アリスの30分クッキング
マヨネーズ、それは異世界転生のお約束の一つであり、知識チートの代表的な調味料。
原材料は食用油・酢・卵とシンプルな組み合わせながらも、たいていの食べ物に合うそのソースは万人受けし、多くの愛好家が存在する。日本では1925年(大正14年)3月9日にキユーピーが発売した『キユーピーマヨネーズ』が国産マヨネーズの元祖とされる。(wikiより)
調理の過程で材料を混ぜ合わせて乳化させるのに手間がかかるため、マヨネーズはもともとは高価なソースであったようだ。しかし電動ミキサーが発明され、完全に乳化させたマヨネーズが容易に製造できるようになり、マヨネーズは安価なものとなり一気に普及した。そして今では人気の調味料として愛されている。
それは異世界においても同様で、異世界転生者がマヨネーズの製法を教えると爆発的なブームになるようだ。またマヨネーズはカロリーも高く、非常食としてとても優秀である。
例えば、遭難や大地震で倒壊した建物内に閉じ込められるなどの非常事態から生還した人の中にはマヨネーズを摂取し続けて飢えをしのいだという証言がある。なぜ生還者がマヨネーズを持ち歩いていたかはなどは置いておくとしても、マヨネーズのカロリーは非常に高く、通常状態の人にとっては摂取量を考慮しなければならないレベルの高エネルギー食品である。
また保存はメーカーによると冷蔵庫で1か月程度まで可能である。しかし実際には、夏場でも開封後に常温で1か月くらいは平気のようだ。酢の殺菌作用により、かなり長持ちするようである。
異世界においては、こちらの世界に比べて非常事態に陥ることも多く、保存食といった面においてもマヨネーズの有用性があるのだろう。
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まぁ、そんなわけでアリスも、他の転移者のマネとしてマヨネーズを作るようだね。
さて、とりあえず駆け落ちしたエルフとオークのおうちにおじゃまして、マヨネーズを作ることになったアリス。彼らの家は言い争いをしていた場所からそれほど離れておらず、すぐについたよ。
そしてさっそくキッチンに来たわけだが……。
アリスはキッチンに立って気付いた、詳細な作り方がわからないのだ。
好きだからっていってそれに熟知しているわけではないの。これはアリスのいいわけである。ノリで行動するとこういうことになるから気を付けたほうがいいね。まぁ、なんにせよ、やってやれだ、と適当にやってみることにした。料理なんて適当にやっても何とかなるの! だってさ。
ちなみに一般的なマヨネーズの製法は以下のとおりである。(wikiより)
異世界に行ったときに活用してみるといいだろうね。機会があるかはわからないけどさ。
『基本的なマヨネーズ350mlの製法』
・材料
卵黄 1個
酢 大さじ1程度
水 小さじ1
塩、胡椒 少々
食用油 300ml
(マスタード大さじ1)お好み
・作り方
1. すべての材料を常温に戻してから作業する。
2. 卵黄1個に対し、酢を大さじ1程度 (ワインビネガー)、水小さじ1、塩、胡椒を少々。
好みによりマスタード大さじ1。それをボウルにいれ十分にまぜあわす。
3. 卵黄1個に対し300cc程度までの食用油を少しずつ加えながら、好みのマヨネーズの食感にまで攪拌する。途中で分離しそうになったら酢やワインビネガーを足すこと。
4. 料理に合う塩と胡椒を加え完成させる。
である。混ぜるのにちょっとコツがあるけど、すべて常温で作業できる点と、少ない材料で作れる。材料と手順や温度について覚えていれば作るのはそう難しくなさそうだ。
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さて、ではここでアリスが用意したものを見ていこう。(オークとエルフのキッチンを物色して集めた)
・用意した材料
コカトリスの卵
何かの油
お酢
キュウリのような野菜
謎肉
最後の二つは試食用なのかな……まぁ材料的には大丈夫な感じだろうね。塩と胡椒が無いけど何とかなりそう。一応アリスもそういったマヨネーズを作る小説は読んでいて、卵と油とお酢が必要な事は知っていたよ。まぁ具体的な手順はちょっとあやふやだけどね。
そして、ここからアリスのうろ覚えマヨネーズ作りが始まったよ。
「さーて皆さん始まりました。アリスの三十分クッキング」
「おい、誰に話しかけているんだ?」
「料理人は私、アリスとアシスタントのオークさんとエルフ夫婦です」
「おーい。アリスちゃーん」
「本日はマヨネーズを作ってみましょう」
「駄目ね、自分の世界に入り込んでるわ」
「大丈夫か。本当に」
「さて、まずは卵と酢と油を入れていきましょう。多分これで大丈夫なはずよ」
といって、材料を一気に投入して混ぜ始めるアリス。多くの人がミスするのはここ。というかここしかないよね。間違うのは。食用油を少しずつ加えるのだ。そうじゃないと、しゃばしゃばになっちゃうよ。
「あれ? 全然混ざらない……おかしいなぁ」
そんなふうに呟きながら一心不乱に混ぜ合わせます。途中で疲れたのか。
「ねぇ、オークさん。混ぜて」
とオークにボウルを渡したね。オークは持ち前の腕力で混ぜ合わせる。攪拌に続く、攪拌……。すごいスピードです。心なしか、ドロッとしてきましたね。
「おぉ、やっぱり混ぜ方が重要なのね。もういいわ」
とオークからボウルをもらうと。一気に分離したよ。
「……」
呆然としながらもまた混ぜていくアリス。でも全然マヨネーズっぽくならなかったね。
「おい、マヨネーズとやらはそれで完成なのか?」
オークが聞いてきたけど、アリスはどうしようかと考えていた。まぁ、2人ともマヨネーズを知らないからこれでも押し通せそうだけど……とちょっと黒いことを思っていると。
腰のベルトにぶら下がっている試験管の一つが光り出した。
その光を見て、アリスはひらめいた。
試験管の中身をぶちまけて混ぜてみた。そうすると、さっきまでの水っぽさはなくなり、きちんとしたマヨネーズっぽい硬さになったよ。まぁ、色が紫なのだけどもね。
「……まぁ完成よ!」
ということで、できあがりのようだ。
エルフとオークのダイニングルームに集まり、マヨネーズの試食会をするようだ。テーブルには肉や野菜、多くの食べ物と、アリスが作った紫色のマヨネーズらしき物体が鎮座していた。
「おい、これがマヨネーズというやつか……なんだか不気味な色をしているが大丈夫なのか……」
「えっ、た、たぶん」
「まぁ食べてみましょうよ」
というエルフの発言をきっかけに、オークもエルフも食材にマヨネーズをかけて食べてみた。
始めはおそるおそる食べてみた、オークとエルフだったけど、一口目を食べてからどんどんと食べる速度が速くなっていき。あっという間にテーブル内の食材を食べつくしてしまった。アリスが食べる間もなく、完食されてしまったね。
「こ、こんなにおいしいものは食べたことはない。シェフを呼んでくれ!」
「口の中がとろけるようよ。まるで奇跡の水を食べているようだわ」
「おい、ちびっこやるじゃねぇか。俺はこんな料理を食べたことはない。肉って美味かったんだなぁ」
「わたしもよ、野菜はずっと嫌いだったけど、これなら食べられるわ!」
大絶賛する二人。そして野菜も、肉も関係なく、マヨネーズの魅力にはまった二人は仲良くなるのでした。
ただし二人とも焦点があってないけどね……
エルフがしゃべりアリスと思ってしゃべりかけているのは近くにあった妖精の人形だし、オークにいたっては壁に向かって話しかけている。
どう見ても大丈夫じゃないね。試験管に混乱の効果でもあったのだろうか。そんな異様な光景にアリスは、
「お、おじゃましましたぁ」
といって、こっそり家から出ていくのだった。
「はぁ、料理って難しいね」
とつぶやくアリス。……あれは料理じゃないと思うな。




