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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
3章 長い長いしっぽとり
8/30

キャンプファイヤーっていうのは親睦の儀式なんだよ。

「リスでしょ、スズメでしょ、メガネザル、かしら。……うん正解だ」


 岸に上がったアリスは、あらためて周囲をじっくり観察した。そこには様々な種類の獣人がいたよ。でもみんな2足歩行で顔は人間寄り。手には5本の指があってそれも人間と同じだった。それでも、それぞれの動物の特長がしっぽや耳におまけ程度にあるね。あと目に付くのは、どんな動物かわかるような服を着ていたってところ。


 例えばルリカワセミならきれいな青ときれいなオレンジの服を着ているし、ネームプレートがあって、そこに『るりかわせみ』って書いてある。それでね、これが一番重要なんだけど、獣人はみんなかわいい女の子だったよ。男の子は見たところいないようだ。男のならいるかもだけど。ちょっと見た目ではわからないね。


 たくさんいる獣人を目の前にしてもアリスは特に驚くことなく、動物の種類を当てることに夢中になっていたみたい。アリスは動物園にもよく通っていて、色々な動物を知っていたよ。その獣人の特徴からどんな動物かを当てるくらいには物知りだったね。行きつけの動物園で特にお気に入りなのはミミズク。目がとってもチャーミング。ちなみにだけど、『フクロウ』と『ミミズク』の違いは、羽角(いわゆる耳)の有無だね。フクロウ科のうち耳が付いているのを『ミミズク』って呼ぶよ。でも英語ではどちらもowlだね。


 閑話休題


 改めて獣人の様子を見ると、みんな池に落ちたのか濡れ鼠のようだった。もちろんアリス自身も服はびしょびしょで滴をしたらせていたよ。けれどアリスは特に気にしてはいなかったようだね。獣人達に興味津々で自分の事はお構いなしだった。


「駄目、わからない。えーっと、クサチヒメドリ? 知らないよ。……くしゅん。くしゅん。ちょっと寒くなってきたわね」


 アリスは、しばらく夢中で獣人を観察していてのだけど、気化熱で体が冷えたのか、くしゃみをし始めてね。それがきっかけとなったのか周りの獣人もくしゃみし始めてさ、どうやって濡れた体を乾かすかみんな集まって相談し始めたようだった。


「ねぇ。さむいねー」

「ねー。さむいよー」

「よくよくかんがえれば、みんなぬれてるね」

 リョコウバトがぶるぶる震えながら。


「ねぇ、みんなでからだかわかすほうほうをかんがえようよ」「よいねー」

 ドードーが体を乾かす案を募集し始めた。獣人達はみんな顔見知りのようで、始めは思い思いにしゃべっていたのだけど、どうやらアリスに気がついたみたい。


「ねぇ、ねぇ、しらないこがいるぞー」

「ぞんじないー?」

「いや、しらないよー?」

「よし、はなしてみよう」

「うん、どなたです?」

 みんなを代表してトガリネズミからアリスに質問が飛んできたよ。


「すみません、私はアリスっていうの。初めまして、よろしくね」


「ねーむぷれーとないね。ありすって、はじめてきくなまえです」

「すごーい。よくわかんないけど、どこからきたのー? あっちー? それともこっちー? どっちー?」

 みんなアリスに興味津々だったよ。ミーアキャットがあちこち指さしながらアリスに聞いてみた。


「違うよ。どっちでもないの。私、迷い人らしいの。ドアをあけたらここに居たんだけど……」


「どあー? まよいびとー? よくわかんなーい」

「いせかいてんいー?」

「いいねー。おれつえー?」

「えー、しらなーい。なにそれーちーと?」


 アリスの答えにわいわいと、獣人達が盛り上がる。でも、びしょ濡れなのは変わらなくて、またまた、くしゃみが連鎖する。


「とりあえず、からだかわかそうよ。このままだと、かぜひいちゃうよ。ありすちゃんもなにかかんがえてー」

「てみじかー」

「かぜのこー」

「こごえそー」


 そんな感じで、アリスもいつの間にか輪の中に入っておしゃべりにとけこんでいたよ。どうも十年来の親友のように気の置けない関係を築いていたね。迷い人について特に得られる情報もなかったので、体を乾かす案を出し始めたよ。


「そうだ、こんなのどうかな。その辺に落ちてる木を組み上げてさ、火をつけるの。キャンプファイヤーしようよ。服もすぐ乾くよ」


「よくわかんにゃいけど、ありすちゃんがいうならやってみよーよ」

「よくわかんないけど、さんせー。まずどうすればいいのー?」

「のーのはんたい」

「いえー」


 トビネズミがアリスの意見に賛成して、ほかの獣人達も賛同したよ。


「えっと、じゃぁ、まず木を集めてちょうだい」

「いえっさー」

「さー」


 どうやら木を集めるて火をおこすようだった。みんな木を集めてキャンプファイヤーするみたいだね。獣人はせっせと木々を集めて積み上げていた。すると十分も経たないうちに、アリスの背丈よりもだいぶ大きい木の集まりができていた。


 よくよく考えれば、元々草原だったところに都合良く木が落ちているのもおかしな話だけれども、いつの間にかそこら中に乾いた木が散乱していた。始めから火をおこす予定があったかのように。


「さー、こんなもんかー」

「かっこいー。たかーい」


 ミナミコアリクイが自分の背丈よりも大きい木をぶんなげていた。


 そんなこんなで、獣人とアリスはその辺に落ちていた木々を集めて行った。人数が人数だけにすぐ集まったよ。どの獣人も力持ちで、アリスの何倍も働いていた。アリスは非力だからね。


「いっぱい集まったわね。でもよく考えてみれば、私マッチ持ってないわ。どうやって火をつけようかしら。まいったわね」


 木の山の前で、アリスは悩み始めたよ。計画はしっかり立てなくっちゃね。文明の利器に頼りっぱなしのアリスはどうやって火をつけるか考えていたよ。


「ねー、どーするのー」

「のりのりです?」

「するです?」


 木の回りに集まって、やいやい始める獣人達を横目に。うーん、うーんと悩んでいたアリスだったけど、ちらっと試験管を見ても特に代わりはなかったし、最終的に摩擦で火をつけようとしたみたいだね。原始的だけど摩擦熱で火をおこすため、木の板に棒をたててねじってこすり始めたよ。


 一生懸命に木をこすって火をつけようとしているアリスをいろんな獣人が興味深く眺めていた


「すごーい。なにしてるのー。おもしろそーわたしもやるわー」

「わたしもー」

「もー」


 アリスの一挙手一投足を観察していた獣人が寄ってきて、みんなアリスのまねをし始めた。


「もっともっと、はやくはやくぅ」

「うりゃーりゃりゃりゃー」


 イロワケグマや他の獣人達は器用に手足を使って木を回し始めた。アリスよりも巧くて早かったね。アリスよりもずっと早く高速に回転される木の棒による摩擦によって木くずに火がつき始めたよ。


「やっ、なんかでたー。なにーどうすればいいのー。ねぇおしえてよー」


「よく火が付いたわね。私なんか全然……。じゃぁ、それを木のところに入れちゃって」


「てーい。これでどうなるわけーきになるき」


 火をつけたマントヒヒはおそるおそる燃える火種を、組木の中に放り込んだ。その火種を木の中につっこんでしばらく経つと、集められた木々がごうごうと燃え始めた。


「きがぱちぱちいってる。わー、きれーだー。でもなんかこわいでー」

「でも、あったかーいぞ」

「それなー」


 燃え盛る木々を囲んで、アリスと獣人達は服を乾かしていた。


 いつの間にか辺りはすっかり暗くなっていて、林間学校の最終日のような雰囲気を醸し出していたよ。そして、キャンプファイヤーを囲う獣人達とアリスの影が伸びて、とても風情あふれる光景だった。でもね、なぜかアリス以外の影は元の動物の形をしていたのだけど、アリスは最後まで気がつかなかったよ。

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