アリスとゴブリンのダンジョン探索
「思ったよりも暗くないのね」
「まぁな、あんまり暗いと作業もしにくくなるし、流行らないみたいだからな。適度に明るくしているんだ」と、アリスの隣を歩く案内役のゴブリンが答える。
アリスとゴブリンはダンジョンにいた。ごつごつとした岩盤をくり抜いて作られたであろう洞窟内を進んでいる。その壁を見てみると松明らしき光源が等間隔に並べられていた。本当の火ならばすぐに酸素がなくなるであろうね。しかし、アリスたちがぴんぴんしている所を見ると、火ではないようだ。魔法はこういう時に便利だね。
ごつごつした岩肌が松明らしきものに照らされて浮き上がってくる。雰囲気を壊さない程度に明るい洞窟。それが魔王のダンジョンだったよ。
◆ ◆ ◆
アリスは魔王からダンジョンを見てくれと頼まれた。大勢のモンスターに囲まれれるなか拒否権も無く、ダンジョン観光の運びとなった。ただ、アリスも元々はそれが目的だったので支障はなかったよ。
お供のゴブリンをつけられて、ダンジョン攻略に挑むのであったね。ただ魔王様がいうには、テストのために何人かの部下を向かわせたのだが、誰一人として帰ってこないようだった。
「難易度としてはそんなに高くないから、普通に戻ってこれるはずだけど、どうなっているかついでに見てきてくれるか?」
だそうだ。そんなんなら自分で行けばいいじゃない、とアリスが言ったのだが、魔王はなんだかんだで理由をつけて「いかない、忙しい」、としか言わなかった。
後でゴブリンが教えてくれたのだが、魔王は重度の閉所恐怖症で、暗闇が怖いらしい。あぁ、だからあんなところでゴルフをしていたのかとアリスは納得した。
でもなんでダンジョン作ってるんだろうと、アリスは思ったけど、ゴブリン曰く、どうやら魔王のステータスらしい。ダンジョンは一国一城の主を示すもので、価値につながるらしい。持ち家信仰ってやつかな? 魔王も大変だね。
ということで、魔王様のお使いというより使いパシリにされたアリスはダンジョンに潜っていたよ。
別段そこまで深いわけでもないし、マンガや小説であるような攻略、探索用の装備は特に用意しないでいった。ダンジョンへの入り口は広場の端の方にあったよ。そこには下への階段があり、そばに木の看板が立っていた。
「魔王のダンジョン入り口」
廃材を利用して作られたであろう看板。なんだかしょぼいダンジョンの入り口だね。
◆ ◆ ◆
そんなこんなで、ダンジョンを探索し始めてからしばらくたった。まぁダンジョンって言っても、単に洞窟を歩いているのと変わらないけどね。
「ねぇ、このダンジョンってどのくらいの大きさなの?」
「ん、全三階で、100魔王坪くらいだな」
「何その単位? あんまり大きさの想像つかないけどそれっておっきいの?」
「いや、小さいな。普通の魔王クラスだと1000は行くね。ここはせいぜい三階までしかないし、施設だってちゃっちーからあんまり価値はないんだよなぁ」
「ふーん、あんまり大きくても探索するのに疲れるから小さくてよかったかも。あら何かあるわね」
「そこが二階へ行く階段だな」
「え、もう? 特に何も無かったけど、」
「一階なんてそんなもんだ、初見さんが怖がってそれより下にきてくれないのは困るからな。はじめは、だいたい雰囲気作りだな」
「雰囲気作りって……、確かにすごくダンジョンぽいけど、なんだかなぁ」
ちょっと納得してないながらも、アリスは気を取り直して地下二階にたどり着く。
「さてここからが本番だぞアリス。二階は気がゆるんだ奴らを皆殺しにするトラップがいっぱいあるからな」
「何その怖いの、さっきまでのほのぼはどうしたのよ。ん、何かしらこれ」
アリスは、足下にあったボタンを踏んでみた。ボタンを押した瞬間、壁から槍が飛び出てきた。
「ちょ、人の話聞いてたのか! あからさまに怪しいボタンを押すんじゃねぇ」
飛び出た槍はゴブリンの頬をかすめていた。ちょっと切れているゴブリン。
「あっ、なんか変な石像があるわ。オブジェかしら」
「おい、聞いてるのか!」
相変わらずあまり人の話を聞かないアリスは、ふらふらとダンジョンを楽しんでいた。色々なトラップを作動させ、ゴブリンに怒られるのだった。
落とし穴や毒ガス、転がる岩など二階には色々なトラップが仕掛けられていたけど、アリスには被害がなくて、後を追いかけているゴブリンだけがダメージをくらっていた。
「なんで俺ばかり……」
アリスが作動させたトラップで死にかけるゴブリン。ふらふらしながら懐から回復薬らしきものを取り出して、回復していると、アリスはどこからか宝箱を見つけたようで持ってきた。
「ねぇ、ねぇ宝箱見つけたのだけど、開かないの」
「宝箱? 予算不足でそんなものは配置してないはずだが……、ああ、それはミミックだ。宝箱のモンスターだよ」
「えっ、あのミミック! あの有名な!」と目を輝かせるアリス。そんなアリスを興味深げに眺めるゴブリン。
「なんだ、ミミックがお気に入りなのか? 珍しいなぁ」
「あの中身が気になるのよ。一度中身を見てみたかったのよ」と、宝箱をバンバンたたくアリス。
「おーい、出てらっしゃい、怖いものは無いわよ」と宝箱を振りながら語りかける。
怖い存在がいることがわかってか、なかなか蓋が開かない。しかし頑張って中身をみようとする。無理矢理こじ開けようとしているけど開かないようだ。どんだけ嫌がっているんだろう。
「やめておけ、恥ずかしがり屋なんだ、ほらいくぞ」とミミックがかわいそうになってきたゴブリンはアリスに先を進めるよう促す。
「ちぇ」としぶしぶ先を進むアリス。すこし名残惜しそうにミミックを見るけれどもあきらめて進み始めたよ。
順調に二階を制覇していくアリスたち。
その途中でモンスター達がたむろしていた部屋があったよ。いわゆるモンスターハウスという奴だね。ただみんな宴会しているようで、どうやらさぼりモンスターたちの集まりのようだった。魔王の監視下から逃れてみんなここにいたもよう。要するに消えたモンスターはこっそりここで作業をさぼっていたみたいだね。
魔王様の言葉をゴブリンが伝えて、注意すると皆嫌々地上にもどっていったよ。
◆ ◆ ◆
「お、三階への扉だな」
またしばらく歩いていくと、大きな扉があった。扉にはなにやら文字が書かれていた。
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この●は××◆◆だが、
この●は××◆◆ではない。
※●××◆◆にはそれぞれ同じ言葉が入る。また××は数字である。
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「なにこれ」
「なにって謎解きだよ、ダンジョンだとよくあるじゃないか。これを解かないと先に進めないって奴だ」




