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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
6章 エルフとオーク

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15/30

どっちが好き?

「――――――」


 始まりの村へつながる道の先から言い争いをしている声が聞こえた。道の先に見えるのは、金髪で美麗衆目、スラっとしていて耳の長い女の人と、巨漢で筋肉質、しかし豚みたいな顔をした人だった。ファンタジーの世界で共通の用語で分類するとエルフとオークだろうか。


 さしずめ美女と野獣のような二人がなにやら言い合いをしているようだね。あの真剣そうな様子を見ると、さぞかし真面目な話をしているのだろう。そう思い彼らの会話を聞いてみると。



「キノコよ! あの見事なフォルムを知らないの? あの傘の部分と棒の部分の食感が違うのも素敵なの!」

「いーや、タケノコだろ。あのずっしりとした感じ、歯ごたえがたまんねーぜ」

「「はぁ!?」」



 ……どうやらくだらない争いをしているようだね。おっと、くだらないといったら怖い人に消されてしまうところだよ。これは人の尊厳をかけた言い争いのようだね。どっちとも人じゃないけど。


 さて、そんなとても大事な話し合いをしている二人の様子を見ていたアリスだったが、何か思うところがあったのか会話に入っていった。


「もう、何を言ってるの? すぎのこが一番よ」


 相変わらず空気の読めない子だった。ただ物怖じなさは尊敬に値するね。でもその答えはダメだと思う。アリスって何歳なの? 年齢詐称してない? 


「はぁ、何をいってるんだこのちびっ子は」

「すぎのこは食べ物じゃないわよ」


「……ところで二人とも何を争っているの?」


 とアリスは聞いた。


「あぁ、それはだな……」



 アリスが彼らから聞いた話によると、エルフとオークは夫婦らしい。お互い種族は違って、交流もあまりなかったのだが、ある日、クマに襲われそうになっていたエルフをオークが助けたことにより面識ができた。助けられたお礼に何度か逢瀬を重ねるうちに互いの恋心が開花したそうだ。しかし、お互いの親はあまりいい顔をせずに、交際も反対されたため駆け落ちしてきたらしい。


 そんなよくある駆け落ち生活は、よくあることだけど、あまり上手くはいかなかった。お互いの生活習慣の違いで些細なことで喧嘩するようになったのだ。元々の習慣や価値観が違う二人の間には思いのほか大きな違いがあったようだね。このままではいけないと思った二人は譲れないところを言い合おうということで今に至るというわけだ。



「まぁそんなわけで別に本気で喧嘩しているわけじゃねぇ。お互いの事を知るためには必要なんだ」

「そうよ、ダーリンの事をもっと知りたいの」


 そういって、互いの顔を見つめる二人。周囲には甘い雰囲気が漂っていた。その場には見えない壁があるようで、誰も入れないような感じだった。


「ねぇ、知り合うんじゃなかったの」


 ……アリス以外。


「あぁ、そうだな。えーっと次はなんだっけか」

「タヌキそばとキツネうどんよ」

「やっぱりタヌキだろ! あのサクサクの揚げ玉との食い合わせはたまんねーぜ!」

「いーえ、キツネよ。あの甘じょっぱい油揚げとたんぱくなうどんの組み合わせは素晴らしいわ!」


「えっ、さぬきでしょ」


 あぁ、ちなみに油揚げは狐が食べるものというイメージがあった様で、一般的には甘辛く煮た油揚げをのせたうどんを『キツネうどん』と呼ぶらしい。タヌキの方は諸説あってどれが正しいかは不明だけど、揚げ玉、天ぷらが乗っているものがタヌキと呼ばれている。揚げ物の衣が大半で中身が少ないことから『化かす』ということで『タヌキ』と名付けられたらしいね。


 ところでアリスはなんなの? 


 その後もお互いを知るための言い争いが続くわけで。


「好きな色は!」

「赤!」

「青!」


「青ね、冷静沈着にして、深慮遠謀にたけて、クールなまたイメージよ」

「いーや赤だろ、火をイメージさせるエネルギー、燃えるような情熱、活動的なイメージだ」


「えっ、黒じゃない。高貴な色よ?」



「朝はいつも何を食べる?」

「パンでしょ。朝の時間がない時でもすぐに食べられるあの手軽さがいいわ、朝の優雅なひと時には欠かせないわ!」

「いーや、ごはんだね。あの満腹感と腹持ちの良さはいいぞ。あとどんな付け合わせでも美味い!」


「完全無欠コーヒーでしょ?」



「テンプレと非テンプレどっちがいい?」

「テンプレに決まってるだろ! 長い年月をかけて最適化された物語は書きやすく、読んでいてもすっと頭に入ってくる。作者にも読者にも優しいんだ!」

「いーえ、非テンプレよ! 読者は常に新しいものを求めているの、ずっと同じようなテンプレ小説なんか読んでいるだけで頭がいっぱいになっちゃうわ!」


「どっちだってよくない? それぞれ良さがあるじゃない。テンプレでも非テンプレでも書きたい小説を書けばいいんじゃないかしら」



「目玉焼きには醤油? ソース?」

「当然、醤油だろ。目玉焼きには醤油をかけて食べる以外は考えられないくらいだぜ。目玉焼きはご飯の上において、醤油をかけて食べるのが最高だ!」

「いえいえ、ソースでしょ。淡白な白身には、ソースの少し甘味があるくらいがちょうどいいのよ。その方が目玉焼きがおいしく食べられるの!」


「マヨネーズかなぁ。チーズをのせてたりサラダにも合うしね」



・・

・・・


 その後、いくつかの問答を経て、ようやく最後の言い合いになった。それにしてもやっぱりアリスの感性は、ちょっとずれてるね。


「じゃぁ、最後は肉と野菜」

「……肉よ! あの食べ応えとジューシーさはたまらないわ! 鉄板で焼いた牛の肉に岩塩を振りかけるだけでもうご飯三杯はいけちゃうわ!」

「……いや野菜だね。あのシャキっとした歯ごたえとみずみずしさは、肉にはない美味さがある。とれたての野菜なんか新鮮さが違うね!」



 なんだか最後だけちょっと間があったけど、これでどうやら終わりのようだ。ほとんどが食べ物に関するものでそれさえ解決してしまえばよい感じがした。ただそれをどうやって実現するかは二人の努力次第なのではないだろうか。そうエルフとオークが良い感じに締めようとしていると。

 

「たいていのものはマヨネーズをかければ美味しいわよ。ところでマヨネーズってこの世界にあるの?」


 特に好き嫌いがないアリスはどっちでもいいんじゃない、と思い、このまま始まりの村へ行こうとした。けれども、言い争いを聞いていると、なんとなくお腹が空いたような気がした。なのでどうにかしてお腹を満たそうとしてマヨネーズの存在を聞いてみた。あわよくばそれをダシにご飯をたかるつもりなのだろう。


「は、マヨネーズ? なんだそりゃそんなもの聞いたことねぇ」

「ないわね」


「じゃぁ、私が、なんでもおいしく食べられるマヨネーズを作ってあげる。そうすればすべて解決よ」


 マヨネーズは正義、とアリスは小さくつぶやいた。どうやらアリスはマヨラーのようだね。

 ということでマヨネーズを作ることになったアリスと、エルフ、オークは彼らの家に向かうのだった。

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