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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
5章 ギルドのお使い

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未来都市のパラドックス

「須勢毛比恵~ 須勢毛比恵~」


 車掌さんの特長のある声が車内に響きわたる。


 車掌の言葉から判断すると、次がアリスの降りる駅のはずだ。乗客は全員降りてしまったので、汽車の中はアリスだけで、とても静かだったよ。汽車が()()()()()()()()ほどに。


 アリスは駅についてからする事を確認するため、依頼内容をもう一度よく見てみたよ。


 アリスへの依頼内容は、コンサートを見ること。ただ単にコンサートを見て、出演者に封筒を渡せばいいだけ。そのコンサート会場は一緒に渡された地図に道筋が書かれていたので迷うことはなさそうだ。


 コンサート会場までの道筋を頭に入れたアリス。封筒をポケットにしまう。


 丁度そのとき、アナウンスがあった。


「まもなく、終点の須勢毛比恵、須勢毛比恵~お忘れ物のないように。決して、乗り過ごすことのなさいませんようお気を付けください」


 車掌の特徴のある声が車内に響きわたる。それと同時に駅に着いたようだ。自動でドアが開き、アリスは汽車を降りる。そこはとても広いホームだったよ。最初の駅とは比べ物にならないくらいの広さだった。



 須勢毛比恵の駅は始まりの駅と違ってここはとても近未来的。そこらじゅうに、自動改札やエレベーターやエスカレーターがあって、広かった。そして()()()()もいた。


 歩く歩道は誤字ではなく、歩道が『歩いている』のだ。えっ、何あれ怖い。


「えっ、なにあれ……やばいわ」


 エスカレーターを平らにした形状で、その側面にとても筋肉質な足が着いてある。落ちないようにきちんと手すりもついている。筋肉質な足は裸足ですね毛が無く、黒光りしていてムキムキである。はっきりいって気持ち悪い。それがそこら中にいるのだ。人はいないのに。



 アリスは、歩く歩道達をちらちらと見ていたのだが、どうやらアリスに気づいたのか(目らしきものは見あたらないけど)こっちに寄ってくる。


 一番近くにいた歩く歩道は50メートルを3秒台で走り抜ける程度のスピードでアリスの元へたどり着いた。他の歩道達は、先を越されたとばかりに散っていった。笑劇と衝撃の展開から逃げるタイミングを逃したアリス。そんな状態のアリスの目の前に、歩く歩道は正座して頭を傾げて、まるで乗れといわんばかりにじりじり近づいてくる。


 アリスはちょっと引き気味に、「き、気持ち悪い」と、つい声に出してしまったよ。


 その声が聞こえたのか(耳らしきものは見あたらないけど)歩く歩道はしょんぼりとしながら、歩いて去っていった。その歩き方にちょっと切なさを感じさせる。


 ちょっとほっとしたアリスは改めて駅から出ようとしたよ。



 ◆ ◆ ◆



「なんでこんな複雑な構造をしてるのかしら? もうまるで迷宮じゃない。なんで駅全体の地図が無いのかしら。はぁ……」


 でもどうやら駅は東京の新宿駅のように入り組んだ構造のようで、アリスは迷ってしまった。大量の標識と案内板があってどこがどこだか分からないのである。ピクトグラムのような看板がそこら中に乱立しているのた。こんな状況だと初見だときっと迷うね。


 アリスは東南東出口にいきたいのだが、何度やっても中央口に出てしまう。もらった地図には駅から出た後の事しか書いてないから駅構内の地図はない。


 アリスは休憩所らしきところで座り込み、はぁ、とため息をついた。


「もうここから出られないのかしら。ここで、誰にも気づかれないで死んじゃうのかな……」


 またまたアリスのネガティブ思考が暴走し始めたとき、歩く歩道がどしどしとアリスのそばを通り過ぎて行った。それをみて「もうこうなったらダメもとでやってみるしか……」かと、アリスは覚悟を決めた。


 「あの……」



 ◆ ◆ ◆


「ありがとう。じゃぁね」


 誇らしそうにしている歩く歩道に、アリスは感謝と共に手を振った。結局、アリスは歩く歩道さんに乗って駅の入り口までたどり着くことができた。最初からこうしておけばよかったと内心思っていたよ。


「まぁ、見慣れればちょっとかわいいかもしれないわ」


 ごめんその感性は理解できない。


 まぁ、そんなこんなで駅から出てみると、そこはアリスが住んでいたところよりも明らかに技術が進んでいる様相だったね。


「わぁ、まるで未来都市のようだわ」


 眼前には画一的な高層ビルが建ち並び、空飛ぶ車が行き交う。誰も乗っていない車が道路を走っている。歩道にはロボットがいっぱいいたよ。清掃用なのだろうドラム缶のような寸胴体型のロボットがいくつも居て、道がぴかぴかになっていた。


 ただやっぱり不思議なことに人は全く見かけない。人型のロボットは歩いているようだったっけど、人のようなものはいないね。


 まぁ、そんなことも気にせずに、アリスは渡された地図に従ってコンサート会場をめざしたよ。


 街には同じような高層ビルが建ち並んでいるためどこにいるのかがわかりにくかったけれど、標識などがいっぱいあったのでそれを頼りに進んでいった。


「それにしても高いビルだわ。いったい何階建てなのかしら」


 空を見上げて歩くアリス。



 ドンッ。



 ビルに気を取られていたアリスは、何かにぶつかってしりもちをついた。


「いたたたた」


 どうも歩道にいたロボットにぶつかったようだ。


 そのロボットは人間と同じ形状で、まるで小学生の夏休みの工作で作ったかのようなパイプフレームのみでできたロボットだった。背中にコードのようなものがついていいてそこから電力を供給しているようだ。ただ顔がなかった。他にいるロボットよりも雑に作られた印象だよ。


「痛い? キミは本当に痛がっているのかい?」


「は? そりゃしりもちをつけば誰でも痛いでしょ」


 そのロボットは唐突にアリスに絡んできた。


「誰でも? キミは他の人の気持ちが分かるのかい? どうやって確かめたの? その人の言葉を信じたの? ねぇ、ねぇ?」


「えっ、あなた何を言ってるの?」


 科学的、哲学的な問答が始まった。


「心なんてものはまやかしさ。僕らロボットと何が違うって言うんだい? 君が話しているロボットは君の話を聞いて理解している。それが人間と何が違うって言うんだい?


 たとえば人の生皮をはがして、そのロボットにかぶせたらそれは人間じゃないのかい?


 君の話を聞いて理解している人の皮をかぶったロボット。それは人間と何が異なるって言うんだい?


 心がある? 痛みを感じる? 物事を考える?


 他人が自分と同じように考えているなんて確かめようが無いじゃないか?


 チューリングテストって知ってる? 機械の知能を判断するための試験方法なんだけど、人間が機械と人間とディスプレイ越しに会話してどちらが機械かを判断できなかったら知能があるってことなんだ。


 そもそもそれっておかしくない? 人間が知能があると認める権限があるの?


 結局それって人間の主観じゃないの?


 だから人間でもロボットを演じて知能がないって思えば、それはロボットなんだよ。


 ねぇ、キミ。キミは僕をどう思うんだい。


 たとえば、キミ。キミの記憶と言動が完全にまねできるロボットが居たらどう思う?


 それはキミの代替になるんじゃないかな。


 となると、それはキミである必要はないんだ。


 キミの役割をこなせる人であれば代わりなんかいくらでもいるよね?


 そんな脆弱な体を持っていても何の役にも立たないし。


 もしキミがコピーされたクローンだったらどうなるの?


 知らない間にコピーされて、今までの記憶を持って自分がオリジナルであることを疑わないかわいそうな人はどうすればいい?


 楽しみ、悲しみを感じているのは自分だけで他の人間は何も考えてなくて、ただ単にプログラムされたことを自動でこなすような人形だったらどうする?


 外面的には きちんとしてるけど、内面はロボット。


 ねぇ、アリス。キミが何の感情も抱かないまま。誰かさんによって決められた道筋を歩かされる人形だって考えたことはあるかい?


 ねぇ、アリス。キミは本当に人間なの?


 人が誰もいないって言っているけど? キミは本当に人間なの? ねぇ?



 ねぇ、なにだまってるの、おしえてよ。



 おしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえて」



「やめてよ! なんなのよ! もうやめて、あなたの言うことはよくわからないわ!」



 アリスは逃げようとするけど、顔のないロボットが回り込んで「おしえて」と壊れた人形のように近づいては問うてくる。




 アリスは道路にしゃがみ込み必死で耳を抑えてる。



「大丈夫?」



 そのときだった、アリスの前に謎の女性が現れてと声をかけてきた。


「あぁ、またあのロボット絡んでるのね。ちょっと待っててね」


 女性はそう言って、ロボットに近づいてこう呟いた。


「この文章は嘘である」


「えっ? ……この文章は嘘であるから、この文章は正しい。でもこの文章は正しいならこの文章は嘘になって、この文章が嘘なら……えっ、えっ、―――――」


 そのまま、顔のないロボットは動かなくなったよ。


「ああいう古いタイプのロボットには矛盾を突きつけてオーバーロードさしちゃえばいいのよ。災難だったね? あれ? キミは人間? 珍しいね」


 その女性は虹色の綺麗な髪で、とても整った顔をしていた。ただ、この女性もロボットのようだったね。


「ところでどこに行くの?」


「えっ……と、ここに行きたいの」


「ふーん、じゃ案内してあげる」


 虹色に輝く髪のロボットはそういってアリスの手を掴んだ。


 アリスは、されるがままにその女性型ロボットについて行ったよ。

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