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なろうの国のアリス  作者: 夕月 悠里
4章 ここは始まりの村

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ご注文はステータスカードですか。

 冒険者ギルド、それは異世界生活のお約束だね。冒険者と言えば異世界転移、転生者のなりたい職業ランキングNo1。戸籍などの身分証明がなくても冒険者にはなれる。そういった意味でも異世界転移者にとって、なくてはならない就職先なのである。


 薬草採取や魔獣の討伐により世界の生態系を壊したり、合同クエストによる傭兵稼業で国家にも信頼され、一人の行いが世界を揺るがすことにもなり得る、そんなすばらしい職業だよ。


 そしてアリスが立っているのもその冒険者ギルドの建物の前。多分ここで冒険者になれるのだろうね。きっとステータスカードも配布されるのだろう。


 そして、冒険者ギルドといえば、決して外せないのが初心者狩り。初心者をカモにする冒険者の先輩達も居て、そいつらを華麗に退治するのが、異世界のお約束なのかもしれないね。そこでギルド長のお墨付きをもらい、受付嬢と懇意こんいな関係を築くチャンスなのである。


「失礼します」


 そんな異世界のテンプレートのような出来事を懲りずに想像しながら、アリスはわくわくしながら建物の中に入ってみた。特に格闘技を極めているわけでもないけど、いざとなれば試験管でなんとかなるかと思っていたよ。


 古い西部劇に出て来るような木製のウェスタンドアをくぐると、そこはまるで小説に出て来るような冒険者ギルドのようだった。というかアリスの知識にある冒険者ギルドがそこにはあったよ。


 部屋の左側には飲み食い所のようでテーブルと椅子があり、その奥には掲示板が並んでいた。おそらく依頼内容が貼ってあるのだろう、いくつかの紙が貼ってある。そして部屋の右側には受付のようだった。そこには美人の受付嬢らしき人物が1人座っていた。


 建物の中は、とても小説の通りだった。でも人は受付っぽい人しかいなくて、シーンと静まりかえっていたよ。初心者狩りと思われる悪役も、厄介者にされている司祭や、頭のおかしい魔導師や、変態性癖をもつ騎士の影はどこにも見あたらなかったね。


 唯一その場にいる受付嬢はメガネをかけており、鋭い目と肩くらいまでのストレートな髪が印象的だった。とても知的なオーラを辺りに巻き散らかしていて、無表情でとても近寄りにくい雰囲気をまとっていたよ。怒っているわけではないけど、不機嫌に見える。


 しばらく建物を観察していたアリスだったけど、そうしていても全く話が進まないので受付の人に話しかける決心をしたよ。そしてとことこと受付まで歩いていった。


「すみません、聞きたいことがあるんですが」

「ようこそいらっしゃいました、ここは始まりの村のギルドです。登録ですね。お名前をどうぞ」


 アリスにはちょっと高い受付のカウンターに、頭をひょこっと出して尋ねてみたけど、受付嬢は全く表情を変えず無表情だった。


「私、アリスって言うの。登録? じゃなくて、あの、わたし異世界転移したみたいなんですが、元の世界に戻る方法ってあるんですか?」

「アリスですね。登録しました。この水晶に手を乗せてください」


 アリスの言葉を無視するかのように受付嬢は事務的に淡々と手続きを進めていった。


「えっ、いや、登録とかじゃなくて、聞きたいことが……」

「登録完了しました。ありす、Gランクからのスタートです。ギルド登録料は5Gゴールドいただきます」


 受付嬢はアリスの言葉を無視してアリスの手をとり、受付台のところにあった綺麗な水晶にひょいと載せた。そうすると水晶が光り、何もないところからカードが現れる。


「あ、カード、そうじゃなくて、なんで人の話聞いてくれないの。あとお金持ってないんだけど……」

「お金がない場合、お貸ししております。利子は1時間1割です」


 無理矢理手続きして、お金を貸す。どうやら悪徳だったね。


「えーっと、借りてもいいけどきっと返せないし」

「なにか買い取ります」


 もしお金が払えなかったら奴隷にされてしまうかもしれない、という考えがアリスの頭によぎり、少し焦る。


「えーっと何か売るものは……」


 アリスが持っているのは女神様からもらっていた試験管だけだったよ。でも、光っていない試験管はどうもベルトからはずせない仕様だった。アリスが、どうしようかと悩んでいると、丁度いいタイミングで試験管が光り出したよ。アリスはそれを飲むかどうか迷ったけど、先に受付嬢に聞いてみた。


「これを売る事ってできますか?」

「5Gになります」


 どうやら売れるらしい。それも登録料と同じ値段で。


「じゃ、これ御願いします」

「承りました。また手続きが完了しました。これがあなたのギルドカードです。なくさないように御願いします。再発行は10Gになります」


 アリスはギルドの登録料として試験管を売った。5Gがどれくらいの金額かは知らないけどまぁあれで良かったのだろう。飲んでいたらきっとこの建物がなくなっていただろうから。殺してでも奪い取るのはやめておいた方が賢明だね。


 その後もアリスは何度か、この世界のことを聞こうとしたのだけれども、帰る方法を聞こうと思ったのだけど、受付嬢は何も答えてくれなかったよ。なので、あきらめて引き返した。


 アリスはギルドのテーブルにちょこんと座り、改めて受付でもらったカードを見てみた。ステータスカードのようでこんな風に書かれていたね。


――――――――――――――――

なまえ   アリス 

らんく     G

たいりょく  10

まりょく    1

ちから     3

まもり     2

すばやさ    3

かしこさ    2

うん      3


すきる  なし

どうぐ  めがみのしけんかん×8

――――――――――――――――


「なにこれ、ぜんぜん弱い」


 ステータスを見てアリスはそうつぶやいた。よくある異世界転移では受付嬢に「このステータスは前代未聞ですよ!」と驚かれるのが普通だと思っていたのでちょっと落ち込んでいた。別に有名になりたかったわけじゃないけど、少しは期待していた分落ち込んじゃっていたよ。


 はぁ、とため息をついてステータスカードを見ても何も変わ……いや、うんの数値が1減っていた。どうやらため息をつくと運が逃げるのは本当らしいね。 


 ただその変化にアリスは気づかず、次はどうしようかと考えていた。なんだか異世界って変なことばかり起こるけど、人は居ないし思い通り行かないし、早く帰りたいなぁと思っていた。ちらりと受付嬢の方をみるアリス。


「それにしても受付の人はぜんぜん動かないわね。キレイな人だけと思うし頭も良さそうだけど……。ここ以外に就職先はなかったのかしら。というかこの世界の人は話を聞かなさすぎでしょ……どうなってるのかしらまったく……」


 しばらくこの世界のグチをつぶやいていたアリスだったが、不毛なことに気がつき、黙ったよ。


 机の上に突っ伏していてもらちが明かない。アリスは特にすることもなくなったので、興味本位で掲示板の前までやってきた。仕方ないから依頼でもこなせば変わるのかしら、そう思って、掲示板を眺める。掲示板に貼ってある依頼書をざっと見たのだけれど、


 読めなかった。


 日本語ではなくて、英語でもなくてよく分からない言語だったよ。ミミズが這ったかのようなそれらの文字はアリスにはまったく理解できなかったね。しばらく読めないか考えていたけど、絵が書いてあるようなものもなく、あきらめて受付嬢へ聞くことにした。


「すいませーん、おすすめの依頼ってありますか」


 と受付嬢に訪ねると。

 

「貴方のランクで受けれる依頼があります。これをもって、隣町の指定の場所に行ってください。そしてそこでこの封筒を渡してください。詳しい内容はこちらに書いてあります」


 あらかじめ聞きに来ることが分かっていたかのように、すっと手紙を差し出す受付嬢。どうやらRPGで定番のお使いクエストが始まるようだったね。

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