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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
5章 ギルドのお使い

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12/30

異世界鉄道

 無愛想で無表情の受付嬢から渡されたのは1通の封筒と行き先の書いた地図、そして切符、コンサートのチケットだったよ。


 アリスが受けたクエストの依頼内容は、指定された町へ行きコンサートを見て、出演者に封筒を渡せばいいだけのようであった。それならアリスにもできるだろうね。


 また切符があるのは、その町に行くためには汽車に乗る必要があるため。汽車が存在しているということで、この世界の文明レベルはある程度発達していると思う。でも全体がどうなっているかは不明だね、でも異世界だし気にしないことにする。


 「お気をつけて」


 受付嬢はそれだけ言うと、また無反応になってしまった。まるで人形のように微動だにしない。受付嬢を眺めても、とても整った美人の顔がそこにあるだけで、何も反応も返さないし微動だにしない。なので仕方なくギルドをでるアリスだったよ。


 とぼとぼとギルドを出て、村の出入り口へ向かう。


「あー、もっとおもしろい依頼はなかったのかしら。私何も言ってなかったのに勝手にすすめちゃってさ」


 アリスは、ギルドの感想をつぶやきながら歩く。村の出入り口にははじめと変わらず門番の人がいる。最初と寸分違わずその位置にいた。ちらりと横目で微動だにしない門番を見ながら、


「あの人たち、夜はどうしてるんだろ。さすがに家に帰るんじゃないかな……」


 そんなことを思いながらも、始まりの村を出るアリス。もらった地図を頼りに駅までてくてくと歩いていく。穏やかな草原を進む。暑くもなく、寒くもない風がアリスをなでる。散歩するには良い温度だったよ。


 駅までは徒歩20分くらいで一本道。簡単に舗装された道を進む。でもやっぱり歩いている人は誰もいない。人はいないのに道はある。まるでアリスのためだけに作られたかのように。


 街道の先を眺めても、特に何もなく、モンスターに襲われているお貴族様もいなければ、モンスターがはびこっているわけでもない。盗賊に襲われている村娘もいないし。のほほんという擬音語が聞こえてきそうなほど平和な街道だったよ。


 なんとなく、わくわく感が物足りないアリスだったけど、「そうね、平和が一番だわ」、と思いながら道を進むのであった。


「あっ、あれが駅かしら」


 そうこうしているうちに駅に着いたね。駅は草原の中にぽつんとあって、そこから果てしなく線路が延びている。地平線まで続いているようだね。少なくともこの付近には他に町はないようだ。


 駅には自動改札や複数のホームが有るわけではなく、田舎の無人駅のように簡素な作りで単線だったよ。どうやらここが始発駅のようだ。線路はこの駅から始まっている。長い長い線路が地平線へと続いている。何もない草原にひたすら伸びる線路。


 そろそろ分かってきたかもしれないけど、案の定、駅長さんは居なくて時刻表もない、待合室はあるけど誰もいない。改札もないので、アリスはそのまま入っていったよ。


「切符はどうするのかな。あっ、でも、バスみたいに、出るときに見せればいいのかな」


 よく分からないまま、アリスは駅のホームの待合室で考えていた。実際のところ田舎の駅では往々にしてよくあることだ。都会みたいに自動改札はないし、駅員さんもずっと居るわけではない。ドアも自動で開いたり、閉じたりしない場合だってあるのだよ。その対応の仕方で地元民かそうでないか判断することができるね。

 

 駅の待合室には木製の長いすが置いてあって、古い座布団が敷かれている。ちょっと埃っぽかったので軽くはたいてから、アリスはそこにちょこんと座った。アリスが、ふと上の方を見ると、止まる駅が書かれた看板があった。


―――――――――|

|・止へ本耳波呂位 |

| |       |

| V       |

|・加和乎流奴利千 |

| |       |

| V       |

|・那祢津曽連多餘 |

| |       |

| V       |

|・久於能為有牟良 |

| |       |

| V       |

|・天衣己不計万耶 |

| |       |

| V       |

|・之美女喩伎佐阿 |

| |       |

| V       |

|・須勢毛比恵   |

―――――――――|

 

「なんだか変な駅ばっかりだわね。なんて読むのかしら……?」


 駅名は何故か漢字で書かれていた。なのでアリスにもなんとかぎりぎり識別することができた。


 アリスがもらった地図には、目的地は『須勢毛比恵』の駅名が書かれていたよ。なので「えーっと、とりあえず最後まで載っていればいいのよね。そこで降りればいいのね」と確認した。


 ずいぶんと遠いところにあるようだ。わざわざそんなところに依頼しなくても他に適切な依頼場所があるのではないかと思うのだけれど、この世界のことだから適当なのかもしれない。あまり深く考えては負けな気もする。


 時刻表は無いようで、時計も無かったので、いつ来るか分からない汽車をアリスは待った。しばらく待合室で、今までのことを思い返しながら、ぼけっとしていた。ちょっとして眠くなったのか、かび臭い座布団の上に横になって目を閉じていると、遠くの方から、ガタンゴトンという音が聞こえてきたよ。


 どうやらホームに汽車が現れたようだった。アリスはそのとき気づかなかったけれども、汽車は駅に()()()()()()()()()()()、線路が途切れている方からやってきた。


 つまりはどこから来たのだろう。


「わぁ、汽車だ」


 アリスは飛び起きて、待合室を出るとそこには2両編成の汽車があった。しかしいつも通り誰も乗っていなかった。


 アリスが汽車に近づくとドアが自動で開いた。ホームにも誰もいない。まるでアリスを催促するかのように汽笛が鳴る。


 アリスはちょっと迷ったけれど、他にできることもないので汽車に乗った。


 汽車は、アリスが乗るとすぐに扉が閉まりガタン、ゴトンと動き出した。汽車はアリスひとりぼっち。貸し切りだった。


「うーん、ここまでくるとなんだかなぁ」


 さすがに、違和感を感じ始めたアリスだったが、考えても仕方がないので座席に座ったよ。


 汽車は車両の方向と交差するように並んで座るタイプの座席だった。田舎の電車によくみられる、いわゆるクロスシートと言われるもの。2人掛け座席の座席が向かい合って配置されている。このタイプは乗客の乗り降りが激しくない路線によく使用されるよ。


 アリスは窓際の席に座って窓の景色を見ていたのだが、窓の風景が目まぐるしく変わることに気付いた。


 春の桜が咲いており、綺麗だと思った次の瞬間には、秋の紅葉が見えて、散ってゆく。夏の深緑が深まったと思ったら、冬の雪化粧の木々が見える。そんな不思議な風景が窓から見えた。


 大きな山が見えたと思うと、それがなかったかのように海が見える。そして、いつの間にか海の上を汽車が走っている。まるで夢のように、海の上を進んでいく。


 まるで、夢のように。ガタン、ゴトンと汽車は進んでいく……



「久於能為有牟良~、久於能為有牟良」


 

 駅員のアナウンスの声が聞こえてくる。


「えっ、私ねてた?……今どこ!?」


 いつの間にかアリスは眠っていたようだ。アリスは寝ぼけまなこをシパシパさせながら止まった駅名を確認し、降りる駅ではないことに安堵した。


 駅に止まり、そこで乗客が入ってきた。


 アリスは乗客が乗ってくるとは思っていなくて、ちょっとびっくりした。そしてその乗客を見てさらに驚いたよ。


 ちらっと見たときは普通の人間のように見えたのだが、


 乗客は異形だった。どこかしら部位が欠損していた。そして、その部分は真っ黒だった。顔がない人、手足がない人、いくつもの人のような人が乗ってきた。彼らの欠損部分は墨汁をぶちまけたかのように、()()()()塗りつぶされていたよ。


 一見すると、普通なのだが、よく見てみるとどこかが無い。欠落している。その部分は直視してみても何もかも飲み込むような黒で塗りつぶされている。


 中には全身が真っ黒な人もいて、直視するだけで飲み込まれそうだった。


「えっ、なにあれ……幽霊? なんだか怖い」


 モザイクのように、全体が不明瞭な存在や、黒いモノで汽車はいっぱいになっていた。


 アリスはどうかこっちに来ませんように、と祈っていた。ガタガタ震えながら、座席の奥に引っ込んでいた。

 

 その祈りが通じたのかはともかく、乗客はアリスに近づいて来ず、入り口に溜まっていた。座席には座らずふらふらとしていた。


 そのうち、汽車は出発した。


 汽車はガタン、ゴトンと進んでいき、次の駅に到着する。


 そこで異形たちは全員降りて行った。


「なんだったんだろう」


 そしてまたアリスは一人になる。

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