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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
5章 ギルドのお使い

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14/30

エンドロールに終演を

「あれが、不自由の女神。見てみて全身を拘束されてるでしょう。あれもロボットなの。ただ一度暴走したことがあってね、そのときに枷をつけたんだけど、どんなに拘束されてもあきらめずに動くからどんどん拘束具が増えちゃってさ今やあんな感じ」

「へぇ、ぐるぐる巻きね。あっ、ちょっと動いた」



「あっ、あれがピザの斜塔。ピザを積み上げて作ったんだけど傾いちゃってさ。大変なの。でも何故か倒れないのよね」

「なんであれで倒れないんだろう。チーズのせいかな。でもなんだか美味しそうね」



「それであれが、スカイフォレスト。超高層のタワーマンションが建ち並んでて森みたいになってるの。あそこにはいると目立った目印がないから迷っちゃうのよ。同じような建物ばっかりが並ぶからね」

「わぁ、すごいわ。森というより迷路みたい」


 道すがら女性ロボットは観光名所について説明してくれたよ。どれも微妙に変な所ばっかりだったけど、アリスは興味津々だったね。


 「それであれが、キミの目的のコンサート会場、ムジコンシンフォホールだよ」


 女性型ロボットが指さした先には巨大な箱型の建物があったよ。建物の上には巨大な靴が並べられており、遠くから見ると靴と靴箱のように見える。大きな靴箱の側面にはコンサートホールとでかでかと書いており、どうやらアリスの目的地のコンサート会場で間違いないようだった。


「ありがとうございます」


 依頼を達成できそうで、ほっとしたアリスは案内してくれた女性型ロボットにお礼を言った。


「またね」


 女性ロボットはそれだけ言うと颯爽と去っていったよ。ん、またね?



「綺麗なロボットだったわね。優しそうだったし、また会えるといいな。さて、それでここからどうすればいいのかしら」


 ちょっと考えてから、ひとまず会場の入り口に向かうアリス。


 コンサート会場の入口には自動改札機があってチケットを入れる所があった。そこにチケットを入れるとなんと床が動き出して、アリスを奥のホールに運んでいったよ。


 運ばれた先のホールは長方形でその中心に舞台があった。その舞台を囲むように座席が並べられている。会場は広くて5階くらいまであるため余裕で数千人は収容可能な大きな会場だったよ。


 でも人っ子1人居なくて、観客はアリスだけのようだね。ホールの静寂が不気味さをかき立てる。何千人も入る会場なのに誰もいない。


 しばらくホール全体を漠然と眺めていたアリスだったけど、コンサート開始のアナウンスが流れてきたため、チケットの番号を見て座る場所を探した。


 番号はA-1。どうやら舞台に近い1番前の席のようだった。座席を見つけたアリスはほっと安堵した。


 そして、アリスが座ってちょっとしてから会場の照明が暗くなり、コンサート開始のナレーションが始まる。

 

「コンサートはどんななのかな。プログラムは特に渡されなかったけど。そういえば封筒はいつ渡せばいいのかな」


 あまりこういうイベントに参加することの機会が少ないアリスはかなり楽しみにしていた。


「あっ」


 舞台の中央に穴が開き、階段らしきものが見えた。そして、そこからマイクを持ったアイドルのようなふりふりの衣装を着た1人の女性が上がってくる。


「今日は来てくれてありがと~」


 元気いっぱいの声で挨拶をしながら穴から出てきたのは、アリスを案内してくれた虹色の髪の女性型ロボットだった。その女性型ロボットはアリスに向かってウインクをした。


「今日は楽しんでいってくださいね」


 舞台上で綺麗なお辞儀をして、アリスに語りかけるように言ったよ。


「さてそれでは聞いてください。『始まりノート』」


 いつの間にか舞台に現れた電子ピアノにロボットは座り。弾き始める。電子ピアノから美しい旋律が奏でられる。優しい音色だった。そして電子ピアノの音とロボットの声が綺麗に重なり1つの作品を奏でる。



『始まりノート』


最初に出会ったときは 歌も踊りもできなかった

出来損ないだって 何度言われても頑張れたのはキミがいたから


ずっと応援してくれた 知ってたよ自分が欠陥品だってこと

それでも変わらず応援くれたね ありがとう見捨てないでくれて


コンテストにも出させてくれた 勝てないとわかっていながら

それでも楽しかったね あの時の事は今でも覚えてる


ありがとうの言葉を何度言ったか分からないくらい

感謝の気持ちを込めて歌ったよ


キミがいたから頑張れたよ ありがとう応援してくれて

あの時の初めての音はキミのために出したんだ


始まりの音をありがとう



・・・

・・



 ピアノ弾き語りの曲が何曲か終わり照明がつく。


「ここまでどうだったかな? 久しぶりの観客でちょっと緊張しちゃってるように見えたかも。まだまだ曲はあるから楽しんでね」


 ロボットのMCが入り電子ピアノが消えて、次の楽器が現れる。ギター、キーボード、ベース、ドラムがいつの間にか舞台に用意されていた。真っ黒な顔のないロボットたちがそれぞれの楽器のところに配置されていく。



「次の曲行きます。『グローリーログ』」




 先ほどの曲とは打って変わってポップな演奏が始まった。アイドルのコンサートでよくあるタイプの曲で観客が参加できるようにMIXやコール、口上、手拍子のタイミングも用意されていた。アリスは光り出した試験管をちょうどいいやとサイリウム代わりに使って合いの手を入れていた。初めて聞く曲なのになぜかメロディやかける言葉が口から出てきた。


 そんなアリスはノリノリだった。



・・・

・・



 それでも楽しい時間はいつか終わりを迎える。どんな楽しい遊びでも終わりはやってくる。最後は何の楽器も出てこない。独唱だった。


 

「それじゃ、最後の曲、『終わりの音』」



最後に出会ったときは 何もしゃべれなかったね

ありがとうの言葉も届かない 僕を見ているのもわからない


ずっと一緒にいてくれた 知ってたよ いつしか別れが来ることを

それでも変わらず応援くれたね ありがとう見捨てないでくれて


僕はロボットで君は人間 ずっと一緒にいられないのはわかっていながら

それでも楽しかったね あの時の事は今でも覚えてる


ありがとうの言葉を何度言ったか分からないくらい

感謝の気持ちを込めて歌ったよ


キミがいたから頑張れたよ ありがとう応援してくれて

あの時の鎮魂歌はキミのために歌ったんだ


全ての音にありがとう



それでも僕は歌い続ける 僕の寿命は長いから

ありがとうの言葉を何度繰り返しただろう 誰が見ているのもわからない


ずっと1人でやってきた 知らないよ いつ終わりが来るのかも

それでも変わらず続けたよ いつしか終わりが来ると願って


僕はロボットで 疲れないのもわかってさ

それでも最近辛いんだ あの時の事は思い出さなきゃやってられないくらい


ありがとうの言葉を何回繰り返しただろう 誰が見てるのかもわからない

感謝の気持ちを込めて歌ったよ キミに会うためならなんだってする


歌っているとキミを思い出す ありがとう応援してくれて

僕の最後は君に届けたい すべての音を届けたい


終わりの音にありがとう




・・・

・・



 照明がつき、周りが明るくなる。


「どうだったかなコンサートは楽しめたかな」

「すごくよかったです」


 ぱちぱちと拍手をするアリス。忘れないように封筒をもって舞台袖のところまで行く。


「これは?」

「ギルドから渡すように頼まれたんです」


 アリスはロボットに封筒を渡す。ロボットは封筒を受け取り中身を確認する。中にはメモとUSBメモリが入っていた。そのメモを確認して。


「そっか、やっと終われるんだね」


 とロボットは呟いた。


「アリスありがとう。終わらしてくれて」


「えっ、何のこと」


「最後に人間の前で歌えてよかった。僕、ロボットでよかった。だって人間だったら絶対泣いちゃうから。アイドルはいつだって笑顔じゃなきゃね。それじゃぁアリス。ありがとう。そしてバイバイ♪」


 そういってロボットは封筒に入っていたUSBを首に突き刺した。そして動作を停止した。彼女はとびっきりの笑顔で止まっている。最後まで笑顔だった。そして、幕が閉じる。舞台が閉じる。アンコールはなかった。



「えっ、えっ?」



 アリスは混乱して、その場に座り込んだ。ロボットの言葉を反すうすると、アリスの持ってきた封筒がどうやらこのコンサートに終わりをもたらすものだったらしい。アリスはロボットの最後の笑顔を思い出していた。いつの間にか涙が頬を伝う。


「なんで……」




 いつまでそうしていたのだろうか。しばらくたって巡回ロボットに「閉館です」と強制的に追い出された、アリスは放心状態のまま、とぼとぼと歩いていた。そこらへんのことはアリスはあまり覚えていない。気づけば、いつの間にかコンサート会場から出て、行きと同じ汽車へ乗っていた。



 そしてギルドへ報告するために始まりの村への道を歩いていた。



「はぁ、なんなんだろこの世界は。もう嫌になっちゃうわ」


 復活したアリスが愚痴を言いながらとぼとぼと道を歩いていると前方に口論をしている2人が見えた。きれいな女性と醜い男性。いわゆるエルフとオークだろうか。今度は何が起こるのやら。

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