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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
2章 魔法の池
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魔法を使うための呪文ってかっこいいのが多いよね。

 アリスが扉から出ると、そこは見渡す限り草原だったよ。テレビでよく見るサバンナのような草原ではなくて、芝生が敷き詰められた草原。ゴルフ場をイメージするとわかりやすいかな。ともかく、見渡す限り芝生の草原がアリスの視界に広がっていた。

 

「えっ!?」


 アリスはその光景に驚いて、振り返ってみるとドアが消えていた。アリスは誰もいない草原にぽつんと立ち尽くしていた。


 誰もいなくなってしまって、女神様も追いかけてたウサギもいなくなって、アリス一人だけがそこにいる。アリスはなんだか急にさみしくなってしまったよ。アリスの目から涙がこぼれる。ぼつぼつ、と涙が芝生に落ちていく。かわいそうにアリスは座り込んで泣き出しちゃったの。


「なんでだろ、涙が出ちゃう。こんなに涙もろかったかしら。私何で泣いてるんだろ。ひとりぼっちだからかな?」


 アリスは誰もいない草原で、独り言を呟いた。


「私、帰りたいのかな。パパとママにあいたいのかな。今まで現実なんてつまんないって思ってたけど。異世界ってなんて楽しそうなんだろって思ったけど。何にも知らない、誰も知らない、これからどうなるか分からない世界なんて不安でいっぱいじゃないの。現実世界も捨てたもんじゃないわね。女神様は帰れるって言ってたけど、帰れなかったらどうするのよ。無責任ね」


 とアリスはさらに落ち込んじゃった。そしたらまたアリスの目から涙が、出てきちゃう。


「あらいやだ。こんなに私、泣き虫だったかしら。泣いたってどうにもなるわけでもないのにね。異世界にあこがれてても、能力もないし。どうしたらいいの。ねえ、誰か教えてよ」


 ひとしきり泣いて、そのうちふと、なにやら視界の端でちかちか光っているのに気付いた。さっき女神様からもらった、試験管のひとつが光ってたの。そういえば、使いどころが分かるようになってるっていってたっけ。そういうことだったのかな。


「よし、飲んでみよう。他に手段もないしね」


 とアリスは涙を白衣の袖でぬぐって、試験管の栓を抜いて飲んでみた。試験管の栓は女神様の部屋ではいくら力を入れても抜けなかったけど、今回はポンって簡単に抜けた。アリスは、どきどきわくわく、な気分だったよ。さっきまで泣きべそかいていたとは思えない。


 味は……、あんまりおいしくなかったようで、ファミリーレストランのドリンクバーで色々混ぜ合わせたような味がした。ちょっと苦かったようで、少しずつ飲んでいった。お砂糖かミルクはないのかなって、アリスは思ったけど、ないことは分かっていたのであきらめて飲んでいった。


 試験管の中身を全部飲み干して、「どうなるんだろ。何が起こるのかな? もしかして私の秘めたる力が覚醒するのかしら」ってアリスはつぶやきながら、何かが起こるか待っていた。


 でも何も変わらない。強いて言うなら、空になった試験管が消えたくらい。ゴミにならなくてよかったね。でもアリスには何の変化もなかった。もちろん、普通は飲み物を飲んで変な力に目覚めるとか現実ではあり得ないけどね。けれどもアリスは異世界なんだからなんでも起こるのが当たり前で、普通のことなんか丸めてゴミ箱に捨てちゃえって気がしたわけさ。


 

「ほえー」


 アリスが試験管の中身を飲み干してから5分くらいたった頃。アリスはなんでか知らないけど、浮遊感に包まれていた。なんでか知らないけど、ちょっと身体がぽかぽかしてきて、なんだか視界がゆらゆら揺れていた。なんでか知らないけど、アリスはなんだか宙に浮いてる感じで、すごく楽しい気分を感じていた。(そのせいかまともな言葉遣いができなくなってたようだね。何でか知らないけど)


「あははー、なにこれー。たーのーしー。ん、なにこれー?」


 また3分くらいたった頃。アリスの視界には文字が浮き上がっていた。なんだか呪文みたいで、まるで読めって言っているみたいでチカチカ光ってた。斜体で、太文字だったよ。なのでアリスは特に疑問を持たないで呪文を朗読してみた。浮かんできた文字は、なんかいっぱいあって、いくつも並んでいたよ。アリスはとりあえず一番上にあった呪文を詠んでみた。


「我は力を欲すものなり

 偉大なる汝の名の元に

 我と汝の力もってすべてに

 等しく裁きを与えんことを

 

 爆裂☆爆発☆だいばくはーつ!」


 よくゲームでみる呪文のようだった。アリスがその部分を詠み終わると。すっごい爆発が起こってね、草原に大きなクレーターができちゃったよ。すごい環境破壊だね。誰もいなくてよかったね。


「わー。たーまや」


 アリスは自分が起こした惨劇にぱちぱちと拍手を送った。爆発に少しはびっくりしちゃったようだけど、なんだかとってもおかしくて楽しい気分に浸っていたアリスはさらにテンションがあがっていった。

 

「わたし、魔法使いになったのかしら。そうだわ他の呪文も詠んでみましょう。なにがおこるのかな」


 アリスはすごくたのしくなってきて、どんどん調子に乗ってきた。うれしくて、浮かび上がってきた呪文を片っ端から試しちゃった。炎に、暴風、雷、洪水、ありとあらゆる天変地異の、理不尽な暴力が草原を襲った。もはや草原の原型はとどめていなかった。

 

「わわわ、なにこれ。ちょーたのしんですけど。もっといろんな魔法を試すのよー。あらこれすっごいたのしいわ、はははh」


 このテンションは、アリスが笑いすぎて呼吸困難になって気を失うまで続きましたとさ。



 ごらん可憐な嬢ちゃんが

 けらけらけらけら笑いつつ

 いろんな呪文を唱えてさ

 嬉しそうに笑ってる


 ごらん遠くで起こる爆発を

 バラバラ落ちる瓦礫たち

 穴ぼこだらけの草原が

 悲しそうに見えちゃうね


 なんてね。

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