり遅かったよ。というよりもみんなが早いだけだけど。


「よしよし、もうちょっと」

「とみせかけてーよいしょ」

 捕まりそうだったキジバトが、アリスの手をひらりとかわす。


 キャンプファイヤーの周りを何周も何周もぐるぐると回りだして、へとへとになって、バターになりそうなとき、それは唐突に終わったね。そしてそれはちょうどみんなの服も乾いた頃だったよ。


「よーし。ひとごっこ、おーわりだよ!」


 トナカイがそう宣言して、ひとごっこは終わったよ。


 結局アリスは誰にもタッチできずに終わっちゃった。へとへとで、はぁはぁと息をあらげながら、へたり込んでるアリスの元にみんな集まってきたわけさ。アリスはぺたんと地面に腰を下ろして、息を整えていた。他のみんなは平気な顔をしていたよ。


「ようやく終わった……。誰も捕まえられなかったわ。みんなすごいね」とアリス。

「ねー、だれがいちばんだった?」

「たぶん、ありすちゃんいがいじゃなーい」

「いちばんには、ごほーびー」

「ビリのありすちゃん。ごほうびちょうだいな」

 

 突然のごほうび発言に戸惑うアリスだったよ。みんなからねだられたアリスはちょっと悩んで、考えこんじゃった。その間、みんなはしんとして待っていたんだ。


 アリスはどうするか考えていたけど特に何か持ってるわけでもないしなっと、持ち物を確かめていた。持ってるものと言えば試験管だけど……、そう思った時だった。


 突然、女神様からもらった試験管が光り出したよ。


「なにそれーひかってるー」

「るびーみたいー」

「いいなー、みせてー」


 イルカが興奮してぴょんぴょん跳ねる。ぴかぴかと光る試験管にみんな興味を引かれていたね。

 アリスは光った試験管を片手に、蓋をあけて飲もうとした。けどその時、アリスの脳裏に白い鯨の台詞が浮かんできたよ。


『もし、元の世界に帰りたかったら、あまりこっちのモノを食べないこと』


 帰れなくなるかも、という考えがよぎりアリスの手が止まる。


「てかてかー。きれー。みせてー。いいー?」


 フリーズしたアリスに、カラスが手を伸ばして試験管をとろうとして、ぶつかる。その結果、試験管が落ちて中身が地面にこぼれた。


 落ちた試験管からこぼれた液体のところからお菓子が湧き出てきた。どうやら液体がお菓子に変わったみたいだったよ。それはふわふわでマシュマロっぽくて美味しそうだったね。


「いっぱいでてきた。これごほうび? おいしいや」


 落ちたマシュマロのような物体をひょいと、スカンクが食べて言った。その言葉に反応したみんなはそれに群がって食べていた。マシュマロはみんなに行き渡るくらい出てきたのだけど、みんなの勢いに負けたアリスは一口も食べることなく、なくなっていた。残念だったね。


「やっぱりありすちゃんすご」

「ごちそうさまです」

「すずめのなみだほどでした」

「たんのうしたぞ」


 お菓子を堪能したみんなは満足そうな顔をしていた。みんなはまた車座になって、座り始めたよ。


「それじゃぁ、つぎなにやるか」

「かごめかごめ?」


 また遊びの提案が飛び交う中。クサガメが提案したよ。


 これは有名な遊びだね。


「めいあん。じゃー、かごのなかはだれがー?」

「かごのなかはありすちゃんでいいんじゃないかなー」

「なんでまた私?」


 アリスの言葉への返事はなくて、さっさっと、どんどんと、テンポよく進んでいく。みんながアリスとキャンプファイヤーを中心に大きな輪を作っていく。まるでアリスを逃がさなないように、輪が出来上がる。


 何もできずにアリスは真ん中で待機していた。キャンプファイヤーの熱が伝わってくる。ぱちぱちと木々のはぜる音が聞こえる。


「じゃ、はじめるかー。ありす、めをつぶってー。さあいくかー」


 メガネグマの宣言が合図となって、かごめかごめが始まった。アリスは目をつぶって周りの音に集中する。視界が真っ黒に塗りつぶされて、声が辺りに響き始める。




「「「

かーごーめーかーごーめーかーごーめ

|   |     |     |

ご   か     か     か

|   |     |     |

め   ご     ご     ご

|   |     |     |

かーごーめーかーごーめーかーごーめ

|  |  |  |  | 

ご  り  ご  り  ご

の  |  の  |  の

な  と  な  と  な

|  |  |  |  |

かーのーのーかーのーのーか

   |  |  |

   と  な  と

   |  |  |

   り  か  り

   |     |

 いーはーいーつ はーいーつ

 | | | |×| | |

 つーいーつーい いーつーい

 | | | |×| | |

 いーつーいーつ つーいーつ 

       |     |

   うーあーでーうーあーで

   |

   よーあーけーのーばーん

   |         |

   よーあーけーのばーんに

             |

             つ

             |

             る

ろしうーたっべーすがめーかと

だーあ

  |

  れ

「え」

」」」



 マレーバクが、クマネズミが、ミヤコドリが、リョコウバトが、トラが、多くの獣人の声が重なる。


 アリスは音を頼りに色々と考えて考えて、答えをだした。



「えーと、誰だろう、うーん。分かった! ライオン」



 一瞬の静寂。



「「「「ぶっぶー、アリスちゃんの負け~~!!!」」」

「「「きゃははは……」」」




 獣人達の笑い声が辺りに響きわたる。その声に驚いてアリスは目を開けた。

 そうして見えた視界には誰もいなくって、崩れ始めたキャンプファイアーだけがあった。

 そこには、ぽつんと残されたアリスだけがいた。


 「えっ!?」


 アリスはきょろきょろと周りを確かめたけれども、やっぱり誰もいなくて、火の勢いが衰えてきたキャンプファイヤーだけがあった。



「みんな消えちゃった。また一人になっちゃった。私が間違えたからかな」


 アリスはしょんぼりと肩を落として、もう消えそうなキャンプファイヤーの方をみる。真っ暗な中、ぽつんと残されるアリスは泣きそうだった。みんな消えちゃった。もしかしたら、あれは私の想像だったのかしら。そしたらなんて痛い子なんでしょう。といじけていた。


「また、わたしはひとりぼっち。もう慣れたけど」

 

 と強がりを言うアリス。しばらくいじいじと、ぼんやりしていたのだけど少したってからアリスの背後からぺたぺた足音が聞こえた。何かが近づいてくるようだった。


 アリスはなかば祈るような気持ちだった。誰? もしかして、みんな戻ってきたのかしら。アリスはそう期待を込めて振り返った。

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