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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
2章 魔法の池
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周りが認識できないほどの霧は孤独を感じさせるよね。

 いつになったら希望は現れるのだろう。

 いつもと同じ毎日を過ごしたって、それはいつもと同じ毎日でしかない。

 終わりのない、変化のない毎日を過ごしたところで、希望なんかやってこないし、救いもない。

 

 だから私はあきらめたんだ。私じゃない誰かが救ってくれるって。

 だから私は眠るんだ。いつか希望を与えてくれる人が訪れるまで。



 悪魔のような環境破壊からおよそ一時間がたった頃、気を失ったアリスは再び目覚めようとしていたよ。


「うーん」


 笑いすぎて、呼吸困難になって気絶したアリスだったけど、しばらくするとまた元の状態に戻ったようで。


「よく寝たわ。なにか夢を見ていたような気がするけど、忘れちゃった」


 どうやら、ちょっと前の惨劇は記憶から抜けているようだった。でもこういうのが一番困るよね。学習しないから。まったくアリスにも困ったものだね。


「あれ?、私何してたんだろう。あらなんだか頭も痛いし、のども痛い。いつの間に寝ちゃったのかしら。もしかしたら風邪引いちゃった? それと、ここどこかしら」


 アリスが再び起きたとき、草原は変わり果てていたよ。かろうじてアリスのいる周辺だけはきれいな芝生が残っているものの、他は悲惨だったね。所々に焼け焦げた跡、爆発魔法で出来たクレーターはその後の水魔法の影響で池になっていたし、池の周辺は大きな岩がごろごろとあって、まるで火山が噴火した後のようだったよ。


 その後しばらくアリスは、ぼけーとしていたけど少しずつ頭が回るようになってね。色々と思い出したんだ。


「そうだわ、私しゃべるウサギを追いかけてたら、トラックに跳ねられて、落とし穴に落ちて、女神様にあって、草原に出たんだわ。思い出したわ。でも変ね。確か一面草原だったはずなんだけど、池があるし、なんか灼けた後もあるわね。なにか大きな怪獣が暴れ回ったようなかんじだわ。ドラゴンでもいたのかしら」


 そうだね、怪獣がいたね。まあいいわと、アリスは立ち上がって大きく背伸びをした。


「寝起きだからかしら、やたらのどが乾くの。どこかに飲み物はないのかな。異世界は自動販売機がないから不便よね。どこかに動き回る自販機とかないかしらね」


 アリスはのどが渇いたので、どこかで水を調達しようとしてるようだった。ちょっとして気がついた。


「あら、そうだわ。そこに池があるじゃない。そこの水を飲めばいいわよね。環境汚染とかきっとないと思うし、おなか壊さないよね?」


 アリスは普段から清涼飲料水しか飲まなかったので、池の水を飲む発想がすぐには出てこなかったよ。だけど、他にいい考えも浮かばなかったし、とりあえずアリスは池のそばまで、ちょっとふらふらしながら歩きだした。「なんだろ、調子悪いなぁ」と独り言をつぶやきながらも、アリスは池の辺にたどり着いたよ。


 池の水はとても透明で、きれいだった。魔法で出したからか、不純物も少なそうだったね。魔法の水ってどういう原理で生成しているんだろうね。


 アリスは池のふちにしゃがみ込んで、池の水を手ですくってゴクゴク飲んだ。どうも、美味しかったようで、何度もすくって飲んでいた。のども潤ったし、気分もましになったので、アリスは立ち上がったその時だった。


「あら、霧?」


 アリスが気づいたときには、周囲は真っ白だったよ。まるで白い部屋にいるかの様に辺りは白で埋め尽くされていた。一メートル先も見えないくらい、今まで見たこともないくらいの濃度の霧がアリスを囲っていたね。


「すごい霧ね。ぜんぜん周りが見えないわ。池に落ちないようにしなくちゃ。えーと、あっちが池だからだから、こっちに行けばいいのかしら」


 辺りはとても静かで寂しくて、湿っている。心なしか気温も下がっているような雰囲気だった。アリスはその静寂に、また不安になりかけたけど、不安を振り払うようにして歩き出したよ。


 なんの目印もない真っ白な空間で、ちょっとずつ前を確かめる様にしてアリス。黙々と歩き続けてるけど、アリス自身どこに向かっているのか分からなかった。ただ前へ進まないとまた泣き出しそうだったから歩いている感じだったよ。


 アリスが歩き始めてから少したって、アリスの前に影が現れた。はじめは丸い影だったものが、まるで粘土細工のようにグニャグニャと変わっていくのをアリスは眺めていた。グニャグニャと変わっていく影は最終的にアリスと同じくらいの背の、アリスと同じ様な風貌の少女の形に変わったよ。


「ねぇ、あなただあれ?」


 アリスは影の変化を陶然として眺めていたのだけれども、影からかけられた声に我に返った。影の声は何故かアリスにそっくりだったけど、自分の声を外から聞いたことのないアリスは特に何も思わなかったよ。自分の声を録音したものを聞くと、ちょっと違うよね。


「……私はアリスっていうの。あなたは?」


 アリスはすぐには反応出来ずにちょっとたってからそう答えた。


「私はアリスっていうの。あなたもアリスなの?」


 影はアリスの言葉に間髪入れずに答えた。まるで、はじめから発する言葉が分かっていたかのように。影はじっとアリスを見ているようだった。ようだった、というのは影はただの輪郭で目も口もないから推測でしかないからだよ。そして影はアリスが答えるのを待たずに次々とまくし立てる。


「ねぇ、あなたって本当にアリスなの?」

「本物のアリスはだれ?」

「私が本物のアリス?」

「じゃあ、あなたは誰なの?」

「それだったら、メーベルじゃないの?」

「メーベルって誰?」

「さぁ。誰かしら」


 影の言葉を聞きながらアリスは唇に手を当てて、呼吸を整えていた。周りの霧がとても冷たくて凍えそう。静寂が影の異様さを更に引き立てていた。ちらりと試験管の方を見たけど、特に何も変化はなかったね。なんでアリスが影におびえているかはわからないけど、いつもの陽気なアリスとは違って、今にも泣き出しそうだったよ。


「……え、ええと。私はアリスだよ。ええと、メーベルって人じゃないよ。ええと、うわっ」


 アリスはうまくしゃべれず、しどろもどろになって困っていた。無意識のうちに後ずさりしていたようで、不意に片足が沈んだ。どうやらそこは池のふちだったようで。バランスを崩したアリスは、ぼっちゃん、と背中を水面に打ち付けて沈んだ。


 影はしばらく少女の形でゆらゆらとしていたが、そのうちすーっと消えていった。

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